窓の外には満開の桜が見え、あと数日で入学式を迎える、そんな4月のある日。
つまり、もうすぐ私がAクラスの副担任として、教師に復帰する日が近付いているという事であり。
「外の景色はいいな……」
「きれいな桜でござるな」
「全くアル」
「現実逃避は良くないヨ」
年齢詐称や似非キャラ付けという意味で本来とは異なる何かになっている者が、窓辺に集まって黄昏て……
「えばさまー、助けてくださいぃぃ……」
……さよは、黄昏てはいないな。半泣きだが。
こうなった原因は私の発言なのだが、どうしたものか。
今いる部屋には、Aクラスの魔法関係者が顔見せで集まっている。
私の部下扱いとなった超鈴音、葉加瀬聡美。
魔法を知る組織の関係者である雪広あやか、那波千鶴、村上夏美。
魔法に直接関係する組織の関係者である近衛木乃香、桜咲雪凪、ダイアナ・ヴィッカー、古菲、長瀬楓、鳴滝姉妹。
魔法使いである長谷川千雨、朝倉和美、春日美空、明石祐奈。
地球人でないマナ・アルカナ、ザジ・レイニーデイ、アスナ……じゃない、綾波レイ。
これに私と相坂さよで、総勢21人だ。
顔見せ自体は、特に問題なく終了した。
本来の立場を隠したのは、中国からの留学生と言った超鈴音、魔法世界出身の魔法使いと言った綾波レイ、魔族とは言っても王女とは言わなかったザジ・レイニーデイ。3人とも嘘ではないし、本来の立場は問題が大きすぎるから、予定通りだ。
自己紹介の途中で口調を変えたのは、超鈴音、古菲、長瀬楓。これも話は聞いていたし、原作的にもまあ理解出来なくもない。演じるという理由も説明していたのだから、特に問題ではない。
所属やら色々な情報が飛び交っていたが、関係者に公開している部分限定とはいえ私の計画を知った上で集まっている者であり、基本的に協力関係にあるのだから、この程度で問題があるようなら困るわけだが。
問題になったのは、その後。
誰が纏め役になるかという話が出た時に、能力と立場に問題が無いなら誰でもいいと言ってしまったのが発端だ。
「ここはやはり委員長たるわたくしが纏めるべきですわ!」
小学生時代から非凡な才能を見せ、クラスを纏めてきた雪広あやかが真っ先に名乗りを上げ。
「表と裏の纏め役を兼任するのは情報の隠蔽に無理がありマース!
コトが世界に影響する以上、ここはイギリスの魔法組織を代表する私が、皆を纏めるべきデース!」
間髪を入れずにダイアナ・ヴィッカーが声を上げ。
「纏め役ゆーても、国やエヴァさん達との窓口を兼ねるわけや。
ここは幕田公国やし、摂家出身者として幕田家に近いうちが担った方が、色々と手をまわしやすい思うんよ」
控えめながら、近衛木乃香が手を挙げた。
それからはそれぞれを支持する者も混じって、自己アピール……たまに批判的な言葉も混じりつつ、非暴力という意味で平和的な話し合いが行われているわけだ。
声が少々大きくなったり荒くなったりする程度は、ありがちだろうし。
「重羽先生が決定しないと、どうにもならなそうヨ」
「だが、3人の言い分も理解できるからな。
誰がいいのか、私としても悩ましくてな」
「存在感を示す任務を受けた者は大変でござるな」
本来の立場で来ているなら、迷わずにアスナと言えたんだが。魔法世界の王族だから、身分や魔法世界への影響力が他の連中とは比べ物にならんし。
ザジが微妙な視線で
「というか、超や古は参加しなくていいのか?
中国代表という肩書になるし、あっちの上層部はそういう方面も期待していそうだが」
「難しい話は苦手アル」
「オエライ=サンが、そんな事を言てた気もするネ」
「命令を無視していいのか?」
「気の達人を目指す以外の話は聞いてないアルヨ」
「命令ではなかたし、重羽先生の助手として存在感を示していれば問題ないネ。
むしろ研究や開発を優先すべきだかラ、雑用に時間を取られるのは避けたいヨ」
「まあ、超は今の立場ならそれでいいのか。古は……どっちの意味で聞いていないんだ?」
「結果は一緒アル」
「まったく……。
だがまあ、あのまま放置するわけにもいかんか」
あの3人だと……まあ、ありがちな流れだが雪広に任せるべきか。
それぞれに向いた役目はあるし、明確な上下関係にしなければ角も立たないだろう。
「さて、このまま言い合っていても埒が明かん。
とりあえず案を出してみるが、構わんな?」
「エヴァ様、待ってマシタ!」
「問題ありませんわ」
「エヴァさまの指示やないと、決着がつかへんし」
「お前ら……まあいい、とりあえずの案だ。
まず、雪広。お前は元々委員長としてクラスをまとめていたから、その役目を継続。その一環として裏の連中も動かし、部外者の排除や不自然な指示による野次馬を防ぐ。
加えて、幕田や日本にある企業との橋渡し役は……那波や村上と協力すれば、スムーズだろう。
問題はあるか?」
「いえ、得意分野ですわ」
雪広はこれでよし、と。
那波や村上も言われている役目だろうし、特に不満は無さそうだ。
「次に、近衛。摂家の一員である以上、幕田家や私達に近い立場だ。それに校長が祖父だから、ある程度出入りしても不審とは思われにくい。
それを利用して、特に裏の話をする際の使者や代表的な役目を担う。
どうだ?」
「エヴァさんたちと秘密のお話しをする役目って事でええの?」
「まあ、最初はそうとも言えるな。
色々な連中と話すことになっていくだろうし、難しい交渉の場に立つこともあり得るだろうが」
「つまり、広告塔になる前の練習やね。
了解や」
取り巻きはともかく、木乃江や詠春は木乃香を上に置こうとはしていない、むしろ家は弟に任せる方針のはずだ。名乗りを上げていたのは、日本の裏側を代表できる人物が他にいないからという程度なのだろうな。
ともかく、これで木乃香も大丈夫だな。
「ヴィッカーはイギリス出身だし、あっちとの繋がりもきちんとしているはずだな。
イギリスにはナギ達もいることだし、欧米や魔法世界との窓口を任せるに相応しいと思うが、できるか?」
「まっかせてくだサーイ!
……アレ? 結局、だれが一番なんデス?」
気付いたか。
まあ、先に納得させておいた方がいい事だしな。
「明確なトップを決める気は無いぞ? 矢でも文殊でも構わんが、それぞれの得意分野を担当しての協力体制が望ましいから、それぞれが向く分野で大雑把に3つに分けただけだ。そもそも、私が生徒を纏める役目のトップを指名するなら、担任になる相坂になるぞ。
お前達や後ろにいる連中がどう考えているかはともかく、私はこのクラスを権力争いの場にする気は無い。組織としての影響力が欲しいならこんなところで代理戦争などせずに、堂々と正面から売り込んでこいという事だな。
まあ、お前達同士の関係まで口を挟む気は無いが、それは私や計画とは無関係なところでやれ、という事でもある。それは理解しておけよ?」
「わかりましたわ」
わかっています、ではないんだな。
この話を聞いた後ろにいる連中がどう動くかだが……私の機嫌を無視してまで何かしでかすことは無いと信じるとするか。
「それでしたら、わたくしは仮契約、もしくは一時契約を望みますわ」
「……は?」
「聞き間違いではありませんので、もう一度言いますわ。
わたくしは、エヴァ様との、仮契約もしくは一時契約を、望みますわ」
「いや、ちょっと待て。
その意味はどう理解している?」
「もちろんエヴァ様が主、わたくしが従の主従契約ですわ。間違っても、昨今の仮契約のように恋愛だのといった要素は含んでおりません。
わたくしがエヴァ様に従う事を、内外の関係者に対し明確に示す事が狙いですわ」
「あー、そういう事なん?
それならウチもお願いしたいわぁ」
「なんで増えたっ!?」
私の生徒という肩書を求めて来た連中も含んでいる以上、私の部下という扱いは明確だ。
契約やらで改めて示す必要は……
「エヴァ様も鈍いネー。
2人とも、必要であれば実家をエヴァ様のために使い、いざとなれば絶縁してでもエヴァ様に従うと宣言していて、その証として契約を欲してるわけデース!
その覚悟も無く言ってるなら……」
「心配無用ですわ。
いずれ契約を希望する事は家族にも伝えてありますし、雪広をどう動かすか楽しみにしていると言われております。
それに、わたくし1人が抜けた程度で揺らぐほど、雪広は脆弱ではありませんわ」
「ウチの場合は、むしろ完全にエヴァさんのものになった方が、色々と安全かもしれへんなぁ。ウチを京都に戻すために、弟に手を出そうとしたあほうもいたようやし。
その意味では、完全に幕田の近衛木乃香になったと宣言できる、本契約を希望や」
「Oh……覚悟は十分みたいデスネー」
雪広はまあ、財閥として盤石の体制を維持する自信があるという事か。
呪術協会の話は多少聞いているが、阿呆は下っ端の小悪党で、既に処分済みで反抗的な派閥からも捨てられているはずだ。
「そう言う、ヴィッカーさんはどうなのですか?
既に契約しているかのような口ぶりですが」
「私が所属する組織は、エヴァ様を盟主としているのデース。
エヴァ様に否定されたら、組織そのものが消滅するネー」
盟主……今では盟主扱いになっているのか。
まあ、トップはずっとマシューだし、以前はリズもいたのだから、そういう方針になっているのは必然か……
「それは組織の都合ですわ。
貴女自身がどうなのか、と問うているのです」
「エヴァ様からの指令とあらば、捨て駒同然の単身の潜入任務だろうがどんとこいデース!
契約は事実上してるよーな状態ですカラ、これ以上術式を重ねたらどうなるのか、ちょっと心配デスネー」
「……あれは捨て駒じゃなかった上に、余計な面倒を作ってくれたがな」
「その覚悟で臨んだという話ネー。エヴァ様の指令で舞い上がった上に、護衛対象が好みの男性だったから張り切りすぎただけデース!」
「失敗は失敗ですわ。
ですが、やはりわたくしが契約するのは必須ですわ。
近衛さんもですわね?」
「もちろんやー」
「必須じゃないだろう」
いや、本当に。
どう考えても、必須じゃない……よな?
◇◆◇ ◇◆◇
結局周囲の賛同意見が強かったという事もあり、雪広あやか、近衛木乃香の2人と契約した。
……なぜか、キスで。
どうしてザジがキスで仮契約する魔法陣を描けるんだとか、どうして一時契約じゃないんだとか、2人のアーティファクトが原作と同じ理由はなんだとか、突っ込みどころが多々あるんだが、これだけは言っておきたい。
私は、ロリコンじゃないっ!
いくらあやかの外見が年齢不相応だったり、木乃香が美少女だったりするからといって、うっかりときめいたりはしていないっ!!
ついでとばかりに、一時契約も結ばされた。
首謀者は雪広あやかで、契約対象者は桜咲雪凪、超鈴音、葉加瀬聡美、長瀬楓、鳴滝姉妹の6人。
何かあった時の立ち位置を明確にすべきという論法であり、木乃香と仲が良く雪花に憧れる雪凪、既に私直属の技術者扱いとなっている鈴音と聡美、元々私との関係が強い忍者3人が希望したのは、結果としては理解できる。
那波や古は、他の組織による監視や介入が行われている証としての立場をとるということで、契約なし。これも、立ち位置を明確にするという意図に沿った答えだ。
魔族であるザジやアルカナは、特にザジは王族という事もあり、立場的に契約するわけにいかない。詳しい理由は説明していなかったが、私から見た場合の立ち位置は明確だ。
長谷川や春日たち、つまりは下っ端魔法使い的立場の連中が希望しなかったのは、面倒事の回避という側面もあるだろう。私との直接契約など、面倒事が多発するとしか思えんし。
……流されてるな。完全に。
そんな事があってから、数日。
つまりは入学式が行われる日なのだが、その日は、朝からカオスだった。
例えば。
鳴滝姉妹が、初対面という設定で長瀬楓と接触。
「おっきいー!」
「なにしたらそんなにおっきくなるの!?」
「運動でござるかなぁ」
「ござる!?」
「忍者っ!? 忍者なんでっ!?」
……わざとらし過ぎるような気もするが、見た目の幼さでカバーしつつ騒いでいたり。
「あらあら、教室でそんなに騒いではダメですよ」
「こっちもおっきい!」
「メロン!? むしろスイカっ!?」
「あらあら」
それを窘めようとした那波千鶴にも矛先が向いたり。
「おっきいおっきいって騒いでるけど、その小ささの秘訣ってのも聞いてみたいな~?」
「またおっきいのが来たっ!?」
「ええい、このクラスは人外大魔境だっ!!」
遠回しに止めようとした朝倉和美も標的に……というか、鳴滝姉妹がカオスの原因だな。
雪広あやかがまだ来ていないのも、ブレーキがかからない原因なのだろう。
雪広は校門近くにいて、先生と話しているふりをしながら上級生の魔法生徒を紹介してもらっているから、間やタイミングが悪かったのか。ブレーキのかけ時を見失ってる鳴滝姉妹や、呆れた目でその様子を見てるだけの連中が悪くないわけはないが。
こんなクラスを、さよと私で纏められるのか?
……ああ、原作でもまとめ切れていないから、あれだけ暴走しているのか。
ぎ、ぎりぎりだったぜ……(水曜の予約投稿直前まで書いてた的な意味で)
意訳:推敲があまりできてないので、いつも以上におかしな点が多い可能性がありマス
艦これイベントは、初の全域乙突破 & 全新艦(と伊戦艦*2)ゲット成功です。
去年の春イベは突破できなかったですし、夏以降もどこかで丙にして、ドロップ(Aquila)を諦めたりしていましたから、今までで最もよい結果です。
時間がさほど取れなかった都合で普段の出撃が少なく、今までより資源が多くなっていたのが良かったように思います。自然回復域でやりくりするのとは、精神的な余裕が違いますね。掘り終わった頃には4割ほど減っていましたが。
……なあ神威、お前のいた
2017/05/30 以下を修正
相川さよ→相坂さよ
納得さて→納得させて
相川→相坂
2017/06/19 木乃香の一人称を「ウチ」に修正