リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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リアル? という題名にしたにも関わらず、ここから少しファンタジーな要素が物語に入ってきます。
叩かれそうで怖いけど、脳内にある○○○が○○○○に進化するのに必要な要素なんです!

皆様が楽しんでいただければ幸いであります。

ちなみに前回よりは若干短いです……




敗北。新たな相棒の産声……

~???~

 

 

私がその話を聞いたのは、ちょうど酒場でギルドの仲間と、最近、様々なエリアに出現し、人々の恐怖を煽り立てている、空の王者、リオレウスの話をしている時だった。

 

 

「先日、ユクモ村にランポスの大群が向かっているらしいったらしいぞ」

 

 

他の席から商人達の会話が聞こえてくる。

その村はまごう事なき私の故郷だ。

何もないところだが、自然が豊かで、大切な家族がいる。

私はさりげなくその商人達の話に耳を傾ける。

 

 

「そうらしいな。その話で今持ちきりだしな」

 

「大群っていうが数はどのぐらいなんだ?」

 

「俺の知り合いにちょうどその村を通りがかったやつから聞いたんだが、百近かったらしいぞ」

 

 

百匹のランポスが私の村へ!?

 

 

私は思わずその商人達につかみかかりそうになってしまった。

だが、どうにかしてそれを抑える。

ギルドのみんなが何か言っているがほとんどそれも耳に入ってこない。

 

 

「それが確かならユクモ村は悲惨なことになってるだろう? あそこ片田舎だから大してハンターいないはずだ」

 

「いやそれが誰一人として死者が出ていないらしい」

 

「一人としてか? どうして? 仲間割れでもしたのか?」

 

「いや、ここからはさすがに俺も信じられないんだが……一人の男が素手で全てのランポスを倒したらしい。しかもその内の一匹はドスランポスすら含まれているって……」

 

 

それを聞いて、その商人から笑いがこぼれる。

それはそうだろう。

一流ハンターですら、ランポスとはいえ百匹を相手に一人でそれも素手で戦えるわけがない。

ランポスは確かに最弱と言ってもいい部類だが、それはあくまで単体であった場合だ。

どんな一流ハンターでも二十匹を超えてくると、一人では対処出来なくなってくる。

単体では雑魚だが、狡猾で賢い奴らは集団で狩りをする。

さすがに数が出てくると一人では対処仕切れない。

 

 

しかし私はその話を笑うことが出来なかった。

少し前、ユクモ村から私宛に手紙が届いたのだ。

年下の、妹のような存在の幼なじみから。

その手紙に、その子が変わった衣服の男が、下宿して一緒に暮らしていること。

ランポスに殺されそうになっていた命を救ってくれた命の恩人であると。

そいつは素手でランポス三匹を圧倒したと書かれていた……。

 

 

その子は嘘をつくような子ではない。

そうなると、その男がランポスを素手で倒すことは事実なのだろう。

しかし百匹相手に立ち回れるわけがない。

 

 

「おい! ユクモ村から大量のランポスを売りに来たやつがいるぞ!」

 

 

一人の男が駆け込んでくると、そんなことをわめいている。

その言葉に導かれるように、酒場で飲んでいたハンター達が我先にと市場へと向かっていった。

私もそれに着いていくと、市場で大量のランポスの素材が売られていた。

しかもそれらは本当に一切斬り傷がなく、良質なランポスの素材だった。

 

 

「おい、この素材、一切傷が付いてないぞ?」

 

「本当にこれほどのランポスを素手で倒したのか?」

 

 

噂話はほとんどのハンター達が知っているのだろう、市場に来ているハンター達は口々に噂の真偽を口論していた。

その外傷のなさが、ユクモ村のハンター達が誰も参戦していないことを物語っていた。

私が知る限り、あの村にはハンマーや狩猟笛を使う奴らはいなかったはず。

 

 

本当に素手で倒したというのか?

 

 

その日、ドンドルマではその噂で話しが持ちきりだった。

 

 

 

 

ゆらゆらと、まるでゆりかごに揺られているかのような感覚。

自分の体も、意志も、覚悟も、何もないこの空間に溶けていってしまうような不思議な感覚。

 

 

ほぉ……こやつか? 迷い込んできた別世界の人間は?

 

 

そんな感覚に意識をゆだねていると、俺の中に流れ込んでくるように誰かの意識を感じた。

 

 

我を祖に持つ竜族たち。その末席とはいえあれほどの数の竜を一人で、それも肉体のみで勝つとは……たいしたものだ

 

 

その何かからは暖かい何かを感じた。

しかしそれ以上に感じるのは、意志も覚悟も関係なく……自分の根底、魂が敗北を認めてしまうほどの……

 

計り知れないほどの力

 

 

おぬしが我の元にくるのを、楽しみにしているぞ……

 

 

 

その言葉を最後にそれは忽然と去っていき、俺は再び眠りについた。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

あれから三日。

たった一人でランポスの大群を……村の危機を救ってくれた人、ジンヤさんは、その戦いが終わると同時に意識を失って倒れ込んだ。

今回の件は、村長、お父さん、村のハンターのみんな、そして複数のおじさん達がその出来事を終始見ていた。

ジンヤさんは本当に武器を使わずにランポスを蹴散らして見せた。

私が、森と丘での出来事に罪の意識を感じさせないために……。

 

 

胸が張り裂けそうな思いだった。

私のために倒れるまで体を酷使して……。

私の村のお医者様は村長だ。

村長は倒れたジンヤさんを見ると今まで見たこともないほど眉間に皺を寄せた。

 

 

生命力がほとんど残っていない……絶命一歩手前だ……

 

 

それを聞いたとき、私は目の前が真っ白になってしまった。

まだ村長の話が終わっていなかったのに、その場で泣き崩れてしまった。

 

 

レーファ安心なさい。私の家にある竜神族の秘宝、いにしえの秘薬を飲ませればなんとかなる

 

 

村長はそういって私に微笑んでくれた。

いにしえの秘薬というのは死者をも蘇らせるという秘薬で、それひとつまみでお城が買えるほどの貴重な薬らしい。

何でも失われた技法、錬金というのをしないと作れないらしく、もう製造することは不可能だって、村長が言っていた。

 

 

その薬を使うと聞いて、一部の村のみんなが反対していたけど、村長はそれらを説得してジンヤさんに薬を飲ませてくれた。

それを水に溶かして薬を流し込むと、ジンヤさんはほとんどしていなかった呼吸を再開した。

力の使いすぎで外傷に致命傷はないからもう心配ないと、村長は言ってくれた。

私はジンヤさんがとりあえず助かると、村のみんなに猛抗議した。

森と丘での一件をみんなに涙を流しながら説明した。

 

お母さんと、前に話した、ジンヤさんが優しい人だって、私がみんなに伝えること……。

ジンヤさんは私を傷つけるどころかその身を挺して庇ってくれた……。

命をかけて村を救ってくれた。

私の話を聞くと、誰もがジンヤさんの認識を改めてくれた。

 

 

連日ジンヤさんにお見舞いに来ていたけど、いっこうに目を覚まさない。

私はお仕事以外はジンヤさんの部屋でずっと付き添っていた。

 

 

「う、うぅん」

 

 

今日もまた目覚めないかもしれない、そう思っていると、ジンヤさんが目を覚ました。

うっすらと目を開けてくれる。

 

 

「ジ、ジンヤさん?」

 

 

夢を見たのかと思った。

でもジンヤさんは確かにゆっくりと起き上がると、私の頭を優しく撫でてくれて……。

ジンヤさんの手の温かさが、これは現実の物であると教えてくれて……。

 

 

「ジンヤさん!」

 

 

本当にジンヤさんが目を覚ましたと判断すると、私は堪らずにジンヤさんへと抱きついてしまった。

嬉しくて涙が出てしまう。

もうこのまま永遠に寝てしまうんじゃないかと、不安でしょうがなかったから……。

 

 

「も、もう、起きないんじゃないかって……このままジンヤさんが死んじゃうんじゃないかって……本当に、怖かった……怖かったよ~」

 

 

伝わるはずがないけれど、私は自分の素直な気持ちをぶつけていた。

あの日のジンヤさんの叫びに少しでも応えられるように。

心の底から、それだけを祈りながら……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「う、うぅん」

 

 

意識がゆっくりと浮上していく。

が、指一本動かすのも億劫だ。

 

 

というか、なんかに握られていて右指動かせないんだが……

 

 

このまままた眠りにつきたい気分だ。

しかしそうはレーファが(問屋)降ろさなかった。

 

 

「ジ、ジンヤさん?」

 

 

すぐそばで声が聞こえる。

罪の意識を負わせまいと、必死になって俺の覚悟を証明して見せた、少女の声。

俺はゆっくりと目を開ける。

 

 

そこには、俺の右手を握りしめて、ベッドのそばでイスに腰掛けてこちらを心配そうにのぞき込んでいたレーファがいた。

なんか知らないが涙ぐんできている……。

 

 

泣くなよ……レーファ……

 

 

だるい体をどうにか動かしながら、俺は身を起こすと、涙を流しているレーファの頭を撫でた。

 

 

「ジンヤさん!」

 

 

感極まったのか、レーファはそのまま俺に抱きついてきた。

 

 

『も、もう、起きないんじゃないかって……このままジンヤさんが死んじゃうんじゃないかって……本当に、怖かった……怖かったよ~』

 

 

何を言っているのかさっぱりわからない。

だがレーファが本当に俺のことを心配してくれていたというのはよくわかった。

子供のように……いや子供か……胸で泣くレーファの頭を、俺は優しくなで続けた。

こんなに心配してくれる人が……いることの嬉しさを、胸で密かに喜びながら……。

 

 

 

 

ひとしきり、レーファは俺の胸元で泣いた。

が、すぐに冷静になると、飛び跳ねるように、俺から離れると、真っ赤になりながら下へと降りていった。

 

 

恥ずかしいなら抱きつくなよ……

 

 

そんな乙女心に苦笑しつつ、俺は体の具合を確かめる。

痕は残っているものの、右肩の傷は完全に回復したようだ。

 

 

気力が枯渇する寸前まで消耗したはずだから傷の治りも遅いはずなのだが……

 

 

不思議なのはそれだけではなく、なんか妙に体が軽い。

体の感覚からいって数日は眠りについていたようだが、それにしてもここまで回復するのはおかしい。

誰かが俺に対して何か治療を行ってくれたのかもしれない。

自分の体の具合を確かめていると、レーファが呼んできたのか、村長やらリオスさんやらレーファさん、村の代表者っぽひと達が部屋へと入ってきた。

 

 

村長さんが、まず俺の体の診察をしてくれた。

どうやら村長さんは医療に精通しているようだ。

それが終わると村長さんはいったんみんなの元へと戻ると何事みんなと話してだした。

むろん俺には何を言っているのかさっぱり理解できないが、やがて話がまとまったのか、皆が一斉に跪くと、俺に土下座をした。

 

 

「………………………は?」

 

 

全く持ってさっぱり一ミリたりとも意味がわからない。

俺は突然のことに呆然とすることが出来ない。

そんな光景をドアのそばに立っていたレーファが満足そうに見つめている。

 

 

いや一人納得してないで状況を説明してはくれないか?

 

 

訴えかけるような目線を向けると、レーファはそれに気づいて、誇らしげにうっすい胸を張った。

誰がえばれと言いましたか……。

 

 

 

 

しばらくして村長が頭を上げると、事情を説明してくれた。

といっても、おなじみ、小さな黒板と白墨を使った絵を交えての説明だが。

 

 

俺がぶっ倒れている間、どうやらレーファがだいぶ奮闘したという。

森と丘での事情を説明してくれたり、つきっきりで看病してくれたらしい。

んでこの前のランポス討伐でだいぶ村人達が俺のことを受け入れてくれたそうだ。

後ろの村人代表者っぽい人が何度も頭を下げてくれた。

 

 

あまり気にしていないのにな……

 

 

最後にリオスさんが、ここに住んでくれと言ってくれた。

これはレーファも聞いていなかったらしく、最初は驚き、そしてすぐに笑顔になると、リオスさんに飛びついていた。

さらに何でか知らないが、金まで渡してくれた。

何でもこの前のランポスの素材をドンドルマの首都で売りさばいて相当な金額が手に入ったらしい。

全体の半分ほどらしいが、そもそもそんなことを考えていなかったので、俺としてはどうでもよかった。

 

 

俺は黒板を借りて俺の荷物の所在を聞くと、なんと、レーファが預かっているという。

塀の直ぐ傍に隠れるよう置かれていたのを見つけて俺の意図に気づいたようだ。

渡すように言ってみたが、思いっきり全力で首を振られた。

それでも言ってみたら……。

 

 

「ジンヤさんのバカ!」

 

 

と本気で怒られた。

まぁレーファならば変な扱いはしないだろう。

そう信じておくことにした。

 

 

村長達が帰った後も、レーファは俺の部屋に居座り続けた。

俺の看病を続けるのだそうだ。

特に問題がないと、どうにか伝えるのだが聞いちゃくれない。

ついでに言うと逃げないための見張り役だそうだ、本人曰く。

仕方がないので子供の我が侭に付き合うことにした。

わざわざ病人食っぽい者を持ってきてくれたりした。

しかし、床に布団敷いて俺の部屋で寝ると言ったのはさすがにどうかと思った。

 

 

まぁ、弓もそうだったしな

 

 

家にいる妹の弓の事を思い出していた。

あいつもどうしてかは知らないが、俺とよく一緒に寝ると言っていた。

溜息をつきながら布団を敷くレーファの姿を何となく見つめている。

すると布団が敷き終わると、レーファはこちらを見て、こういってきた。

 

 

「おやすみ! ジンヤさん!」

 

「おう、おやすみ……」

 

 

 

 

~レグル~

 

 

あの男が、リオスさんの家に暮らすようになってから数日。

最初こそあいつのことを怖がっていた村のみんなだが、あの男が何か珍しい物を作ると、それに群がって子供達がすぐになついた。

見たこともない珍しい遊具だった。

それを境に、村人のみんながあいつのことを好きになっていった。

 

 

村の力自慢をあの細い体で完膚無きまでに叩きつぶし、誰よりも仕事が器用。

しかも服まで自分で作り出して、それを見た女性陣達が織物仕事まで頼むようになっていた。

 

 

……あの男

 

 

俺は、村長からの依頼、様々な鉱石の採取のために、ラミアとともに森と丘に着ていた。

片手剣以外に、ピッケルを一本背負い、大型の背嚢をラミアとともに背負い、二人で森と丘でピッケルを振るっていた。

 

 

「なかなか出ませんね、大地の結晶」

 

「そうだな」

 

 

俺の後輩とも言えるラミアが話しかけてくるが、俺は考え事をしていたために言葉少なめだった。

あの男が嫌いだというのもあるが……あの男の力が俺は……。

 

 

バッサッバッサ

 

 

そうして思案しながら仕事をしていると、聞き慣れない音が、俺の耳に入ってきた。

ラミアも何事かと仕事の手を止めて、空を見上げていた。

俺もそれを追うように、空を見上げた。

 

 

クアァァァァァ!

 

 

そこには薄い赤色の鱗を纏ったワイバーン、鳥竜種のイャンクックがこちらへと突っ込んでくるように飛翔している、翼をはためかせる音だった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

その日の夕方。俺はクタクタになってリオスさんの家に帰宅していた。

俺が普通の人よりもあらゆる面で仕事が出来るので、いろんな所に引っ張りだこだった。

今日一日だけで、村の仕事場の半分は手伝わされただろうか……。

薪割り、織物、畑仕事、土木工事……。

 

 

何でも屋になった気分だ。

が、それだけ働いても普段からの鍛え方が違う俺は全く苦にならない。

 

 

「うぅ……ジンヤさんのバカ」

 

 

まだ俺の見張りを続けていたレーファは、ムキになって俺と同じように仕事をこなそうとして力尽きていた。

なんで俺に悪態をついているのかというと、織物の仕事で俺に負けたのが悔しかったらしい。

俺はそんなレーファに苦笑しつつ、家に入ろうとした。

 

 

『レグルが、レグルがイャンクックに襲われて重傷だ!』

 

 

そうして歩いていると、どっかからなんか悲鳴じみた声が上がる。

が、俺には何を言っているのかさっぱりわかりはしない。

が、その後担架でランポスの防具が無惨にも破壊されたレグルが、台車に運ばれていき、村長の家へと運ばれていった。

レーファはそれを見た瞬間に顔を青くして何故か俺の腕を掴むと、その後に付いていった。

無論手を引かれる形になっているため、俺もセットだ。

 

 

……俺がいたらむしろこいつ容態が悪化するんじゃないか?

 

 

そうは思ったが、レーファの心配そうな顔を見ていると行かないとは言えなくなり、俺は仕方なくついて行くことしかできなかった。

 

 

村長の治療がなんとか間に合い、レグルはどうにか一命を取り留めていた。

何でもイャンクックに襲われて崖から落ちたらしい。

以前レーファが教えてくれたモンスターの中にその名前があった。

大きな耳が特徴的な鳥竜種。

大きさは中型モンスターに分類されるらしい。

 

 

 

イャンクックの登場で、村は騒然となった。

何でも村に竜種を倒せるほどのハンターはまだおらず、討伐に行ったことはなかったが一番可能性のあったレグルがたった今怪我を負って当分ハンター家業は不可能らしい。

そら足骨折していればそれは無理だろう。

ギルドに応援を要請しようと思ったが、依頼を頼むとなると、金がかかる。

この村に今それだけの余裕はなかった。

 

 

村長宅の居間で代表者達が話し合っている中、どうしてか知らないがレーファとともにその話を聞いていた。

が、俺はもちろん何を言っているのかわからないので、レーファに随分と時間を掛けて教えてもらったのだが……。

 

 

竜種ねぇ……まさにファンタジーな世界だ

 

 

まだ竜種を生で見たことがない俺としてはどれほど強いか判断がつかないが……、竜種一匹で村が騒然となるんだから、少なくとも一般人は対処できるレベルではないのだろう。

俺は普通に対岸の火事でぼ~とその会議を眺めていた。

 

 

「村長さん」

 

 

そうしていると、レーファが皆に聞こえるように、声を上げた。

当然全員がレーファの方を向くわけだが……何事か語ると、誰もが納得したような表情をした後、俺の方を向いてきた。

 

 

……………何をいいやがったこいつ

 

 

得意満面の笑みでこちらを見てくるレーファ。

その頭を俺は問答無用で叩いてやった。

 

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

お兄ちゃんがとりあえず助かってほっとしたのも束の間。

今度はイャンクックの事で村長さんの居間は喧噪に包まれてしまった。

以前にも竜種が出たことはあったけど、お姉ちゃんが倒してくれていたけど、お姉ちゃんはギルドに勧誘されて、今はドンドルマで生活している。

ギルドに所属してしまった以上、お姉ちゃんに依頼を頼む場合ギルドを経由しなければならない。

そうなるとお金もかかってくる。

手紙でこっそり頼むことも出来るけど、そうなると日数がかかってしまう。

その間森と丘で仕事が出来ないことになってしまう。

誰もがどうにかならないかと知恵を巡らそうとするけど、何も出てこない。

私も村の一員として、何かないか考えていると、話がわからないからだろうけど、隣でぼ~としているジンヤさんの存在を思い出した。

 

 

「村長さん」

 

 

私は、その場にいるみんなに聞こえるように、声を出す。

するとみんなが一旦話をやめて私の方を向いてくる。

 

 

「村長さん、心配ありません! ジンヤさんが私たちにはいます!」

 

 

私はまるで自分のことのように、胸を張りながらこういった。

村のみんなの危機を救えば、ジンヤさんがさらに村のみんなに好かれる。

私は竜種をみたことないけど、ジンヤさんならきっと大丈夫だと、楽観視していた。

 

 

「あぁ、確かに」

 

「彼ならばもしかしたら」

 

「しかし、ハンター以外が狩猟をするのは密猟でギルドから何かいわれはしないか?」

 

「しかしこのままでは仕事が」

 

「彼に縋るしか」

 

 

みんなも私がそう言うと、一斉にジンヤさんの方へと目を向けた。

話がわからなくても事情は先ほどほとんど話していたので、どんな意味の目線かわかっているのだろう。

ジンヤがこちらを向いてきたので、私は偉いでしょ? と言うように胸を張った。

そうしたら私は問答無用で頭を叩かれた。

 

 

むー。なんで?

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

皆に縋るような目で見られて断れるほど、俺は冷酷ではなく、また度胸もなかった。

 

 

村長から頭を下げられたらな……

 

 

とりあえず、多少だが金をくれるらしい。

普段ならばクエストをすれば敵の素材を剥ぎ取りで手に入るらしいがこれに関してはかなりやめてくれと言われた。

なんでも密猟扱いになるらしく、下手をすればギルドに連行されるらしい。

まぁ欲しくもないので、どうでもいい。

だがギルドを介してそれを売ることは可能らしい。

 

 

そういやランポス達も市場で売った、って言ってたっけ? まぁほっとんどどうでもいいわ

 

 

俺は嫌ではあったがそれを顔には出さず、静かに頷いた。

すると誰もが安心した表情をした。

竜種だというのにそんなに弱いのだろうか?

 

 

部屋に集まっていた皆が再度頭を下げてくる。

よほど死活問題なのだろう。

 

 

受けた以上、本気でやるか

 

 

最初こそ迷惑に思っていた俺だが今では楽しみで仕方がなかった。

物語で出てくる竜と言う生物は間違いなく最強の部類だ。

それと戦えるなどそうそうありはしない。

 

 

そういう意味では感謝するか

 

 

共に帰路に着いている、レーファ。

疲れたのかとても眠そうな表情をしている。

俺はそんなレーファの頭を、軽く撫でてやるのだった。

 

 

翌朝、早朝。

俺は久しぶりに現世での自分の普段着に袖を通す。

この世界に迷い込んだ時とは違い、刀を全て装備し、スローイングナイフも革ジャンの中へと忍ばせる。

右腰に夕月、左腰に夜月、花月、後ろ腰に水月。

後は村長さんが昨夜渡してくれたポーチを装備する。

 

 

中には敵の位置把握用のペイントボール。

携帯食料。

回復薬。

地図。

などが入っていた。

 

 

久しぶりの本気の実戦だ。楽しみで仕方がないな……

 

 

準備が終わり、出発までのわずかな時間を使って、俺は夜月を鞘から抜き、具合を確認した。

手入れは怠っていないので夜月のコンディションもほとんど問題ないようだ。

 

 

では参ろうか……

 

 

俺はリオスさんの家から出ると、村長宅へと向かう。

向かうと、早朝にも関わらず村長は外に置いてあるイスに腰掛けて俺のことを待っていてくれた。

 

 

「おはよう、村長」

 

「おはよう、ジンヤ君」

 

 

敬語が使えないことはもう半ば諦めた。

というか当分は無理だろう。

行くことを告げようとしたら、村長が俺の後ろへと視線を転じた。

そちら方に気配を感じた。

 

 

ずいぶんと弱々しいというか……覇気がないが…

 

 

訝しげに思いつつ、俺はそちらへと向き直ると、これまたずいぶんと童顔な男がこちらに向かってきていた。

背も低い。レーファ並みだ。

左手にまるで氷のような結晶で出来た小型の盾を装備している。

腰にはそれと同じ結晶で出来ていると思われる大型の剣を装備している。

装備はバトルシリーズと呼ばれる、ハンターの入門装備と言われているのを身に纏っている。

 

 

そいつは俺が自分を見ていることに気づくと、最初は硬直し、次には慌てて俺にお辞儀をしてきた。

そしてずいぶんと危なっかしい足取りでこちらへと来て、再度俺の前でお辞儀をすると、次に村長に頭を下げた。

 

 

俺がイャンクックを討伐しに行く日の早朝に、わざわざ装備を纏って村長に挨拶しにくるわけがない。

 

 

そうなると……

 

 

実に嫌な予感が頭をよぎる。

すると案の定、村長はあらかじめ用意していたのか、イャンクックと思しき絵の描かれた黒板を背中に隠していた。

そこには人が二人描かれており、村長は俺と目の前にいるそいつを交互に指さした。

 

 

やっぱりな……

 

 

予想できていたことだが、俺は落胆せざるを得ない。

村長がそいつのことを紹介してくれた。

名前をリーメと言うらしく、できたてほやほやの新米らしい。

度胸がないらしく、今回少しでも勇気がつくようにと、俺の狩りに同行することを志願したらしい。

俺が無事に討伐するか誰かが確認しなければいけないらしく、誰かしら同行人がいるらしい。

 

 

面倒だが……俺に対してあまり敵意は抱いていないようだな……

 

 

同行人がいると知って、俺はこの村のハンターをとりあえず頭に思い浮かべてみた。

こいつは記憶になかったが、そのほとんどがレグルの部下だ。

俺のことは目の敵にされている。

この村にいて俺を嫌っていないのは珍しい。

 

 

どうせついてくるなら新米といえども、俺のことを嫌ってないやつの方がいいか……

 

 

俺はやれやれといった感じにわざとらしく溜め息を吐いた。

それを見てリーメは焦り、村長は俺の内心に気づいているらしく、苦笑していた。

俺はそいつの前に歩み寄ると、手を差し出し、片言ではあるが、こういった。

 

 

「俺の言うこと、絶対。お前は戦わない。見てる。いいか?」

 

 

新米とはいえハンター相手に戦わないで見ていろと言ったのだが、そいつは意味が通じているいのかいないのかわからないが、とても喜びながら俺の差し出した手を両手でしっかりと握った。

こうして不承不承だが、俺は新米ハンター込みで、初めての鳥竜種、イャンクックの討伐へ向かったのだった。

 

 

約三時間後。

森と丘へと到着した。

最初は村長が竜車、草食竜アプトノスの馬車、を出すと言ってくれたのだが、俺は断った。

敵は耳がいい。

しかも空を飛ぶと言うことはどこからこちらの姿を確認されるかわからないので、俺はなるべく体を隠すことが出来る森の中を突っ切って森と丘へと足を運んでいた。

さすがにもう道は覚えているので、俺だけならば一時間と経たずにここまでこれたのだが、リーメがいるのでそれも出来ず、普通に歩いてここまで来ていた。

結果、一時間ほど遅れて到着したが、まぁその分早く出たので問題ないだろう。

俺はいったん、森と丘にモンスターが入れないような洞窟の中に築かれているテントへと足を運ぶと、中へ入り地図を広げた。

俺はとりあえずざっと敵がいそうな場所を確認する。

 

 

森の中は木々が邪魔でうまく走れないだろう。となると、敵がいる可能性のある場所は、地図だけで見れば七カ所か……

 

 

範囲が広い上に見晴らしがいい場所ばかりだ。

敵は耳がいいということなのでそうなると不意打ちはほぼ不可能に近い。

しかも言っちゃ悪いがお荷物付きだ。

 

 

まだ実物を見ていないので何とも言えないのだが……、それでもこいつを生かして返さなければいけない以上、あまり時間をかけるわけにはいかない

 

 

ずいぶんと面倒だが、俺自身、竜と戦いたい気持ちもあるので他のことに関しては目をつぶってどうにかするしかない。

 

 

「リーメ、行くぞ」

 

 

俺はベッドに腰掛けて休んでいるリーメを呼ぶとテントから出て、まず身を隠すことが容易な、森の中から責めるべく、とりあえずエリア8へと足を向ける。

今回、リーメがいる以上、隠密行動は不可能だ。

ここにくるまで、リーメの事はそれなりに観察したが、とても隠密行動が出来る程器用じゃない。

そこで俺はこいつがぼろやって、怪我を、最悪死ぬことになる前に、とっととイャンクックを倒してしまう事にした。

森に入って直ぐに感覚を集中し、気配を、敵の立てる音を探るが、空振りだった。

 

 

森にはいなさそうだな……いや、ある意味で好都合か……

 

 

仮に森で闘うことになると、俺らだけでなく他のモンスターも身を隠しやすい。

リーメがどれほどの腕かは謎だが、纏う気からいって悪いが強いとは思えない。

下手をするとランポスに襲われて死にかねん。

前回の襲撃でほとんどいないだろうが、可能性は零じゃない。

用心に超したことはないだろう。

レーファの話しではイャンクックは好戦的な性格だと言うし、見晴らしのいい場所で歩き回っていたら案外向こうが見つけてくれるかもしれない。

 

 

よし、それで行こう……

 

 

俺は今後の行動を決めると、見晴らしのいいエリア四へ向かう。

アプトノスが呑気に草を親子で食べていた。

それ以外には特にモンスターらしき陰も見あたらない。

 

 

のどかだ……

 

 

思わずのんびりした気分になる。

このまま寝っ転がって昼寝をしたいくらいだ。

だが、さすがに一カ所にいてもあまり意味はない。

見晴らしのいい場所で動き回った方が敵もこちらを発見しやすいだろう。

そう思い、リーメに手振りで合図をし、別の場所へ向かおうとしたその時だった。

 

 

バッサバッサ

 

 

そんな風切り音が、俺の耳に届いたのは……。

 

 

 

 

~レートゥ~

 

 

ランポスが村を襲いに来たあの日。

僕も村の防衛にかり出されていた。

でも僕はまだハンターに成り立てで、まだランポスを一匹どうにか倒せるくらいの腕前しか持っていなかった。

村の危機だからかり出されたけど、僕は村人と一緒に避難したい気持ちでいっぱいだった。

 

 

死にたくない……死にたくない……

 

 

僕は他のみんながハンターになると言って、僕もそれに引っ張られる形でなし崩し的にハンターへとなっていた。

僕は戦うことが好きじゃないからハンターといってももっぱら薬草採取とか、鉱石採掘といった、村の人たちの直接役に立つようなクエストばかりこなしていた。

レグルさんは僕のことを気にかけてくれて、ランポスとかそういった小型モンスターだけは討伐出来るように、訓練に付き合ってくれたけど……。

ランポスを倒すので精一杯な僕は、ハンターを廃業して、農民に戻ろうと思っている頃だった。

 

ジンヤさんが僕の前に現れたのは。

 

 

ランポスを一人で、それも素手で、しかも百匹を相手に傷一つ負わずに立ち回っているのを見て、僕は息をするのすら忘れて魅入っていた。

すごかった。

ただただその言葉しか出てこない位に、それは圧倒される光景だった。

拳で、足で……入り乱れるランポスを相手にジンヤさんは一人でその全てを討伐し、さらにはそれらを統率していたドスランポスまで一人で倒してしまった。

それを見て思ったんだ。

 

 

あの人に……なりたい。なれなくてもいい。少しでも近づきたい……

 

 

そう思った僕は今回のジンヤさんのイャンクック討伐に村長にお願いして無理矢理連れてきてもらった。

足手まといなことは百も承知だった。

ランポスを倒すのにすら苦戦する僕が、いきなり鳥竜種のクエストに行くなんて……。

村長は最初は反対したけど、僕の意志が固いと知って渋々と承諾してくれた。

ジンヤさんが納得したらと言う条件付きで。

でも村長さんは半ば連れて行かないといけないような嘘の決まり事をいくつか混ぜてジンヤさんに説明してくれた。

だから今こうして僕はここに……、森と丘のエリア四にいる訳なんだけど……。

 

 

す、すごい……

 

 

「クアァァァァァ!」

 

『甘いわ鳥もどき!』

 

 

今こうして目の前でイャンクックと闘っているけど、ジンヤさんは圧倒的だった。

空から飛来したイャンクックに、そちらに目を向けないまま反応して、飛翔からの滑空攻撃を回避していた。

イャンクックがそのまま十数メートル離れて、地面に着地した。

そしてイャンクックがこちらに向き直おろうとしたその時には、既に肉薄していた。

 

 

「クェ?」

 

 

イャンクックもどこか間抜けな声を上げていた。

きっとこのイャンクックにもそんな経験はなかったんだと思う。

確かについさっきまで後ろにいたはずの人間が、数秒で肉薄してくるなんて。

 

 

『先手必勝!』

 

 

ジンヤさんは何事かほえると、剣も抜かずに、驚くべき事に走ったまま右拳を振りかぶると、飛び上がり、その勢いを乗せて、右拳をクック自慢のくちばしへと叩きつけた!

 

 

バキャ!

 

 

「クァァァァッ!?」

 

 

それだけで、クックはくちばしにひびが入り破壊された。

ハンマーで攻撃したわけでもないのに……、その拳はハンマーにも勝る威力を誇っていた。

 

 

「クアァァァァァア!」

 

 

クックは怒りを表すように、雄叫びを上げると、殴った反動で少し距離を取って着地したジンヤさんに突進していく。

 

 

ドドドドドド!

 

 

大地を揺るがしながら、クックが走る。

目の前にいるわけでもないのに、僕はそれが当たったことを想像すると、震え上がってしまった。

けれどジンヤさんは何も感じてないかのように、涼しい顔をしながら、助走もなく、膝をほとんど曲げていないにもかかわらず、クックの身長よりも高くジャンプすると、クックの頭を踏み台にして、まるでクックの体の上を歩くようにして、その突進を回避していた。

 

 

あ、あり得ない……

 

 

その場にいたら誰もがあり得ないと行って呆然とするような方法で、攻撃を躱したジンヤさんに、僕は驚きつつも、目を離すことが出来なかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

奇襲のつもりだったのだろうが、こちらの背後から襲ってきたクックに対して、右拳を使って一撃で敵の自慢と言われているくちばしを破壊してやった。

 

 

「クアァァァァ!?」

 

 

さすがに一発で破壊されるとは思っていなかったのか、とても驚いている感じがしたが、直ぐに怒り狂って突進を仕掛けてくる。

 

 

大分力を込めて殴ったから確実に脳が揺さぶられているはずなのだが、敵はそんなそぶりすら見せず、怒りにまかせて猛烈に突進してくるとは……さすが竜種というべきか……

 

 

くちばしを欧撃したのだから脳が揺さぶられて景色が歪んでも不思議ではないのに、敵は俺に向かってまっすぐ突進してくる。

俺は突進してくるクックを敵に飛び乗ることによって難なく回避する。

それにさっきの攻撃も、破壊ではなく、えぐり取るつもりで拳を振るったのだが、破壊にとどまった。

気を自然と体に纏っているので防御力も相当な物になようだ。

 

 

格闘だけで倒せたら、それはそれでいい修行になると思っていたのだがな……

 

 

一人ならば時間を掛ければ不可能ではないだろう。

が、リーメがいる。

今は怒り狂っているのでリーメの事は眼中にないようだが、もしも気づかれてあちらに向かわれでもしたら面倒だ。

俺は拳のみの討伐は今度することにして、左腰に差している、一番の相棒、打刀夜月を静かに抜き放った。

それと同時に、普段抑えている俺自身の戦闘意欲も周囲に放つ。

ランポスにこられると厄介なので、クックのみではなく、周囲にまんべんなく鈍い殺気を放った。

 

 

「……クァ」

 

 

さすが野生生物。

俺の雰囲気が変わったことを直ぐに察知した。

突進を中止すると、俺の七メートル手前で止まり、何か口内ではき出すような動きをする。

 

 

ん?

 

 

一瞬何かと思ったが、敵の口内にとてつもない熱源を感じて、俺は敵の目線から何処を狙っているのか正確に察知すると、その場から敵が何かをはき出す前に回避した。

 

 

「グァ!」

 

 

小さな叫びとともに吐き出したのは、朱色の粘着質な体液だった。

 

 

ベチャ、ボッ!

 

 

それはさきほどまでいた俺の位置に正確に放たれ、地面に落ちると、激しい炎を放ち、草を完全に灰にすると、下にあった大地まで焼けこげにしていた。

 

 

なんて危ない体液だよ……何度だ?

 

 

火炎ブレスでないのが、ちょっと残念だが、考えようによっては火炎ブレスよりもこっちの方が危ない。

粘着質なため、体に張り付いてしまうかもしれない。

幸い速度がないので、当たることはほぼあり得ないが。

 

 

手加減する理由もなし。一瞬で終わらすとしよう

 

 

俺は先ほどの拳の攻撃で得た感触から、敵がもっとも堅いのは間違いなくくちばしだと言うのがわかっている。

鱗を全身に纏っているので、体も十分堅いが、くちばしほどではない。

先ほどの出力以上に、夜月に気を込める。

込め終わると、俺は足に力を込めて一気に敵へと接近した。

 

 

「クアアァッァァア!」

 

 

敵が再び先ほどの火炎液を俺に向けて放ってくるが、のろすぎる攻撃で俺に当たるはずもない。

俺はそれをさらに加速すると同時に姿勢を低くして対処する。

 

 

「クア!?」

 

 

敵が再び驚きの声を上げるが、その時はもう遅い。

俺は狙っていた、敵の懐……首の真下へと滑り込んでいた。

 

 

「縦閃」

 

 

俺は静かにそう言いながら、全力で夜月を振るう。

閃きにも似たその軌跡は、狙いに違えることなく、通り抜け、そのまま地面へと落ちた。

 

 

 

 

 

~リーメ~

 

 

もう言葉を上げることすら出来なかった。

ジンヤさんは傷を負うどころか、息一つ乱すことなく、クックを討伐してしまった。

それも、今まで誰もなしえたことがない方法で……。

 

 

き、斬った……

 

 

そう、ジンヤさんは最強とうたわれる竜種の首をたった一振りで切り捨ててしまった……。

 

 

竜種は基本的に堅い鱗に覆われており、今まで誰一人……伝説と歌われたハンターですら、一振りで竜種の首を切り捨てる事は出来なかった。

大型モンスターになるにつれて、鱗も強靱になるため、大型モンスターの討伐は大剣かハンマー、大型の武器で殴殺するか、ランスなどをうまく口の中に入れて内蔵にダメージを与えるパターンが多い。

前者は比較的簡単だが、鱗や爪などが壊れてしまうため、モンスターの素材が欲しい場合は不向き。

後者は素材採取に適しているけど、慣れがいる上にそのやり方も熟練者向きでしかも貴重な内蔵が駄目になってしまう。

けれど今のジンヤさんの方法ならば、一撃で倒せるから手間も省けて、さらに何処の部位も傷つけることなく討伐することが可能だ。

 

 

い、一体なんなんだろう、あの剣……

 

 

片手剣よりは長いけど、とても細く薄い。

今まで見たこともないとても綺麗な武器だ。

思わず……魅入られて引き込まれてしまいそうなほどに……。

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

討伐~完了~

 

 

もの凄くあっけない幕引きに、とても悪いが激しく納得の出来ない初めての竜種討伐だった。

確かにランポスなどの恐竜もどきよりも強いが、はっきり言って拍子抜けのポンポコピー(自分でも意味不明)である。

 

 

もう少し骨があると期待したのだが、呆気なさ過ぎる……討伐が終わったはずなのに、この寂寥感は何なのでしょう?

 

 

とてもむなしい気分になりながら、俺は血振りをし、尻ポケットに入れてある布を取り出して、夜月に付いた血液を拭った。

そしてリーメがどこにいるかと視線を巡らせると、こちらに駆け寄ってきているリーメの姿が目に入った。

俺は軽く手を挙げる。

しかしリーメはそれが目に入っていないのか、俺の目の前に来ると、夜月と自分を交互に指さしてくる。

図々しくも欲しいと思っているのかと思い、露骨に嫌な顔をすると、俺の気持ちに気づいたのか、首をぶんぶんと激しく振った。

 

 

見せて欲しいのか?

 

 

俺はちょっと意地悪な気持ちになると、絶対に抜けない鞘に入れたまま、俺はリーメに夜月を差し出した。

差し出された夜月を見て、リーメは最初とても驚いていたが、直ぐに満面の笑みなると、夜月を大事そうに両手で緊張しながら受け取った。

以前にも説明したが、俺の刀は基本俺の気を用いなければ鞘から抜けない。

当然、どんなに力を込めても、他人は鞘から絶対に抜けない。

リーメも最初こそ丁寧に抜こうとしていたようだが、どうやっても抜けないことに気づくと、俺を恨めがましく睨んできた。

その表情があまりにも子供っぽくて、俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

正直、俺はあまりにも井戸の中の蛙だった。

最強と歌われる竜種にあまりにもあっさりと勝ってしまったから内心侮っていた……。

 

この世界の竜の事を……

 

 

「ゴアァァァァァァァ!!」

 

 

この場にある全ての存在を心の底から震え上がらせるほどの……咆吼。

リーメは文字通りそれに飛び上がるほど驚いた。

俺は、すぐさま戦闘態勢になると、敵の殺気を頼りに、敵がいるであろう方向へと体を向けた……、が何処にも敵の姿は見あたらなかった。

 

 

何処に!?

 

 

そのことで内心焦ってしまったのが仇となった。

この時少しでも冷静に判断していれば、それが偽物の殺気だったことに気がついたはずだったのに……。

 

 

「グアァァァッッァアア!」

 

 

背後からの咆吼に俺は瞬時に後ろを振り向く。

十数メートル先に、炎のような外殻を全身に纏った、飛竜がこちらへと滑空での突進攻撃を仕掛けてきていた。

 

 

気を操っただと!?

 

 

俺が初めに感じた殺気。

あれは眼前の飛竜が俺の感覚を狂わせるために発したものだった。

 

 

なんという油断

 

 

先日に引き続き、油断が多い自分に舌打ちする。

敵は自身とリーメ、そして俺を直線で結ぶように飛んできており、リーメを直線上から回避させなければ確実に殺される。

リーメはまだ俺の方を向いているのだ。

俺はリーメに夜月を渡したまま、気をも使用して全力でリーメを右横に突き飛ばした。

恐らくそれを狙っていたのだろう。

飛竜は俺が突き飛ばしたその瞬間に飛翔しながら火炎ブレスを俺に向けて飛ばしてきた。

態勢が崩れているので、俺はそれを受け止めるしかなく、左手で素早く右腰に装備した得物、夕月を抜くと気を纏わせながら眼前に向けて突き出す。

 

 

ボッ!!

 

 

気で防御したため、熱によって体が焼かれることはなかったが、眼前が炎で覆われて、何も見えなくなった。

しかも炎が周りの酸素を燃焼させたため、その燃焼音と炎を受け止めたことによって起こった爆風のせいで耳を頼りにすることも出来なかった。

炎が晴れたその時には、敵は既に目と鼻の先までこちらに向かって飛翔してきていた。

 

 

な!? ブレスを吐いたまま突進してきただと!?

 

 

火球を吐いた後、自身が吐いた炎に巻き込まれないため上空に退避したと思っていた俺は思わず瞠目してしまう。

が、どうにか夕月でガードするが、咄嗟にうまくガードできず、刀にあまりよくない力のかかり方をして……。

 

 

バキン!

 

 

敵の突進に耐えきることが出来ず、夕月は無惨にもいくつかの破片になって折れ砕けた。

 

 

なっ!?

 

 

俺はあまりにも信じがたい出来事に一瞬心が、砕けてしまった。

夕月と同じように。

 

 

俺の愛刀が……

 

 

幾多の戦場を、死線をともにくぐり抜けてきた愛刀が折れた。

それは俺の心を不安定にするには十分な威力を誇っていた。

 

 

飛竜は一度上昇し、空へと舞い戻ると、旋回し、再びこちらに再度突進を繰り出そうと滑空してきていたが、今の俺はそれに気づかなかった。

放心状態に近い精神へとなってしまっていた。

 

 

夕月が……

 

 

俺が生まれたその日に祖父が鍛造した名刀。

それから俺としては兄弟のようにともに生きてきた相棒が……。

俺はその場にしゃがみ込むと、折れた夕月の破片を拾おうとした。

敵が眼前に迫っていたにもかかわらず……。

 

 

「グアァァァァッァ!」

 

「ジンヤさん!」

 

 

敵の突進が俺に当たる前に俺の耳にリーメの声が響く。

それでようやく我に返った俺は、咄嗟に右の懐に手を入れると、ナイフを一本引き抜き、それと同時に敵に向かって全力で投げた!

 

 

ザシュ!

 

 

「グアァァァァ!」

 

 

それは狙い通り敵の左目へとめり込んだ。

しかしそれでも敵は突進をしてくる。

俺はすぐさま体に気を巡らせて、先ほどのクックと同じように敵を飛び越えるようにして回避しようとした……。

 

 

な、尻尾!?

 

 

敵は恐ろしくも、俺が飛び越えようとしたその瞬間に尻尾を咄嗟に少し上へと振り上げていた。

飛翔中だったため、ハンマーのように振りかぶる事は不可能だったのだろうが、それでも進路上に敵は障害物を咄嗟に配置したのだ。

俺は腕を前方で組んで尻尾をどうにかガードするが、とげとげしい部分が、俺の腕へといくつか突き刺さった。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

気を貫通してきたそのとげはすぐに抜けるが、そのせいで飛竜に少し引っ張られる形となり、俺はバランスを崩して地面に転がった。

 

 

「ジンヤさん!!」

 

「来るなリーメ!!」

 

 

すぐさまリーメが俺に駆け寄ってこようとするが、俺はそれを留めた。

油断していたとはいえ、未熟な殺気の当て方とはいえ、敵は野生動物であるにも関わらず、気を操った。

生半可な相手ではない。

俺は直ぐに態勢を立て直すと、左腰に残っている脇差し、花月を抜き放った。

敵も目に突き刺さったナイフのせいで転げ落ちるように着地していたが、態勢を立て直すと、立ち上がり、俺の方へと向き直り、鋭い眼光で睨みつけてくる。

 

 

「グルルルルル」

 

 

低い唸り声だ。

だがその身から放たれる尋常なまでの怒気と殺意は、俺の体を十分に威圧してきた。

 

 

何という重厚な怒気……

 

 

俺はそれに負けじと、自身からも殺気を放ち、睨み合う。

 

 

 

「グルルルルル」

 

「ガァァッァァ」

 

 

俺は口から呼気を放ち、総身から気を放出する。

しばらくそうしていると、飛竜は、こちらに火炎ブレスを吐いてくる。

俺はそれを気を乗せた花月で振り払う。

が、炎が消えていたときには、すでに飛竜は空へと上昇していた。

 

 

「ゴアァァァァァ!」

 

 

最後に敵はこちらに向かって吼えると、そのまま森と丘の山頂へと飛び去っていった。

どうやら引き上げてくれたようだ。

 

 

なんと恐ろしき飛竜……

 

 

俺はこの世界の竜の評価を改めつつ、先ほど夕月が砕けた場所へと、歩み寄っていった。

直ぐ傍でしゃがむ。

じいさんの腕の賜物なのか、それはほとんど砕け散ることはなく、まるでぼっきりと折れたようにいくつかの大きな破片になっていた。

俺はそれを一つずつ丁寧に拾い上げる。

十八年、ともに歩んできたためか、まだ内部に気が残っていた。

 

 

まだお前は死んでいないのか!?

 

そう思うと、それに応えるように、夕月が一瞬微かに気を放った。

それに気づいた瞬間に俺は、リーメに近寄り、夜月を返してもらうと同時にこう言った。

 

 

「すまん、さきに帰る!」

 

「え?」

 

 

呆気にとられているリーメには目もくれず、俺は先にユクモ村へと帰るために全力で走り出した。

 

 

 

 

~リオス~

 

 

「リオスさん!」

 

 

夕方になって、私が裏庭で朝に使う薪割りをしていると、ジンヤ君の叫び声が聞こえてきた。

そちらに目を向けると、ジンヤ君は目にも止まらぬ速さでこちらへと走りよってきていた。

 

 

「お帰り、ジンヤ君。イャン……」

 

「工房を、俺に十日、貸してください!」

 

 

私の声を遮り、ジンヤ君はそう言うと、もの凄い勢いで土下座をした。

事情がわからないが私には何が起こっているのかさっぱりだったが、彼が、布に包まれた何かを握りしめているのを見つけた。

 

 

あれは?

 

 

そう訝しんで観察していると、村長からから話しを聞いたときは、彼は左に二本、右に一本、そして腰に一本の、計四本の剣を装備して討伐に向かった聞いた。

彼を観察してみると、腰回りにあるのは三本になっている。

右の腰に装備されていないところを見ると、敵に砕かれたのかもしれない……。

悔しさが体からにじみ出ていた。

砕かれたと思われる剣が皮膚を切り裂き、血が流れるほどに握りしめていた。

 

 

私はジンヤ君の傍に片膝をつくと、その肩に手を乗せる。

ジンヤ君が静かに頭を少し上げてきた。

その彼に私は、力強く頷いた。

最初こそ、驚いていたジンヤ君だったが、直ぐに再び頭を下げた。

 

 

「ありがとう!」

 

 

言葉こそ、あまり丁寧ではなかったが、しかし彼から感謝の念がひしひしと伝わってきたので、私は軽く彼の肩を叩いてあげた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

リオスさんから工房を借りた俺は、その日から鍛造士、刀鍛士として狂ったように活動を開始した。

 

 

一言に刀を作ると言っても、まずは材料がなければ話しにならない。

俺は近くの河川で砂鉄を大量に入手する。

これだけに二日を要した。

助かったことに、たたらはリオスさんの工房にあったので、俺はそこに砂鉄を入れて熱し、刀の原料である玉鋼を作り出す。

嬉しい誤算とでも言うのか、この世界では鉄はもっぱら鉱山などからとれる鉄鉱石というものを使用しており、砂鉄に関してはほとんどノータッチで良質な砂鉄しかなかった。

それらを熱して一枚の板にして、選別する。

そこから俺はレーファが本気で怖がるほど、リオスさんですら息をのんでしまうほどに、狂ったように鉄を打った。

刀の特徴は強靱で折れない事が特徴だ。

それは折返し鍛錬と呼ばれる、真っ赤に熱した鉄の棒を槌で叩きまくることで生み出される。

鉄一族はそこで、槌を振るうときに全身の気を込めながら鍛える。

そうすることで気が込められていき、ただの刀とは違う、最強の刀へと成っていく。

 

 

俺は夕月が死んでいないことを確認すると、夕月だった鉄もたたらで溶かし、玉鋼にして新たな刀へと転成させていた。

普通の刀ならば俺はもうプロの鍛治士の一番下っ端に分類することが出来るのだが、この気を込めた鍛造が俺はまだ未熟だった。

そこでまだ生きていた夕月に助けてもらうことにした。

十八年、生涯を共に歩んできてくれた相棒は、俺の腕の未熟さを存分にカバーしてくれた。

 

 

不眠不休で一つの命を作り上げていく。

油断した自分を叱咤するように。

そして初めて俺に恐怖を与え、相棒を殺した憎きあの飛竜を……狩るために……。

 

 

それから約一週間経った、明け方。

鍛造の最後の焼き入れを俺は行い、鍛造が終了した。

 

 

「……出来た」

 

 

出来たと言ってもまだ、刀その物ができあがっただけで、ここから研ぎ、はばきを造り、鞘を作らねばならないが、とりあえず大本の刀は見事に完成した。

期待通り、夕月がうまくカバーしてくれたおかげで、その得物は過去最高傑作の気の刀へと成ってくれていた。

 

 

巨大な竜を倒すために生み出した、規格外に長い、刃渡り七尺四寸(二百二十二センチ)、柄の長さは、二尺(六十センチ)。

全長二百八十二センチの長大な野太刀。

 

 

「飛竜を狩るために生まれた野太刀……お前の名は……狩竜《しゅりゅう》だ!」

 

 

この野太刀の名を、俺は高らかに告げる。

朝日に照り返されて鈍く光るその刀身は、まるで俺のその気持ちに応えてくれているかのようだった。

 

 

誰にも気づかれず、ここにこの世界で新たな武器が誕生し、産声をあげた世紀の瞬間だった。

そのことをまだ、誰も知らない……

 

 

 




いかがでしょうか?
モンハン経験者はもうどこがファンタジーな要素かおわかりいただけたと思います……
ちなみに鍛造の課程は死ぬほど省いてます。
興味もないことを長々とかかれても(いや十分長い?)つまらないだけかと思いまして……


新たな得物、狩竜を背に、刃夜はモンスターを自由に討伐できる職種、ハンターになることを決意する。
そしてその手続きにドンドルマへと赴くと、そこに一人の男が駆け込んできて、村を救ってくれと叫んだ!


次章、「狩竜、初陣。そして決着(仮)」


3rdが出るまでに四話の伏線を回収しないといけないので大急ぎで執筆中
何か矛盾、意見、ご感想などがありましたらいただけると嬉しいです!

誹謗中傷はオブラートに厳重に包んでいただけたら幸いですw

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