やはり俺のSAOは楽しい。   作:Aru96-

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-8話-

 

 

 

 

暗い。辺りは果てしなく広く光は届かなくて女の子のすすり泣く声が聞こえる。

暗闇の中で一人ぽつん立つ俺の目の前に少し背の低い女の子とアホっぽい子。黒髪の美少女が現れ、その子たちはこう言っている。

 

 

 

お…にい……ち……

 

 

ひき……が…

 

…ヒ…ッ……ー

 

 

 

聞こうとすればするほど声は掠れていき、近付けば遠ざかる。徐々に走るスピードが上がっていくのが無意識のうちにわかってしまう。手を伸ばし必死に追いつこうとしても倍の速さで向こう側にいってしまう。

 

ふと何かに躓いて転ぶ。痛みはないが前を向くとさっきまでの少女たちはいなくなっていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

意識が覚醒する。体を起こすと頭に激しい痛みが襲い、大事な何かが消えていく感じがした。

 

「それにしても嫌な夢だ」

 

顔に手を当てて必死に先ほどまでのことを掘り起こし、少女は何だったのか思い出そうとする。

泣いている姿を思い描くと胸のあたりが締め付けられ、とても息苦しい。泣かしてはいけない、笑顔になってほしい。自然とそう思った。

 

「……小町…雪ノ下…由比ヶ浜…」

 

俺はこんな大事な思い出を一瞬忘れていたのか。そう考えると早く帰らないといけないと俺の中に眠る何かが熱くなる。早くあいつらにあって罵倒されて、殺人料理の味見して、可愛い妹の帰りを待たないと。

 

右手を振りかざし、アイテムから防具を選択して具現化させる。体に少しの違和感を感じ、膝丈まである紺色のコートが着させられる。便利だがいきなり着ている状態になる時の感じは未だになれない。

それを紛らわすように肩を廻してから宿を出る。

 

「最近サボり気味だし、レベル上げにでも行くか。」

 

攻略組の一週間の休暇は残り4日となり、まだ休めるという気楽な気持ちと、今からにでも気持ちを引き締めなければという気持ちが入り乱れる。そのための今日。俺は少し強いモンスターが出現する49層の迷宮区に行くことにした。流石に50層はソロじゃ無理です。そのため50層に行くときは毎回アスナにパーティを誘われるのだが正直めんどくさい。

 

「転移、マーテラス」

 

転移門に立つと行き先を言い青白い光に包まれて目の前が見えなくなる。気付くとそこは俺の言った街に付いており、マップを広げる。

 

いつ来てもこの街は複雑に入り乱れているので何回も道に迷ってしまった事がある。そのためマップを見ながらでないと、この街から出られないのだ。

 

「ピナ…ごめんね、ピナ」

 

鎌倉時代に出てきそうな木で出来た大きな橋の手摺。そこに赤を基調としたアーマーを装備した小さな女の子が下に流れる川に向かって何かを呟いていた。

勿論俺は華麗にスルー厄介ごとには巻き込まれたくないんでね。

 

「ちょ、普通可愛い子が困っているのに声をかけないってどーゆーことですかぁ!」

 

と俺の腕をがっちり掴んで文句をたれるこの少女。

 

「あざとい」

 

まるでどこかの後輩だな。超あざとい。でも守ってやりたくなる。こいつまさか妹属性持ってんのか、お兄ちゃんスキルが勝手に発動されてしまう…

 

「酷くないですかそれー? まぁでも話くらい聞いてくださいよー」

 

「分かった、分かったから腕を揺らすのやめてくれない?」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

このシリカとか言う女があまりにも説明が下手くそだったので代わりに俺が説明するとこいつはビーストテイマーで飼っていたピナというフェザーリドラを自分の不注意で死なせてしまったとのこと。

 

「知らん、自業自得だろ。俺に言うな、じゃあな」

 

手を振ってその場から立ち去ろうとすると大声で

 

「この人私に痴むぐっ」

 

慌てて口を手で押さえるもハラスメントコードが表示されてしまう。周りにチラホラ人が見え始めたので手を引き人影の少ない場所へ移動した。

 

「こんなところ連れてきて何するつもりですか? まさか本当に変態行為を…」

 

自分の体を抱きしめ身を守るシリカだがそれを華麗にスルーして提案をした。

 

「一つだけお前のその、ぴ、ぴ、ピーナッツ?を生き返させる事が出来るぞ。ただまぁ今のお前の防具じゃ速攻やられるから俺のを貸してやらんこともない」

 

「ピナです、次間違えたらぶち殺しますよ?」

 

怖っ、まるでどこかのラブリーマイエンジェル小町たん。

それにしてもいつから俺はこんなにもお人好しになったのだろう。大体理由はわかってるがこの世界に来てあいつら2人に出会ってから変わったのかな。昔の俺が見たらきっと笑われるなこりゃ。

そんなこんなで武具を渡してさっそうと行き先へと歩き始めると俺の後ろにぴょこぴょこ付いてくる形でシリカが歩く。まるで金魚のフ……ゲフンゲフン。可愛い妹のようだ。

 

「本当にこれ借りてもいいんですか?は、まさか後で貸してやっただろとか言って私に卑猥なことをさせる気じゃ……それにさりげなく私の歩くスピードに合わせてくれてますし」

 

「最後の方はなんて言ったのか本気で分からないが、そんな事しないから安心しろ、ガキは相手にしないタイプだ」

 

同い年も年上も同じなんだけどね。あ、俺の場合相手にされないの間違いか。言ってて悲しくなってきた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

フラワーガーデンというフィールドダンジョンに付くと、何事も無く蘇生アイテムをゲットし、マーテラスに帰る道中視界の隅で怪しい動きをしながらこちらを見てる連中がを捉えつつ道を歩いた。

推測だがこの子は多分狙われている。そう思った俺はこっそり耳打ちをすると彼女は頷き、俺の後ろに隠れる。

 

「出てこいよ」

 

というとリーダー格の赤い髪をした槍使いが出てきた。それに続くようにして取り巻きが数十人目の前に立ちはばかる。その取り巻き全員が男でなんとも言えぬいやらしい目つきでシリカを見えいることがわかる。

俺はそれを必要以上にイラついてしまう。

 

「おやシリカ、もう男を誑かしたのかい? それにしては微妙だねぇ」

 

「違います、この人は、ハチさんは私に協力してくれてるだけです。ロザリアさんこそ男を見る目がないんじゃないんですか?そんなブッサイクな人たちばっかり連れてお山の大将気取りですか?残念な女ですね、だから頭の悪そうな連中しかついてこないんですよ」

 

待て、煽るな煽るな。ほらロザリアさんとかいうやつプルプル震えてるじゃないか。危うく吹き出しそうになってしまった。

するとロザリアはこちらを睨みつけ、取り巻きに合図を送るのが見えた。即座に身構える。

 

「この男さえやっちまえば本当にシリカちゃんを好きにしていいんですよねぇ、ロザリアさん」

 

「当たり前だよ、報酬はあの子さ、煮るなり焼くなり……もちろんあんなことやこんなことも、わかったならさっさとやれ!」

 

流石オレンジプレイヤーやる事なす事全部がゲスいな。ただロザリアだけが善良なグリーンカーソルなのが気になるな。

眼を凝らすとスキルが発動し魚眼のようになる。彼女の全身を見るが特別何かをしているわけではなさそうだ。大方自分の手は汚さないんだろうな。

 

「まぁ攻略組がこんなところでうろついてる訳ないしここで燻ってる雑魚プレイヤーでしょ」

 

「悪かったな雑魚で、でもお前達よりかは強い自信あるぜ」

 

そう言うと俺は一瞬でロザリアとの間合いを詰め首に政宗を構える。彼女顔からは冷や汗が流れ恐怖で顔が歪んでいた。最後の抵抗の様に口を開く。何を言い出すのかは予想がつく。

 

「言っとくが俺はソロだ。1日2日オレンジになっても構わない」

 

それを言うとロザリアは武器を落とし両手を上に挙げる。それを見て取り巻きたちも武器を落とす音が聞こえ、跪いたり俯く人がいた。

シリカはNPCにこの状況のメールを送ってもらうとすぐに警察官のような格好をしたNPCが現れ彼女たちを連れて行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「今日はありがとうございました。ピナも生き返りましたし、何から何までなんとお礼をしたらいいか」

 

「お礼なんかいらないし、なんならその武具も上げるよ」

 

俺はじゃあなと手を振ってその場を立ち去ろうとするとシリカは俺のコートの襟を掴んで頬に柔らかい感触が伝わる。

 

「これは私からのお礼です」

 

シリカは満面の笑みでその場を立ち去っていった。俺は頬に手を当てながら彼女の背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 


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