さほど日を置かずにマナがザジを連れてきて、マナを広告塔として使うための話し合いが行われた。
ザジは魔法を公開するなら魔界についても公開が必要だと思いつつも、イメージアップに子供を使う事に反対していたらしい。
だが、当の子供自身が望むのであれば仕方ないと受け入れることを決め、それでも不安があるから妹を補佐に就けることにしたそうだ。
「妹の名前はザジポヨ。人が聞き分けるのは難しいから、私と紛らわしいと思うポヨ」
……どうやら、ザジ(妹)が学生として幕田に来る道筋が、出来てしまったらしい。
とまあ、それはともかくとして、だ。
春になった。
ザジ・レイニーデイ(妹の方)が留学生として麻帆良に来た。これはまあ、話し合いの結果だから問題ない。
村上夏美も、麻帆良に来た。これは予想外だ。
どうやら中京の企業グループからも裏を知る人が来たのだが、その中に、家族で来た村上という人物がいたらしい。
……いやまあ、令嬢とかではないし、原作でも雪広や那波と同室だし、そういう繋がりを否定する理由も無いんだが。
そんな感じでどんどん周囲を固められている気がする、暖かなある日の夜。
「エヴァさん、お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。すっかり春だが、日々は問題なく過ごせているか?」
時折ある、ネギからの電話があった。
時差の都合もあるし、短期卒業を目指すネギのスケジュールはかなり詰まっている。それでも隙を見ては連絡を入れてくるのは、私の力という傘を求めているからか。それとも、転生者仲間という同類を求めているからか。
「それなんですけど、今朝、びっくりしたことがありました!
あ、4時間ほど前なので、日本では夕方頃になります」
「それは分かるが、何があった?
驚くだけで済むなら、問題があったわけではないのだろうが」
「それが、いいのか悪いのかもよくわからないんです。
ええとですね、端的に言うと、オコジョ妖精に会ったんです」
「ああ、そういえばこれくらいの時期になるんだったか。
エロなカモで間違いないか?」
「いえ、カモではありましたけど、エロじゃないんですよ。
なんだか、すごく礼儀正しい感じでした」
「ほう。まあ、それを聞くだけなら、いい事なんじゃないか?
中身女性としては、やたらエロ方向に暴走するのがうろつくよりはマシだろう」
またヴァンか。それともアルの方か。
召喚についてはネギの時にかなり強く禁止したから、今回は違う手法だと思いたいが……とりあえず、エロガモ殺処分案は保留にしておくべきか。
「それが、カモちゃんなんです。
ボク達にとっては性転換なんですけど、後天的な性転換とかじゃなくて、生まれた時から女の子で……」
「ああ、うん、大体わかった。
オスだと思っていたのは原作を知る私達だけで、出会ったカモは間違いなくメスである。という事でいいんだな?」
「はい。名前もアルベルティーヌ・カモミールでしたし。
病気の家族とかはいないそうですし、今は配達とかの仕事をしながら仕える人を探してたと言っていました」
「妹の設定は、原作でもただの言い訳のような感じだったが。
だが、
「大きな仕事をする人の片腕になれ、と言われて育ったそうです。なので、仮契約や恋愛調査以外にも、情報収集とか治療とか、色々な技術を身に着けてるそうですよ。
過去形なのは、なぜかボクを気に入っちゃったみたいで……」
「そうか……これも修正力の一環、なのか?
誰かが転生しているとか、お前を主とするよう仕向けられているとか、そういう様子は無いんだな?」
「無いと思います。少なくとも、話した感じではそういう雰囲気は見えなかったです。
最初からボクを目指してたわけでもなさそうでした。気に入った理由も、年齢に不相応な言動と魔力の制御技術、それに魔力の多さを挙げていましたし」
カモがネギの使い魔として、手助けをする。そういう修正力が働いているのは確かだろう。
だが、カモが礼儀正しいメスになり、サポート能力が高まっているのは……自然にこうなることは無い、少なくとも性別が変化した例は今までなかった以上は、人為的な手出しのはずだ。
ヴァンやアルは、とりあえずエロガモでなくなれば、ネギの使い魔にならなくても問題ないと判断したのか? あからさまにネギを狙えば、間違いなく警戒されるからかもしれんが。
「とりあえず、人格や能力に問題が無いなら、使い魔の契約を結ぶ事を止める必要もないな。
出会いは罠にかかって云々といったものだったのか?」
「いえ、普通に魔法世界からの私信を隣の家に届けに来たところに遭遇しました。
ボクが学校に行く時だったんですけど、カモちゃんがポストに乗って手紙を入れようとしてるところを見て、盗もうとしてると勘違いしちゃいまして……」
「早とちりは置いておくが、会話しない可能性や、そもそも会わない可能性もあったのか」
「はい。オコジョ妖精が配達してるところを見たのは初めてですし、カモちゃんがあの村に来たのも初めてと言っていました。
いろいろなところを見たいからという理由で積極的な配置換えを希望していて、少し前までもっと北の方を担当していたそうですよ。
ボクがいるから当面はここに固定して、魔法学校卒業に合わせて配達の仕事を辞めるんだと、嬉しそうに言われちゃいました」
「それはまた……随分とご都合主義的というか、修正力が頑張っているというか」
「ですよねー。
受け入れても問題なさそうでしたし、話していても嫌な感じは無かったですけど、報告しておいた方がいいですよね?
ボクも修正力とか気になりますし」
「なるほど。それで、使い魔として受け入れた本当の理由は?」
「断ろうとしたときの悲しそうな目が……はっ!?」
「なるほど、そうだったのか」
「は、はかりましたねっ!?」
「いや、今のは自爆だと思うぞ?」
◇◆◇ ◇◆◇
「で、今回は何をどうやったんだ?」
ネギからの電話が終わってから、1時間ほど過ぎただろうか。
何らかの資料らしいコピー用紙を片手に持つ嬉しそうなヴァンが目の前に来たなら、問い詰めざるを得ない。
「え、何の話? 和泉ちゃんには何もしてないよ?」
「……ちょっと待て、お前の用事は和泉……和泉とは誰だ?」
オコジョ妖精の話で来たわけじゃないのか。
和泉……和泉か。どこかで聞いた事のある名前ではあると思うんだが……
「うわ、本気で忘れてるよこのエターナルロリ」
「ロリ言うな。で、誰なんだ?」
「原作の生徒! でっかい注射でドーピングしてくる気弱なナース、背中に傷があって大人モードのネギに恋した色々と不幸な娘!」
「……ああ、そういえばそんな名前のもいたな。
で、今回は手を出していないのか?」
「そもそも見付けてなかったんだから、手を出せるわけないよ。
それでさ、うちの病院って高度な医療もやってるじゃない。事故で大きな傷跡が残った和泉ちゃんを何とかできないかって相談が来て、手術が決まったらしいんだ」
「ふむ……怪我をしたという点は原作を踏襲したんだな。まあ、原作よりは心の傷が軽くなる要素にはなるか。
どの程度手出しする気だ?」
「見付けたって話をしに来ただけだし、手を出す気は無いよ。そこまで有用な……能力のブーストは有用な気もしなくはないけど、原作と同じアーティファクトになるかわかんないしさ。
ネギじゃなくてネギちゃんだから、契約するかどうか自体もわかんないし」
手出しをしないなら、まあいいか。
それよりも、だ。
「そうだな。で、ネギにも関係する、最初の話に戻すぞ。
カモに対して、何をやった?」
「カモ? オコジョ妖精の話だよね。
フランスにあったオコジョ妖精の集落でカモミール姓を見付けた、って事は言ってあったと思うけど、その時に、ちょっと予言じみた事を言ったんだ」
「その内容は?」
「将来男の子が生まれたら、その者は犯罪者に育つだろう、って」
おい。
「ある意味では正しいのかもしれんが、やり方が詐欺師や悪質な宗教の手法だぞ」
「大丈夫、ここからは悪質じゃないはずだから。
それで、色々話し合った結果、しっかりとした教育を施す、そのための資金を僕が援助する、しばらく女の子しか生まれない呪いをかける、って感じで合意したんだ」
「はぁ? いや、本人達が一方的に不利な内容でもないし、それはそれでありなのか……?」
「子供は否定してないし、子供の教育を手伝うって話なんだから、ありってことで。
本人……本オコジョ? との話とは別に、かなり厳しめだけどしっかりした教育者も送り込んで、私塾的なものも用意したよ。そっちにも援助したから、集落全体から感謝されたし。
その後の監査では問題ないって報告を受けてるんだけど、何か耳に入るような問題が出てた?」
……つまり、あれか。
カモがネギのところに来たのは、こいつらが扇動したり強制したりしたわけじゃない、という事なのか。手の出し方も思ったより真っ当だし、問題ないと言ってよさそうではあるな。
「いや、今朝……現地での今朝だが、ネギがカモと接触したらしい」
「あれ、そうなの?
あそこの姉妹は真面目に仕事してるって聞いてるけど」
「姉妹なのか?
とりあえず、エロでも罠にかかるような間抜けでもないようだが、ネギの将来性を感じたのか、使い魔契約を予約したような状態になったらしいぞ」
「へー……まあ、優秀な生徒だって話は聞いてるし、問題ないとは思うんだけど……」
「想定外なのか?」
「うん。優秀なんだから、普通にいい身分の人のところに行ってると思ってたよ」
「普通に配達の仕事をしていて、ネギのいる村に来たところで出会ったらしいぞ。
というか、あの村を担当するなら、それなりに優秀かつ信用されているんじゃないか? ナギとネギの身分的に」
「……ああっ!?」
お、なんだか珍しく、ヴァンが驚いているな。
というか、気付かなかったのか……
「やりすぎちゃったのかなぁ……まあ、原作みたいな暴走はしないと思うし、大丈夫かな。
暴走するようなら粛清すればいいよねっ!」
「まあ、それは構わんが。
で、これ以上は手出ししたという話は無いだろうな?」
「たぶん?
あー、これは僕でもアルでもないんだけど、とあるパイナップル頭ちゃんが魔法の勉強に参加し始めた、って事は聞いてる?」
「パイナップルか。朝倉の事か?」
「そうそう。結構強く説教されてたはずなんだけどねー」
「指導や監査、折衝担当やらがいいと言っているなら、問題ないのだろうが……
本人の気質としてはパパラッチ系だろうが、それ自体は雪花も言っていたから認識しているはずだ。
という事は、調教される様を生暖かく見守ればいいのか?」
「性的な意味で?」
「私にそういう趣味は無いし、眷属達からも聞いたことは無いぞ。
そもそも、肉体年齢すら私より年下の小娘をどうしたいんだ」
「肉体年齢は、ねー」
「何が言いたい?」
「身長は、もう負けてるよね?」
「うるさい。当時はこれでも普通だったし、それで傷付くのは私ではなくゼロだ」
「ゼロちゃんは気にしてないと思うけどなぁ。ちっちゃくなっちゃってるし」
「だからこそ気にしていたら、どうするつもりだ」
というか、私が気にしているんだ。
無理してもあれ以上は希少素材を集められなかったし、集められた量ではあの大きさが限界だったのは確かなんだが……
「まあ、それは気にしても仕方ないってことで、置いておくとしてさ。
エヴァにゃんの練習は大丈夫?」
「魔法のか?
大丈夫じゃないな、大問題だ」
「えー」
「仕方ないだろう、あの量の魔力を使うと影響が大きいから、騒ぎになるのが確実なんだ。
制御自体は問題ないと思うんだが、本番では不要な隠蔽技術ばかり磨いている気がするぞ」
「起きてる人が少ない時とかに、がーっとさー」
「だいぶ前に試した時は、そこら中の裏組織で騒ぎになりかけたじゃないか。
かなり甘かったあの頃の試算で問題だったんだ。現状の本番を想定した魔力運用のテストなんて強行したら、どんな騒ぎになるかわかったもんじゃない」
それだけにこそこそと練習するしかないんだが、扱う必要がある魔力量が多すぎるという問題は解決できない。繊細な制御が上達している実感はあるし、感覚としては必要な魔力を扱えそうではあるが、実際に試していないのは不安が残るのも事実だ。
だからと言って、世界を……表も裏も関係なく、文字通り世界を混乱させるような真似はするべきではないだろう。
「世界平和のためだとか言って、強行しちゃいたいよねー」
「関係者はともかく、世間一般にはそうするしかないんだがな。
今から出来るのは、どうにかして成功率を上げる事だけだ」
「そうじゃなくて、テストとかをさー」
「ああ、そっちか。
魔法の公開を前倒しする必要がある上に、畳み掛ける計画が吹き飛ぶな」
「そうなんだよねー。
世界は、こんなはずじゃない事ばっかりだー!」
「どこぞの黒い執務官かお前は」
ザジ姉妹の名前は、英語が超苦手な人に「Runa」と「Luna」を聞き分けろ、的な感じで。
なお、私はGoogle翻訳の英語でこの2単語を聞き比べてみましたが、音程以外違いがわかりませんでした。どうやって聞き分けろと……
そして、やっぱり次話が全く書けていない件。構想はできても、文章にできない……そうか、これが倦怠期か(違
移動や休憩の時間に色々考えても、メモする前に忘れる記憶力の無さは何とかなりませんかねぇ。
あと、時間の無さも。
艦これ? あれでしょ、レスラーが登場したとかいう噂の(大違
2017/04/25 粛清すればいよねっ→粛清すればいいよねっ に修正