リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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ついに来た!
好きな武器ランキングでも大概の人は上位に入れそうな武器! 龍刀【朧火】!
そして申し訳ありません。
前回もそうでしたがこのあたりから行間がものすごく空いた表現が増えます……
ご了承下さい!



龍刀

それはまさに力……。

 

想いとともに吐きだした言葉に呼応するかのように、それが眼前に現れた……。

 

魔力で構成された壁……。

それは敵……クシャルダオラの必殺技といってもいいような、強力な攻撃をものともせず、相手を止めていた……。

 

 

【何っ!?】

 

 

そしてそれが……魔力壁が展開したと同時に身体に異変が起こった……。

なんと体の痛みが引いたのだ。

だが……傷が完治したわけではないようだった。

何というか……自分の体をまるで、傷のない自分という存在が覆っているような感覚で……、その中には、未だに傷を負っている自分がいるというか……。

その証拠に、足の傷は全く完治していない。

だが体の感覚が麻痺して痛みを感じているという訳ではない。

……実に奇妙で珍妙な感覚である。

が……

 

 

まぁ体が治っていようがいまいが……致死性の傷が無いからどうでもいい……

 

 

俺はこの奇妙な感覚のある体を起こす。

そして敵を……前方の敵を見据える。

突進に失敗した敵は、一度突進をやめて距離を取り、俺の方をにらみ据えていた。

 

 

【……よもやまだ魔力の扱いすらも出来ていなかったとは思っても見なかったぞ】

 

「それは、悪かったな」

 

 

先ほどの落胆した態度から一転し、再び俺の事を注意深く見てくる。

俺の実力を測りかねているのだろう。

俺は敵の睨みをにらみ返しつつ、両手で狩竜を握る。

すると……

 

 

ボッ

 

 

敵の突進が終わったと同時に消えた魔力が……淡い紫色の炎と為して、狩竜の刀身に灯火のように揺らめいていた。

そして、それを見て敵が失笑を上げる。

 

 

【なるほど。まだ己の意志で顕現出来ているわけではないようだな。ならば、それを操りきる前に、それをもらおう】

 

 

悔しいがその通りだな……

 

 

先のクシャルダオラとの戦い……。

キリンの時と違い、魔力の全く使用されたというか……魔力を帯びた事もない狩竜では、微量とはいえ魔力を帯びさせる事も出来なかった。

 

 

まぁ……まだ完全に扱い切れていない武器……というか不安定な武器で敵に挑むようなほど余裕はないからな

 

 

だが、敵に通用する武器はもはやこれしかないのだ。

これを何とか操れるようにならねば……本当に死ぬ事に成るだろう……。

 

 

ならやるしかあるまいて……

 

 

俺は覚悟を決めて……狩竜の柄をさらに強く握った。

 

 

命に代えてでも……なんて言うわけにはいかないからな……。

俺の全てを賭けて……こいつを扱い……敵をぶった切ってみせる!

 

 

現実世界……そしてこの世界で俺の事を待ってくれている人のために……俺はまだ死ぬわけにはいかないのだ。

だから、俺は敵を倒すという事しか今は考えない!

 

 

今へと繋がる過去も……明日へと続く今も……俺はちゃんと見る……

 

 

レーファという明日へと会うために……俺は今……敵を……クシャルダオラを倒す!

 

 

 

「さて……第二試合と行こうか!!!!」

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

桜の心

 

 

ジンヤが出かける事になった伝言。

 

 

雪山の山頂にて、あなたを待っている。桜の心、鉄刃夜よ

 

 

を未だに考えていたが、結局わからなかった。

まるでヒントも何もない……その言葉の意味を知っていなければ解けない問題を必死に考えている。

が、どう考えてもわからなかったので考える事を一旦放棄し、その伝言を向けられた人間の事を考えてみる。

 

クロガネジンヤ。

私よりも一つ年下の凄腕ハンター。

経歴をざっとレーファに聞いたが、森と丘の森でランポスに襲われているのを|偶然(・・)通りかかったジンヤに助けてもらったのが出会いだったらしい。

 

 

あの……不思議な男との出会い……

 

 

髪の色、肌の色、目の色、背格好……そして何よりもあの武器とあの実力……。

 

鉄の武器は基本的にそこまで強くはない。

もっともスタンダードであり、基本的な武器である。

ほぼ採掘のみで作れるという安価であり安全に作れる。

だがモンスター、特に飛竜種の甲殻は鉄よりも固い。

故にハンター達は命を賭けてモンスターを討伐し、その素材で新たな武器を作るのだ。

だがその常識があの男には通用しない。

他とは全く違う……異質なあの鉄の剣……。

 

鉄鉱石から採取できる鉄を使った武器

 

大剣・バスターソード

片手剣・ハンターカリンガ

双剣・ツインダガー

ハンマー・ウォーハンマー

狩猟笛・メタルバグパイプ

ランス・アイアンランス

ガンランス・アイアンガンランス

ライトボウガン・猟筒

ヘヴィボウガン・重猟筒

弓・ハンターボウ

試作型「|斬斧(スラッシュアックス)」・ボーンアックス

 

それらどれとも違う、細身で薄い鉄の剣。

ジンヤが最初から所持し、腰に差していた剣は片手剣にもっとも近いが、それでもあんなに細く薄い武器は存在しないし、そもそも盾を所持していなかった。

仮に存在したり……あいつ以外があの武器を使ったとしても、あれほどの切れ味が出せるとは思えない。

 

 

まぁ、あれほどの剣を人に預けたり、渡すとは思えないが……

 

 

現に私に鍛造してくれた武器、斬破刀も切れ味、耐久力供に一級品だが、あいつと同じような威力はない(斬破刀は間違いなく今までの武器の中で最高の武器だが……)。

鍛造といえば、私は昔からリオスさんと親しくさせてもらっているので、武器の鍛造も一通りは知っている。

しかしそれに対して、ジンヤの武器の鍛造……(私よりも年下なのにも関わらず、鍛造まで出来るというのも、すごいを通り越しておかしい……のだが)も普通の鍛造とは随分と違った。

そしてあの常軌を逸した身体能力。

初めてあいつとクエストに行った……あの異常な強さを持っていたリオレウスの時、空中で再び飛び跳ねた時はあまりの驚愕さにあっけにとられることしかできなかった。

 

 

もはや偉人を通り越して……超人、ないし異人だな……

 

 

そんな表現がぴったりだろう。

何せあいつはもはや人間ではないと言ってもいいような存在なのだから。

 

 

伝説の存在だった、ラオシャンロンを倒したと言って普通の人が信用するだろうか?

 

 

その時……頭の中で何かがはまった……。

そう思った……。

そう、私は思ったのだ……ジンヤが超人ないし|異(・)人であると……

 

超人……文字通り人を超えた人。

異人……異なる人。

俗に別の大陸の人間……異なる大陸にすんでいる人間達に向けて贈られる言葉なのだが……仮にあいつを異人、つまりは別の大陸の人間だとしてもそれだけでは説明つかない。

 

 

ならば……超人は?

 

 

人を越えた人。

つまりは人間でないという意味であり……あの異常な強さを持っているあいつにはぴったりの言葉だった。

 

 

コンコン

 

「フィーアさんいますか?」

 

「? リーメか?」

 

 

そうして一人家のベッドに寝ながら考え事をしていると、家のドアがノックされた。

声からしてリーメだったので私は直ぐに鍵を開けた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「いえ、なんかギルドナイトからジンヤさんとフィーアさん宛に手紙が届いたんで」

 

「手紙?」

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

【ゆくぞ】

 

 

そう、敵が言う。

そしてその思念が言い終わるか否かに、それが飛来する。

風翔刃と風翔爆の連係攻撃。

さらに……

 

 

ボウゥン!

 

敵の口内から風翔弾もいくつか、俺へと向けられて発射される。

先に出てきたその二つの攻撃よりも、敵の口内より飛来した風翔弾の方が先に俺へと迫る。

もはやワープしているのではないかと言うほどの速度だ。

それを……俺は……

 

 

「ずぁっ!」

 

 

狩竜を、体ごと一回転させて、周囲をなぎ払った。

 

 

ブワッ!

 

 

魔力、気力……その二つで強化された狩竜と俺の体が、今までに類を見ないほどの威力と速度で、周囲を吹き飛ばす!

体を包むように展開されていた風翔爆も……ありとあらゆる包囲から迫っていた風翔刃も……そして、敵の口内より飛来した、風翔弾も……全てを。

 

 

【なっ!?】

 

 

敵が驚いていた。

そして……俺もそれには同意だった……。

 

 

ぜ、全部なぎ払った!?

 

 

敵の攻撃は、風翔刃一つで極厚の鉄板をぶった切り、風翔爆は一つで家の一つが吹き飛び、風翔弾に至っては、数百メートルを音速以上の速度で飛翔して、弾が通った後には何も残らないほどの威力を秘めていた。

おそらく弾に関して速度どころか威力も一流で、いくつかの山を貫くくらいの威力を秘めいていたはずだ。

それをなぎ払ったのだ……ラオシャンロンの力を……本当にたった少しの力しか顕現していないこの狩竜で……。

 

 

な、なんつ~威力だ……

 

 

確かに……これほどの力ならば神の力と言われても納得がいく。

だが……そこでわからなくなるのが敵の目的だった……。

 

 

何がしたいんだ……こいつは?

 

 

オオナズチもこの力を求めていた以上、こいつらという方が正しいのだろうが。

これほどの力を手に入れたいというのはわかる。

神の力というのもあながち冗談でも嘘でもなく本当の事のようだ。

だが、この力を手に入れて、こいつは何がしたいのか?

 

 

「……何がしたいんだ?」

 

【……何?】

 

「この力を手に入れて、あんたは何がしたいんだ?」

 

 

思わず……俺はそう口にしていた。

聞く意味も……聞く理由もないのに、何故か……聞いた。

しかし気になって仕方がなかったのだ。

敵がこの力を手に入れる目的が……。

 

 

【……それは】

 

 

……何故答えない?

 

 

質問に返ってきたのは……無言だった。

俺の言葉に、敵の動きが止まった。

まるで……自分にもわからない事を、聞かれたように固まってしまっていた。

そして固まった敵から……何かが……

 

 

黒いもや?

 

 

何か……果てしなく禍々しいものを……穢れ……邪を宿した何かが、敵の体から放出された……。

しかしそれがなんなのかわからず、俺はただそれを見守るが……特に変化は見られなかった。

それの流出が収まると、敵がはっとし……再度俺へと睨んで来る。

 

 

【その力をもらう】

 

 

……なんだ?

 

 

睨んできて、俺に再び声を掛けてきたと思えば会話が元に戻っている。

しかもそれが変だと、おかしいと思っていない、否それどころか……会話した事すら忘れているような……。

 

 

これは……

 

 

ブォン!

 

 

この違和感と敵のその異常について考えようとするが、俺の背後に巨大な風の刃が発生し、俺を両断せんと迫ってくる。

それに気づいて、俺はどうにか薙ぎ払うように迫ってきたその風の刃をしゃがんでやり過ごす。

 

 

とりあえずこいつを倒すのが先だな……

 

 

考え事をしながら勝てる相手ではないのだ。

ならば戦闘に関しない考え事は一切やめて、俺も目の前の敵に……戦闘の事に集中する。

眼前の敵がそんな余裕を持って対処できるような雑魚ではないのだ。

それに敵が正々堂々と勝負を挑んできている以上、それには全力を持って応えねば失礼というものだ。

 

 

まぁさっきは全力出して惨敗しましたが

 

 

敵が仕掛けてきた氷の矢を、俺は腰に差している水月で打ち払う。

正直言って体が重く感じる。

魔力の恩恵か……はたまた副作用か……どちらかは謎だが、体の痛みなんかは感じず、普通に動いていたが、それでも傷が治っていない以上、体が少々危ない状況である。

この体で無理をするわけにも行かず……狩竜を振るのはあと一回が限界だ。

だから俺は手持ちでもっとも軽い武器……水月で、敵の氷の矢を弾く。

幸いと言うべきか……多少は魔力が乗っているらしく、水月が折れたり賭けたりする事はなかった。

 

 

【何だ? もうその長大な武器を振るうほどの力も無いのか?】

 

「……だからどうした?」

 

 

当然それを見て敵も俺の体の状態に気づく。

もっとも軽い水月を扱っている事から余裕でわかるだろう。

また敵も俺の体が癒されていない事に気づいたようだった。

 

 

【手負いだとて、油断は出来ぬが故に……本気で行く】

 

「そいつは光栄だな」

 

 

例え敵が手負いでも、油断もしない、侮りもしない……。

まさに戦闘狂にふさわしい。

いや狂っていればこんなに冷静には戦えないだろう……。

敵はまさしく……

 

 

 

 

戦士だった

 

 

 

 

【ゴォオオオオオ!】

 

 

敵が唸りを上げ、さらに魔力を高め、俺を襲う。

今度は矢ではなく、巨大な杭だ。

さらに風の刃のおまけで付いてきている。

どちらも強い力を持ち、しかも矢と違ってサイズが格段にでかい。

水月では受け止められない。

 

 

幅広い武器で受け流す!

 

 

普段ならば細い夜月でも十分に受け流せるが……今は体が本調子では無い。

普段通りに出来るとは思えない。

そう思い、俺は俺が所持している中で唯一異質な武器である、『いにしえの双剣』を右手で抜剣した。

 

 

「だぁぁぁっぁ!!!!」

 

 

敵の氷の杭を、『いにしえの双剣』の側面を滑らせて、後方へと受け流す。

風の刃に関しては、もう受ける事も出来ないので痛む体に鞭を打ってひたすら避けた。

が、避け終わった瞬間に膝が抜ける。

飛び避けた衝撃を俺の膝が受け止められなかったのだ。

 

 

まずい!

 

 

いろんな意味でだ。

飛び避けたと言ってもそれほど強く飛んだわけでもないのに膝が抜けた。

つまりそれだけ体にもう余力がない事を意味している。

そして……これは敵の取って絶好のチャンスとなった……のだが。

 

 

【その剣は!?】

 

「んあ?」

 

 

意外や意外。

なんと絶好のチャンスであるにも関わらず、敵は俺を攻撃してこなかった。

それどころか、隙だらけのまま、俺の剣を……『いにしえの双剣』を凝視し続けている。

 

 

【それは……封龍剣『超絶一門』】

 

「ふうりゅうけんちょうぜついちもん?」

 

 

すげ~長い名前ですね……

 

 

【我ら古龍に人間が、傷をつける事の出来た剣の片割れか……。よもや……竜人族の古の武器まで手にしていようとは……】

 

 

……そんなにすごい武器だったのか?

 

 

敵が余りにも熱心にそう言うものだから、俺も戦闘態勢を解いて、手にした剣を見つめる。

確かにこの剣が纏った雰囲気は禍々しく、異様だ。

 

 

そういえばオオナズチもなんか言っていたような言ってなかったような……

 

 

あの時は五感をほとんど遮断していたのでほとんど覚えていないが。

俺の世界で言うならば間違いなく妖刀、魔剣の類に分類されるだろう。

しかし、仮に妖刀、魔剣の類ならばもっと、意志が感じるほどの禍々しさを持っていてもいいのだが……これにはそれがない。

 

 

何というか……まだ眠っている印象を受ける

 

 

【もう一つの片割れは炎王龍が砕いたと言っていた以上、貴様を殺せば、古龍に仇為す者はもう存在しなくなるわけだな】

 

 

炎王龍?

 

 

【どうやら本当に貴様に死んでもらわなければならないようだ!】

 

 

何かこの剣に恨みでもあるのか……さらに殺気が増大する。

さっきまで必死だから装備品に気を回している余裕がなかった。

そして的の言葉で、ただの太古の武器として見ていた俺も、この剣の違和感に気づく。

否……気づかされた。

 

 

 

 

■い

 

 

 

 

この剣自身に……

 

 

 

 

■い

 

 

 

 

それはまさに怨嗟の声。

 

憎しみ、恨み、怒り、忌まし、呪い、滅び、殺し、怨む……

 

負の感情全てを……数多の人間の負の感情全てを合わせて、この剣が出来たとでもいうように……

 

それほどまでに凄まじい呪いを、この剣が放っていた……

 

 

妖刀かよ……。いやこれは剣だから魔剣か……

 

 

眠りから覚めたら途端にやっばい雰囲気を放つ魔剣になってしまった。

どうやら厄介な武器を手にしたようだった。

 

 

まぁでも、人を呪うような武器じゃないからそれもいいか

 

 

人の血に飢えた~、人を殺すための剣~、だった場合は今すぐぶん投げて棄てるところだったが、憎む相手がドラゴンだと言うのならばまだ許容範囲としておこう。

 

 

実際すごい感じの武器だしな。棄てるのもアレだ。それに魔剣を棄てたらどうなるか……

 

 

余り精神が弱い人間に使用できる武器じゃない。

もしもリーメなんかが使ったらおそらく剣に心を引きずり込まれて乗っ取られる。

 

 

■い……

 

 

俺も危ないと言えば危ないが……それでもこの程度の怨念ならば御せなくても乗っ取られはしない。

 

 

■い……

 

 

まぁあいつよりは年上だし、人生経験はあるからな

 

 

■い……

 

 

この世界とは比較にならないくらいに人間とのやりとりが多いのが、俺が生きた現実世界だ。

さらに俺は裏の世界で生きているから、普通の人間よりも人生経験が多いのは当たり前……

 

 

■い……

 

 

さて……どうす……

 

 

■い……

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減やかましいわ!!!!!」

 

 

 

 

さっきから斬るだの憎いだのうるさく言う右手の剣に、俺は大声で怒鳴りつけた。

先ほど同様、絶好の隙だったのだが……クシャルダオラは俺の事を攻撃してくる事はなかった。

 

 

「さっきからうるさいぞ。斬るだの憎いだの。少し黙っててくれ。集中できない」

 

 

……貴様

 

 

意外な事に、結構な意志があるようだった。

意志まであるとはまさに魔剣。

俺は意思疎通が出来た事に驚きつつも、それを悟られないように続けた。

 

 

「何だ? 余り騒ぐと火山にでも棄てるぞ?」

 

 

……

 

 

さすがに火山には勝てないと思ったのか、封龍剣の中の意志が黙りこくる。

そんな封龍剣に俺はさらに言った。

 

 

「少しは落ち着け。何が合ったのかまでは知らないが、それでもそんなにいきり立つな。みっともない。………………それに……」

 

 

……

 

 

 

 

「復讐だけの事を考えていると……何も見えなくなるぞ……」

 

 

 

 

これは俺の体験談だ。

あの子が殺されて……それから敵を討つまでの間、俺は周りが全く見えていなかった。

殺気を周囲に振りまいて歩く姿はさぞ恐ろしく…………醜い姿だっただろう。

 

 

今のこの剣のように……

 

 

……

 

 

どうやら俺の思いが少しは伝わったのか、剣からの憎しみの波動が少し弱まった。

それを確認し、俺はいにしえの双剣の切っ先を、クシャルダオラへと向ける。

 

 

「安心しろ。あいつは俺が必ず斬る」

 

【……ほぉ】

 

 

俺の言葉にクシャルダオラと剣がそれぞれに反応した。

剣はだまり、クシャルダオラは嬉しそうに息を漏らす。

正直、勝てる自身もないし斬る自身もない。

 

 

だが勝たなければ……

 

 

明日は来ない……

 

 

もしも手段も方法もないならば諦めてしまうかもしれないが……それでも俺の左腕に方法がある……。

 

敵を斬るための武器がある!

 

 

 

 

ならば俺は最後まで諦めずに頑張らねば……

 

 

 

 

いにしえの双剣を納刀し、再度俺は狩竜を両手で握った。

魔力の発露である紫色の炎。

正直、余り自分でこれを顕現した気がしない。

というよりも左腕に意識を集中したところでか細い……蜘蛛の糸ほどしか俺が制御しているという感覚がない。

これは俺が完全に御し得ている訳がない。

だが……

 

 

それでもいい

 

 

時と場合によるが……それでも俺は俺だけの力で生きてきたつもりはない。

無論己の力で道を切り開いてきた事は疑う余地もないが、だがそれでも今まで一人で生きてきた訳ではない。

否、一人で生きていける人間などいないのだ。

霞を食って生きているわけではない。

光を浴び、水を飲み、食物を口にし、闇を受け入れてその中で眠る。

そんな当たり前の事だが……人には作り出せる物はない。

 

天地に愛され、人に愛され……その逆、天災、人間同士の憎悪、もまたあるが、それでも人は生きている。

 

 

ならば……

 

 

ラオシャンロンの力を借りるのも……決して間違っている事ではない!

 

そう、それが俺の持っている力ならば……それを使わない手はないのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

ふむ。いい答えだ

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

そんな言葉が聞こえてたと同時に……左腕の光が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否、それが……紫の光が体全身を覆ったと同時に、天空へと眩い光の柱が立った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや……違う……

 

 

 

 

 

 

天から俺へと光の柱が……魔力の柱が降りてきているんだ……

 

 

 

 

 

 

暗雲立ち籠める雲を貫き……俺へと……魔が……命の力が降り注ぐ……

 

 

 

 

 

 

我、この世のマナを管理し、統べる者。汝を我の担い手として認め……その力を与えよう……

 

 

 

 

 

 

そして……天より舞い降りたその光が……左腕へと収束し……そしてその左腕を通して、それが真に……顕れたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるでラオシャンロンの体色をそのまま濃縮したかのように鮮やかな群青

 

鋒は大鋒。剣先のふくらはどちらかといえばふくらかれていて、鋭い印象を見る者に与える

 

刃文はなく、平地はまるで鏡のように綺麗に磨かれていて、曇り一つ無かった

 

身幅は俺が鍛造した狩竜よりも圧倒的にあった。優に狩竜の三倍はあるだろう

 

鎬を境にして、鎬地はラオシャンロンの鱗のようにでこぼこしているが、それが切れ味を阻害しているわけではない。むしろその起伏が、より刀身の強度を高めている

 

均一に沿ったその峰に、いくもの角が生えており、鍔元ほど大きく、先に行くほどそれは小さく、鋭い角が敵をさらに深く切り裂く

 

鍔は八つの漆黒の棘が円形状に生えている

 

 

 

 

 

 

 

 

そして何よりも……それから発せられる『魔』の力は息を呑むほどだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

あの山と見紛うほどの巨体さを誇っていたラオシャンロンを……そのままこの剣にしたような……

 

 

 

 

 

 

 

 

魔をもって魔を制す……究極の剣……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍刀【朧火】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさに……最強の武器……

 

これならば……古龍を倒すというのも……不可能ではない……

 

 

つ~かこれで斬ったら跡形も残らないんじゃないか?

 

 

それほどまでに、凄まじい気配を発していた。

あまりの気配に、クシャルダオラも息をのんでいるらしく、何も言ってこず何もしてこない。

クシャルダオラによって制御されていた吹雪も、一旦収まってしまっているほどだった。

クシャルダオラが天候制御をやめたのではない。

強制的に解除されたのだ。

 

 

この……龍刀【朧火】によって……

 

 

しかも傷まで再生していた。

先ほどまでの、無傷な体が自分を覆っている感覚ではなく、己の体が魔力によって再生、活性化されているのがよくわかる。

かといって無理矢理というのではなく、俺の体を補助し、補っているような感じだ。

 

 

【どうやら遅かったようだな……】

 

 

魔力を刀身に乗せるのではなく、魔力が物質化した事で、完全に俺の物となった【朧火】を見て、敵が唸る。

俺がこの龍刀【朧火】を御しうる前に手に入れたかったがそれが出来なかったのだ。

それも当然だ。

だが……

 

 

……きつい

 

 

俺も体が回復したにも関わらず、この武器を持つのも辛かった。

この世のマナの管理者であるラオシャンロンをそのまま太刀にしたような剣なのだ。

そんな物、一人間の手に余る、というか人が手にしていい武器じゃない。

修行と、ラオシャンロンが認めた仕手という事で辛うじて使えているのだろう。

 

 

怪我の有無に関わらず……振れるのは一度きり……

 

 

おそらくそれ以上この武器を顕現していては俺の身が保たない。

下手をすれば消滅するかもしれない……。

 

 

【……どうやら勝負は一撃で決まりそうだな】

 

「ほう?」

 

 

その言葉に俺は改めて敵を賞賛した。

このまま俺が自滅をするまで待つという選択肢もあったのだ。

だが敵はそれをせず、正々堂々の一騎打ちで勝負を終わらせようとする。

まさに戦士の生き様……。

 

 

「……では行こうか」

 

【……よかろう】

 

 

ならばそれに……敵のその態度に敬意を表し、俺も全力を持って勝負に臨む。

 

先ほどと違い、敵は数ではなく、質で来た……

 

まず敵の前に巨大な陽炎が出来た……

 

そこに通常では考えられないほどの空気が刃状に圧縮されて……俺へと突撃するのを待つ……

 

さらにその後ろに、矢よりも恐ろしい……巨大な氷の刃が横に浮いている……

 

|極点零下(アブゾリュートゼロ)に達していそうなほどの冷気がにじみ出ており、触れただけで細胞が壊死するだろう……

 

体に纏うだけだった氷は鋭利になり……まるで刃のように形成され……

 

敵の身を守っていた風の鎧は、先ほど同様、巨大な槍のように先端をとがらせる……

 

そして……武器だけでなく推進の力であるその風を……さらに濃密に身に纏う……

 

 

 

 

風翔爆の攻撃が10、風翔刃の力が100、俺を殺しかけたあの突進が1000だとするなら……これは5000と言ったところか?

 

 

 

 

果てしなく適当な計算だが、倍率に関しては会っている気がした。

あのリオレウスの中でも異様といえたムーナの父親と思われるリオレウスの火球でもせいぜいいって威力は20だろう。

まぁそんな威力分析などどうでもいい。

喰らえば即死。

良くても肉片が残るくらい。

 

 

だが……

 

 

こちらにあるのはそれをも遙かにしのぐ究極の力。

当てれば勝利は確実だが……

 

 

うまく振れるかどうか……

 

 

当たれば勝利、外せば敗北……。

実に単純で明確な二つの結果……。

 

 

だがそれがいい……

 

 

当てれば生き、外せば死ぬ……

 

 

実にわかりやすい……

 

 

 

 

だが……斬れるか……俺に……

 

 

 

 

十全に魔力を操る事の出来る敵

 

 

己が力の特製を理解し、それをきちんと操る事の出来るもの……

 

 

だが俺にはそれが出来ない……

 

 

強すぎる力を一人では制御するどころか顕現する事すらかなわず、ただ与えられ、制御さえも手伝ってもらい、それを手にしている……

 

 

 

 

 

 

使いこなしている……とは言えない、そんな俺が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリンのおかげで魔力を少しでも御し得るようになった……

 

 

ラオシャンロンの助けを得、大気に満ちる魔力の……生命の力を借り……

 

 

今……こうして敵と対峙できている……

 

 

それに何よりも……

 

 

 

 

 

 

あの子が……祈ってくれていた事が大きい……

 

 

 

 

 

 

大切な事を思い出せた……

 

 

 

 

 

ただ……その思いをぶつけるだけ……

 

 

 

 

 

生涯手にした事がないほどの、強大な力……

 

 

 

 

 

そこにその思いを乗せて、ぶつけるだけ……

 

 

 

 

 

俺は静かに、この龍刀【朧火】を大上段に構えた

 

 

 

 

 

 

敵の攻撃……その突進力は桁違いの力を秘めている

 

その突進の前に、風の刃に氷の刃

 

そして……敵の音速をも超えた突進

 

 

それを行使するは、鋼龍クシャルダオラ

 

 

 

 

対するは……

 

 

 

 

神の力……龍刀【朧火】を構えた俺……

 

 

鉄刃夜……

 

 

 

【……】

 

「……」

 

 

 

互いに何も発しない……

 

ただ……勝負の瞬間を見定める……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

先に動いたのは……クシャルダオラだった……

 

 

 

 

 

【参る!】

 

 

 

 

 

敵がその思念と供に……否、先に発したはずのその思念さえも超えて……迫る……

 

風の刃が、氷の刃が……そして……風の杭が……

 

空気の壁を濃密に纏い、俺へと突貫する……

 

 

敵が纏うのは空気の鎧と、物理現象の空気の壁……

 

 

音速を超えたその速度では、その物体は空気を纏うようになる……

 

元々纏っていたその空気の壁にさらに空気の壁が出来る……

 

 

空気の刃、氷の刃、空気の壁、空気の槍、氷の鎧……

 

 

軽く見積もって五層の敵の鎧と剣……

 

 

それを迎え撃つは、大上段に構えた俺……

 

 

 

 

一撃だが……数があればいいというものではない!

 

 

 

 

敵の複数の攻撃と違い、俺の攻撃はたったの一つ……

 

 

大上段から渾身の力を込めて繰り出す、切り落ろし……

 

 

体全身の力に重力……

 

 

いくつもの力を使って繰り出す、剣においてもっとも強烈な攻撃……

 

 

 

 

 

 

互いの全力の攻撃が……ぶつかった……

 

 

 

 

      !!!!

 

 

 

 

ぶつかった瞬間……音が消えた……

 

 

 

 

いや、余りにも甲高い音で、人間の聴覚では聞き取れなかった……

 

 

 

 

結果は……

 

 

 

 

互角……

 

 

 

 

ギィィィィィン!!!!

 

 

 

 

互いの技が……力が真っ向勝負でぶつかり合った。

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

【ぬぅぅぅ!】

 

 

 

 

風の刃と氷の刃こそ、容易に一刀両断したが、敵の最強の攻撃である風の杭の突進と鍔迫り合う……

 

敵の風の杭の先端と……龍刀【朧火】の刃先が魔力の火花を散らす……

 

威力では龍刀【朧火】、突進力では風の突進……

 

だが龍刀【朧火】は突進力で敵に劣り、敵は威力で龍刀【朧火】に劣る……

 

故に……拮抗……

 

互いに力の真っ向勝負……まさに……鍔迫り合いだった……

 

 

 

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

【オォォォォォォ!】

 

 

 

 

互いに譲らない……引かない……

 

一旦引いて敵の体勢を崩す、といった小手先の技など用いない……

 

完全に力と力のぶつかり合い……

 

だが……

 

 

 

 

押されている……!

 

 

 

 

持久戦……勝負に時間がかかれば、突進力のある敵の方が有利になる……

 

徐々に……敵に軍配が上がる……

 

 

 

 

「ぐ、ぅ、ぉぉぉぉ」

 

 

 

 

それに圧されまいと……俺は龍刀【朧火】に力を込める……

 

 

 

ギィィィィィィィィ!

 

 

 

さらに刃先と風の杭が魔力の火花を散らす……

 

そして……それが……その火花が……俺の目へと飛び込んできた……

 

それと同時に……

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な思念が……俺の脳へと流れ込んでくる……

 

 

 

 

 

 

 

 

……だが恐怖は感じない、むしろ優しさがあるというか

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 

 

魔力が……命が……語りかけてくる……

 

 

 

 

敵は全てを滅ぼそうとする魔の兵……

 

全ての生命……つまり……草花や木々、自然でさえも例外ではなかった……

 

故に彼らは俺に願う……

 

全てを滅ぼす魔を……邪に……負けないで欲しいと……

 

 

 

 

……なるほど

 

 

 

 

ついに……理解した……

 

 

 

 

本当に借りる物なんだな!!!!

 

 

 

 

ここに至ってさえ俺は間違っていた……

 

 

 

 

今の今まで……まだ操るという事を、心のどこかで思っていた……

 

だが違う……

 

本当にこの力は……魔力とは借りる物なんだ……

 

故に……これを振るう必要性はほとんど無い……

 

 

 

 

そうだろう……龍刀【朧火】よ……

 

 

 

 

そう剣に問いかけた……

 

そして……剣がそれに応える……

 

 

 

 

キィィィィィィィィ!

 

 

 

 

俺の問いに応え、龍刀【朧火】がさらに出力を……魔力を放出する……

 

先ほどとは比べものにならないほどに……

 

そして、それはすぐに顕れた……

 

 

 

 

【ぐっ!?】

 

 

 

 

先ほどまで劣勢だった龍刀【朧火】が、押し返した……

 

敵がさらに魔を込めて突進してくるが……その込めた魔力をも圧倒し……龍刀【朧火】が魔を放つ……

 

 

 

 

「これで……」

 

 

 

 

魔の剣と風の杭がこすれ、火花が散る音……

 

それに負けない声量で……俺は吼えた……

 

 

 

 

「終わりだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

ヒュゥゥン!!!!

 

 

 

 

風の杭さえも龍刀【朧火】が切り裂き、そこにあった敵の頭部さえも通り……刃が……下の地面へとめり込んだ……。

 

 

 

 

【……】

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

痛いほどの静寂が……辺りを包んだ……

 

あれほど吹き荒れていた吹雪もやみ……龍刀【朧火】の魔が消え……媒介になっていた狩竜も……群青から元の鈍色の鉄色に戻っている……

 

俺は振り下ろしていた狩竜を……軽く血振りした……

 

 

 

 

「…………礼を言う」

 

 

 

 

俺は、眼前で、動きを止めている鋼龍クシャルダオラへと……語りかける……

 

 

 

 

「お前が……正々堂々の勝負をしてくれたから……俺はさらに進む事が出来た……。お前のおかげだ……」

 

 

 

 

勝つ事……俺を殺してラオシャンロンの魔の力を得る事だけを考えれば……容易に出来たはずだった……

 

勝つ事だけを考えれば……直ぐに俺を殺されたはずだった……

 

だが敵はそれをしなかった……

 

キリンに対しては戦闘狂のように手負いの敵を倒そうとしていたが……

 

俺に対しては正々堂々の勝負をした……

 

 

【……そう言うつもりで勝負したのではない。私は貴様と全力で戦いたかっただけだ】

 

 

それを言うと……敵の体が薄れていく……。

紫の粒子となって……宙へと飛散し……消えていく……。

 

 

 

 

過去最高の……好敵手と……別れの時が来た……

 

 

 

 

そして……敵の気配が消える……

 

 

 

 

鋼色の光の玉を……残して……

 

 

 

 

俺の前に浮かび上がったそれを……俺は左手で掴んだ……

 

 

 

 

ポォウ

 

 

 

 

左手の平に収まっていたその鋼色の光の玉が、手の平を通し左腕前腕に収まる……

 

 

 

 

収まってしばらく鋼色に左腕前腕が淡く光っていたが、直ぐにそれも収まる……

 

手の平を開いて閉じて……力を入れたりして手の具合を確かめるが、特に異常はなかった

 

 

 

 

「……だが……礼は言っておくよ……鋼龍クシャルダオラよ」

 

 

 

 

最高だった好敵手と別れ……俺はゆっくりと……山を下った……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

これは……!?

 

 

リーメから私とジンヤ宛にギルドナイトから送られてきた書状を開いて読み……私は驚愕した。

ちなみにジンヤ宛の手紙を勝手に開いて読んだのだが……その事に関しては問題ない。

ジンヤ宛、と書かれていたが、さらにその横にギルドナイト隊員であるわたしが読むように書かれていた。

ジンヤが文字を読めない事はギルドナイトでも有名だから、隊長も結局私が読むと思ったのだろう。

一応ギルドナイトの書状だから、一般人に読ませるわけにはいかないし。

さらに言えば……

 

 

『文字は読めん。ので文字関係に関しては全てお前らにまかせた!』

 

 

とジンヤにお墨付きをもらっているので、勝手に読んでも大丈夫だったりする。

その内容は……驚愕的だった……。

 

 

「……なんて書いてあったんですか?」

 

 

いつまで経っても言いそうに無い私に、リーメが急かす。

それでようやく驚きから解放され、私は再度書面を見つめる。

だが、当然それで書いてある内容が変わるわけでもない。

そこには……ジンヤに贈られた階級が記されていた……。

そして小さな同封物が……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

はぁ。疲れた……

 

 

キリン、鋼龍クシャルダオラとの戦闘を終えて、山を下りポッケ村の連中にとりあえず光の玉の事に関してうまくごまかし……気球へと乗って、どうにか俺の拠点であるユクモ村へと帰還した。

下山してきた俺にポッケ村の住民が何か怪しいモンスターがいたのか聞いてきた時、俺は何もいなかったと言っておいた。

実際はクシャルダオラがいたのだが、伝説の存在であるクシャルダオラがいたと言っても不安にさせるだけだし、それにそれを倒したと言っても信じないだろうし、意味がないと思ったからだ。

光の玉に関しては、地元住民も半信半疑だったために特に追求はされなかった。

どちらかというと、曇天を貫いた紫色の光の柱に関してものすごく聞かれた。

 

 

結構距離があるにも関わらず麓まで見えるほどの光量だったんだな……

 

 

まさかアレが麓まで見えているとは思わなかった。

だがこれに関しても馬鹿正直に言っても信用されないだろうし、魔力だ古龍だと言っても意味がわからないだろう。

だから俺も遠くに見ただけでわからないと言うしかなかった。

一部の人間は訝しんでいた物の、自分の目で見ていない異常わからないのでそれ以上の追求は無かった。

キリンの化身である、たてがみの首飾りも一旦外してポケットに隠したので追求されるわけもなく……結局無駄に山歩きをしにきた、という認識で俺はポッケ村を後にした。

 

 

しかし……忙しい一日だった……

 

 

朝にユクモ村を出発、雪山の登山、キリンとの勝負、クシャルダオラとの死闘……

 

 

……我ながらよく生きて返ったと褒めてやりたい気分だった。

 

 

まぁ実際死にかけたしな……

 

 

敵の風翔弾を右腕に喰らい、さらにその後に体に直撃した。

右腕はともかく、体に直撃を喰らって良く生きていたと思った……が。

 

 

もしもし?

 

【……なんでしょう?】

 

 

たてがみの首飾りを首に付け直し(こういったアクセサリーの類は嫌いなんだが……)、俺はこの首飾りにいるであろうキリンへと問いかける。

 

 

【何か?】

 

鋼龍の風翔弾を体に直撃したとき……何かしただろ?

 

 

それしか考えられなかった。

右腕が吹き飛ばなかったのが不思議なほどの威力を秘めた攻撃だったのだ。

それをもろに体に喰らって体が千切れていなかったのが不思議だったのだ。

あの時は戦闘に必死で考えを巡らすほどの余力は無かったが……。

 

 

【……察しがいいですね。確かにあの時だけは助力しました】

 

何をしたんだ?

 

【受けるダメージを軽減しました。あの時あなたが受けたダメージは七割程度になっています】

 

つまり三割軽減したと?

 

【そうなりますね。精霊である私が加護の力を使用して軽減しました。そうしなければ確実に死んでいましたから……。力を貸すなと言われていたので悩んだのですが……】

 

いや、ありがとう

 

 

俺は申し訳なさそうに詫びるキリンに心から礼を言った。

あの時その……精霊の加護でいいかな? が発動していなければ、俺は確実に死んでいたのだ。

確かに力を借りずに自分の力だけで乗り切りたかったが、しかしそれが出来なかったのもまた事実。

ならば自分の修行不足を痛感すれど、それをキリンにぶつけるなど馬鹿げている。

そうしてくれなければ死んでいたのだ。

ならば礼こそいえど、文句など言えるわけもない。

 

 

ありがとう……。おかげでまた成長できたよ……

 

 

死ねばそれで終わる。

だからこそ生きていて良かったと思う。

 

 

明日からさらに修行の時間を増やすかぁ……

 

 

今までは剣術の確認と基礎体力の増強だったが、明日から魔力の扱いも含めた修練を、修行に含まなければならないだろう。

何せ魔力だ。

己の力でなく、他の生命の力を借りる戦闘法なのだから、気力による戦いよりもよほど難しいと考えるのだが妥当だろう。

 

 

「ジンヤさん!」

 

「……ジンヤ」

 

「ジンヤさん!」

 

 

そうしてギルドナイト出張所、通称集会所であ~でもないこ~でもないと考え事をしていると、声を掛けられた。

女の子、女、男の子の順だ。

それだけで誰なのか一瞬でわかる。

 

 

「ジンヤさん! お疲れ様です!」

 

「……おう」

 

 

真っ先に駆けつけてきた、レーファに軽く手を挙げながら返事をする。

 

 

 

 

ジンヤさんが、無事に帰ってきますように……

 

 

 

 

……あの思念を聞いた後だと恥ずかしいな

 

 

妙に照れを感じてしまう。

あの台詞が無ければ諦めたままで……俺は死んでいた可能性が非常に高い……。

しかし、お前の声が聞こえたというのも何というか……恥ずかしいような。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

返事をして固まっている俺を見て、レーファが俺の顔をのぞき込んでくる。

目の前にあどけない顔をドアップで見せられて、俺は一旦考える事を放棄した。

首を傾げて肩をわざとらしく、芝居じみながら竦めてごまかす。

そんな俺に全員が頭に?マークを浮かべていたが知った事ではなかった。

 

 

「ジンヤさん、どうしたんですかその首飾り」

 

 

そこでレーファがめざとく俺の首にある、キリンのたてがみの首飾りを見つける。

 

 

「ん。あぁこれか? 何も無かったお詫びとしてポッケ村の村長がくれたんだよ」

 

 

ちなみにこの理由、半分は正解だったりする。

何なかったのにこちらまで出向かせて~、みたいな事でお詫びをしたいと言い出したのだ。

しかし実際は無駄で無いどころか大きな収穫を得た後だったし、嘘も吐いている事でそんな物がもらえるわけもない。

だが頑なに断るわけにもいかなかったので、首飾りを一つ購入したのだ。

そしてその購入した物をつけないで帰還した。

購入した物はたてがみの首飾りを入れていたポケットに未だ入っている。

 

 

「ところでどうしたんだ? みんな雁首そろえて。何かあっ……」

 

「って、ジンヤさん! どうしたんですか服!? まさか怪我してるんですか!?」

 

 

俺の質問が言い終わる前に、レーファがめざとくずたずたになっているズボンを見つけた。

足下で、しかも夕方だから気づかれないと思っていたのだが……。

 

 

「あ、本当だ!? 大丈夫ですか!?」

 

「っていうかお前がクエストで怪我するとか初めてだろう!? 何があった!?」

 

 

レーファに引き続き、弟子一号、二号も悲鳴を上げる。

まぁ確かに結構ずたずたに切られたために、それなりに見た目も派手である。

 

 

「あ~気にするな。怪我はしていない」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ。つららが降ってきて破けただけだ」

 

「本当に……か?」

 

 

うっわ。みんな完璧に疑いの眼差しだよ……

 

 

「いや、疑うなよ? 俺も人間だぞ?」

 

「「「……」」」

 

「いや、そこで沈黙するな!」

 

 

こいつら俺の事どう思っているんだ!?

 

 

全く、人を人外扱いしやがってからに……。

まぁ確かに気力使って普通の人間では出来ない機動をしているのは事実だが……。

 

 

肌の色、髪の色、目の色も違う、食文化は和食文化、建築文化も違う、服飾文化も違う、挙げ句の果てには鍛造技術の異常さ……。

 

 

……人外と思われる要素十分か

 

 

改めて自分の異常性を再認識した俺だった。

が、それでいつまでもへこんでいるわけにも行かないのでとりあえず一旦息を吐いて気分を切り替える。

 

 

「まぁ確かに俺は変人だが……人間だ」

 

「……普通自分で変人って言うか?」

 

「言わせたのはお前達だろうが!!」

 

 

フィーアが容赦ない言葉を言ってきたので俺は思わず吼える。

しかし相手も慣れたもので慌てずに受け流された。

弟子の育成方法を間違えたかもしれない……。

 

 

まぁそれはいいとして……

 

 

「今回は本当に怪我はしていない。傷もないだろ?」

 

 

心の中で嘆息を付きつつ、ずたずたに裂けたのGパンをまくり上げて傷がないのを見せる。

実際魔力を一応扱えるようになったときに体の傷は全快しているのだ。

後も残っていない事は確認済みだった。

怪我をしたときにでた血でぬれていたが、どうにかしてポッケ村で血は洗い流した。

 

 

「……確かにそうですけど」

 

「特に何も無かったしな」

 

「……何もなかった?」

 

 

うん?

 

 

そこで俺はようやくフィーアが何か……俺に対して疑いの眼差しというか……喉の奥にでも魚の骨が突っかかっているような……そんな疑心暗鬼にも似た感情をぶつけてきている事に気がついた。

だがそれ以上何も言葉を発しようとしないので、俺は話を進める。

それにこいつはそんなに難しいことを考える人間でもない。

 

 

俺を信じられると思ったら信じ、信じられないと思ったら離れていくだろう。

 

 

だから俺は自分からは何も言わず、フィーアが感じるまま、フィーアの気持ちに全てを委ねた。

 

 

「傷もないし俺の話はこれでいいだろ。ところで本当にどうしたんだ? 総出で迎えに来て」

 

「え、えっとそれは……」

 

「……ジンヤ。とりあえずこのままお前の家行こう」

 

「……何で?」

 

「みんなで食事会を開く事になったんです。会場は村の広場です」

 

 

食事?

 

 

そう言われて嗅覚に意識を集中してみると、確かに村の中央付近から料理のいい匂いが漂ってきている。

食事会を開く事になったのは嘘ではないようだ(嘘を言う理由もないだろうが)。

だがわからないのが食事会を開く事になった理由だ。

 

 

「それはいいんだが……何で食事会なんて急に?」

 

「え、えっと……」

 

「日頃お前に世話になっているからそのお礼だ。とりあえず荷物を置きに行かないか?」

 

「あ、あぁそうだな」

 

 

なんかたたみかけられて思わず頷いてしまう。

そのまま出張所から裏門を経由し、俺の家へと四人で向かう。

そして荷物を置いてムーナに帰ってきた挨拶をし、武器類を置いて着替える。

さすがにこのずたずたのパンツで行くのは抵抗があったからだ。

そして自宅の温泉でとりあえず汗だけ流した。

汗を流して着替えたのはユクモノ道着である。

それから着替えが終わると三人に急かされて直ぐに村の広場へと向かう。

 

 

「しかし何でまた急に食事会なんだ? 日頃世話になっているって言うが、そこまで何かをした覚えはないんだが」

 

「いや、十分貢献してるだろ?」

 

「そうか?」

 

 

何いってんのこいつ? みたいな呆れ顔でそう言われるが、心当たりがあまりない。

 

 

「そうですよジンヤさん。お父さんに鍛造の技術を教えてくれたり」

 

「他にもこの村の特色を与えてくれたじゃないですか。今では観光地として名前が挙がるようになったんですよ? まだ宿泊施設とかがそこまで整っていないので何とも言えないですけど」

 

 

そう言われても俺としては自分が暮らしやすいようにした事で、余りこの村に貢献したという実感はない。

だがまぁ、これ以上言うのは野暮という者だろう。

そうして四人で話しながら広場へと到着すると。

 

 

「お、主役がきたぞ!」

 

 

主役?

 

 

「お! 本当だ! みんな! ジンヤ君が来たぞ!」

 

 

何人かがそう言うと、広場にいた何人かが一斉に俺の方へと目を向ける。

けっこうな人数がいるので結構怖かったりする。

 

 

「主役?」

 

「そうだ、君が主役だよジンヤ君」

 

 

俺が村のみんなの主役という単語に驚いていると、柔和な笑みを浮かべた村長が、孫娘のユーナちゃんと一緒にやってきた。

 

 

「お帰り! お兄ちゃん!」

 

「おうただいま」

 

 

足下に抱きついてきたユーナちゃんの頭を軽く撫でる。

それから村長が歩み寄ってきた。

それに伴って騒いでいた村民達が静かになった。

 

 

「ギルドナイト隊員、ジンヤに、ギルドナイトの最高の階級である、遊撃狩猟の階級を与える」

 

 

遊撃狩猟?

 

 

その台詞を聞いて疑問が頭をよぎった。

だがそれを聞く前に村長が言葉を言い切った瞬間に、広場に爆発的な歓声が沸き上がった。

そしてそれと同時に……宴会へと突入した。

子供達は広場にある机に所狭しと置かれた料理に食らいつき、大人はまず手に持っている杯の中身を一気に煽る。

 

 

……何がなにやら?

 

 

全く状況が掴めなかった。

そんな俺に後ろにいたフィーアが俺の肩に手を置く。

そちらを振り返ると、何かバッジのような物を持っている。

そしてそれを差し出してくるので思わず受け取ってしまった。

 

 

何だろうね?

 

 

バッジには龍のような刻印がある。

もっともスタンダードな西洋龍が左に炎のような物を吐いている。

 

 

「優秀なハンターに贈られる『天地狩猟ノ覇紋』だ」

 

「なんだそれ?」

 

「まぁエリートの証みたいな物だな。これをもらったのはギルドナイトでもごく少人数しかいない。隊長クラスだから……一桁以下だな」

 

 

そんなのもらったのか?

 

 

そんな大層な物だとは当然知らない俺は呆けるしかない。

確かにバッジ自体にも結構いい鉱石が使われているようだった。

しかしそれだけじゃなく、遊撃狩猟という階級ももらったらしいのだが……。

 

 

「遊撃狩猟の階級。これもごく一部のギルドナイト隊員にしか与えられない階級だ。好きなクエストを受注できる」

 

「……それほとんど今までと変わってなくないか?」

 

「……そうだな」

 

「つまり……」

 

「……多分大して意味無いな。少なくともジンヤにとっては。おそらく隊長の都合じゃないだろうか? 書類関係とかの」

 

 

書類仕事お疲れ様、ってところか

 

 

肩すかしを食らった感じだが、別にこの階級もこの紋章も欲しかったわけではないし(そもそもこんなのあったのなんて知らなかったし)、特に俺の日常に代わりがなさそうなので俺はこの紋章の事も階級の事も忘れる事にした。

が、周りは俺に構わずどんちゃん騒ぎである。

あまりの賑わいに、迂闊な言葉を上げるのもためらわれる。

 

 

「そんなにすごいのか? この紋章とこの階級?」

 

 

フィーアに聞くと呆れられそうだったので、ぼそりと、そばにいたリーメに聞いてみる。

 

 

「当たり前ですよ! 『天地狩猟ノ覇紋』ですよ!? ハンターなら必ず誰もが一度は夢見る紋章ですよ!? 嬉しくないんですか!?」

 

「う~ん。こんなものの存在を知らなかったしなぁ。何とも言い難い」

 

 

リーメに詰め寄られて苦笑するしかない。

リーメがここまで熱くなるのだから確かにすごいのだろうが、俺にとってはまさに猫に小判なのである。

だがまぁ……

 

 

嬉しくなくても素直に宴会を楽しむかぁ……

 

 

周りで皆が楽しそうに騒いでいるのをわざわざ場を盛り下げる必要もあるまい。

俺は苦笑しつつ紋章をユクモノ道着の胸の部分につける。

するといつの間にか注目していたのか、村民が一同で拍手をしてくれた。

なんか無性に照れくさかったが、一応嬉しいというアピールをするために、無駄に胸を張ってみたりする。

それが終わるとレーファが酒を持ってきて、再度皆で乾杯をした。

ちなみに料理は我が家族の一員でもあるグラハム、ジャスパー率いる「和食屋」からの提供である。

余談だが……

 

 

「材料費は店長からいただくニャ!」

 

 

と笑顔でいわれた。

 

 

……まぁ別にいいけど

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

ジンヤがハンターの夢の一つである、『天地狩猟ノ覇紋』を受領した記念として、開かれたその席で、私は一人端の方で水を飲みながら考えていた。

 

 

天地狩猟ノ覇紋を知らない……

 

 

そのジンヤの言葉に引っ掛かりを覚えていた。

天地狩猟ノ覇紋は確かに身近にみる機会もなく、またそれを聞く機会も少ない。

何せ前回受領したのは数年前のディリート隊長だ。

そのさらに前までさかのぼれば数十年前だ。

ハンターになってまだ半年もたっていないジンヤがもらうには異様なのだ。

確かに書類仕事なんかで必要なことなのかもしれないが、それでも異例中の異例だ。

 

 

ランポスの大群、異様なリオレウスの討伐、伝説の存在ともいえる青リオレウス、伝説のラオシャンロン、桜火竜とも出会った……

 

 

今まで普通では起こり得ないような出来事を列挙するだけでもジンヤの存在は異常だった。

それに何より……ジンヤが顕れてから、伝説の存在が次々と世に出くわしている。

 

 

蒼リオレウス、桜リオレイア、ラオシャンロン。

さらに言えばレーファがクエストについてきたときはオオナズチもいたらしい……。

 

 

オオナズチ。

別名霞龍と呼ばれる姿が全く見えないモンスター。

霞という別名通り、全く見えないその姿のために、この龍こそ人々の恐怖が生み出したただの空想上の生物じゃないかといわれるほどだった。

それほどまでに見えない龍。

体色が紫という事ぐらいしかわかっていない。

しかしそれすらも討伐したというジンヤ。

さすがに大量も訝しんでいたが、あの男なら……ジンヤならそれが可能だと思えてしまう。

この短期間で、次々と伝説の存在と出会うジンヤ……

 

 

……出会うのではなく、引き寄せられているのか?

 

 

ジンヤの存在に……。

ジンヤが顕れてから突如として出現するようになった……伝説の火竜、古龍種。

ジンヤ……お前は一体……

 

 

何なんだ?

 

 

 

 

~リオス~

 

 

「……ラーファ」

 

「何です?」

 

「……レーファは?」

 

「……聞かなくてもわかってるんでしょ」

 

 

ぐむぅ……

 

 

確かに、そばにいる妻のラーファに聞くまでもない事だった。

我が娘、レーファが今この宴会場でどこにいるかなど……。

そしてその答えは直ぐに見つかる。

予想通り、少し先の場所にいた。

正しくいえばみんなに囲まれているジンヤ君のそばにレーファがいるかたちだが……。

 

 

あいつも今年で15か……

 

 

一人娘、レーファ。

私の妻であるラーファとの間に出来た娘。

鍛冶士である私の娘であるために、辛い思いを何度もさせてきた。

それでもいい子に育ってきてくれたと思う。

 

 

「……相変わらずあの子はジンヤさんが好きですね」

 

「……そうだな」

 

「複雑? 娘が大好きな父親としては」

 

「……」

 

「うふふ」

 

 

全てを見透かされていそう(実際わかっているのだろうが)、ラーファにそう言われて私は身中複雑だった。

仮に……仮にこのまま……………………だとしても……ジンヤ君ならば信用できる。

彼がもしレーファと一緒になってくれるのならば、レーファを幸せにしてくれると。

 

 

「レーファも今年で15。嫁入りには十分な歳ですね」

 

「……そうだな」

 

「複雑なのね。男の人は。もう少し喜んだらどうですか? あの子が本当に好きだと言える人がいるんですよ。それもとびっきりのいい人が」

 

「……そうだな」

 

 

そうして私が悶々としながら応えていると、そんな私に呆れたのか、ラーファが私の空いていた手を握りしめてくれる。

突然の事で驚き、ラーファに目をむけると……そこには満面の笑みのラーファがいた。

 

 

「大丈夫ですよ。私はどこにもいきませんから」

 

「……ラーファ」

 

 

優しく見つめてくれるラーファの手を、私は静かに握った。

何年も前に……そうしたように。

 

 

「どうなろうとも、私が……私たちがする事は変わりませんよ。あの子をちゃんと見て、あの子をちゃんと守って……でも最後はあの子の想いを尊重し、あの子が巣立つのを見守りましょう」

 

「……そうだな」

 

 

バカみたいに周りが騒ぐ中で、私はラーファと静かにレーファと彼を見つめた。

 

 

「ただ、見守ろう。あの子の行く末を。成長を……」

 

「……えぇ」

 

 

 

 

~ディリート~

 

 

疲れた……

 

 

本日の書類仕事を終え、私は背を伸ばす。

こりに凝った肩と首を動かせば、ゴキゴキと凄まじい音を一人きりの室内に響かせた。

それに苦笑しつつ、私は席を立ち、窓に映る月夜を眺める。

 

 

そろそろ届いたか?

 

 

先日ジンヤに贈った手紙。

その中に同封されている天地狩猟ノ覇紋のバッジ。

大長老の提案によりジンヤに贈与する事になった風評だけでなく、ギルドナイトでさえも認められた栄光の証。

一面だけを見れば確かにそれは栄光だが、逆に言えばそれは彼が強すぎるという事を皆に知らせるための物でもある。

ジンヤが現れて、ハンターになり、ギルドナイトに所属してからは、直々の使命依頼が一気にジンヤに集中した。

強力なハンターがいる事は嬉しい事だがそれも度が過ぎれば争いの元になる。

何せ高額な依頼はほとんどがジンヤが独占してしまっているのだ。

ジンヤとしてはそんなつもりは毛頭無いだろうが、ジンヤをよく知らない。

ギルドナイトが優遇している、とまでいわれる始末だ。

 

 

まぁだからこそ今回のような異例な事態に陥ったのだが……

 

 

ありもしない事を言われるのならばいっそのこと、そのありもしない事を現実の物にしてしまおうという話なのだ。

今回の天地狩猟ノ覇紋授与はジンヤが生半可な実力者ではないことを物体であらわしたものなのだ。

天地狩猟ノ覇紋を知らない人間はいないと言ってもいい。

そしてそれは大長老を含め、ギルドナイトの上層部でもある長老たちの話し合いの元授与が決まる。

大長老だけでは与えられない称号なのだ。

これに関しては周知の事実なので大長老からのひいきとみられることも少ない。

 

 

まぁそれでも一部の連中はひいきしたと……みるのだろうが……

 

 

最近ジンヤのあらぬうわさを流す集団の情報が入ってきている。

まぁあらぬと言っても今のところほとんど本当のこと(異常な身体能力、蒼リオレウス討伐、ラオシャンロンの討伐)と言った一般人からしたら嘘だと思えるような本当のことしか言っていないからまだ調査しかしていないが……。

 

 

まぁ化け物と言いたくなる気持ちもよくわかる

 

 

それに関しては私も同意だった。

あれほどの身体能力を持った人間が本当にいるのかと思えてしまうほどだ。

だがそれでも……あいつに頼らねばならない状況に陥ろうとしていた……。

 

 

 

 

『ラティオ火山 火山活動活性化と異常噴火についての報告』

 

 

 

 

本日最後の便で到着した、一通の報告書。

それの内容をみれば……誰もが絶望に駆られてしまうような内容だった……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「……疲れたな」

 

「そ、そうですね」

 

 

俺の心からの言葉に、レーファが苦笑しつつ頷いてくれる。

帰ってきてすぐに行われた宴会は終わる事を知らず、深夜まで続けられた。

現実世界では日付が変わっても宴会を続ける事は日常的に行われるが、この世界はまだそこまで文明が発達していない世界だ。

基本的に農民が多く、農作業というのは恐ろしく重労働だ。

故に朝早くから始まり夕暮れまで続く。

その重労働であるために夜は早い。

大体の家は午後八時くらいには眠りにつくのだ。

自衛団もかねている村のハンター達はこれから仕事だが……。

 

 

「いくら祝い事だからってはしゃぎすぎだろう……。明日は俺も農作業を手伝うか……」

 

 

頼んでいない事とはいえ、俺のために祝いの席を設けてくれたのだ。

ならばその礼をかねて農作業を手伝っても罰は当たらないだろう。

 

 

「そ、そうですね……」

 

 

ん?

 

 

そこで俺はようやく、レーファが眠そうにしている事に気がついた。

農民の例に漏れず、レーファも朝が早い。

それ故に夜も早いのだが今日はなんか頑張って深夜である今までずっと起きていた。

相当眠いはずだ。

それに早熟というか……大人びているとはいえレーファはまだ14の子供だ。

眠くなるのも仕方がないというところだろう。

このまま寝かせて上げるのが一番なんだが……。

 

 

いわなきゃいけない事もあるしな……

 

 

それにまだ子供であるこの子を俺の家で泊めるわけにもいかないだろう。

若い男がいる家に女の子を泊めるなんてことはいろいろと問題がある。

無論手なんぞ出すつもりは毛頭無いが。

 

 

「起きろレーファ。家で寝ろ」

 

 

そう言って俺は半分寝ているレーファを起こす。

レーファも泊まるつもりは無いのだろう。

ものすごく眠たそうに目をこすりながらもそもそと起き出した。

 

 

「むにゃ……ジンヤさん?」

 

「起きろ。家まで送るから……」

 

「……はい」

 

 

まだ寝てるな……

 

 

今から話す事は気恥ずかしいのでぶっちゃけ今寝ているこの子にいった方が俺としては楽なのだが……こんな俺に告白してくれた子に対して失礼なので俺は逃げずにレーファを起こす。

 

 

「起きてくれレーファ。お前に……お願いがあるんだ」

 

「……お願いですか?」

 

 

俺がそんなことをいうのは珍しいからか、レーファが唐突に目を覚ました。

確かにこの世界に突如として迷い込んで以来、レーファに頼み事をするのは久しぶりだ。

 

 

「……俺が雪山にいたとき……お前の声が聞こえた」

 

「……え?」

 

 

言っている意味が余りにも突拍子過ぎてわからないんだろう。

まぁ確かに物理的に考えて声が聞こえるなどあり得ない。

何せ何百キロと距離があるのだ。

俺が本気で(気を全力前回で使用)声を出しても届くわけがない。

レーファがその事を言い出す前に、俺はさらにたたみかける……。

 

 

「俺が無事に帰ってくるように……願ってくれてありがとうな」

 

「は、はい……。どういたしまして」

 

 

レーファからしたら何を言っているのかわからないので生返事しかできないだろう。

だがそれでも必死に何の事か考えているレーファの頭を撫でる。

 

 

「……ジンヤさん?」

 

 

何かしか気づいたのか、レーファが俺に何かを聞こうとする。

だが俺は答えるわけにもにもいかないので、呼びかけに答えなかった。

それを見てレーファも自分の意志を引っ込めてくれる。

 

 

本当に出来た子だよ……

 

 

レーファに頼ってばかりの自分で情けなかったが……それでも俺は言葉を口にした。

 

 

「もし……」

 

「はい」

 

「もし良かったら、今度からも、俺がクエストとかに行っているとき……心の片隅でもいいから俺の無事を、祈っていてくれ……」

 

「……はい」

 

 

眠気も完全に飛んだのか、レーファがしっかりと俺の目を見ながら、そう頷いてくれた。

そんなレーファに……俺は心から感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火山のとある火口にに、二つの何かがいた……。

極熱の溶岩に包まれても平然とし、それらは悠然とその場に居続けていた。

 

 

【鋼龍が敗北したようですね】

 

【……そうだな】

 

 

紅炎に輝く溶岩の中で、会話する二つの気配……。

 

 

紫と、紅。

 

 

獄炎すらもものともせず、逆にその熱を吸収するように、それらはその極熱の中に没していた。

 

 

【まぁ凄まじいまでの魔力の奔流が一カ所に流れ込んでいたことを考えれば当然かもしれないが】

 

【どうします?】

 

 

紫の質問に、紅は応えなかった。

だがその時異変が起きる。

なんと紫と紅を包んでいた火口に存在していた溶岩が一瞬にして消えたのだ。

まるで何かに……吸収されてしまったかのように……。

 

 

【決まっている。やつを倒し、我を操っていると思っているあの邪龍に、一泡吹かすのよ】

 

 

紅が力強くそう答える。

そしてその頭上にいた丸く宙に浮いた物……気球を睨む。

気球に乗っている人間達は、突如として溶岩が消え、またそこから出てきた二匹の見慣れぬモンスターに驚いていた。

 

 

【ふん。人間が、我が視界にはいるな!】

 

 

そう言うと共に、気球が激しい熱気に包まれた……。

そしてその異変に人間が気づいたときには……。

 

 

ボォン!

 

 

気球を紅蓮の爆発が包み、跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んだ。

それを見てもその二つは特に何も言わない。

それどころか興味もないのか目を向けてすらいなかった。

 

 

【オオナズチは当然として、クシャルダオラが破れた以上、あの力を手にするのは……我だ】

 

 

 

 

 

 

 




討伐してはでて、討伐してはでて……
刃夜に安寧の明日はないw

次はテオさんっすね!
舞台は火山!


1108誤字修正
dgo様 ありがとうございました!

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