金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第02話 茶々〇

「情報操作のためとはいえ、やりすぎですわ!」

 

 入学式と、その後に行われた親睦会という名のお菓子パーティー的なものが終わり。

 その片付けという名目で残った関係者の一部だが、怒っている人と怒られている人、それと中立的な人に分かれている。

 

「情報を印象付けるには、オーバーなくらいがいいって教えられてるし」

「今日のこれで、2人が騒がしいのは普通だと思われたはずですし」

「いいんちょがいいんちょとして、纏め役になる流れも自然にできたし」

「だからボクは悪くないっ!!」「だから私は悪くないです!」

 

「それは結果論ですわ!」

 

 もちろん怒っているのは雪広あやかで、怒られているのは鳴滝姉妹だ。他の現場にいた連中……長瀬楓や朝倉和美達は、擁護も非難もしていない。口を出さないのは、姉妹の行動理由は認めているためか、それとも姉妹を止められなかったためか。

 朝の大騒ぎは雪広あやかが教室に入ってくるまで続き、盛大に叱っているところに来た相坂さよがオロオロして有耶無耶になりかけ、私が教室に入った瞬間に全員が慌てて席に着くという、何とも不可解な終わり方だった。

 別に威圧したつもりはないし、関係者だけならわかるが、初めて顔を見るはずの関係者でない連中まで慌てたのは、なぜだ。

 

「まあ、行動理由自体は、咎める内容ではない。キャラ付けという意味でも理解はできるが、少々やり過ぎだろう。

 印象付けは成功しただろうし、今後は手加減するように。あと、止める手段を考えておいた方が無難だろうな」

 

「「がってん承知の助、なのです!」」

 

 そのセリフを使うには、年齢や見た目が……本人達はどこか楽しそうだし、いいのだろうが。

 ……妙な間に兵衛とか入っていたのは、他の連中には聞こえていなかったようだし面倒だから見逃しておくか。

 その後、鳴滝姉妹の止め方……雪広あやかに言う、長瀬楓を師匠と仰ぐ予定だから破門にしてもらうよう依頼する、等の止め方に関する相談が始まり。

 それを横目に、寝不足に見える超鈴音が近付いてきた。

 

「重羽先生、ちょと相談があるヨ」

 

「相談か。表と裏のどっちだ?」

 

「当初は裏、そのうち表にも影響が出るネ。

 予想は出来てると思うケド、ガイノイドと屋台を作りたいヨ」

 

「色々な技術を使うことになるが、その説明やらは大丈夫なのか?」

 

「紹介された研究機関やらに色々売り込んだから、ノープロブレムヨ。

 その集大成としてのガイノイドと、その技術を生かし維持と応用を実証するためのロボット製造と食品加工という位置付けネ」

 

「そうか。その流れなら、資金も問題なさそうだな」

 

「円と元とドルとユーロそれぞれで、ドル換算で億単位の案件がポンと出てきたネ」

 

「融資か?」

 

「大半はそうだケド、出資も少なからずあたヨ。あとライセンス料もネ」

 

「もうそこまで話が進んだのか」

 

 研究所の連中も、マッド度合いは相当なものだし。

 同類の支援という意味も含んでいるのだろうな。

 

「食品に関しては衛生管理やらの法を確認中ヨ。まだ準備が出来てないシ、人集めももう少し先だけど、話だけは通しておこうとおもた程度ネ。

 直近で重要なのはガイノイドの方だかラ、ちょと相談したいのヨ」

 

「ガイノイドか……機能面については、ある程度案が出来ているんじゃないのか?」

 

「相談したいのは、外見とマスター、それと情操教育についてネ。

 特に情緒については人との交わりが大切だかラ、それなりの人数と関わらせたいヨ」

 

「要するにあれだろう? 裏では誰かの従者的な扱いにして、このクラスに放り込みたいと」

 

「おお、全部言われてしまたヨ。

 本来はエヴァさんの従者にするつもりだたけど、この世界では立場的に難しいネ。だから、マスターをどうするか相談したいのヨ」

 

「ダイアナでいいんじゃないか?

 本来の私の立ち位置に、一番近い存在だろう」

 

 超に原作云々は伝えていないが、未来の情報という形である程度の情報は交換済みだ。超が持つ情報はそれほど詳細ではなかったものの、魔法世界に行くまでは極端に大きな差異はない事は確認できている。

 当然、超自身が関わる麻帆良祭と茶々丸を除いて、だが。

 原作ではこの2点が、魔法世界での活動やネギとエヴァンジェリンの関係に小さくない影響を与えたと考えてよさそうだが、この世界では私が前提を壊しまくっている以上、参考情報にしかならないだろう。

 

「イギリス人的な意味デ?」

 

「登校地獄と、本来は中学生の年齢でない、という点もだな。

 大結界の影響を受けて全力を出せない、も加えておこう」

 

「おお、似た要素がてんこ盛りネ。

 登校地獄をかけたのはナギサンでいいネ?」

 

「そうだな。ナギに惚れてまとわりついた挙句、登校地獄をかけられたらしい」

 

「素晴らしいヨ。

 ネタとしてなラ、アンドロイドでナギサンにするのもありだけどネ」

 

「ネギと一緒に麻帆良に来る予定のナギのそっくりさんを、女子中に在籍させるのか?

 ナギもかわいそうに。来る前からロリコンと呼ばれる土壌が出来上がっているとは」

 

「それはちょっとよろしくないから、ネタでしかないネ。

 この世界ではウェスペルタティア王国が健在だシ、その女王の王配を敵に回すのは愚策ヨ」

 

「全くだ。

 話を戻すが、ダイアナ自身が了承するならダイアナ、拒否した場合は……また考えればいいだろう」

 

「若干投げやりネ」

 

「料理に関する機能を優先するとか言えば、喜んで受け入れるんじゃないかと思ってな。

 食品関係に応用する以上、それも実装候補にあるだろう?」

 

「まあ、そうネ。

 五月サンが関係者なら、悩まなくて済んだのにネ」

 

「有望な料理人だからこそ、今はまだ裏に巻き込まない方がいいと思うが。

 由来を表に出せない料理に目覚めたら、色々と厄介だからな」

 

「世の中、ままならないヨ」

 

「全てが思い通りになる世界だったら、お前が世界を渡ることは無かっただろう。

 頑張るなとは言わんが、程々にな。目の下の隈がひどいぞ」

 

「ここで手を抜くと後に響くネ。もう少しだけ無理するヨ」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 その後の話し合いは概ね予想通りの内容で色々と決まった。

 

 作成するガイノイドはダイアナをマスターとすること。

 修正力的に私の代替えだからか反対意見も無く、スムーズに決まった。

 

 外見は中学生後半から高校生前半程度の少女とすること。

 成長に合わせて修正する手間は無駄だし、計画実行の時期に合わせた外見でいいだろうという事になった。ラフスケッチを見る限り、原作の茶々丸から大きく外れる事は無さそうだ。

 

 機能面は戦闘能力を重視せず、いわゆるメイドロボとすること。

 技術的なデモンストレーションとAIの学習が主目的なので、戦闘は考慮しない……というか出来ないだろう、という結論に達した。各研究機関等との情報共有的な意味で。

 戦闘系に関しては、今後作成予定の田中さん(仮)を中心に色々やるらしい。

 

 Aクラスへの編入は、ガイノイドおよびAIのテストと学習目的という、嘘偽りのない理由で行うこと。

 これは少し意外だったし、認識阻害も候補に挙がったのだが、世界の名だたる研究所や大企業が複数関わるプロジェクトでもあるし、誤魔化さなくても内部機密やらで押し通せるだろうという事になった。

 魔法を公開した際に内部情報をある程度公開すれば、色々と都合よく動かせそうだという目論見もある。

 

 そして初期型の名前が茶々となり、ダイアナの従者になる予定のプロトタイプ機の名前が、茶々丸になりかけた。

 

「0番目に因みたいのはわかるが、茶々丸は基本的に男性の名前だからな?」

 

「でも、チャチャゼロだとゼロサンと被るシ、チャチャレイだとレイサンと被るヨ」

 

「中国語でリン(líng)……だと、お前(Rinshen)と紛らわしいのか。

 というか、本来は鈴音(Língyīn)じゃないのか?」

 

「方言なのか間違いなのか知らないケド、故郷ではリンシェンと呼ばれてたヨ。

 今更違う呼ばれ方をされても違和感があるカラ、中国以外ではこの呼び方で行くネ」

 

「チャチャヌルやチャチャニル、いっそロシア語でチャチャノーリはどうデスカー?」

 

「日本語的な響きだと微妙な気がするヨ」

 

「ドイツ語やラテン語もだめなら、チャチャシューンヤは……俊也とか呼ばれそうだからダメか」

 

「ヒンディー語だと、それだけで姓と名みたいになるネ」

 

「既に姓が決まっているとかでなければ、チャチャを姓にしても別に問題ないだろう。

 短い方がいいなら……ハワイ語は牛乳入りの飲み物になるから駄目だな」

 

「茶々だかラ、抹茶よりも緑茶のイメージになりそうネ」

 

「詳しくありまセンが、隣の国はどうなんデス?」

 

「日本語の4と紛らわしい上に、無駄な火種になりそうだから除外するヨ」

 

 そんなこんなで色々と案を出した結果。

 ヒンディー語を元に少し発音を変えて、姓が茶々、名がシューニャという事に。

 絡繰という姓が消えたが、この程度は誤差の範囲だろう。ノアという名前の少女が存在する世界で、男性名だからという理由が通用した点だけが意外だった。

 

 そんな事をしている間に、夜になり。

 さよが仕事を依頼し、その礼として食事をして帰るという事で寮にも連絡した後で。

 毎年恒例の、関係者の顔合わせへと出かけて行った。

 ……私以外が。

 私が行くと騒動になるという理由で有宣と雪花から参加禁止を言い渡されているが、ここまで私が直接関わる関係者が増えると、元々ここに住む者が多いとしても少々気になる。

 出発前に様子を見る事を伝えてあるから、遠慮なく覗いているわけだが。

 

「というわけで、わたくしが1Aクラスの関係者の纏め役になりましたわ。

 エヴァ様の従者として、しっかりと役目を果たしてみせますわ!」

 

 雪広あやかは、決して嘘ではないものの若干誇張気味な挨拶をして。

 

「1Aクラスはいろんな組織の関係者が集まってるからなぁ。

 ウチは日本の組織向けの窓口を任されてるし、同じくエヴァ様の従者、かつ、近衛家の娘っていう看板に負けへんよ」

 

「そうでござるな。

 拙者も従者でござるし、幕田公国と縁深い甲賀の忍として、任を全うするでござるよ」

 

「はいはーい! ボクもボクも!」「私も、です」

 

 近衛木乃香、長瀬楓、鳴滝姉妹がそれに続き。

 

「中国から来た超鈴音ネ。技術担当として、エヴァ様の従者になたヨ。

 この口調はイメージ付けだから、そういうモノだとおもてほしいネ」

 

「以前から関係者でしたけど、私もエヴァ様の従者になりました。

 技術担当として、更に励みます」

 

「私は従者ではありまセンが、世界各地への窓口を担当しマース!」

 

 更に、超鈴音、葉加瀬聡美、ダイアナ・ヴィッカーが続いた。

 内容的に誰も嘘を言っていないから問題ない。と、思っていたのだが。

 

「ちょ、ちょっと待って!

 従者ってどういう事よ!? それにこんなに大勢!!」

 

「あのお方はそういった直接的な関係は避けとったはずやのに、どうやって取り入りはったん!?」

 

 何故か数人……刀子と千草だから呪術協会寄りの連中か? が叫び。

 それ以外の連中も半数が唖然、残りの半分が雑然としている。

 

「少なくとも現在の1Aクラスは、多くの組織がエヴァ様と直接関わる場になっていますわ。

 わたくしはその纏め役として、立ち位置を明確にするために契約を望んだのですわ」

 

「ウチもそうやなぁ。京都近衛家の長子として呪術協会と幕田公国のどっちの立場を取るのか明確にした方が、問題が起きにくいやろうし」

 

「私はこれでも、月の一族の端くれデース!

 エヴァ様の手足は、私達の役目ネー!」

 

「中国というしがらみを古に任せテ、技術班として全力を出すために必要なものヨ」

 

「私達に求められるのは、大きな組織にないフットワークの軽さですから」

 

「納得できません!」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、千草君、それくらいにしてくれんかの。

 今年の中学校の新入生は、後ろ盾や関係組織との繋がりを持つ者が多すぎての。幕田家や関係者との相談の結果、エヴァ様にご足労願う事になったのじゃ。

 当然、この様なグループを設ける意味についても、ちゃんと相談しておる」

 

「それこそ納得できません!

 今までの組織を無視するお方ではないはずです!!」

 

 刀子が叫んでいるが……何というか、私への信用というか信頼というか、そういうものが信仰のようになっていないか?

 直接話をしたことはあまりないし、ここまで言われると、私以外の誰かを指しているとしか思えなくなってくるのだが……

 

「そう、まさにそこじゃよ。

 彼女達は間違いなく、麻帆良学園本校女子中等学校の新入学生じゃ。それぞれの後ろに企業や組織といったものが見えておるが、公式には代表でも代理でもないわけじゃな。

 話は変わるが、皆も耳にしておる通り、魔法の公開まであと2年と少々じゃ。その時の混乱がどの程度になるか、正確な予測ができる者はだれもおらんじゃろう。

 現時点では強い立場や力を持っておらんのは事実じゃが、それは各々が戦力でないことを示しておる。これは何かあっても連れ戻される可能性が低いという事じゃ。

 故に、緊急時にこの緩い結束が世界をつなぐ糸になる可能性が見出されておる。不慮の事故や何らかの事情が無い限り、公開時点まで彼女達は同じグループを維持する事となるからの。加えて、エヴァ様の手足ともいえる月の一族の者も同じ立場として加わっておる。

 要するにあれじゃ。幕田が用意しておる保険の1つじゃな」

 

「お嬢様はどうなさるんですかっ!?」

 

「だからこその契約、何かあってもエヴァ様の指示に従うという意思表示じゃな。

 そうじゃろ?」

 

「そうやー。どさくさに紛れて弟に手を出そうとするお馬鹿さんがいても、ウチが旗頭にならへんかったら大義名分を作りにくいしなぁ」

 

「加えて、エヴァ様自身が日本呪術協会に対する影響力を持っておるからの。

 木乃香にとっては、最高の後ろ盾じゃ。近衛家の問題でもあるから、幕田家として手を出しても権力の乱用にはあたらんじゃろう。

 何か問題があるかの?」

 

「私ももっとエヴァ様や雪花様の近くで働きたいんです!」

 

「ふぉっ!?」

 

 いや、そっちなのか、刀子。

 近くにいる千草も似たような表情だし……何がどうなってこうなったっ!?




2017/06/19 以下を修正
 木乃香の一人称を「ウチ」に
 投稿地獄→登校地獄
2017/06/21 木乃香の一人称を「ウチ」に直す修正漏れを修正

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