やはり俺のSAOは楽しい。   作:Aru96-

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-4話-

 

 

 

 

「よし、気を引き締めていこう」

 

ディアベルがボス部屋の大きな扉の前で声を上げる。それに続いて40人近い人数が一斉に雄叫びにも似た叫び声が迷宮区に広がった。

俺の横にキリトとアスナさんが息を飲んで扉が開かれるのを待つ。

ディアベルはそっと扉に手を出し押す。扉が開かれるのと目の前には巨大なモンスターとその取り巻きがいた。

名前は《イルファング・ザ・コボルトロード》武器は斧とバックラー。HPゲージは3本。取り巻きは2本か。こりゃキツイな。

 

「全軍突撃!!」

 

いつの時代の方ですか?と言いそうになった。それに釣られまたも全員がおーと雄叫びをあげて取り巻きにダメージを与えていく。

 

「ッ!」

 

取り巻きから斧が飛んできた。これを俺はなんとか交わすと空中で体制を整え着地と同時に地面蹴る。

 

「っらぁぁ!」

 

3連撃の攻撃を叩き込む。HPは半分まで削れた。あと1本半。長い戦いになるな。

 

「スイッチ!」

 

キリトに言うと待ってましたと言わんばかりに飛び出す。俺と同じ3連撃するとクリティカルが発生したのか一瞬でレッドゾーンに入る。

次にキリトがアスナさんにスイッチと言う。

 

「行くわよ」

 

殺意剥き出しの目で取り巻きの1体を倒す。それを見届けると俺は索敵スキルで周りの状況を確認したら40人近くいたメンバーがおよそ半数に減っていた。

圧倒的不利な状態。こうしてる間にもボスに倒される仲間達。

 

「ヤバイな、この状況」

 

「どうしたらいいの…」

 

2人とも顔面蒼白していた。

 

--帰りたい

 

--小町

 

--雪ノ下

 

--由比ヶ浜

 

 

何かが切れる音がした。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

何故だろう。すごく不気味なくらい落ち着いている。

夢を見ているみたいだ。心地が良くてなんでもできそうな予感がする。

ふと右を見る。女性プレイヤーが仰向けに倒れていた。HPも残りわずかで今まさにトドメを刺そうと斧を振り上げていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-アスナside-

 

何が起きたのか分からなかった。いきなり私とキリト君の前からハチ君が消えた。

すると視界の端で消えていくボスの取り巻き。それを見るとまた倒されていく取り巻きたち。眼の前で繰り広げられる戦闘に私の目は追いつかなかった。

目を凝らしてみると魚眼レンズのように視界が一点に集中する。どんな速い動きでも捉えられるこのスキルを使用してでも影しか追えない。

 

「速すぎる…」

 

次々に倒されていくモンスター。ついにはボス1体だけになっていた。そしていきなり現れるハチ君。

私はそれに驚きを隠せない。周りもそれは同じなようで呆然とハチ君の背中を見ていた。私もAGIに相当振っているけど私には追いつけないスピード。すごい。素直にそう思い、そして改めて感じる。この人のようになりたいと。

 

「お前たちは俺が守る」

 

彼が小さく呟いた言葉は私の耳に確かに届いた。キリト君もその言葉を返すようにハチ君の横に並んで

 

「なら俺も、お前が危なくならないように守らないとな」

 

2人は笑い合いながら互いの絆を確かめ合った。それは私の求めた本物の関係。ハチ君もまたそういう不確かな関係を求めているのは薄々分かっていた。そして気付いたら私も彼の隣にいて、

 

「私も、君を守りたい。君を追いかけたい」

 

そう言っていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

-八幡side-

 

俺はひたすら取り巻きたちを倒していった。自分でも何が起きたのか分からない。ただ体が誰かに操られている感覚。だがそれに違和感はなく、身を委ねると流れる水のように滑らかに動いた。

気付くとボスだけになっていて、ボスは子分を倒された怒りによって甲高い声を張り上げている。

 

「グルルル……」

 

その場でジャンプしながら此方に近づいてくる。ドンと地面が揺れる程の着地。地震で足元が覚束ない。それを見たコボルトロードは大きく息を吸うと思いっきり吐いた。風の範囲攻撃で吹き飛ばされた俺たちは全員が壁に飛ばされた。

ぶつかった衝撃でダメージを受けるも皆んな何とか耐えた様子だ。

 

「やられっぱなしじゃいけねーな」

 

俺は壁を利用して蹴る。まっすぐボスに飛んでいくと武器を構え一瞬溜めた。

 

「居合い、影峰!」

 

閃光にも似た早業で一太刀振るう。鋭い切れ味でコボルトロードにダメージを与えるがゲージが3本あるため大ダメージを与えてもピンピンしている。

ボスは俺の方に振り向くと斧の平らな部分でぶっ叩いてきた。

 

「ガッ!」

 

地面に叩きつけられ、物理ダメージと落下ダメージを同時に受け、俺のHPは一気にレッドゾーンに突入した。追撃来るかと構えていたがキリトがタゲを取っていたお陰で免れ、ポーションでHPを全開させた。

アスナさんが此方に近寄り手を差し伸べてきたので一瞬それに戸惑ったがその手を取り起き上がる。

 

「もう、無茶したらダメだよ」

 

俺はスマンとだけ言うとボスを見た。ディアベルやパイナップル頭、そしてキリト達の頑張りでボスのHPはレッドゾーンに突入した。

 

「残りは俺がやる!」

 

そう言って前に出たディアベル。待て、普通に考えて全員でいくべきだろ。

 

「そうかこいつは……」

 

そう思った矢先コボルトロードの異変に気付いた。敏捷スキルを最大限に使いディアベルの前に出てそれを制止させる。

 

「止めるなよ!」

 

「馬鹿野郎よく見やがれ」

 

コボルトロードは苦しそうな呻き声をあげると持っていた巨大な斧を二つに分け片手斧に変形した。

それを見ていなかったのかパイナップル頭が俺たちより前に出る。

俺はボスに集中していたため一瞬だけ反応が遅れる。

 

「うわぁぁぁああ!!」

 

パイナップル頭が真っ二つに切られ無数に分裂し散らばっていった。

それに呆気にとられた俺はまたも動きを止め、ボスの攻撃に気付くのが遅くなり斧が振り下ろされる。

 

--死ぬ

 

反射的に目を瞑った。誰かが俺を抱え上げる感触がして目を開けると、そこにはキリトがいた。十分な距離を取ると俺を降ろしてこう言った。

 

「今は考えてる暇はないぞ」

 

「俺が時間を稼ぐ、最後はお前に任せる」

 

「……わかった」

 

キリトは満足そうに頷くとボスに突撃していった。器用に攻撃を交わしながら戦うのに安心して俺は武器を構え直す。

 

「ハチ、スイッチだ!」

 

「抜刀、幻夢」

 

まるで刀が六本あるような錯覚を起こしぐにゃりと曲がるようにしてボスに6連撃を叩き込むと、ボスはポリゴンとなり散らばって消えた。

 

「終わった」

 

周りから歓声が上がる。だが一層にしては死人が多すぎた。喜ぶべきではない。俺やキリト、アスナさんにディアベルは苦い顔をしていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おい、何でお前はディアベルさんは守ったのにキバオウさんは助けなかったんだよ」

 

来たか。まぁ何となくは予想していた。

 

「まぁまぁ仕方がないよ、落ち着こう、な?」

 

ディアベル、お前は反応しなくていいんだ。悪いのは全部俺だから。

だから俺一人が傷付けばいい。

 

「ディアベルさんには話してないっす、そこの紺色のマントに話してるんすよ」

 

確かに俺の装備は紺色のマントを羽織っているがせめて名前で呼んでほしい。

だけど結局どこにいっても同じか、現実世界でも、仮想世界でも。

 

なら俺はこの方法を取る。

 

「クク、アハハハハ」

 

突然笑い出すと周りは俺の事を変なものを見る目で見てくる。何度やってもこの視線にはなれないな。くそ。

 

「キバオウ? あぁ、あのパイナップル頭の事か、あいつが死んだのは自業自得だろ? 様子見もせずかっこつけようとして一人で突っ込んで行ったのがあのざまってわけだ」

 

ふざけんな、謝れ、人殺しなどの声がちらほら聞こえ始める。よし、思惑通りだ。俺という共通の敵を作って周りを一体化させる。それで万事解決だ。

 

「くだらねぇな、俺は先に行く。じゃあな」

 

俺が歩き出す方向にはキリトとアスナさんがいた。1歩2歩と歩みを進めて二人の横を通り過ぎた。

2人は振り返るが俺は振り返らない。振り返ってはいけない。階段を登ると後ろから声をかけられる

 

「ねぇ、一つだけいい?」

 

「なんだ」

 

アスナさんのこれを聞いたら俺はこいつたちとは関わらない。

 

「君は強い。だから私はその強さを知るために君を追いかける。そして教えてもらう、強さの秘密を」

 

「……君は、強くなれる。だからもし心から信頼できる仲間が見つかってギルドに誘われたりしたら断らず入るといい。俺なんかよりもっと強いプレイヤーがいるから」

 

 

そう言うと俺は2層の扉を開けて歩き始めた。

 

 

 

 


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