リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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ついに表のラスボス、アマツマガツチと勝負です!
……けっこうかかりましたこれ仕上げるの
刃夜以外の視点はやっぱり難しい……

間に合いそうにないので、一日一話から更にブーストかけます!





作戦開始

ついに表のラスボス、アマツマガツチと勝負です!

……けっこうかかりましたこれ仕上げるの

刃夜以外の視点はやっぱり難しい……

 

間に合いそうにないので、一日一話から更にブーストかけます!

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

重たいが、その重さが心地よく頼りがいのある相棒として俺の体を護りそして重くしてくれる暁凛丸【覇崩】。

そして新たな得物、「イロナシ」を装備し、俺はムーナで暴風雨の中を駆ける……。

本当に限界の日時だった……。

これ以上この嵐が続けば間違いなく全ての生命が死に絶える……。

最初にして、最後の戦い……。

ここで決めなければならない……。

そう思うと自然に体に力が入る……。

 

 

「ムーナ……いけるな?」

 

「ゴアァァァ!」

 

 

俺の問いに、俺を乗せて飛ぶムーナが元気よく返事をしてくれる……。

俺はそのムーナの元気な挨拶で少し緊張をほぐしながら、手綱を持つ手に力を込める。

そして……

 

 

 

 

【性懲りもなく現れたか……】

 

 

 

 

それは、前回と同じように……白い風が吹き荒れ、それが集まり……やがて形をなす……。

 

 

 

 

白き羽衣を纏った……天女のようなその姿……

 

 

 

 

「荒天神龍、アマツマガツチ」

 

【いかにも……。性懲りもなくやってくるとは……だが……】

 

 

 

 

その鋭い眼光が……俺を射貫く。

どうやら俺の姿を観察しているようだった……。

 

 

【この前のようには……行かないようだな】

 

「あぁ。お前を倒すために造ってきた、究極の鎧だ」

 

 

黒き破壊神アカムトルム。

白き崩壊神ウカムルバス。

その二つの神より頂いた素材を造った、最強の鎧……。

それがこの俺の鎧、暁凜丸【覇崩】だった。

 

 

【よかろう。前回は復活したばかりでまだ力が十全ではなかったが、魔を存分に吸収させてもらった。今度こそ、貴様のその力を頂こうか】

 

「そう簡単にもらえると思うなよ! ムーナ!」

 

「ゴアァァァァァア!!!!」

 

 

俺の叫びに、ムーナが突進する。

その俺に対して……アマツマガツチが嘶き、天を震わせる……。

それが戦闘開始の合図……。

 

 

「ゆくぞ! ムーナ!」

 

「クォ!」

 

 

ムーナを促し敵へと突貫する。

敵は俺に向けて、頭を大きく上へと振りかぶり、水弾を吐き出してくる。

俺はそれをイロナシを抜剣して、大きく振りかぶって振った。

気と魔を帯びさせたそれによって水弾は弾け飛んだ。

 

 

【ほぉ】

 

 

敵がそれを見て興味深そうに唸った。

 

 

作戦開始の合図が出来るまで……俺はただこいつの足止めに徹する!

 

 

やり過ぎてもだめ、おとなしすぎてもだめ……。

 

だが……やり遂げなければならない!

 

 

「おぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

弱気になり始めた自身に活を入れるために……俺は吼えた……。

 

 

作戦が……始まった……。

 

 

 

 

~レグル~

 

 

「隊長! ジンヤさんが出撃しました!」

 

「あぁ……」

 

 

見たらわかった。

この曇天で、なおも光り輝く……銀リオレウスが今空へと羽ばたき、彼方へと向かって飛んでいっているのだから。

 

 

……ついに作戦開始か

 

 

作戦開始の合図……それはジンヤが銀リオレウス、ムーナに乗り出撃する事。

そして今、銀リオレウスが飛び立った。

それと同時に、俺たちも行動を開始する。

 

 

「ではこれより俺たちも出撃し、霊峰へと向かう! 暴風が吹き荒れ、しかも連日の雨で地面がぬかるんでいる! 注意して進め!」

 

 

「「「「了解!」」」」

 

 

風が吹き荒れる中俺たちは進む。

多大な荷物を持っての行動だが……それでも必要な物と言う以上、文句を言うわけにはいかない。

しかしその荷物の重さが異常だった。

鉱石を相当量入れてもこれほどの重さにはならないだろう。

だというのにそれはたったの五、六個程度でそれを大幅に上回る重さを有していた。

だが、それが必要ならばどうにかせねばならない。

だがそれよりもさらに厄介な|者(・)が、同行する事になっていた。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「う、うん!」

 

「絶対に無理はするなよ。そして俺たちからはぐれるな! 俺たちも重たい荷物を運んでいるからそんなに速度は出ない! ゆっくり歩くからな」

 

 

俺の言葉に深く頷く……。

不安要素であることに代わりはなかったが……ジンヤが信号弾を発射するよりも遙かに隠密に、ジンヤに合図を送れるからということらしいが……。

 

 

どちらにしろ、与えられた役割を完璧にこなすだけだ!

 

 

それが必要だと……ジンヤが言うのならば俺はそれを信じて仕事をこなすだけだ!

 

 

村を救うためにも……全力を尽くす!!!!

 

 

俺たち道具班は、渓流奥地、霊峰へと上から見られないように、森の中を進む。

 

 

この道具を……運ぶために……

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

ぐ、なんという嵐だ!

 

 

暴風の中、霊峰へと続く道を歩みながら、私は思わず舌打ちをする。

風で体は傾き、雨によって地面はぬれて……ここ一週間以上の雨で、地面は完全にぬかるんでいる。

 

 

このままでは全てが風に倒され、水に沈んでしまう……

 

 

そう錯覚させるほどの光景だった。

 

 

「フィーアさん! 大丈夫ですか?」

 

 

風によってバランスを崩しかけた私を、リーメが気遣ってくれる。

幸いにしてこける事はなかったので、私はそれに手を振る事で返し、先を急いだ。

 

 

私とリーメは、道具班が進む予定の道を先行し、道路上に障害がないかどうかを確認するため役割を担っていた。

そして今のところぬかるんでいる以外に深刻な障害は起こっていなかった。

だが、これもいつまで続くかわからない。

だからこそ急がなければならない……そのはずなのだが、ジンヤは今回いくつかの特殊な道具、そして素人であるあの子を作戦に起用していた……。

 

 

今回の作戦において重要なのは、私たち地上班が……陽動、囮に戦闘、そして敵にとどめを刺す役目を担ったジンヤに、こちらの準備が整った事を知らせる合図だった。

敵の意表を突くために、なんとしても隠密に合図を送らなければならない。

だがそんな技術は私たちには無い。

信号弾を発射するか、のろしを上げるか……それしかないのだ。

だがその最大の難関を、ジンヤは意味のわからない事を言って可能とし、半ば強引に作戦にねじ込んだ。

最初こそ誰もが納得しなかったが、しかし他に代案がないという事で通ってしまった。

また了承が得られたのも大きかったかもしれない。

まぁ仮にその案が通らなくても、こうして先行し、安全を確保、場合によっては迂回路を探す行動、というのは必然的に入っていただろうが……。

 

 

「今のところ特に異常はありませんね」

 

「あぁ。このまま行ってくれるといいのだが……」

 

 

それを祈るしかない……。

万全の準備を行ったが……それでもこの天候ではどんな不具合があるかわからない。

ただ信じて自分の最善を尽くすしかない……。

 

 

 

だが……それは脆くも崩れ去る事になった。

 

 

 

 

~リオス~

 

 

「リオスさん! これ以上はもう……」

 

「諦めるな! 何とかして、道具班が通るまで、この川の氾濫を防ぐんだ!」

 

 

諦めかけた仲間に活を入れ、その声で自分自身も奮い立たせて、私は木をへし折る剣に力を込める。

ジンヤ君に渡したイロナシの大剣とは違い、今私が使っている大剣は、鋳造(型に溶けた鉄等を流し込んで目的の物を造る製法)しただけの安価で脆い大剣だ。

霊峰へと繋がる、川……ユクモノ大河。

そこは今すぐにでも水が溢れ、川が氾濫しそうになっていて、私たち、村に残った有志の男達は、必死になってそれを防ぐために、木を切り倒し、土嚢の壁を造り、何とか川が氾濫し、道が……ユクモノ大橋が流れないように保っていた。

 

 

一週間と続く豪雨のために、凄まじい水が山の頂から流れてきているのだ。

正直氾濫しないのが奇跡と言うほどの水の量だった。

だがここが潰れてしまっては、道具班が霊峰へとたどり着けない。

フィーアにリーメはすでにこの橋を渡り、霊峰へと進んで障害がないかどうかを確認している。

そして道具班も、この天候の中、あの何で出来ているのかわからないほど思いあの武器を……運んでいるのだ。

 

 

それに何より……

 

 

【ゴワァァァァッァア!】

 

「オォォォォォォォォ!」

 

 

この天候の中リオレウスで空へと飛び、自らの命を直接危険にさらしている。

私たちだけが、弱音を吐いていい状況ではなかった。

 

私は渾身の力を振り絞り、大剣を振りかぶって新たな木材を得るためにユクモ村の木々をへし折った。

 

 

バキバキバキ

 

 

へし折った木が、悲鳴を上げながら地面に倒れる。

そうして直ぐにそれをパーツ分けして、先をとがらせた板にして運ぶ人間に渡す。

そしてそれを地面に打ち付けて、簡易的な防波堤にしていた。

 

 

その時……

 

 

「リオスさん!」

 

 

!?

 

 

その声に私は直ぐに顔を上げた。

その声がする方……霊峰へと続くその道から……リーメがやってきていた。

 

 

「どうして戻ってきた!?」

 

「大変です! 山から落ちてきたと思われる巨石が道をふさいでいます!」

 

 

!?

 

 

その言葉に、私だけでなく、その場にいる全員が唸った。

どれほどの大きさかはわからないが、わざわざリーメが引き返してきたという事は、少なくともフィーアとリーメ二人だけではどかす事が不可能という事だろう。

その結論がすぐに出て歯ぎしりをしてしまう。

 

 

「フィーアさんはその巨石を何とか乗り越えて、先に異常がないか見に行っています」

 

「!? 単独行動をしたのか!?」

 

 

それは危険だった。

この天候で一人で出歩く事がどれほど危険か、二人だって十分にわかっているはずだった。

だがそうも行っていられないのは確かだった。

 

 

 

「何人くらいだ!?」

 

「……最低でも五人は……」

 

 

数の多さに舌打ちをしたくなったが、リーメが悪いわけではない。

私は直ぐに結論を出し、仲間に告げる。

 

 

「五人……念のため六人リーメと供に巨石を撤去してこい!」

 

「だ、だが、今でも手一杯だというのに……」

 

「だがこちらにかまけてばかりで巨石が動かせなかったらどうする!」

 

「だが、もしも氾濫すれば命の関わるぞ!」

 

 

 

 

「みんな等しく命を賭けているんだ! そんなことは百も承知! 例え死ぬ事になろうとも、道具班がここを通るまではもたせてみせる!!!!」

 

 

 

 

それは私の魂の叫びだった。

それが通じたのか……目配せで語り合い、六人が一瞬にして走り出した。

まさに刹那の瞬間で、誰が行くか……皆で話し合っていた……。

リーメもそれに続き……否、追い越して先行していく。

 

 

あの気弱な少年が……よくぞここまで……

 

 

他の連中よりも気弱で……頼りなかった男が……。

確かにまだ体の線は細く、筋肉もそこまではない。

 

 

だが、それを補ってあまりある軽快な動きと、心の強さ……

 

 

以前はモンスターを狩る事の罪深さと重さに耐えられず、ハンターをやめようとしていた子が……

 

 

ジンヤから受け継いだ技と心を……リーメは確かに受け継いでいた……。

 

 

今は見えないが、フィーアも同様だった。

彼女もリーメと同様で、ジンヤから生きる上で大切な何かをもらっている。

技と心を……。

 

リーメとフィーアだけじゃない。

ジンヤを見知り、その活躍を見てきた者達全てにジンヤは影響を与えている。

それが悪い影響かいい影かはわからない。

だが、それでも変化を与える事が重要なのだ。

人は生きていく上で成長する……。

 

 

進化、成長という変化を……。

 

 

彼らはジンヤからいくつもの物をもらったのだ。

 

 

それを見届けて私は四肢に力を込める。

 

 

老骨……とまでは行かないが、それでも私はもう随分と生きた……。

 

リーメ、フィーア、レグル、そして我が娘……レーファ。

 

小さきときより見守ってきた存在……

 

ハンターになった彼らの武器防具を造り、その成長を見守ってきた……

 

その未来を守るために……

 

 

つないでみせる!!!! この橋を!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

その時……声を聞いた……

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

何かはわからない……だが、それは直ぐに形となって、私たちの目の前に現れる。

 

 

スッ

 

 

何と、力を込めて切ろうとしていた木が、まるで自ら裂けたのかのように、切れたのだ。

 

 

これは!?

 

 

それだけじゃない。

岩が途端に軽くなり、川の水が少し治まっていく。

だが水の量が減ったわけでも、風が弱まったわけでもない……。

それなのに川の氾濫が少し収まっている……。

 

 

 

 

まるで木に、岩に、川に……意志があるかのように……

 

 

 

 

……神よ

 

 

 

 

この現象をどう言葉にすればいいのかはわからない……。

だがそれでも、何か大きな意志を感じて……私はそれに感謝しながら作業を進める。

 

 

 

 

「命を賭けろ! 絶対に諦めるな! 私たちの村を、私たちの手で守るんだ!」

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

一旦リーメと別れ、先行し、何とか霊峰頂上一歩手前、ギルドナイトが形成してくれた簡易ベースキャンプへとたどり着く。

せり出した岩が天然の屋根となって、雨と風から私を守ってくれている。

今のところ問題となっているのはリーメと供に見た巨石の落下くらいだった。

だが今の天候を鑑みれば、何が起こるかわからない。

とりあえず戻ってリーメと合流し、のけているであろう巨石の撤去作業を手伝おうと戻る。

そして、ベースキャンプをでた瞬間……

 

 

グォッ!

 

 

!?

 

 

私に迫る……巨大な樹を見つけた……。

 

 

太い幹の樹だった……

 

私の腕の長さでは、その樹を抱けないくらいの太さの……

 

しかもそれは避けられない速度で……

 

避ける事も出来ない、そんな至近距離まで迫っていた……

 

出来る事と言えばせいぜい……武器を……斬破刀を抜刀する事くらいで……

 

 

どうする?

 

 

嫌に時間がゆっくりと流れている……

 

本当ならば一瞬で私の体に当たっていそうなそれ……

 

意識が加速していた……

 

 

仮に斬破刀でガードしてもこの速度で飛来した衝撃を受け止められない。斬破刀が折れるとは思わないが……私が衝撃を受け止めきれない。甲冑を着ているが……そんな物はほとんど意味がない……

 

 

まさに生死を賭けた一瞬の思考だった……

 

そこで思い出されるのは……ジンヤのあり得ない剣さばき……

 

 

この飛来する樹よりも遙かに太い幹を、飛竜種の鱗を、甲殻を、首の骨さえないものとして切り捨てる神速の振り抜き……

 

以前ジンヤにどうすればティガレックスの……飛竜種の首を斬れるのかを聞いたとき……あいつはこう答えた……

 

 

 

 

何も考えずに切れ……

 

 

 

 

と……

 

あの時はそのふざけた答えに激怒した物だが……今は違った……

 

この一瞬の選択……

 

その選択肢によっては命さえも失う……

 

あいつのすごさに見失いがちになるが……あいつだって、飛竜種の首を切るとき……無数の選択肢を抱えているはずなのだ……

 

その中で何故あいつは首を切るという選択肢を選択するのか……?

 

そして、その選択肢を選んだ後に……何かを考えているのか……?

 

今の私の状況が答えだった……

 

 

 

 

考えて振るんじゃない。振っているときはそれ以外に考えないだけなんだ

 

 

 

 

武器を振っている時は、武器をただ振り抜く事しか……否、それすらも考えないんだ……

 

 

 

 

武器を振った……

 

その結果首が切れたのであって、決して首を切る事を考えて切っているわけではないのだ……

 

無論武器を振る前はどこを切るのかを考えているとは思う……

 

だが武器を振った後……振り抜く瞬間に思考はいらない……

 

 

 

 

そう言う事なのか!? ジンヤ!!!!

 

 

 

 

ただの思考……

 

一瞬にも満たない一人で考えた思考……

 

その時……

 

 

 

 

「あっぁあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

どこかからかジンヤの叫び声が聞こえる……

 

いやそんなはずはない……

 

今あいつは遙か空へと飛び上がり、あの嵐龍と対峙しているはずだった……

 

だからあいつの声がここまで届くはずがないのだ……

 

 

 

 

だが、そのジンヤの叫び……空耳かもしれないけど……それが正解だと言っている気がした……

 

 

 

 

その瞬間……私は一瞬でそれを考え、そして直ぐに思考を棄てて振った……

 

一瞬にして鞘から抜刀し……

 

 

 

 

 

 

 

 

心を無くして……振った……

 

 

 

 

 

 

 

 

力の限り……

 

何も考えずに……

 

ただ振った……

 

 

 

 

人生最高の相棒である、斬破刀を……

 

 

 

 

キィン!

 

 

 

 

私の覚悟に呼応したのか……斬破刀が一瞬光った……

 

そしてそれは今までで最高の弧を描いた……

 

 

 

 

フゥン

 

 

 

 

何の抵抗も無く……振り抜かれる……

 

その身に衝撃はなく……私が感じるのは……ただ手に残った微かな手応えと、斬破刀の確かな感触だけだった……

 

 

 

 

ドガッ!

 

 

 

 

後ろで音がして振り向くと、真っ二つに裂けた樹が……簡易ベースキャンプの屋根に当たる、せり出した岩に当たっていた。

それはさっきまで私に迫っていた樹で……

 

 

…………切ったのか?

 

 

あの、私が腕を回しても抱えきれないほどの樹を……

 

 

余りにも実感が無くて、自分が切ったのかどうかわからなかった。

だがこれだけは言えた……。

 

 

私は、私の手で、選択し、生を掴んだのだと……

 

 

何かがこみ上げてくる。

何か……こらえきれない何かが……。

 

 

 

 

やった!

 

 

 

 

あの男……ジンヤに一歩近づいた気分だった……。

あの男と同じ……いやジンヤに言わせればまだまだだろう。

だが私は確かに一歩進んだのだ……。

 

 

 

私は……

 

 

 

そこで喜びにうちふるえる……

 

 

すると

 

 

 

「がぁぁぁっぁぁぁ!!!!」

 

 

 

再びジンヤの怒号が、私の耳に入ってきた。

それはまるで、

 

立ち止まっているんじゃねぇ!

 

と私を叱っているようだった……。

 

 

いけない! 戻らないと!

 

 

喜ぶのは後だ。

 

 

今は村を救う事に全力を注がないといけない!

 

 

私は急いで、崖を降りる……。

その胸に……確かな喜びを感じながら……

 

 

 

 

~リーメ~

 

 

岩が……重い!

 

 

「行きますよ……せーの!」

 

「「「「「「「だっせい!!!!」」」」」」」

 

 

 

総勢七人がかりの男で、僕たちは巨石の撤去を行っていた。

ここは、霊峰へと繋がる山への入り口……。

元々切り立った山だったこの崖に、人が道を造って、長年渓流奥地へと行くときに使われていた道だった。

だからこそ、この道以外に霊峰に行くとしたら、切り立った崖を昇る以外に方法がない……。

最後の方は確かに崖を登らなければいけない。

だけどそれ以外の箇所では出来る限り時間を掛けずに、その崖を登る場所へと向かわなければいけない。

何せ今でもジンヤさんが一人で敵を……嵐龍を引きつけている。

なるべく時間を掛けるわけにはいかない。

だから……急がないといけないのだけど……。

 

 

この巨石がどけられない!

 

 

余りにも大きすぎる。

一瞬爆弾で爆破したくなるけど、だけどこの雨の中ではとてもではないけど火薬が湿気て使えない。

だからどけるしかない。

だけど地面がぬかるんでいてまともに踏ん張れず、そしてぬれているために掴みにくい……。

しかもこの重さ……。

とてもではないけど、どかせそうになかった。

 

 

だけどこれ以上人を裂くわけには……

 

 

これでも目一杯リオスさんの担当区域から人員を借りているんだ……。

だから……僕たちだけでどうにかしないといけない……。

 

 

でもどうしようも……

 

 

その時だった……。

 

 

リィィン

 

 

耳に、そんな高質な音が聞こえてきた。

 

 

え?

 

 

この暴風を物ともせず……僕の耳に……心に届いたその音……。

 

それは……

 

 

 

 

紅葉と……白夜?

 

 

 

 

背中に装備した、ジンヤさんが鍛造した究極の双剣……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】からだった……。

 

 

 

 

……何?

 

 

 

 

思わず心の中で二つの武器に問いかけてみる。

普通にあり得ない事だった。

けど僕はその時素直にそう感じていた……。

 

 

 

 

武器が僕に……語りかけてきてくれていると……

 

 

 

 

リィィイィィン

 

 

 

 

そしてその思いに違わずに……二つの武器は……双剣が語りかけてくる……

 

 

この岩を斬れ……と……

 

 

 

 

無茶な!?

 

 

 

 

それは僕には……いや誰にも出来ない事だった……

 

 

 

 

たった一人……

 

 

 

 

ジンヤさんを除いては……

 

 

 

 

僕にそれをしろって言うの!?

 

 

 

 

周りのみんなが巨石をどうするか話し合っている中……僕は双剣との会話を続ける……

 

剣が語りかけてきたその事よりも、その語りかけてくる内容の方がよほど驚きだった……

 

その驚きに、顔が歪んでしまう……

 

それは……端から見たら、僕が絶望してしまったかと思うような表情だったと思う……

 

 

 

 

む、無理だよ……そんなこと……

 

 

 

 

出来るわけがなかった……

 

この岩は、土の塊ではなく岩石だ……

 

その硬質な素材は、剣など絶対に通さない……

 

確かに純粋な鉄でない以上、剣よりは硬くないかもしれない……

 

けどそんな事は関係ない……

 

硬いという事実に代わりはないのだから……

 

 

 

 

僕にそんな事が……

 

 

 

 

僕には出来ない……

 

ジンヤさんには出来ても、僕に出来るわけがなかった……

 

あの圧倒的な強さ……

 

武器を扱う技と力……

 

それを支える心身……

 

 

 

 

そして……その意志の強さ……

 

 

 

 

その意志の強さに……堅さに呼応するかのように……ジンヤさんの武器は、その全てを斬り捨ててきた……

 

 

 

 

大剣を、鳥竜種を、飛竜種を……そして古龍種でさえも、斬り捨てた……

 

 

 

 

確かにジンヤさんほどの力があればそれも可能だと思う……

 

それこそジンヤさんなら鼻で笑いながらこの巨石を一瞬で細切れに出来ると思う……

 

だけど……僕には……

 

 

 

 

出来ないし……自信がない……

 

 

 

 

確かに僕は、ジンヤさんと出会う前の僕よりは強くなったと思う……

 

 

 

 

だけどそれはあくまでもましになっているというレベルで……とてもではないけど人に胸を張って誇れる物ではなかった……

 

 

 

 

だから僕には、そんな自信は……

 

 

 

 

リィィィィィィィィン

 

 

 

 

その時……双剣が、とんでもない事を僕に伝えた……

 

 

 

 

…………え?

 

 

 

 

思わず僕は自分が認識したその事を疑ってしまった……

 

だけどそれ以外に考えられなくて……

 

再度聞いてみても……それは変わらなかった……

 

 

 

 

自分が信じられないなら……俺たちを信じろ……と……

 

 

 

 

リィィィィィィン

 

 

 

 

まるで力強く、大声で返事をしたように……二つの剣……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】はそう言っていた……

 

 

 

 

剣を信じろって……どういう……?

 

 

 

 

リィン

 

 

 

 

そこで僕の脳裏に……様々な記憶が……二つの双剣と巡ってからの記憶が流れていく……

 

今まででもっとも使いやすい剣だった……

 

軽く、鋭く、そして速い……

 

これほどの武器を僕は他に知らなかった……

 

初めて火竜刀【紅葉】を振ったのは……ジンヤさんと渓流の調査をしたときだった……

 

普段は装備しない、真新しい装備をジンヤさんが装備していた……

 

最初こそジンヤさんがまた新しい武器を造ったのかと思った……

 

だけど、それは実は僕に造られた物で……

 

そもそも僕がジンヤさんに師事したのは、その刀を造ってほしいがためだったのに……すっかりそれを忘れていて……

 

そしてそれを使って……僕は初めて一人でジャギィ……小型とはいえモンスターを討伐できたのだ……

 

 

 

 

結局、ジンヤさんが助けてくれたけど……

 

 

 

 

それからずっと一緒で、それから後にジンヤさんが鍛造してくれた雷狼刀【白夜】も、直ぐに僕の武器として、力を貸してくれた……

 

 

 

 

力を貸して……

 

 

 

 

……そう言う事なの?

 

 

 

 

リィン!

 

 

 

 

それに応えるように……双剣が僕に頷くように輝いてくれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、ようやく僕は双剣の言葉に頷いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

わかった……

 

 

 

 

すぐに意識を外面へと……今起きている出来事に意識を向ける……

 

そして、すぐに周りのみんなに言った……

 

 

 

 

「どいて下さい! 僕が……僕の双剣が何とかして見せます!」

 

「!? 何とかって……」

 

「どうするつもりだ?」

 

 

皆が僕の事を不思議な物を見るような目で見てくる……

 

僕はそれに応えずに……黙りながら巨石の前へと歩み寄り……双剣を……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】を鞘から抜刀した……

 

 

「お……おいおい」

 

「斬るつもりか? 無茶な」

 

「狂ったのか?」

 

 

皆が何かを言っている気がする……

 

だけど、今の僕には聞こえない……

 

ただひたすらに意識を高め、武器と語り……成し遂げるべきことを成し遂げる……

 

 

 

 

だけど……

 

 

 

 

どうすれば……いい?

 

 

 

 

剣を信じることはできた……

 

だけど、それでも僕はどうすればいいのか分からない……

 

僕に自信がなくても……僕の双剣なら……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】ならやってくれる……

 

だけど、それを振るうのはあくまでも僕であって……

 

以前フィーアさんが質問したときに……僕も同じように疑問をぶつけたのだけど……それの答えと、フィーアさんに対しての答えは一緒だった……

 

 

 

 

何も考えずに切れ

 

 

 

 

と……

 

それを思い返していた……その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

ポゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

岩の一部が……僅かにともった……

 

それは怪奇現象でしかなかったはずなのに……

 

しかも僕にしか見えていないのか……その白く灯った箇所に、だれも意識を傾けていない……

 

けどそれは……何か……岩が語りかけてきているかのような……

 

まるでそこが石の切れ目だと……教えてくれている……

 

そんな錯覚を抱かせる物で……

 

 

 

 

……わかった

 

 

 

 

どうしてそれを信じたのかわからない……

 

だけど、僕はそれを全く疑う事もなく信じて……火竜刀【紅葉】を振った……

 

 

 

 

ヒュン

 

 

 

 

綺麗な風切り音を響かせて……火竜刀【紅葉】が消える……

 

それほどの速さで振り抜かれたのだ……

 

何の気負いもなく……ただ、己の得物を……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】を信じただけだった……

 

 

「? 何だ?」

 

「通り過ぎた?」

 

 

次々に灯る……岩の光に向かって……ただひたすらに剣を……相棒の火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】を振るう……

 

すると……

 

石が……斬れた……

 

 

「!? 切れた!?」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 

ただ速く……

 

ただ鋭く……

 

 

双剣の真骨頂は……その手数の多さ……

 

 

圧倒的な閃きによって……巨石を、ただの石の欠片へと変えていく……

 

 

もっと速く……

 

もっと鋭く……

 

 

一息に切断する事は出来ない……

 

だから、徐々に徐々に……

 

その石へと線を入れ……薄く、薄く……削っていく……

 

僕は、ただ石を斬る……

 

道を……切り開くために……

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

その時……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】とは違う声が……聞こえた気がした……

 

それに意識を取られたのか……雷狼刀【白夜】の動きが鈍り……石の中で止まってしまう……

 

石自体はいつの間にかほとんど斬れていて……その中心部近くに、何かがあった……

 

もしも声に気づかなければそれは雷狼刀【白夜】によって真っ二つにされていた……

 

僕は……一部が飛び出しているそれを慎重に石から取り外した……

 

 

 

 

 

 

 

 

花香石の欠片?

 

 

 

 

 

 

 

 

薄紅色の小さな鉱石で……ユクモ村の特産品の一つだった……

 

擦ると、花のような香りを放つので、身につける宝石なんかによく加工されている……

 

そしてそれが……擦ってもいないのに、僕の鼻孔に……花の香りを届けてくれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

……よく頑張りましたね

 

 

 

 

 

 

 

 

そして先ほどよりもはっきりと……声を聞いた……

 

それが何故か漠然と……自然からの……この石からの声だと……理解して……

 

 

 

 

「……うっ」

 

 

 

 

何故かわからないけど……僕の双眸から涙がこぼれていた……

 

だけどそれはすぐに吹きすさぶ風によって飛んできた雨に流される……

 

けどそのおかげで僕が泣いている事に、誰も気づかなかった……

 

 

 

 

……ありがとう

 

 

 

 

僕はただ……そう思った……

 

何かを……教わった気がした……

 

火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】と……美しい、ユクモ村の自然に……

 

だけど、そうのんびりしている場合でもなかった……

 

 

「!? 道具班来たぞ!!!!」

 

「このまま援護しよう!」

 

 

その声に、僕は思考を切り替える……

 

 

「はい! 行きましょう!」

 

 

双剣を……火竜刀【紅葉】と、雷狼刀【白夜】、僕の最高の相棒を鞘へと収めて……僕は新たに出来た、僕の任務へと移行した……。

 

 

 

 

~レグル~

 

 

くそっ! 風が強くなってきた!

 

 

必死に重い荷物を運ぶ道中……どんどんと勢いが強くなるその風に……俺は悪態を吐きたい気分だった。

今はまだいい。

まだ急とはいえ地面といえる場所を昇っているのだから……。

だがもう少しすれば、目的地までの道のりで最大の難所である、崖へとたどり着く。

そこはあまりの急な角度の、壁であり崖でどう頑張っても道を造る事は出来なかった。

だからここに来る場合は、まず上の方に登りそいつがロープをつなぐフックを地面に打ち込み、ロッククライミングの要領で昇っていくのだ……。

普段ならばそれも容易だ。

鼻歌交じりに昇っていく事も可能だ。

だが、今は普段ではない……。

 

この嵐も……。

 

そして、俺たちが持つ荷物と……ハンターでもない、屈強ですらない……ただの人がいる……。

 

それらの普段とは違う要因がある以上、ただの崖登りが命がけの仕事になってしまう……。

 

 

……出来るのか?

 

 

予行演習のないぶっつけ本番だ。

フックとロープはどうにか目立たないようにして先に仕掛けているが……これほどの重さの荷物と、厄介な人がいる状況での崖登りは初めてだ。

しかも荷物もただの荷物ではない……。

尋常でない重さと、重要な役割を担う……大事な物だ。

手荒に扱うわけにも行かない。

 

 

……出来るか……俺に

 

 

この状況下では、リーダーである俺の判断が物を言う。

崖登りのタイミング、そして荷物を持ち上げるために動員する人間の呼吸とタイミングの合わせ……。

この吹き荒れる風の中、それを実行するのは極めて困難だった。

だが……

 

 

やらねばならない……

 

 

これほどの重要な役目を……あいつは、あの男は何の疑いもなく、俺に預けてくれた……。

長年リーダーをやってきた……俺にしかできないと……。

 

 

その信頼にこたえるためにも……俺はこの任務を成し遂げなければならない!

 

 

「着いたぞ!」

 

「まずラミア! お前が昇れ!」

 

「はい!」

 

 

まずは俺の後輩であり、もっとも信頼できるラミアを先に昇らせる。

ジンヤが現れる少し前にハンターになった新米だった。

俺の部下であり後輩たちの中では一番下っ端であり、それゆえに経験もまだ浅い。

イャンクックに襲われた時も、こいつの指導のために一緒にクエストに出かけていた。

そしてその時……イャンクックに襲われたその時、こいつは的確な判断で俺を助けてくれた。

人間で昇るには相当な堅さの崖を、なんとこいつは一息で降りたのだ……。

一息に降りたと言ってもその途中で何度も崖に足、手などで勢いを殺していた。

そんなこと普通はできない。

だがそのおかげで俺は命を長らえたと言ってもよかった。

行こう俺はラミアの指導を半年近く行っていた。

その甲斐あってか、ラミアももう一人前程度の腕前は有していた。

特に崖の上り下りにおいては天部の才を有しており、ユクモ村ではラミア以上の腕を有している人間はいなかった。

ハンターとしてもっとも重要な狩猟のスキルに直接かかわっていないスキルだが……しかしそれでもこのスキルは素晴らしかった。

誰よりも早く上る……昇るほどの勢いで崖を超えるその姿は……綺麗だった。

 

 

そう考えているうちにラミアが崖を登り終える。

そしてラミアが道具を上げるためのロープを下ろし、それに荷物を厳重にくくりつける。

くくりつけている間に、他のハンター達がラミアが降ろしたロープを使って、崖へと昇っていく。

それを見届けつつ、俺はもう一つの荷物……大事な役割を担う子と俺を紐で縛る。

 

 

「いいか暴れるなよ! 俺が絶対に上へと導いてやるからな!」

 

「うん!」

 

 

安心させるように優しく……だけどしっかりと強さを込めた声で、俺は声を掛けて登り始める。

ロープを使っての崖登りだが、暴風が吹き荒れる中では、とてもではないが厳しい物があった。

何せ体が流されないようにするので精一杯だ。

自分の身すらも危ういのに、自分の身だけでなく気を配り、細心の注意を払わなければならない存在が二つもあるのだ。

とてもではないが簡単ではなくて……。

 

 

「どうだ!? いけそうか!?」

 

「……な、なんとか!?」

 

 

荷物を入れたあの箱を上げている連中に、手振り身振りで様子を伺う。

大の男二人ですら持つ事が出来ず、倍の四人がかりでどうにか持ち上げる事の出来た荷物だ。

ハンターとして体が鍛え上がっている男が四人で漸く持ち上がった物なのだ。

それをこの風が吹き荒れる中、ロープで持ち上げるのは……至難の業だった。

ロープを二重に結び、それを経八本で持ち上げる……それで漸く持ち上がる、恐ろしい重さの荷物……。

 

 

 

 

十分に計算したはずだった……

 

 

 

 

だが……それは突然……前触れもなくやってきた……

 

 

 

 

ミシミシミシ  ブチッ!

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

「ロープが!?」

 

 

何が原因かはわからない……

 

だがそれは……切れた……

 

ユクモ村の希望を担う……大事な荷物が……

 

 

「!?」

 

 

位置的に俺よりも上で切れ、それが落ちてくる……

 

しかも、まるで俺を目掛けて降ってくるかのように……

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

今回の作戦において、もっとも重要な二つの存在……

 

それが同時に失われようとしている……

 

俺の……命と供に……

 

 

 

 

そんな……

 

 

 

 

一瞬の思考……

 

周りの景色が遅く感じ、荷物が本当にゆっくりと……俺へと降ってくる……

 

 

 

 

全てが終わる……

 

 

 

 

俺の命も……

 

 

 

 

俺の後輩……知人友人……

 

 

 

 

俺が育った村も……

 

 

 

 

大陸さえも……

 

 

 

 

そんな……

 

 

 

 

誰もが全力を尽くしていた……

 

尽くしていたはずなのに……

 

起こってしまったその状況で……

 

 

 

 

そんなこと……

 

 

 

 

俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

力の限り吼え、俺は背に背負ったその子をまず庇うためにあえてその荷物を、上へと下げた腕で受け止めて、方向を変える……

 

 

ボキン

 

 

一瞬で折れ砕ける、俺の左腕……

 

だがそれを気にしている場合ではない……

 

軌道が変わったそれ……

 

切れてしまったロープを……俺は残った手で……右手で掴み取った……

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

ロープと手がこすれ、一瞬この曇天の暴風雨で濡れて冷えている手に、摩擦による熱が生じる……

 

その次に……肩が……肘が……脱臼する……

 

 

 

 

!?!?!??!?!?

 

 

 

 

絶叫を上げなかっただけ、俺は自分で自分を褒めたかった……

 

俺はリーダーとして、皆を引っ張り、フォローし、作戦を完遂させる役目がある……

 

 

「   !?」

 

「  !?」

 

「     !?」

 

 

皆が口々に、何かを叫んでいた……

 

だがそれを脳は捉えてくれなくて……

 

何を言っているのかわからない……

 

 

 

 

痛い

 

 

 

 

もうそれしか感じられなかった……

 

左腕は折れ、右腕はそのほとんどが、凄まじい加重で大怪我をし、もはや何も感じられない……

 

いっそ手を離してしまいそうになる……

 

 

 

 

だが……

 

 

 

 

その時脳裏に浮かんだ……言葉があった……

 

 

 

 

 

 

 

 

『先ほどまではそこそこ見事なリーダーシップを発揮していたのに、気心しれたやつが相手だと余裕をなくして怒鳴り散らすとは……。俺もそうだが、お前もまだまだだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

あの男……クロガネジンヤが発した……言葉を……

 

 

 

 

ランポスの大群が村に攻めてきたとき……俺はそのあまりの恐怖から、リーダーとしての責務を忘れてしまいそうになった……

 

だが何とか指揮をするけど……気心の知れた相手が来た瞬間にその不安が爆発し、そいつを怒鳴り散らしてしまった……

 

 

それを見て、あの男が……ジンヤが放った言葉だった……

 

 

今をもってしても、あの時あいつが何を言ったのか……正確にはわからない……

 

だがそれでも何となく俺を叱咤していた……叱ってくれていたようだった……

 

それだけは何となくわかった……

 

 

 

 

そこで思い出す……今がどういう状況で、何をしなければならないのかを……

 

 

 

 

耐えろ!

 

 

 

 

耐えなければならない……

 

俺はリーダーとして……皆を安心して任務に従事させ、それを見届けなければならない……

 

あいつが与えてくれた任務を……挽回のチャンスを、逃すわけにはいかなかった……

 

 

「……何をしている! 早くロープを引き上げろ!」

 

「!?」

 

「!? 了解!」

 

 

俺の一言で、止まっていた皆が動き出す……

 

荷物が落下したときに、ロープが勢いよく落ちたのか、それを手放してしまっていたので、それを急いで引き上げさせた……

 

 

「ラミア! 今すぐロープをもって降りてきて荷物にロープを追加しろ! 他の連中はそれの補佐だ!」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

指示を飛ばすその中でも……俺は神経が焼き切れるような痛みを感じながら、それを何とか顔に出さずに、荷物を支える……

 

ロープが切れてしまったその代わりとなって支える……

 

文字通り腕が抜けるかと思えるような痛みと重さだったが……耐える……

 

 

「……大丈夫?」

 

 

俺の背にいる子が、俺へと話しかけてくる……

 

前は怒鳴り散らしてしまった……

 

だが……今回は違う……

 

 

「何がだ?」

 

 

普段と同じように……俺はそいつに話しかける……

 

 

「だ、だって……腕……」

 

「あぁ? 大丈夫だ。何ともない」

 

「!? でも!?」

 

 

俺がそう言うが、不安そうにしている……

 

俺が我慢しているのを、長年の付き合いから察しているのかもしれない……

 

だから俺は……その不安を取り除くために……昇った……

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

右手は今手を離す事は出来ない……

 

だから……折れた腕で、崖を掴み……昇る……

 

 

「!? な、何してるの!? 無茶だよ!」

 

「無茶な物か……今こうして……昇ってるだろう! だから大丈夫だ」

 

 

心配そうに声を張り上げているが、俺は今そんな事を気にしている余裕はない……

 

他の連中を不安にさせず……俺が自分で担った役割を完遂させる……

 

それが出来なければ……

 

 

 

 

リーダー失格だ……

 

 

 

 

「無茶をして!?」

 

 

俺がそうして昇っていると、ラミアが急降下してきて……直ぐに先ほどよりも多く荷物にロープをくくりつけ、上へと引き上げる合図を送る……

 

そして俺の肩を抱き……引き上げてくれる……

 

 

 

 

「……無茶をしないでください」

 

 

 

 

小さい声だった……

 

だが寄り添っていたからだろう……その声ははっきりと、俺の耳に届いた……

 

 

「……すまん」

 

 

 

 

しかし……それがいけなかった……

 

 

 

 

最後……本当に最後だった……

 

後は手を掛けた腕とロープで体を引き上げて……ギルドナイトが制作してくれた簡易ベースキャンプへと上がるだけだった……

 

その手を掛けた場所が……

 

 

 

 

ボコッ

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

脆くも崩れ去ってしまった……

 

俺とラミア、後ろの子みんなを落とす……

 

ロープがあるから、転落していく事はないだろう……

 

だが一瞬の気の弛みで出来てしまったそれは……致命的だった……

 

俺はまだいい……

 

もしも少しでも後ろの子が怪我をしたら……それだけで全てが台無しになってしまう……

 

怪我程度ならいい……

 

もしも気を失うような事があったら……

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

その時……風の、声を聞いた……

 

 

 

 

フワッ

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

この凄まじい暴風雨が吹き荒れる中でも……何故かそれをはっきりと感じていた……

 

俺とラミアとその子を……押し上げるように吹いた、一陣の風……

 

それは、落ちそうになっていた俺たちを……元の体勢……崖へと昇るその体勢へと戻してくれていた……

 

 

 

 

「……今のは」

 

 

 

 

それを感じているのは、この場にいる全員だった……

 

だが、この場にいる全員誰一人として……この不思議な風が何だったのか……わからなかった……

 

だが……それでも自然と感謝の気持ちが芽生えていた……

 

 

 

 

ありがとう……

 

 

 

 

何に対しての礼だったのか……わからない……

 

だが、本能が……魂が……礼を言わねばならないと……

 

 

そう言っている……気がした……

 

 

 

「さぁ目的地に着いたからと言って終わりじゃない! 今すぐこれをセットして来るんだ!」

 

「了解!」

 

「隊長は休んでいてい下さい!」

 

 

だがいつまでものんびりとはしていられなかった。

俺は檄を飛ばし、部下に指示を出す。

幸いにしてここからは霊峰の頂上まで普通の道がある。

普通に運ぶ事が出来た……。

俺はそれを部下に任せ、体の治療を行う……。

簡易ベッドに腰掛けながら……部下達が報告に来るのを待った……。

 

 

そして……

 

 

「準備できました! いつでも撃てます!」

 

 

それを聞いて……俺は腹の底から声を出した……

 

 

「さぁ! これで全ての準備は整った! あとはあいつがここまでやってこれるかどうかだが……それはあいつに任せるしかない!」

 

 

だがこの場にいる誰一人として……信じており、そして疑っていなかった……

 

ジンヤがここに、敵をつれてやってくる事に、何の疑いも持たなかった……

 

 

 

 

「さぁ、全ての準備が終わった事を……あいつに伝えてやってくれ……」

 

 

 

 

正直この場に来ても、どうやってこの状況でジンヤに連絡を取るのかはわからない……

 

だがジンヤが言ったのだ……

 

絶対に俺は声を聞き逃さないと……

 

 

その声を……上げてもらう……

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーファ! 後はお前の仕事だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!!!!」

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

さかのぼる事……一週間前……

 

 

「……え? 私が……ですか?」

 

「あぁ」

 

 

避難警告が出され、住民達が避難を開始する中、私は私の家にやってきたジンヤさん、お父さん、そしてお母さんと一緒に台所の食卓で……ジンヤさんの話を聞いていた。

そしてそれは……ジンヤさんが私を頼りにしての……初めてのお願いだった……。

 

 

「一週間後、ユクモ村のハンターと俺、そして有志で集まってもらう人間と供に、あの天災の龍、嵐龍の討伐に乗り出す。その時、お前の力がどうしても必要だ」

 

 

作戦の概要を聞いていたのだけれど……驚きの余りに半分ほど聞いていなかった。

だって……今まで……そんな事がなかったから……。

ジンヤさんが私にお願いをしたのは確かに初めてじゃない……。

 

ランポスの大群が攻めてきたときに、その前に起こった事……怪我をした事、約束を守れなかった事を互いに気にしない事……

 

ムーナちゃんが生まれたときに、私にムーナちゃんの母親になってほしいと言われて……

 

ジンヤさんがジンヤさんの故郷の料理の店を開いて、それの手伝いをして欲しいと言われた……

 

ラオシャンロンが出てきたときに……ジンヤさんがおなかの傷も治っていないのに……武器を鍛造したときも、黙ってみていて欲しいと、お願いされて……

 

私のわがままでハンターになって……その時、古龍種に襲われたあの時……私の命を守ってくれて……そして言われた……

 

 

不必要な力を求めるなって……

 

 

そして、ジンヤさんの過去を聞いて……私もお願いした……

 

 

今を……私を見て欲しいって……

 

 

互いに約束し、それからジンヤさんが、私に最後にお願いした事……

 

 

心の片隅でもいいから、俺の無事を。祈っていてくれ……

 

 

そして私はそれを承諾し、ジンヤさんがどこかに行くときは、必ずジンヤさんの無事を祈っていた……。

 

今までこれだけのお願いを、ジンヤさんは私にお願いしてきた。

でもそれはほとんどがクエストに直接関係ない物ばかりで……。

私は直接役に立つ事が出来なかった……。

それどころか、あの古龍種オオナズチが襲ってきたときは、足手まといにしかならなくて……。

 

 

「……どうだ?」

 

「え……えっと」

 

 

あまりにも突然の事で、私は何が何だかわからなかった。

だけど、ジンヤさんが私を必要としている事だけはわかった。

 

 

「一応リオスさんには了承をもらいました……」

 

「……お父さん?」

 

 

ジンヤさんにそう言われて、私はジンヤさんの隣に座っているお父さんへと、目を向ける。

 

 

「……お前が決めるといい」

 

 

若干硬い表情だったけど、そう言ってくれた……。

そして、私は私の隣に座っているお母さんへと目を向ける。

お父さんと同様に、少し複雑そうにしていたけど、お母さんは笑ってくれた。

 

 

「あなたが決めるといいわ。レーファ」

 

「……お母さん」

 

 

お母さんも、私の思いを……くみ取ってくれた……。

 

答えは最初から決まっていたような物だった……

 

 

 

 

「……やります。やらせて下さい」

 

 

 

 

そうして今……私はこうして霊峰のベースキャンプにいる……

 

レグルお兄ちゃんについてきて……ここまで運んでもらった……

 

足手まといでしかない私を庇って怪我までして……

 

怪我人はレグルお兄ちゃんだけだったけど、みんな疲労しきっていて……

 

それでも自分のやることをするために、数人だけベースキャンプにいて、上で作業が終えるのを待っていた……

 

私はまだ、何もする事が出来ないのでじっとベースキャンプで自分の出番を待っていた……

 

 

 

 

すごい風……

 

 

 

嵐が吹き荒れていた……

 

一週間経っても衰えるどころか、より勢いを増して、大陸全土を覆い尽くしてその猛威を振るっている……

 

 

これを……龍が起こしているの?

 

 

そう言うけれど、信じられない、信じられるはずもない……

 

これほどの嵐を……天災を自ら操る龍だなんて……

 

もはや想像の埒外……モンスターなんて存在では収まりきらない……

 

 

まるで……神様その物だとでも言うように……

 

 

そして……そんな存在に……

 

 

 

 

挑んでいるんですか……ジンヤさん?

 

 

 

 

私はその姿を見ていないからわからないけど……宙に浮く嵐龍を引きつけるために、今もこうしてジンヤさんは戦っているはずだった……

 

今回の作戦では……この悪天候下での作戦のために、みんなが危険にさらされているけど……

 

もしもこんな嵐を呼び起こす存在と戦っているというのならば……

 

 

 

 

身を危険に晒すではなく、もはや「死」そのものに身を晒しているのと同じ事だった……

 

 

 

 

でも……ジンヤさんは大丈夫……

 

そう思えてしまう……

 

そう信じられる……

 

そう……信じさせてくれる……

 

 

 

 

……ですよね。ジンヤさん

 

 

 

 

そう心からジンヤさんの無事を祈っていた……時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで……私のその祈りに返事をするように……ジンヤさんの声が……聞こえた……

 

 

 

 

「!? これは……声か?」

 

「馬鹿な!? この暴風の中聞こえてきているというのか!?」

 

「いやさすがに違うだろう?」

 

「……そうだな」

 

 

 

 

みんなも驚いていた……

 

そして直ぐにそれが錯覚だと思い直している……

 

だけど……私は違った……

 

 

 

 

……ジンヤさん

 

 

 

 

聞き間違えるはずがなかった……

 

ジンヤさんと会ってから、ずっと……誰よりも近くで、あの人の声を聞いてきた私だったから……

 

だからそのジンヤさんに、私はそっと心の中で応援する……

 

ここに至っても、応援する事しかできない自分が悔しかったけど……私は私が出来る事を全力でやるだけだった……

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

「準備できました! いつでも撃てます!」

 

 

 

 

私の出番が来た事を告げた……

 

 

「さぁ! これで全ての準備は整った! あとはあいつがここまでやってこれるかどうかだが……それはあいつに任せるしかない!」

 

 

レグルお兄ちゃんがみんなを鼓舞するように、声を張り上げている……

 

私はそれを……穏やかな気持で聞いていた……

 

 

 

 

「さぁ、全ての準備が終わった事を……あいつに伝えてやってくれ……」

 

 

 

 

ジンヤさんに、直接役に立てる時だった……

 

ジンヤさんが、クエストに直接関わる事を……そしてそれ以上に、私にこんな大役をお願いしてきてくれた……

 

だから、私は頑張る……

 

ジンヤさんへとの信頼と、想いを……この祈りに込めて……

 

 

 

 

「レーファ! 後はお前の仕事だ!」

 

 

 

 

レグルお兄ちゃんがそう言ってくる……

 

私はそれに……力強く頷いた……

 

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

そして返事をして……私は胸元の首飾りを……リオハートの紅玉を手に持った……

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンヤさん……準備が出来ました!

 

 

 

 

 

 

 

 

私のその祈りに応えて……紅玉が薄く光る……

 

みんながそれに驚いていたけど……それに構う余裕は私にはない……

 

ただ無心になって……祈っていた……

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

了解した!!

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

ジンヤさんからの返答が来た……

 

 

 

 

「返事が来ました!! 直ぐに来ます!」

 

「よし! 上にいる奴らと合流してこい!」

 

「了解!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての準備を整えた……

 

そして……それが決行される……

 

村の全ての人間達の想いを一身に背負って、彼らは暴風雨と戦い、勝利した……

 

作戦準備が完了した事を……告げる祈り……

 

そしてその返答が来たとき……

 

ついにユクモ村を、大陸を賭けた戦いが幕を開けるのだった……

 

 

 

 

 




次にでてくるのは~○○武器ランキングでもおそらく上位に入る武器だと思われ……

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