金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第04話 餌

 夏休みが、終わった。

 そして、鈴音と聡美と愉快な仲間(マッド)たちによるガイノイドの研究も、1つの山を越えた。

 その結果が、これだ。

 

「えーと、今日から、1Aクラスで構造やAIの学習に関するテストを行う事になった、ガイノイドのチャチャ・シューニャですー。

 色々と精密な上に試作品なので、丁寧に扱ってくださいー」

 

「シューニャ・チャチャです。

 よろしくお願いします」

 

 さよに紹介され頭を下げるこいつが、絡繰茶々丸という名にならなかったシューニャ・チャチャだ。色々未完成で、特に皮膚や関節部分は人形に近い構造なんだが……なるべくしてなった、という事だろうか。

 というか、夏休みの前半でAIに関する論文を書き上げ、並行して世界のアホどもを巻き込んで体の設計と部品の製造。後半で一気に組み立てて稼働に持ち込むとか、鈴音は無茶をしすぎだ。

 聡美も、一緒になって暴走していたようだし。一応契約を守って、夜間の作業はしていなかったようだが……生活時間を全て夜と夜明け前に追いやるという、簡単に思い付く回避方法を実践されてしまった。

 ブレーキとして全く機能しないとか、予想通りだよ全く。

 

「どの程度普通の人として扱えばよろしいんですの?」

 

「えーと、耐久性の評価が不十分なので体が弱いくらいの設定で、基本的に普通の人として扱ってほしいそうですー。

 注意点は、知識が偏っている事と、学習のために好奇心が強めな事だそうですよー」

 

「SFでありがちな設定ですわね……

 問題が発生した場合の窓口は、どちらに?」

 

「それは制作に関わってる、この超鈴音が請け負うヨ。

 もし不在なら、指導員を任されたダイアナか、同じく関わってる葉加瀬でも可ネ。それでもだめなら相坂センセか重羽センセでも連絡くらいはできるはずヨ」

 

「どうしても危険なら、関節くらいは壊しちゃっても責任を問わないそうですよー」

 

「そんな危険は、無いと思うけどネ。

 でも、可能な限り壊さないでくれると助かるヨ」

 

「壊れると換装が早まったりするらしいじゃないですかー。

 というわけで、日常的に色々変わったりするかもしれないそうなので、驚かないでくださいねー」

 

「この辺は実験も兼ねてるから、そうネ、リボンを変えたとか、その程度だと思って欲しいヨ」

 

 この辺の話は裏を知っている、さよ、あやか、鈴音の3人の三文芝居……というわけでもないか。部外者に対する説明と、対外的な位置付けの確認という意味はあるだろうし。

 それにしても、幕田発の怪しい新製品や新技術を出しすぎたか? 認識阻害は世界樹の隠蔽しかしていないのに、夏に発表されたばかりのガイノイドを中学校に入れてもさほど驚かれていないような感じがする。まあ、マッドどもにネタを提供してきた事実はあるし、一般的にもその流れで理解される可能性があるなら十分か。

 

(……って思ってるだろ、あの顔)

 

(だよねぇ。派手に騒ぎそうな人はほとんど関係者って事実を忘れてるんじゃない?

 ちっこい姉妹は、ほへーって顔で静観してるし)

 

(さすが筆頭、自覚がすげーな)

 

(ジャーナリストには、客観的な視点が大事なのよ)

 

(で、そのジャーナリスト様は黙って見てていいのかよ)

 

(おっと、そろそろ質問タイムを仕切らないと)

 

 ……藪から蛇がつついてほしそうにこちらを見ている気がするが、つつかんぞ。少なくともこのクラスだと早乙女が少々強めに反応しているだけで済んでいる以上、問題ない、はずだ。

 

 私には、それ……ガイノイドそのものよりも気にしなければならない事が色々あるし、学校関係に気を回すのはこの程度で十分だろう。

 

 例えば、ガイノイドに使われている技術を盗もうとする連中の対処。

 詳細な技術は非公開……というか、コンピュータのプログラムで説明可能な範囲での概要説明しかしていないし、現状ではそれ以上を公開する気も無いため、色々な国や企業から探られているようだ。

 2年程かけて実際の学習等について調査し結果を公表するとしているし、開発の中心が私直属で幕田公国の公的機関扱いという事から、一部の組織は実際に使われている技術の一部に気付いている。もっとも、その水準の高さから探ろうとする動きはやはりあるらしいが。

 ハッキングやらに関しては鈴音と千雨が猛威を振るい、逆に相手の情報を奪ったりもしていると報告を受けているものの、逆にやりすぎを気にしないといけないのはどうなんだろう。魔法を公開する際の技術例にする気はあっても、他の組織やらと喧嘩をしたいわけじゃないんだがな。

 

 例えば、世界の魔法関係組織や、魔法を知る企業からの接触。

 私が屋敷の奥に引きこもっていない事に気付いた連中が、直接的な接触を試みているらしい。雪花やイシュト達に、護衛の練習台として利用されているが。

 ある者は偶然を装い、ある者は直接的に近付こうとするのを見極め、接触前に排除する。しかも、無関係な者への影響は可能な限り少なく。言うのは簡単だが実践はとても難しい……はずなんだ。ほぼ正確に処理している雪花に、鈍っているから鍛えなおしていると言われても信じられない程度には。

 それに、世界にはびこる月の一族を気に入らない連中は、間違いなく存在している。主にメガロとか宗教団体とか私達と関係ない財団とかだが、その中でも短絡的な一部の連中が刺客を送ってきていて、それを雪花やイシュト達が捕らえ、有宣が裏を調べ、甚兵衛がお仕置きに行っているらしい。

 要するに、私が盛大にそいつらを釣るための釣り餌として機能していて、有宣達が計画実行前に邪魔そうな組織を弱体化させて回っているわけだ。邪魔になりそうな組織の力を計画実行前に削いでいるわけだし、それをとやかく言う気も無いが……いつの間に甚兵衛が仕事人、それも必ず殺す方になっていたんだろうな。ここしばらく、50年ほどは家にいないニートばりにフラフラしていたはずなんだが。

 

 例えば、私自身の魔法の技量や、使う魔法。

 計画の実行に必要な技量……魔力を扱う能力と言った方が正しそうだが、魔法使いの常識をはるかに超えたレベルで要求されるのは確かだ。そして、そんな魔力を世間にバレずに使うのは無理だから練習は不可能、魔法の公開を早めても本番と同じレベルの魔力を集めるのは不可能、と、色々無理のある状況に変わりはない。

 もちろん、行使予定の魔法も、完全なテストは不可能な内容がいくつもある。小規模なテストは散々やっているが不安が無くなるわけではないし、必ず動くよう安全性優先で効率が落ちている部分も多々あるから余計消費がきつくなっているのは間違いないが、それでも何とかしようと研鑽してきたし、専用のデバイスも準備してある。

 これに関しては、可能な限りの準備をしてきたが、慢心は出来ない。そんなところだろう。

 

 例えば、世界樹の状態。

 大発光の時期をずらすために色々と細工をしているが、その結果をとても注意して見守る必要がある時期に入っている。

 通常はどの様に変化していくか、どうすればどんな影響が出るかは、今までの時間でそれなりに調べてきたが……意図的でない周期の変化は未経験だ。原作で1年早まったとされている再現するかどうか不明な現象を10か月早まる程度に変化させるという、足すべきなのか引くべきなのかを調べながらの作業だからとても難しいし、次善策も用意してあるが、成功する方が色々とやりやすいため手も抜けない。

 

 例えば、造物主の動向。

 ここ最近は色々な物、具体的には魔法の触媒として使えそうな物の仕入れが、活発になっているようだ。アーウェルンクスの増産とは思えない内容らしく、監視担当やらも少々困惑しているらしいのだが……

 

「造物主と大規模魔法の組み合わせって、アレしかないよねー?」

 

 何故かこの報告書だけを持ってきたヴァンが、面倒くさそうにボヤいている。

 

「魔法としての完全なる世界、か。

 正直に言えば、今更かとしか思えんのだが」

 

「だよねー。組織が無い事は確実だし、アーウェルンクスの増産もしてないっぽいから、自力で全部どうにかするのは無理なはずだよ。

 でも、規模を縮小したりすれば、何とかなるかもしれないし。警戒しないのは怖すぎるし。あーやだやだ」

 

「だからと言って、問答無用で攻撃するのも問題がある。

 どこかの国のように、先に殴らせたり嘘だろうが証拠があると声高に主張したりするのも後々面倒なことになるしな」

 

「明確な敵とか、分かりやすい悪役とかじゃないしねー。

 裏でこそこそ動くって意味だと同類だし、魔法世界の崩壊に対して何らかの手を打とうとするって意味でも完全な敵ではないんだよねぇ……」

 

「方針や手法が違いすぎて相容れない以前に、まともに会話もしていないからな。

 この状態で私達と同じ手法を取る相手なら、私が動く理由が無い。全て任せて隠居するぞ」

 

 そもそも造物主が穏便な手法を使って成功していたら、私達が代案を作って準備する必要もなかったという話になる。その場合はネギまがバトル物にならず、ラブコメのままになるような気もする……いや、ラブコメのままなら世界崩壊なんて話にならないか。

 

「そうじゃないから、今があるんだけどねー。

 でも、場合によってだけど、造物主との接触も考える?」

 

「どうだろうな。意味や必要があるなら考えるが……してもしなくても、動きが読めないという点に変化があるようにも思えんぞ」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そして、秋だ。

 なぜか焼き芋大会や図書館島ツアーなんて行事が行われていたりする季節だ。

 いや、食欲だの読書だのという、秋にちなんだものだというのは解る。解るのだが、校庭のあちこちで芋入りの焚火をしている光景はシュールというか、違和感しかないというか。

 

「えー、昔お庭でやってたじゃないですかー」

 

「ヴァンが気の迷いで作っていた、東屋の囲炉裏でしかやった覚えがないぞ。

 あれはあれでシュールな光景だったし、庭と呼んでいいのか……?」

 

「お庭ですよー?」

 

「……まあ、いいか」

 

 どっちでも、の意味で。

 そんな、前世では煙がどうだので出来そうにない光景をのんびり見ていられるのは、ここが校庭の端で、写生大会の会場だからだ。1-Aクラスからはレイしか参加していないが、教師は各会場に分散していて、さよと私がここの担当となっている。

 他の行事と比べて教師がやる事も移動も無いし、賑やかな連中はスポーツ系に行っているから割と静かだし、楽でいい。

 もちろん、楽というだけでここの担当をやっているわけではなく。

 

「この辺に潜んでいる阿呆共はどの程度が接触希望者で、どの程度が暗殺者なんだろうな」

 

「全体の人数はともかく、内訳までは謎ですー」

 

 事前に生徒達に通知されるイベントの情報で、私がここにいる事が国内外の連中に知られるのは確実だ。それを利用した、釣り餌として待機する退屈なお仕事でもある。

 そのために、わざわざ校庭の端で移動の無い場所を任されているわけだが……

 

「……入れ食い状態にもほどがあるな。

 暗殺者同士で潰し合いをしているし」

 

「もてもてですねー」

 

「害虫に集られて喜ぶ趣味は無いんだが……」

 

「あの人たちはあの人たちで、いろんなものを背負って来てるはずなんですよー?」

 

「利己的な信念、組織人としての任務、金。概ねこの辺だろう? 私には関係ない話だ。

 それに、自然では重要な役目を担っていようが、人にとって有害だと思われた虫は害虫と呼ばれるんだ。だから、私にとって有害な連中を私が害虫と呼ぶのは間違っていないぞ? 他の者に同じ呼び方を求める気も無いしな」

 

 家を食べるシロアリだって、自然界では倒木を分解する掃除屋としての側面を持つんだ。

 見方を変えれば益にも害にもなるものがほとんど……というか、全てのものは見方次第でどうとでも評価できるものだ。

 

「それはそうなんですけどー。

 でもー、虫じゃないですよー?」

 

「害のある人で害人だと、外の人と聞き分け出来ないのが問題だな。

 それにしても、今日はイシュトが妙に張り切っているな」

 

「出番がないってぼやいてましたから、気にしてたんだと思いますよー。

 もう8人ほど排除してますけど、振り分けはあってそうですかー?」

 

「あいつは、メイド寄りの立ち位置だったと思うが……戦闘力もある分、微妙なのか?

 とりあえず、少なくとも武器の類を持っている連中は全員処刑コースになっているな。

 武器を持っていないから安全とは言えんから、あっているかどうかは判らん。まあ、有宣達も動いているようだし、あからさまに危なそうなのや裏が取れたのから順に処理している感じなんだろうな」

 

「武器を出した直後に捕獲とか、すごいですよねー」

 

「死なないからと言って、真正面から行くのはどうかと思うが」

 

 痛みはあるはずだし、搦め手で勝負に負けたこともあるんだが……まあ、本人の好みの問題もあるし、無理に変える必要も無いか。

 ……ん? イシュト以外にもアピールしたがってるのがいたり……しない、よな?




何が困るって、この時期は原作的にイベントが無いのが困る。


2017/08/20 以下を修正
 幕田初→幕田発
 じゃいしねー→じゃないしねー
 「程度普通の→「どの程度普通の

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