やはり俺のSAOは楽しい。   作:Aru96-

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-9話-

 

 

 

 

 

 

休暇も残すところあと3日となってしまった今日。ベットから起床すると2通メッセージが届いていた。差出人はアスナとリズからで、メールを見ることに慣れていない俺はそれをスルーしてウインドウを閉じる。

 

今日は散歩にでも出かけてみようと思う。50層にある街はあまり散策などしていなかったため少しだけわくわくと胸を躍らせてしまう。この街の名はスフィン、通称煉瓦の街。色とりどりの煉瓦で出来たとても西洋風で家が連なる。家と家の幅も狭く、ご近所づきあいが盛んな街。見る分にはいいが住むのはちょっとごめんだな。

 

「だってご近所づきあいとかめんどくさいじゃん」

 

ぽしょりと独り言のように呟く。ベットから立ち上がると俺は洗面台に行き、歯を磨き顔を洗う。別段この世界ではそういった日常的な行動は取らなくても良いのだがやはり現実世界で身体に染み付いた行動なのでやらないと落ち着かないものである。

 

一通り作業を終えるとウインドウを開いて一応念のために買っておいたおしゃれ(笑)の服を着る。全身が映る鏡に行くと、そこには目の腐っていないイケメンがいた。自分でも驚くくらい目が生き生きとし、輝いていたのだ。ゲームの世界で戦闘アシストの他にも顔面アシストと言うもので補正されたのだろうか。なにそれ俺だけが掛かりそうじゃん。

 

「これはオシャレなのか、全くわからん」

 

俺の服のセンスは全くと言っていいほど良くはない。というより自分で買った試しがないので最初見たときは頭が爆発しそうだった。なので個人的にいいと思うのを何着か買ってきたのだ。

あいにくこの世界のお金の通貨、コルは腐るほどあり、使っても使っても減らないので少しだけ困っている部分もある。まぁ家とか買ってないのが大きいかな。

 

まぁ多分ダサくはないと思う服装。どこかの後輩が 、

 

「先輩はスタイルが良いのでジャケットとか似合うと思いますよ?」

 

と言われたので目に付いたものを買ったのだが、これでダサイと言われた日には一生服を買わないレベルどころか一生スウェットで過ごす覚悟が出来ている。

 

外に出てみると日差しがとても強く風が心地いい。仮想世界って雨とか降らないんかな。そんな事を思いながらもブラブラと徘徊していたところ前方に見覚えのある栗色の髪をした女の子。俺のチャームポイントのアホ毛がぴょこぴょこ揺れて危険信号を察知する。

その女の子はキョロキョロしていて誰かを探しているみたい。

 

「俺じゃない、よし行こう」

 

変な勘違いは起こさない。多分キリトあたりを探しているのだろう。徐々に彼女との距離が縮まる。そして横を通り過ぎる。ミッションコンプリート。OK超クール。これで俺は何もも怖くn……

 

「あ、やっと見つけた」

 

見つかっちゃった。テヘペロ。気持ち悪、自分で言ってて死にたくなった。まぁ当の本人は名前を言っていないから俺じゃないな。うん。あれだ俺だと思って振り向いたら違う人でしたってやつだろ。

 

「あ、ちょ、ハチ君待ってよ」

 

えー、名前呼んじゃうんですか。手を掴まれ強制的に止められ、俺はその場に立ち尽くす。彼女は俺の前に回り込むと頬を膨らませ怒っていた。

その表情はとても可愛い。捻くれぼっちと呼ばれる俺でも素直に言えちゃうのだからそうなのだろう。

でも、勘違いをしてしまいそうになる。そう思うと胸に針が刺さった様に痛苦しい。

 

「もー、朝メールしたのに返事くらいしてよ、おかげでこの街中探し回ったんだから」

 

未だ手を握られ、時折にぎにぎと俺の手の感触を楽しむように両手で揉んでくる。反射的に俺は手を引いてしまう。彼女からは寂しそうな声と共に俯いてしまう。罪悪感。俺の感情を支配して何も言えずにただその場には沈黙が訪れる。

 

この空気は一度訪れると中々壊せないもので、いくら素直になったとかお人好しになったからとはいえこの微妙な距離を縮めることは俺には出来ない。何かを言ったら何かを失いそうになる。それが怖いから。

彼女を大切に思っているから、この近すぎず遠すぎずの関係を心地いいと感じているから。一歩踏み出すのはとても勇気がいる事。俺にはそれができない。

 

不意に通知音が流れる。メールが届いたのか俺はメールボックスを開くとリズから来ていた。内容はブレスレットが完成した。最高の出来だから早く来いと書いてある。何とも女の子とは思えぬ書き方だった。あ、よくよく考えたら女の子とメールなんて由比ヶ浜か一色くらいしかやったこと無いわ。

 

「誰からなの?」

 

「ん、あぁ、リズからだ」

 

差出人の名前を言うとアスナはまた可愛い膨れっ面になり、

 

「ずいぶんと仲がいいんだね」

 

と眉を下げて俺に言う。またもほんの少しの罪悪感とちょっとした嬉しさも感じてしまう。きっと彼女は嫉妬をしている。そう思ったから。由比ヶ浜は俺が一色や川…川…サキサキと話している時、いつもこんな様な顔をしていて僅かだが女子が何を考えたり思っているかを読み取れるようになってきたからだ。

 

「まぁあれだよ、プレイヤーメイドの品が完成したから取りに来いってメールだ。まぁ攻略開始まであと3日もあるから急ぐことはない、何なら一緒に行くか?」

 

先程とはうって変わってニコニコ笑顔で俺の手を取り、抱きしめる形で寄り添ってくる。小さく「んふふ〜、ハチ君、ハチ君」と頬を擦り合わせている。何とも上機嫌なようだ。

彼女のあの顔はもう見たくないと思ったからか、今度は手を引くことはなく、少し恥ずかしながらも俺は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

-リズベットside-

 

扉に付けられた鐘が聞こえ、店に誰かが来たのだと分かる。工房の端に取り付けてある鏡をみて軽く身だしなみを整え、埃を払う。そして店内に入るとアホ毛がある男性が彷徨いていた。一瞬通報しかけたが、あと一歩のところで手を止め、声をかける。

 

「ハッちゃんいらっしゃい、ブレスレット出来てるわよ」

 

彼は無愛想ながらも返事をしてこちらを見てくれた。先程鏡で確認してきたのにも関わらず、顔に変なもの付いてないよね、服は汚くないかな。髪型は崩れたりしてないかな。色々な不安が私を襲う。

 

彼のことを思ったり、一緒の空間に居るだけでとても落ち着く。元気いっぱいが取り柄な私だけど、彼と居ると少し肩の荷が下り、素の私でいられる。もちろんどちらも私なのだが、やはりいつもニコニコしていたら疲れてしまう。

 

「早速見せてくれるか?」

 

私は小さな木の箱を引き出しから取り出すと彼に渡す。箱を開いて私の作った最高傑作のアイテムをマジマジ見つめていた。

数秒がとても長く感じられる。すると一息ついて彼は満足そうに頷くと緊張が解けたのかどっと疲労感に襲われる。

 

「いい出来だな、ありがとう」

 

頬を掻き照れ臭そう言うとそそくさとブレスレットをアイテムストレージに入れ、まだ店内を徘徊する。

他にも何か作って欲しいんだろうか。そうは思ったが彼は良くも悪くも言うときは言う男だ。ただ単に見ているだけだろう。

そして私は胸の内に仕舞い込んでいた想いを打ち明けようと口を開く。

 

「あ、あのさ」

 

「ハチ君! 置いてくなんてひどいよー」

 

タイミング良く彼女が現れる。いや、私には最悪のタイミングなのかもしれない。彼女は私の親友。彼女は何の戸惑いや躊躇いもなく彼の腕に抱きつく。

心臓を思いっきり握り潰された感覚。あくまでそう感じただけなのに顔がその痛さに歪んでしまう。

 

「あれ、リズ! どうしたの? 具合でも悪いの?」

 

「ん? あぁ、いやいや何でもないよ。それより、応援してる」

 

私は咄嗟に誤魔化し、最後の方は彼女に耳打ちで言う。耳に付けているイヤリングが私にはとても眩しいものに見えた。本当は今にでも一人になりたい。そして泣いてしまいたい。そんな気持ちを抑えながら私は彼と彼女が出て行くのを見守る。

 

彼はまた来るとだけ言うと彼女と店を出て行った。応援してるって言った時のアスナ、顔を真っ赤にして否定してて可愛かった……な……

 

「ふっ……う…ぐ……うぇ…」

 

その場にしゃがみ込むと泣いてしまい、呼吸がしにくくなる。この世界では涙は抑えられない。一度泣いてしまえば収まるまで止まることなく涙は流れ続ける。悲しい。悲しいのに、凄いくらいに清々しい。涙を流してすっきりしたのもあるかもしれない。だけど一番の理由は私の親友が幸せにやっている。彼が彼女を幸せにしてくれている。そう思うと自然に涙は止まっていた。

 

彼は素敵な人だ。くだらない話をして、兄のように甘やかしてくれて、厳しく叱ってくれる。

 

「私もいつかそんな人が現れるかなぁ」

 

倒れるようにベットに寝転がるとすぐに睡魔が私を襲った。

 

 

 

 


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