リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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火山!
そこはすべての生物の存在を否定する獄炎の地!
ゲームだとクーラードリンク呑んだだけでいけるけど……私の作品ではそんな設定はございません!
がっつり火山装備しないと登山できません!
火山内部で戦闘とかもってのほか!!!!


をご承知の上お読み下さい……



雌雄同体

「火山調査?」

 

「うむ。そういう依頼がギルドナイトから来ている」

 

 

本日、いつものように起床していつものように食事、いつものように修行、いつものように準備をすませて、いつものようにクエストをこなし、いつものように夕食、いつものように風呂、いつものように就寝しようとしていたら、なんとデウロさんが直接俺の家へと赴いてきて、そんな事を言ってきた。

前回のクシャルダオラからの戦闘からまだ数日しか経っていないというのに、また普段とは違うことを言ってくるのだから、何かあるのかと思ってしまうのは仕方のないことだと思う。

 

 

まぁ最近「いつも」っていうのがいろいろと崩れてきているんだけどね……

 

 

内心溜息を吐きつつ、俺はギルドナイト出張所のデウロさんの話に耳を傾けた。

 

 

「何でも最近火山の活動が活発になっているからそれの調査をしてきて欲しいんだが……」

 

 

説明を聞いていると、火山以外でも異常気象が起こっているそうだが……他の場所と違い行方不明になったのは、火山だけだそうだ。

まぁそれはいいとしよう。

だが……

 

 

「いや調査って……何故俺になんです?」

 

「気球だとあまり低空で調べることが出来ないんだ。そこで火山でも活動できる君のリオレウス、ムーナ君を使って調査してきて欲しいとの事だ」

 

「ムーナでですか?」

 

 

ムーナで調査をしてきて欲しいというのは意外だった。

恐怖の代名詞である飛竜種のため、日中はあまり空を飛ばせることは出来ない。

仮に近隣の村にムーナで行こう者ならパニックになりかねないからだ。

だからムーナには心苦しい想いをさせつつも、夜の短い間での散歩しかしていないのだが……。

 

 

「ムーナで行ったらパニックになると思うのですが?」

 

「こちらで進行ルートの村々には危険がないように今夜中に通達しておくとのことだ」

 

「……火山での活動は、ムーナが耐えられても俺が耐えられないかもしれないのですが?」

 

「火山活動用の防具はきちんと用意する。まぁ火山の活発具合がどんな感じか確かめてきて欲しい。それとこれは極秘なんだが」

 

 

あ、やっぱり……

 

 

俺にわざわざ調査依頼をすると言うのだから何かはあると思った。

そうでなければわざわざこんな夜にデウロさんが単身で出向いてくるわけがない。

俺は盛大に溜息を吐いてデウロさんの言葉を待った……。

 

 

「これはまだ公表していないんだが、最近火山に調査に向かった気球がいくつか行方不明になっている」

 

「気球が?」

 

「そうなんだ。少し前に一つの気球が帰ってこなかったために次の日にそれの探索にいくつかの気球が向かったが、こちらも帰ってこなかった。その行方不明の原因を調べて欲しい。無駄に不安を煽るだけだから箝口令を敷いていてまだギルドナイトにしか知られていないのでこの件に関しては口外しないで欲しい」

 

「それはしませんが……」

 

 

しかし……火山調査か……

 

 

火山。

極熱の溶岩が流れるその地形は、普通ならば入るどころか近づくことさえ出来ないフィールドだ。

そこで活動するためには特別な装備が必要になる。

グラビモスの甲殻を薄く加工し、氷結晶をフルフルの皮で挟んだ物を中に敷き詰めた物を装備する。

それがないとマグマの熱で体が焼けこげてしまうのだ。

それでようやく活動が出来るのだが、そんな物を着ていたらとてもではないがまともに動く事なんて出来るわけがない。

火山は極地の中でもトップクラスで危険な場所なので、火山でのクエストはほとんど採取が基本となる。

重たい装備を装備していては武器を振るうのも一苦労だからだ。

 

 

しかし火山で気球が行方不明……

 

 

別段変わった事でもない。

技術がまだそこまで発達していないので、墜落する事だって十分にあり得るのだ。

実際今までもいくつか観察隊が帰ってこなかった事もあった。

だが……直感が告げていた……。

 

 

事故ではないと……

 

 

これは俺しか知り得ない情報だが、オオナズチの言葉を信じるのならば古龍種はオオナズチを除きで三匹。

そして俺が今まで出くわしたのは、オオナズチとクシャルダオラの二匹だ。

つまりオオナズチの言うとおりならばまだ二体古龍種がいることになる。

何故か古龍であると……俺は確信していた。

 

 

火山だからどこまでやれるかわからないが……

 

 

古龍種は基本的に化け物じみている。

普通のハンターでは太刀打ちすら出来ないだろう。

ならば俺が行くしかない。

 

 

「……了解しました。明日ラティオ火山に向かって調査をします」

 

「……すまない。ジンヤ君」

 

 

 

 

翌日。

起床時間はいつもと同じだが、ラティオ火山に行く都合上いつもよりも早く支度を済ませなければならない。

修行は少々軽めに行い、朝食の支度をしてそれを食し、ムーナの騎乗道具の具合を再度確かめる。

 

 

……問題はなさそうだな

 

 

昨夜にもチェックしたのだが、こういう事はやり過ぎるという事はあまりない。

特に問題がない事を確認すると、早めの朝食を食べているムーナに近づき、その頭を撫でる。

 

 

「クォ?」

 

「今日はよろしく頼むぞムーナ。さすがの俺もマグマに落ちたらアウトだから、落ちないように留意してくれ」

 

「クォルルル!」

 

 

いっている事がわかっているのかわかっていないのかは不明だが、俺の言葉に反応し、元気な声を聞かせてくれる。

まぁ今更この子が俺の言葉を完全に理解していると言われても全く不思議に思わないが。

俺の言いつけを破ったことは今のところ一度もないのだ。

そして次に俺の武器装備品の点検だ。

といっても今回はムーナに騎乗しての活動となるので、あまり重装備にするわけにもいかず、もっと言えばなるべく手がふさがらないようにしないといけない。

 

 

となると……狩竜はお預けかな?

 

 

その長さ故に手で常に持っていないといけない狩竜は今回持って行くのは少々厳しい。

見慣れないモンスターがいるという事で古龍が出てくる可能性が高い以上、朧火を顕現したことのある狩竜でいきたいのだが……今回はやめておかないといけないだろう。

そして重装備仕様となるので数も持って行けない。

 

 

ということを考えて本日の装備品は……

 

 

 

 

『……連れて行ってはくれまいか?』

 

 

 

 

そんな声が聞こえる。

しかもこれは俺だけでなくムーナにも聞こえたようで、ムーナも声がした方……俺が武器をまとめておいている方向へと顔を向けて警戒している。

突然のことで少々驚いたが、それでもその声の主が誰のなのかわかっていたので、俺は特に慌てることなくそれに歩み寄った。

 

 

ラオシャンロンより表れた、いにしえの双剣に……

 

 

「何処に連れて行けと?」

 

 

『昨夜の話、聞かせてもらった。ラティオ火山に行くのだろう?』

 

 

「……そうだが?」

 

 

『気球が行方不明……私に心当たりがある。少しは力になれると思うのだが……』

 

 

心当たりね

 

 

『それに、お主もわかっているはずだ……。調査で終わるわけがないと……』

 

 

いにしえの双剣が言うように、俺はこれが調査で終わるとは思っていなかった。

ここ最近、古龍種に出くわすこと出くわすこと。

しかも三匹中、二匹は俺目当てだ。

まぁ俺と言うよりも俺の中にあるラオシャンロンの力に用があるのだが。

 

 

「……それもそうだが……お前はお前の目的を果たしたいだけだろう?」

 

 

いにしえの双剣の意見はもっともであり、俺も同感だったがそれ以上にいにしえの双剣には目的があった。

古龍を憎む……その憎念。

何があったのかは俺にはわからないがそれでもこいつの目的は古龍を殺すことなのだろう。

だからこうして俺に頼んでまで、火山へと着いてこようとする。

それがある種の信憑性を与えていた。

 

 

さてどうするか……

 

 

それはわかっているが、特に持って行くのは問題なかったりするのである。

狩竜が持って行けない以上、武器として真っ先に候補に挙がるのは夜月だろう。

一番の相棒は腰に差すことも出来るので当然携帯性に優れる。

 

 

まぁ元々携帯性を重視して開発された得物だからな

 

 

騎乗することも考えて夜月と脇差し、花月のセット、スローイングナイフを多めに持っていこうと思っていたのだが……それだけで心許ないのは事実だった。

 

 

「連れて行くのはやぶさかではないが……条件がある」

 

 

『……聞こう』

 

 

「俺の言うことを聞くことだ。出来ないならばおいていくか溶岩に投げ捨てるぞ?」

 

 

『……よかろう。汝がそれを望のならば』

 

 

一応そう言ってくるがあまり信用できない。

 

 

でもまぁ、一応そう言ったので信じておくことにしよう

 

 

そう思い、俺はいにしえの双剣の状態を確認するが……特に異常は見あたらなかった。

それが終わると俺は持っていく消耗品のチェックを行う。

飲料水にクーラードリンク、回復薬、耐熱耐火仕様の地図(レウスの皮使用)等々。

それの確認が終わると、リーメとフィーアがやってきた。

 

 

「ジンヤさん、おはようございます。……って今日は随分早いですね?」

 

「おはようリーメ。まぁちょっとな」

 

「……どこか行くのか?」

 

「うむ。ちょいとラティオ火山に。すまないがその都合上、修行は今日はなしな。夜遅くに決まったために、伝えられなかったんだ。すまない」

 

 

夜分に決まったためにリーメもフィーアも既に家に帰って寝ていたのだ。

起こしてまで言うのは悪かったと思ったのと、文字を書けないので手紙などをおいていくことも出来ないのだ。

そう言いながら俺はムーナに騎乗道具をムーナに取り付けていく。

その様子を見て、当然二人が黙っているわけもなく……。

 

 

「ムーナで行くんですか?」

 

「進路上の村なんかがパニックになるぞ」

 

「それに関しては問題ないよ」

 

 

二人の質問攻めが始まった瞬間、デウロさんが俺の家に入ってきた。

それを見て二人が驚く。

 

 

「デウロさん!?」

 

「……歩けたのか?」

 

「え? そこなのかい? ……いやまぁいい。とりあえず進路上の村には既に朝早くから伝令が行っている。ムーナ君とジンヤ君を見れば大丈夫だ。それに信号弾もジンヤ君に撃ってもらう」

 

 

確認に不備があった場合下手をすると撃たれる可能性がある。

それを防ぐために俺が信号弾を撃つ手はずになっていた。

もちろん既に準備をしてある。

最終的に俺の本日の装備は夜月、花月、いにしえの双剣、スローイングナイフ、月火となった。

 

 

「しかし何でムーナで火山に行くんですか? ただのクエストなら気球で行けばいい端じゃないですか?」

 

 

信号弾を撃つ。

そこまでしてムーナで行く理由がわからないリーメが疑問の声を上げる。

フィーアから何も言ってこないところを見ると、どうやらフィーアには話が伝わっているようだ。

この中では唯一ギルドナイトに所属していないので、リーメも箝口令の対象になるのだろう。

火山でいくつかの気球が行方不明になっているのは知らないのだろう。

 

 

「今回は少し特殊でな。ムーナで言ってちょいと低空での観察を行いたいらしいから」

 

「……そうなんですか?」

 

 

さすがに疑わしいと思ったのか、リーメが疑いの眼差しを向けてくるが……そうは言ってもどうしようもないとわかっているのかリーメは素直に引き下がってくれる。

そうして俺はムーナに騎乗道具を取り付け終える。

 

 

「おはようござい……ます?」

 

 

それとほぼ同時にレーファが俺の家へと入ってきて、珍しい顔であるデウロさんがいることに驚いて最後が疑問系になった。

 

 

「おはようレーファちゃん」

 

「で、デウロさん。おはようございます。どうしたんですかこんな朝早くから」

 

 

リーメ同様、事情を知らないレーファからしたら不思議だろう。

普段出張所のカウンターで飲んだくれているデウロさんしか見ていないのだからなおさらだ。

そんなレーファに苦笑しつつ、俺は一応事情を説明した。

 

 

「火山ですか?」

 

「あぁ。まぁそう言うことだからちょいと行ってくるな」

 

 

有無を言わさず俺はそう言ってすぐにムーナに騎乗した。

ムーナも既に行く気満々だ。

そうして騎乗し……レーファに目を向ける。

 

 

「すまないがレーファ。色々とよろしく頼むな」

 

「……はい、わかりました」

 

 

そう言って微笑んでくれる。

俺はそれに感謝しつつ、リーメ、フィーア、デウロさんにも声を掛けると、ムーナと共に、朝焼けの空へと舞い上がっていった。

 

 

 

 

そうしてとりあえずラティオ火山のベースキャンプの一つにムーナが着陸する。

そしてそこには既にギルドナイトの隊員がいた。

その隊員に火山用装備を受け取り、それを着る。

それに合わせて俺は得物装備位置を変える。

ほぼ全身をくまなく覆われたので、いつものように夜月と花月を腰に差すことも出来ない。

昨夜作っておいた耐熱耐火に優れるリオレイアの毛を結って編んだ紐を夜月、花月につけ、それを肩に通す。

いにしえの双剣も、同じようにリオレイアの毛で編んだ布のシースに入れ替えてある。

とりあえず特に抜刀などに問題がないことを確認し、その状態でムーナに騎乗しても特にムーナが嫌がらなかったので大丈夫だと判断し俺はムーナで羽ばたき、火山奥地へと向かった。

……のだが

 

 

……特に何も感じないな

 

 

意外なことにムーナでマグマの上を飛翔しても熱くなかった。

確かにそこそこの上空を飛んでいるとはいえ全く熱を感じないほど距離があるわけでもないのだが……。

そこで思い出すのはクシャルダオラの単語。

 

 

【……そうか。その力、それは霞龍の『霞皮の護り』。なるほど……すでにやつはお前に敗れていたのか】

 

 

己が発した凄まじい暴風を受けても吹き飛ばなかった俺を見て発した言葉。

オオナズチを討伐したことによって得たその【霞皮の護り】とやらの効果を推測する。

 

 

1・暴風でも吹き飛ばない

2・毒関係はほぼ無効

 

 

と思われるのが効果である。

それを考えると鋼龍クシャルダオラを倒してその時に得たあの、鋼色の光の玉。

あれにも何かしらの効果がありそうだと思えるのだが……。

 

 

【その通りです】

 

 

俺が一人でぶちぶちと考えていると、首にかけられたたてがみの首飾りが反応する。

前回の雪山で闘い、その後クシャルダオラとの戦闘に連戦になったとき、力を貸してくれた精霊、キリンの化身だ。

戦闘が終わった後も、たてがみの首飾りとして俺とともにいる。

 

 

やはり何か効果が?

 

【古龍種関係を倒し、その力を得たあなたにはその古龍特有の力が宿ります。まだ魔力の扱いが未熟なあなたには十全に使用することは出来ませんが、それでもいくつかの能力はあなたの魔力使用可能量でも使用できます】

 

ではこのマグマの傍にいても熱くない能力ってのは……

 

【クシャルダオラの『鋼殻の護り』です。空気の壁を作ることによって温度などを遮断することが出来ます】

 

 

おぉなんと便利な……

 

 

となるとマグマの暑さを感じないのはその【鋼殻の護り】の効果と言うことになる。

まぁそう言ったなにかしらの力が働いていない限り、いくら火山用の重装備をしているとは言え、全く暑さを感じないというのはおかしいからだ。

俺はムーナに頼んで下に降りてもらい、装備を一旦外してみた。

 

 

……うわ、怖いくらいに熱くない

 

 

傍に明らかに千度を超えていそうな熱源体があるというのに全く熱いと感じないのは……逆に怖い。

まぁこの能力が無ければ一瞬で焼けこげているが。

重い装備を一応物陰に隠しておく。

後で回収できるのならば回収した方がいいだろう。

 

 

【ちなみにあくまでも温度を感じないだけであって、仮にマグマの中に入れば一瞬で燃えますよ】

 

りょ~かい

 

 

俺の力が弱いからか、はたまた【鋼殻の護り】の力不足か(恐らく前者)……万能というわけにはいかないようである。

まぁそれでも普段通りの格好で探索できるというのは非常にありがたい。

紐で背中に背負っていた夜月と花月をいつものように左腰に差し、いにしえの双剣も普段のように背中に柄が下に来るようにして取り付けて、俺は再びムーナにまたがり、首に掛けた双眼鏡を使ったりして周囲を散策する。

ちなみにこの双眼鏡の紐もリオレイアの素材で結った紐だ。

麓付近ないし中腹辺りまではギルドナイトの隊員達に任せ、俺は普通では到達することすら困難の奥の方へと、ムーナと共に向かっていった。

 

 

 

 

~???~

 

 

【どうやら来たようですよ】

 

【ほう。まさかあちらから出向いてくれるとは】

 

 

火山のとある火口にいる二つの気配。

それはこちらへと近寄ってくる、蒼い呪いを帯びた人間の気配を当然のように察知していた。

それを注意深く探ると、それだけでなく飛竜種、恐らくリオレウスに騎乗していると思われる。

 

 

【なるほど。こちらに来る速度が速いと思えばそう言うことだったか】

 

【……行きますか?】

 

【……無論だ】

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

今の所異常なし

 

 

火山の活発の調査も含まれていたので、再び耐火耐熱のリオスウスの皮を使った特性の紙に、日本語で真面目に記録していたのだが……(後々リーメなんかに翻訳してもらう)。

 

 

の……だが……

 

 

「ゴワァァァァ」

 

「ピギャアアァァァ」

 

 

何とかならんのか! この邪魔なモンスターわ!

 

 

ムーナで飛行中……。

火山奥地へと入ってきたら、体よりも大きな翼と、長い尻尾をたれさせる翼竜……蛇竜ガブラスが、俺とムーナに群がってくる……。

毒液を吐いたり、その長い尻尾で俺たちを攻撃してくる……。

俺はそれを夜月で迎撃したり、ムーナの気を込められた火球にて迎撃しつつ、さらなる奥地へと進んでいく……。

 

 

まぁ……俺は毒液程度を吐かれても……俺には全く通じませんがね……

 

 

霞龍、恐るべき毒を使う古龍、オオナズチの力を得ている俺には……体外の毒素に関しては耐性がある。

あの恐るべき毒を吐く敵の毒が効かない以上、それ以下の毒である、ガブラス程度の毒が効くわけがない。

おそらくだが……オオナズチ以上の毒素は無い……。

だから一番の問題は……尻尾と体当たりである。

 

 

「邪魔だ!!!!」

 

 

ムーナより飛び上がり、俺はガブラスを斬り捨てる。

そして気の足場を使用し、宙を飛んでムーナの背へと戻る。

 

 

気の足場……

 

 

残念ながら俺の実力では一度の足場形成しかできない。

親父やじいさんであれば、無限とも言える足場形成をすることが出来るのだが……。

 

 

まだまだ修行不足か……

 

 

足場を形成できれば、ムーナに頼らずとも、全て俺が駆逐するとことができ……

 

 

「ギャァァァ」

 

「ピギィィィィ!」

 

 

そうして考え事をしていると……ガブラスが引いていった……。

まるで何かを恐れるかのように……。

 

 

……何?

 

 

 

 

まるで……というかそのままで……何かから逃げ出したとでもいうように……。

 

 

 

 

そしてその答えはすぐに訪れた。

眼前……数秒後にはムーナが進んでいるであろうその場所に、突如として魔力の塊が出来た。

 

 

「!!! ムーナ!」

 

 

それに気づいた瞬間、俺は手綱を勢いよく下に降ろすと共に、叫んだ。

その意図を完全に察し、ムーナが急降下する。

その一瞬後……

 

 

ボォン!

 

 

さきほど魔力の塊が出来た場所が、激しい爆発を起こした。

 

 

ぐっ!

 

 

どうにか回避できたが、爆風に煽られて体に痛みが走る。

それはムーナも同様らしく、若干バランスを崩すが、どうにか持ちこたえてくれて地面へと不時着した。

俺を気遣ってか溶岩ではなく地面に着地してくれたので、この子は本当にいい子だと思う。

体に異常がないことを確認し、ムーナにも問題がないことを確認すると、俺は夜月を抜刀し、辺りを見渡す。

今の爆発に呼応するように、先ほどまで穏やかとも言えた雰囲気が一変する。

先ほどまで静かだったマグマが激しく流動し、凄まじい熱気を放ち、さらにはいくつかの場所で吹き上がって宙を舞う。

 

 

やっぱりお出ましか……

 

 

魔力を使った攻撃であるならば、間違いなく古龍種がいるはずだ。

それに仮に魔力がなくてもわかった。

 

 

リィィィィィィン!

 

 

しきりに、背中に背負う『いにしえの双剣』が鳴くのだ。

いや鳴くのではない。

これは怨嗟の声……。

相手を……敵を殺したいと、ただ恨みを晴らしたいというその怨念が、剣を激しく振動させる。

 

 

【よくぞ紫炎の爆発を、気づいてかわしたな】

 

 

そして予想通り思念が届く。

そちらの方……声がしたほうへと向き直るとそこに、二つの獅子がいた。

 

共通するはその体躯

 

鱗に羽毛

 

四肢に生えた爪は鋭く、犬歯はむき出し

 

体と同じほどの巨大な翼を背中から一対携える

 

違いは体色とその額に生える角

 

右に佇む群青の獅子は額から己の顔の半分はあろうかという冠のような角

 

そしてもう一匹

 

凄まじい威圧を纏う紅の獅子は一対の太く気高い太巻き角を……その額より携えていた

 

 

【我、紫炎妃龍……ナナテスカトリ】

 

【我、紅炎王龍……テオテスカトル。貴様に宿るラオシャンロンの力を貰いにきた】

 

 

それらはいっそ堂々と口上した。

総身に宿る裂帛の気配。

凄まじい……クシャルダオラの力強かった気配とはまた少し違った気配。

むろんこの炎王龍も凄まじく強い気配だが、こちらにはどこか神々しさがあった。

 

 

帝王に帝妃

 

 

そんな感じだろうか。

 

 

【その格好でこの獄炎の大地にいるという事は……】

 

【……予想通り、クシャルダオラは貴様に敗れたようだな。そしてクシャルダオラとまともに戦えたという事は、オオナズチも貴様に敗れたと見るべきだろう。やれやら、どちらも所詮は雑魚か】

 

 

 

 

『炎王龍!!!!』

 

 

 

 

敵が俺を冷静に分析していると、俺の背後から凄まじい恨みを込めた声が上がった。

敵の姿を視認し、いにしえの双剣が唸っていた。

 

 

■い!

 

 

目覚めたあの時……クシャルダオラと相対したときとは比べものにならない怨み

 

 

■い!

 

 

まるで、仇敵を……長年の憎き敵を目にしたかのように……

 

 

『憎い! 貴様が、貴様らが!』

 

 

【ほう?】

 

 

敵もそれに気づき俺の背に注目した。

正しくは俺が背負う双剣に……。

 

 

【なかなか奇怪な剣を背負っているな。使者よ】

 

 

 

■■■■■■■■■!!

 

 

紅の獅子、テオテスカトルが侮蔑の言葉を放つ。

それを受けたいにしえの双剣がさらに憎悪を高めていく。

 

 

【懐かしいですね。随分昔に私が殺した大剣使いの相方ではないですか】

 

 

知り合い?

 

 

剣と古龍が意外にも互いが互いのことを知っていることに少々驚く。

しかも言っている内容がクシャルダオラとほとんど一緒だ。

 

 

「知り合いなのか?」

 

【知り合い……だと?】

 

 

思っていたことがそのまま口から出ていた。

そしてその言葉に、敵が失笑した。

 

 

【笑わせてくれる。確かにそいつに覚えはあるが知己であるものか。我らにかすり傷程度を負わせた……否、負わせてやった程度で我らと闘えると豪語していたような愚か者と】

 

 

『……!?』

 

 

その敵の言葉に、いにしえの双剣が戦慄する。

憎しみだけでなく、その言葉が双剣に取って驚くべき真実だったことを告げている。

 

 

……負わせてやった?

 

 

【確かにあの時、私の体をあの大剣が傷つけたのは事実。だがあんな物はかすり傷にもならん物だ。それで満足とは……なんと愚かな】

 

 

『……ぁ』

 

 

その言葉を聞いて、いにしえの双剣が押し黙った。

 

 

【確かに竜人族とはいえ人間が造りし剣で我らを傷つけたことは褒めてやろう。だが所詮は人が造りし物。魔を切り裂けても、我らの体を切り裂くにはあまりにも貧弱だ】

 

 

その言葉に絶望したのか、いにしえの双剣が沈黙した。

そして……その想いが……俺の心に漏れ出てきた……。

 

 

 

 

……村を滅ぼされ、妻を、娘を失った我ら二人。

村が襲われた時私と……私の親友だったあいつは古龍に斬りかかったが、近寄ることも出来ず、それでもどうにか近寄り斬りつけても、敵の体に触れることも出来なかった。

その時古龍である炎王龍を恨むよりも己の無力さを……自分たちが作った武器の弱さを呪った。

それから数年を掛けて作り上げた封龍剣【絶一門】。

それによってようやく敵の体に触れられるようになるがそれも無惨にも砕かれてしまった。

だからそれ以上の武器を作るために命をかけて作ったのだ。

そしてそれが完成した。

 

 

双剣 封龍剣【超絶一門】

 

大剣 封龍剣【超滅一門】

 

 

どちらも生産量が凄まじく稀少な……オリハルコンという特別な鉱石で生成し、それに我らの恨みを込めながら鉱石を打ち、完成した。

龍の目のような黄色い装飾、鎬を境目に、剣全体を青緑色の線を剣全体に走らせるのが特徴な私の双剣。

巨大な板のような剣で、その剣先に青白く輝く装飾を施し、それが剣全体を張り巡らせるように剣を飾り、そして剣の腹に私たちの想いをつづった大剣。

それを持って戦いを挑み人類で初めて敵を傷つけることに成功した……。

 

 

だが、それだけだった……

 

 

初めて傷を負わせたことに歓喜していた私たちを嘲笑うかのように、敵は友の剣、封龍剣【超滅一門】を砕いた。

そしてそれと共に友をも爪で切り裂き……帰らぬ人となった。

そのすぐ後に私も……友の後を追い私も死んだ。

 

 

その果てなき恨みを、胸に抱いたまま……

 

 

 

 

 

 

 

 

体もいらぬ!

 

 

 

 

命もいらぬ!

 

 

 

 

名もいらぬ!

 

 

 

 

全てを捨てでも……自分が打った剣に怨霊としてしがみついてでも……

 

 

 

 

 

 

やつを殺す!!!!

 

 

 

 

 

 

……なるほどね

 

 

俺はいにしえの双剣の恨みの想いの深さを、何故か流れてきたいにしえの双剣……かつての竜人族の想いを垣間見た。

何で記憶が流れてきたのかとか色々と突っこみどころは満載だが今はそんなことどうでもいい。

 

 

【ふん。下らぬ時間を過ごしたな。さて使者よ。その力、我に譲ってくれる気はないか?】

 

「はっ! 冗談言うな」

 

 

紅の方が俺に侮蔑を露わにしながら声を掛けてくるのを、俺は鼻で笑った。

 

 

【まぁそうだろうな。下等な人間にそう言うのは無粋であったか……】

 

 

やれやれ。面倒な相手だな

 

 

どうやら自分よりも下の存在を見下すような敵であるらしい。

会話をすると俺がイライラするタイプだ。

正直あまり話したくないので、今すぐにでも斬りかかりたいのだが……それでも会話を続ける必要があった。

 

 

……どうする

 

 

今回のこの敵……古龍種の特殊能力、今回の場所を鑑みればどう考えても敵は炎ないし溶岩とかを操ることが出来ると思われる。

それに対して俺はこんな環境下ではまともに活動できない。

はっきり言うが……不利な度合いで言えば前回のクシャルダオラよりも遙かに劣悪だ。

何せマグマだ。

触れた瞬間に消失するだろう。

 

 

さ~てどうしよう……

 

 

幸いにしてある程度地面がある場所に不時着できたのでまだ何とか戦闘は出来そうだが……。

さりげなくじりじりと後退していき、ある程度距離が出たら全力で逃げたいのだが……いかんせんムーナもいる。

俺一人ならば逃げるのもそこまで苦ではない……

 

 

「ムーナ。お前はひけ」

 

「クォルル!」

 

 

嫌だ! っていっているようだ。

だがそれを認めるわけにはいかなかった。

眼前の敵は……とてもではないがそう簡単な相手ではないからだ。

 

 

「すまんがムーナ。お前がいては俺が全力を出せない」

 

 

ムーナは野生で育ったわけではない。

本能で狩猟の事はわかっているだろうが、そう言うのは徹底的に禁止していた。

というか家から勝手に出て行く事すら許可していなかった。

そんなムーナが戦闘できるわけがない。

単体で行動させた事がない故に、心配だったが……ここにいればそれ以上に危険だ。

とりあえずこの場が危険という事を、中腹辺りで調査を行っているギルドナイト隊員に知らせるために、俺は月火に黒い煙の信号弾を装填し、空へと向けて撃つ。

 

 

【……ほう】

 

 

その様子を、敵は高台から見下ろしていた。

何発か放ってから、俺はムーナの首辺りに月火を縛り付けてムーナを促す。

 

 

「麓のベースキャンプで待っていてくれ。絶対に戻るから」

 

「クォルルルル」

 

 

寂しそうに鳴いていたが、しかし自分が邪魔だと自分でもわかっていたのか、ムーナは翼をはためかせて麓へと向かっていった。

それを見届けて俺は敵へと……二匹の炎王龍へと向き直った。

 

 

「優しいな。ムーナを逃がしてくれるとは」

 

【ふん。人間ごときに飼われている家畜のような存在の竜に用はない】

 

「……てめぇ」

 

【無駄話はこれくらいにして……始めましょう】

 

【……そうだな。では使者よ。貴様の命をもらい受けるぞ】

 

 

 

 

~ギルドナイト隊員~

 

 

熱い……

 

 

俺は体から吹き出す汗を不快に思いつつ……そしてそれ以上に体を覆う熱さに思わず唸った。

この獄炎の地を探索するために考案されて造られた装備を身に纏っても、それすらも上回る究極の熱が自身の体を覆う。

だがそれに文句をいうやつは、一人もいなかった。

気球に乗って火山観測に向かった友が、未だ帰ってきていない。

事故があったのか、はたまた墜落したのか……。

仮に火山に墜落したならば絶望的だ。

だがそれでも痕跡は残っているかもしれない。

遺品が見つかるかもしれない。

だからこうして火山地方ギルドナイト隊員はほとんどが、この探索作業を行っていたのだが……。

 

 

パーン

 

 

ん?

 

 

必死に獄炎の大地を探索していたら遙か彼方から銃声がした。

そちらの方へと目を向けると少し先でいくつもの黒い煙が、まっすぐに空へと軌跡を描いていた。

 

 

危険信号?

 

 

その黒い煙は緊急事態、または危険が迫っているのを知らせる合図。

それを見た瞬間に、火山が活動し始めた。

 

 

「まずい!?」

 

「総員退避!」

 

 

火山活動に伴い、探索作業を中断し、皆ベースキャンプへと急いで引き上げる。

俺も避難する……だが少し気になった。

 

 

なぜ奥の方しか活動しない?

 

 

火山奥地……煙が上がったほうしか活動していないのが気になった。

そして奥地は活動しているのにこの辺のマグマはほとんど流動すらしていない。

 

まるで何かがマグマを操っているかのように……

 

 

そんなバカな想像をしてしまうほどに、火山は異様な静けさを保っていた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

戦闘は……辺り一帯を吹き飛ばす、巨大な爆発から始まった。

 

 

■■■!!

 

 

なっ!?

 

 

一瞬にして俺と敵二匹との中間辺りに魔力を溜め、それを爆発させていた。

突然のことすぎて咄嗟に夜月を眼前に突き出して|刃気(じんき)を解放することしかできなかった。

 

 

キィン

 

 

そしてそれと同時に、キリンのたてがみの首飾りも青白く光った。

凄まじい爆発は、それ相応の爆音と衝撃を生み出した。

その衝撃に耐えられず、俺は吹き飛ばされ、壁に強かに叩きつけられた。

幸い、マグマには落ちなかったが。

 

 

「ぐぉっ」

 

【大丈夫ですか!?】

 

 

爆発が収まり壁に張り付いていた体を、なんとか引き剥がして地面に膝を突く。凄まじいとかそんなレベルじゃなかった。

生身でくらったら間違いなく一瞬で消失する。

灰すら残らないだろう。

 

 

【怪我は?】

 

大丈夫だ。すまない助かった

 

 

語りかけてきたキリンに礼を言う。

|刃気(じんき)だけでは防ぎきれなかっただろう。

今命があるのはキリンのおかげだ。

 

 

【その程度か?】

 

 

そんな俺を見て、紅炎王龍がさらに見下しながら俺を見る。

紫炎妃龍は何もせず、こちらを見据えているだけだった。

俺は立ち上がりまだまだ余裕であることを示し、夜月を納刀した。

それに敵が訝しむ仕草を見せたが、俺は気にせず背中に装備した一対の剣を抜く。

 

 

【貴様……】

 

【私に敗れた相方の剣で闘うと?】

 

 

確かにこいつは一度敗れた。

しかしそれは無理からぬことなのだ。

このいにしえの双剣が生前、どれほどの腕を有していたのかは謎だが、竜人族というからにはそこまで強くなかったはずだ。

この世界の人間よりも、亜人である竜人族の方が知能が高い。

だがそれに反して膂力はそこまですごくない。

故にこの世界では肉体の人間、頭脳の竜人族のような感じになっている(無論例外はあるが)。

ひょっとしたらこのいにしえの双剣の竜人族は、ハンターとしても強かったのかもしれない。

だが……

 

 

俺は普通ではないからな

 

 

俺は紛うことなき人間だが、気力、魔力を使える。

それだけで相当な差が出来る。

さらには神器、ラオシャンロンの力もある。

 

 

「いつまで悲劇の主人公気取りでいやがる。起きろ」

 

『……』

 

 

反応なし。

打ちひしがれているのだろうが、それを見守ってやれるほどの余裕はない。

双剣の峰同士をぶつけ、俺は強制的に起こした。

 

 

「敵を討つんだろう? ならば俺に協力しろ」

 

『しかし私の力だけでは……』

 

「自信を持て。人の身でありながら古龍を傷つけることの出来る武器を鍛造したお前の腕、そしてこの剣は間違いなく一級品だ」

 

 

魔力も気もなく、魔力の塊である古龍に傷を負わせたというのは賞賛に値する。

惜しむらくは使い手である生前のこいつにそこまでの技量がなかったことか。

技量がないといってもあくまでも古龍種相手では、というだけであるが。

 

 

得物はあれどハンターに力がなかった

 

 

だが今は?

古龍を傷つけることの出来た得物があり、そしてそれを使える人間がそれを握っている。

後は互いが互いを信用出来るかどうか……。

 

 

「鍛造士として、お前の気持ちは俺にもよくわかる。そして、大切な者を失った悲しみも……」

 

 

一つの過ちで全てを失った。

その後悔、憎悪は今も胸の中にある。

だが、今の俺はそれだけではないのだ。

 

 

「あいつをぶっ飛ばすのにお前の力が必要だ。力を貸せ」

 

 

この言葉は、半分が嘘で半分は本当だった。

確証はないがおそらく今の俺なら媒介にした狩竜がなくとも龍刀【朧火】を夜月に宿らせて顕現出来る。

だから夜月でも討伐はおそらく可能だ。

ハンターとしてはそれでいいかもしれない。

だが……鍛造士としての俺がそれを許さなかった。

 

自身が命を賭けて、想いを込めて造り上げ、大切な者を失った悲しみを怒りに変えて戦った一人の男の覚悟を、見過ごせなかった。

それにいにしえの双剣でも討伐可能なのは間違いない。

生身ですら古龍を斬ったその得物を俺が使用するのだ。

 

 

勝てぬ道理はどこにもない!

 

 

「それとも、貴様の怒りと憎しみはその程度か?」

 

 

『…………言ってくれるな、小僧!』

 

 

ブワッ!

 

 

紅炎王龍と紫炎妃龍の言葉で消えていたいにしえの双剣から、今まで以上の濃密な憎念が溢れる。

 

 

そして……魔力も

 

 

俺はそれに応えるように、剣先を二匹の炎王龍へと向ける。

 

 

『我、封龍剣【超絶一門】!』

 

「我、封龍剣【超絶一門】の仕手、鉄刃夜!」

 

 

 

『我が怨みと憎悪に賭けて!』

 

「我が命と誇りを賭けて!」

 

 

『貴様らを殺す!』

 

 

「貴様らを討伐する!」

 

 

いにしえの双剣改め、封龍剣【超絶一門】とともに叫ぶ。

その啖呵を受け、敵が戦闘体制に入った。

 

 

【戯言を! 我ら炎王龍、帝王と帝妃に勝つというか!? 身の程を弁えよ! 人間!!】

 

 

敵がそう吠えている隙に、俺は全力で疾走し、敵へと接敵を図る。

距離があっても遠距離武器がない以上、その距離はアドバンテージにはならない。

特に敵の魔力攻撃は驚異的な威力を有している。

距離を詰めてせめて片方からだけでも爆発攻撃を防がなければ一瞬で敗北しかねない。

 

 

ダッ!

 

 

封龍剣【超絶一門】を振りかぶりながら疾駆する。

 

 

【こざかしいですね】

 

 

紫炎妃龍がそう口にし、俺の眼前へと先ほどと同じ、魔力による爆発攻撃をしようとする。

俺はそれが爆発する前にさらに加速する事で爆発地点の前方……つまりは俺の背後で爆発するようにし、背後に重点的に気力壁と魔力壁を展開する。

そして……

 

 

ボン!

 

 

爆発。

その爆発の勢いを推進力に変えて、俺はさらに疾走した。

二つの壁を持っても全てを防ぎきる事は出来なかったが、それでも俺はその痛みを、歯を食いしばって耐えて走る。

 

 

【ほぉ……】

 

 

俺がうまく爆風を利用したのを見て、二匹の炎王龍が感嘆の声を漏らしていた。

そして紅炎王龍が紫炎妃龍の前へと歩み出て、俺をにらみ据える。

しかしそれに構わず俺はさらに進み、両手の剣を前方に出てきた紅炎王龍の顔面へと突き立てようとした……。

が……。

 

 

ブォン!

 

 

「ぐっ!?」

 

 

突如として俺を熱風が襲った。

軌道を逸らすように横殴りの凄まじい熱の風が俺に叩きつけられた。

そしてそれによって俺は軌道を逸らされて、敵の斜め後方……マグマ溜まりの一歩手前で停止する。

 

 

「うぉぉぉ!?」

 

 

勢い余って落ちそうになってものすごく焦った。

入ったら一瞬で消失する。

何とかバランスを整えようとするがその目の前に……絶望的な光景がやってきた。

 

 

バチャァァァァ

 

 

「……………………は?」

 

 

思わず俺はアホのように呆けた声を出してしまった。

だがそれも無理からぬ事だと俺は思う。

何せ……眼前のマグマから鎌首をもたげている……マグマの蛇が無数にいた……。

 

 

「……な、なんだこりゃ!?」

 

 

一斉に襲ってきたマグマの蛇を俺は後方へと飛び、回避するがその後方にも同じようにマグマの蛇がいた。

そしてそれもどうにか避ける。

 

 

【隙だらけだぞ】

 

 

!?

 

 

いつの間に接近していたのか……紅炎王龍が俺のそばへと近寄って来ており、その鋭い爪を、俺へと振りかぶってきた。

それをどうにか封龍剣【超絶一門】を重ねて剣の腹で受けるが……。

 

 

ズガン!

 

 

「ぐぉっ!?」

 

 

余りにも凄まじい衝撃に踏ん張る事も出来ず、俺は遙か後方へと吹き飛ばされた。

そして岩壁にめり込んだ。

気力壁のおかげで致命的なダメージは負っていないが、結構なダメージをもらってしまった。

 

 

何だあの馬鹿力!?

 

 

思わず瞠目してしまうほどの力だった。

今まで対峙してきたモンスターの中で間違いなくトップクラスの膂力を有している。

というか未だに拙いし、またまだ操れる量が少ないとはいえ魔力さえも動員していたというのに……。

いくら敵も魔力を扱えるといってもこの力は……。

 

 

【力の紅炎、炎の紫炎】

 

? ……あぁ、なるほど……な

 

 

悩んでいたらキリンが回答を与えてくれた。

つまり、典型的なパーティー編成という事だ。

 

炎を自在に操る事の出来る、魔法使い的な立場の紫炎妃龍。

炎を操るよりも攻撃に特化した、前衛的な立場の紅炎王龍。

 

まさに典型。

もっとも効率的とも言えてかつスタンダードなスタイルだ。

 

 

……故に……手強い

 

 

典型的な戦闘方法というのはそれだけ長い歴史の中で使われ、磨かれてきたという事。

よっぽどの奇策か、それ以上の力を持って戦わねばそう簡単にこれを打ち破るのは難しい。

 

 

特に敵が、異様と言っていいほどに強い場合はなおさらだな……

 

 

古龍種で魔力を扱うことの出来るモンスター。

魔力を用いた攻撃というのはキチガイじみた強さを持っている。

それに敵は魔力を使って炎を操ることが出来る。

そしてここは火山。

炎なんぞ、辺りを見渡せば腐るほどある。

今までの炎の攻撃が敵にとってどれほどの攻撃かは謎だが、ほとんどタイムラグなしに炎による攻撃を行ってきている。

そして楯でもあり矛でもある……紅炎王龍。

 

 

一対一でもどうにかなるのか不安な相手だというのにそれが二体セットか……

 

 

不利にも程があった。

これらを相手にどう立ち回ればいいのか……。

戦場での基本、多対一の場合は弱いやつから叩いて数を減らすのが一般的だが……、どちらが弱いのかといえば正直不明だ。

ならばより厄介な方を倒すのが選択。

となれば広範囲攻撃に、多数の攻撃を同時に行う事が出来る、紫炎妃龍とやらを狙うのが最善だ。

 

 

【何か思いついたか? だがその程度で我らがどうにかなると思うなよ】

 

「はっ。俺の考えがどんなのかもわからないくせに」

 

 

しかし実際何も思いついていなかったりする。

接近するしか方法が無いのだが……。

 

 

その術が無い……

 

 

近寄る事すら難しい……それほどの強敵だ。

正しくは、念のために渡された秘密兵器があるがそれを使えば可能だが……。

秘密兵器の数は一つ……必勝ないし確実に攻撃できる状況で無ければ無駄になるだけだ。

 

 

どうにか分散できない物か……

 

 

一対一ならばまだどうにかなりそうだが……二匹で互いの欠点を補っている以上、離れて行動するという選択肢はあまりないだろう。

 

 

【いきますよ】

 

 

考える暇もなしか!

 

 

あちらとしても手をゆるめる理由はないのだろう。

二匹……正しくは紅炎王龍一匹だが……が猛烈に俺へと攻撃してくる。

無論紫炎妃龍も俺へと炎を自在に操って、攻撃してくる。

紅炎王龍の攻撃をどうにか捌き、後ろに下がると、近くのマグマからマグマの蛇が猛然と襲いかかり、距離を取りすぎれば先ほどの爆発を若干弱めたのが俺へと襲ってくる。

防ぐだけで精一杯……攻撃に転じる余裕は全くなかった。

 

 

くそっ!! どうすれば!?

 

 

どうしようもない……というのが正解である。

 

 

「しからば……」

 

【……うん?】

 

 

独り言を呟き、俺は突如として停止した。

戦闘中に突然停止したので敵が驚いて動きを止める。

その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………脱兎!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう叫んで、俺は敵に背を向けて全力で疾走した。

 

 

恥に外聞……羞恥心その他諸々etcetc……全てをかなぐり捨てての全力疾走!

 

 

脱兎のごとくとはまさにこのことだろうと言えるような逃走っぷりである。

 

 

不利になったら迷わず逃げる……これも兵法!

 

 

「戦略的撤退!!!!」

 

 

言い訳を心に抱きつつ、さらには声にも出して俺は気力、魔力全てをフル活用して逃げる。

 

 

【!? 逃げるか!?】

 

【逃がしません】

 

 

距離が離れたからか、紫炎妃龍が俺へと最初と同じ……それ以上の爆発を俺へと向ける。

それが爆発する寸前に、俺はその背後に出来た爆発に向き合うように空中で姿勢を反転し、腕を体の前面で交差させてそこに集中的に気力壁と魔力壁を展開する。

 

 

■■■■■■■■■■!!!!

 

 

今度はあまりの巨大な爆発音で音さえも聞く事が出来なかった。

 

 

「ごぉぉっ!!!!」

 

 

展開した気力壁も魔力壁も砕かれたが……どうにか体に傷を負う事は無かった……が、しかし当然空中で受けた爆発は、推進力となり、俺を遙か彼方へと吹き飛ばす。

 

 

よし! 狙い通り……

 

 

どうにか遠くへと逃げる事が出来た。

のだが……

 

 

行き先は風ならぬ……爆風まかせ~~~~!!!!

 

 

「うぉぉぉぉぉ!?」

 

 

なんかクシャルダオラの時と同じような状況に……

 

 

デジャブを感じるが、前回と違って今回は自主的に行ったのだ。

そこに違いがある……が見た目は間違いなく一緒だろう。

そうして俺は遙か彼方へと吹っ飛び……一つ下の火口へと落ちていく事になった。

 

 

お~ お~ お~ お~

↑やまびこ

 

 

 

 

~テオテスカトル~

 

 

【ほう。かなわぬと見てすぐに撤退したか】

 

 

私は素直に感心した。

勝てない相手、勝てない状況で戦いを続けるなど下策。

勇気と無謀をはき違えるような愚か者ではなかったという事だ。

どうやらバカではないようだった。

 

 

【……なかなか手強いですね】

 

 

我の傍らにいる、妻、ナナテスカトリも同じ事を思ったらしく、敵が吹き飛んでいった下方の火口を見据える。

 

 

【力を持ちうる以上に、あなたが満足する相手であるといいですね】

 

【……そうだが、しかし邪に対抗するためにも力は必要だ。むしろ手強い相手よりもそちらの方が重要だ】

 

 

確かに、私は餓えていた。

 

 

喉が渇き、肌が泡立ち、体が歓喜に震え、我の血を沸かすような、強敵との戦を……

 

 

人間はほとんどが脆弱で我らに傷をつけるどころか触れる事も、近づく事も出来ない。

唯一人間では、使者が持っていたあの双剣と大剣の担い手が我らに傷をつけたがそれだけだ。

モンスターも基本的に話にならない。

それらを覗けば同じ古龍……クシャルダオラくらいしか我と対等に戦える者はいなかったが、何百年と争っていれば互いにつまらなくなる。

 

 

貴様はどうだ……使者よ

 

 

オオナズチを殺し、我の好敵手とも言えた鋼龍クシャルダオラさえも滅したその力……ラオシャンロンの力。

 

 

その力を持って、我と対等に戦えるのか?

 

 

我の心の疑問を解消するために、我は羽ばたき……敵が落ちていった火口付近へと、降りていった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ヒュルルルルルル

 

ズダン!

 

 

「ぐっ。た、助かったか」

 

 

どうにか敵から一端とはいえ逃げおおせる事が出来て、俺は着地して深く安堵した。

火口の一部にせり出している場所があって、そこに何とか着地する。

せり出しているだけでなく、火山内部へと入る入り口と、別の場所へと向かう事の出来る道もあった。

また二匹で負ってくるので問題を先送りにしたに過ぎないが、それでも考える時間が出来たのは好都合だった。

 

 

「さて……どうしたものか」

 

 

逃げられたおかげでどうにか時間稼ぎは出来たがいかんせん、対抗策がなく、また思いつかなかった。

今の手持ちの材料では正直あの二匹に対抗するのは厳しい物があった。

 

 

どうにかしてあの連携を崩せれば……。仮に崩せなくても一瞬でいいから隙を作れれば……

 

 

武器はある。

だから一撃必殺を心がけてぶっ飛ばせば何とか滅ぼせるはずなのだ。

封龍剣【超絶一門】で傷をつける事が出来たというのであれば……急所に突き立てれば生物として形をなしている以上、死ぬはず……。

 

 

問題はその一瞬の隙をどうするか……

 

 

手持ちの駒が足りない……。

どうにかしなければ……。

 

 

【逃げたと思えば呑気に考え事か?】

 

 

しかし無情にも、対応策を考えつく前に敵はやってきてしまった。

その翼をはためかせて、火口広場とも言える、俺がいる場所よりもさらに上の崖の上に立つ。

そしてそれに付き従うように紫炎妃龍が佇んでいる。

 

 

【まさかこれで終わりではあるまい。さぁ、我が宿敵を葬り去った力……ラオシャンロンの力を見せてみろ】

 

 

そう敵が促す。

確かにそれはもっとも簡単な選択肢であり、確実な方法だった。

魔力の固まりたるラオシャンロンの力。

恐らくこの力は狩竜でなくても、媒介物に適切な形と成って顕現出来る。

だが……それをためらってしまう俺がいる。

何故か……。

 

 

 

 

我らは憎い……

 

 

 

 

愛すら者を奪われた悲しみも……

 

 

 

 

あの古龍を……

 

 

 

 

それを奪った相手に対する憎しみも……

 

 

 

 

理解できる……出来てしまう。

そしてそれをかなえる事が出来ず、志半ばで散ってしまったこの武具……封龍剣【超絶一門】で、どうにか敵を倒してあげたい……。

そうでなければこいつは剣にしがみついてなお、報われぬ想いを抱いたまま……呪い続け、最終的には真の魔剣に成ってしまう……。

 

 

人の身でありながら古龍を傷つけることの出来たその鍛造の技術……。

 

 

同じ鍛造士として敬意に表する……。

 

 

だから……。

 

 

【……どうした。構えよ】

 

「……」

 

 

そんな俺を訝しみ、隙だらけであるにも関わらず、紅炎王龍は俺に戦闘しろと促す。

だがそれでも俺は棄てられなかった。

余りにも似た境遇の人間の想いを……棄てられなかった。

 

 

【貴様……】

 

 

それを察してか、紅炎王龍が一瞬にして凄まじい怒気を放つ。

それを知覚したその瞬間……

 

 

フォン

 

 

なんと驚いた事に、敵は一瞬にして俺の前へと躍り出た。

今までとは比べものにならない速度だ……。

 

 

何っ!?

 

 

そして驚いた瞬間には遅かった。

 

 

【失せよ】

 

 

ドカン!

 

 

何とか敵の強大な攻撃の打撃攻撃を手にしていた封龍剣【超絶一門】で受け止めるが、思いっきり後方へと……火口内部へと吹き飛ばされた。

当然このまま自由落下すれば火口の凄まじい熱を持つマグマに真っ逆さまに落ちていく事になる。

 

 

ごめん被るわ!

 

 

ブォン

 

 

落ちていく自分の足下に気の足場を形成。

距離はあるが巨大な火口の対岸へ……飛び移るしか生きる術はない。

それ故に強固で堅牢な気の足場を造り、それを使って跳ぼうとするが……。

 

 

【……それを見逃すとでも?】

 

 

紫炎妃龍がそういい、魔力を使い俺の足場のさらに下で爆発が生じる。

そしてそれは……俺の気の足場を木っ端微塵にぶちこわした……。

 

 

「しまっ!?」

 

 

唯一脱出するチャンスを潰されて、俺はそのまま火口へと落下していく。

 

俺はまだ気の扱いが未熟なために、気の足場形成は一回が限度だった。

地面に立ち、まがい物でない足場に着地したならば再度出来るが……。

連続で出来ないがために、俺はオオナズチがレーファを崖下へと連れ去っていったときも、そのまま飛び降りずに、適度に絶壁に双剣を突き刺して勢いを殺しながら降りたのだ。

そして……たった一回の気の足場は、たった今完全に破壊されてしまった。

 

 

不覚!?

 

 

気の足場はなく、周りには何もなく、剣が突き立てられないほど遠くに地面がある。

そんな落下して火口に墜落し、消滅する俺を……まるでゴミのように見下す二匹の龍……。

 

 

まさに絶体絶命だった……。

 

 

 

 




二対一は卑怯だよね……
まぁでもそう言う状況になってもおかしくないですよね?
どう立ち回るのか!?
というか死ぬ一歩手前w
さらば刃夜よ永遠に!?

どうなるかはお楽しみで

ちなみに封龍剣【超滅一門】ですが、私の小説の設定の都合上と、作者的思案から、エピタフプレートがこの作品における封龍剣【超滅一門】となっております。

考えたんですよ。
封龍剣【超絶一門】が太古の小さな塊から出てくるのに、超滅一門はいくら稀少素材をつかっているとはいえ生産出来るんですよ?
封龍剣【超絶一門】は研磨しただけでもう作れないというのに!
全てが謎の素材は太古の文明の名残か!? とか仰々しく書いてあるのにいくら流派が違ってもおかしいでしょう? と思いまして……。
それに私の作品だと、ラオシャンロンの素材って手に入らないし……w
まぁそんなわけで

エピタフプレート=封龍剣【超滅一門】

設定、作者の考え、そして物語的にこうなりますのでどうかお願いいたします。






え? ゲームで出てくる封龍剣【超滅一門】はどうなるかって?





……それは今後のお楽しみ!!!!


11/9 紫炎王龍 → 紫炎妃龍 に変更
ヨイヤサ様 ご指摘ありがとうございました

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