リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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遅くまりまして申し訳ありません。
作者の都合で今月最初の日にあげる予定が……
お待たせいたしました。

ついに……
キタ━━(゜∀゜)━━!!

ついに始まる古龍との戦い!
まさに常軌を逸した敵の強さに、刃夜がどうやって立ち向かっていくのか!?
蒼リオレウスをも従わせる事の出来るその強さとは!?

それでは古龍種との戦い開始~~~~~
ちなみにちょいと短めです



見えない敵

~???~

 

 

俺は一応、ドンドルマではちょっとは名の知れた名ハンターだ。

恐怖の代名詞とも言える、飛竜種を何度も葬ってきた男だ。

 

 

ふ……そう羨望の眼差しで俺を見るなよ……照れるだろう?

 

 

俺から言わせれば……飛竜を狩れないでハンターを名乗っているやつがいる事が腹立たしい。

ハンターとは、普通の人間とは違い、勇敢で格好良くて……誰よりも強く無ければいけないというのに……飛竜にすら勝てないやつがハンターなんて名乗らないで欲しい。

まぁそんな俺様が、沼地で鳥竜種のゲリョスを討伐するクエストを受注したときだ……。

え? 何で飛竜じゃないかって?

たまたまゲリョス素材が必要だったからな。

骨休めもかねてゲリョス討伐に向かったのさ。

 

 

……なんだその疑いの眼差しは! 不愉快だ!

 

 

ふん、まぁいい。

さっきも言ったが、俺は肩慣らしもかねて、ゲリョス討伐に向かった。

そのはずだったのだが……どういうことだ?

 

 

ゲリョスどころか……雑魚モンスター一匹すらいない

 

 

いつもならばこちらを見たら優雅さのかけらもなく突進してくるだけが脳のファンゴや、名ハンターたるこの俺の邪魔をすることしかできないイーオスなんかがいるはずのこの沼地に……全くモンスターの姿が見あたらなかった。

 

 

……なんだ?

 

 

俺はこの不思議な現象に首を傾げるしかなかった。

その時だった。

 

 

【ククククク】

 

 

そんな薄気味悪い……神経を逆なでにするような何かが、俺の耳に届いたのは……。

そしてそれと同時に、強い気配を感じて……俺は咄嗟に武器に手を添えながら後ろを振り向いた。

だけど……。

 

 

何もいない?

 

 

そこには何もいなかった……何もいなかったはずなのに……

 

 

ガスッ!

 

 

!?!?!?

 

 

誰もいなかったはずなのに……俺は背後から襲われた!

それだけでなく、俺と一緒に来ていた……俺の子分達も襲われて……。

あまりに不可思議な現象に、俺たちは逃げ出した。

不名誉な傷を……負わせられながら……。

 

 

何だったんだ!?

 

 

今までの敵とは何かが違う!

 

 

俺は屈辱に苛まれながら……クエストリタイアの報告書を書いた。

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■……」

 

 

その子に近づいて、俺はその子の名前を呼んだ

 

だけど、その子は……いつも笑顔を振りまいてくれたこの子は、ぴくりとも動かなかった

 

地面がその子を中心にして、赤く揺らめく炎とは違った紅い何かで、地面が真っ赤になっていた

 

まるで美しい真っ赤な花弁のようだった

 

俺は力なくその子のそばに跪くと、その子の体を抱き起こして、静かに抱きしめた

 

 

そのひどく……冷たくなった体を……

 

 

その冷たさが否応にも彼女がもう……生きていない事を如実に語っていた……

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――!!!!!」

 

 

俺は吼えた……

 

それを否定したくて……否定して欲しくて……

 

だけど、世界は無慈悲で……不平等で……

 

俺にはただ吼え続ける事しか…………出来なかった……

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

俺は、ゆっくりと、身を起こした……。

 

もう最近になっては毎日のこの悪夢に慣れてしまっていた。

ただ作業のように起きて顔を洗って、風呂に入って汗を流し、弟子達を迎えて修行に励む。

特にフィーアは俺が与えた新しい武器、斬破刀の扱いを覚えるために、今まで以上に修行に励むようになっていた。

そして……。

 

 

「出来たぞ、リーメ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

先日、フィーアの鍛造で失敗した事で、リーメの武器も鍛造することになってしまって、俺はそれを作っており、そしてそれがたった今完成したのだった。

 

リーメの希望により火竜刀紅葉と同じ小太刀を鍛造しており、それが完成したので、俺はそれを今リーメに引き渡していた。

刃渡りは火竜刀紅葉と大差のない二尺が無い程度の一尺九寸。

反りは普通の京反りである。

特徴として、火竜刀紅葉と同様に鉄の塊の中にリーメが結局使っていなかった雷狼竜の素材を大量に混入した。

そのために、この刀は雷を纏い、高電圧な雷を発するようになっていた。

鍔元に雷狼竜の白い毛を使うことによって、帯電し、また雷の力を増幅することに成功した。

柄も雷狼竜の黄土色の甲殻を使用することによって雷の発生機関となっている。

また異様に気力を放っていた、特殊な鱗は、全体的にちりばめることによって碧玉とまでは言わないまでも、それなりの力を発する事に成功している。

そして楯は火竜刀紅葉と差別化するために、東洋的な楯ではなく西洋的な楯にした。

が、何となく鬼の角のように二つの角を持った楯を制作した。

角の部分は黄土色の甲殻を使用し、中心部分は絶縁体とも言える鱗を大量に使用して、鬼の面のような楯を作った。

またリーメの希望のために前腕よりも少し大きいくらいのサイズの小型サイズに制作。

リーメのために制作された、小太刀二振り目……

 

銘を |雷狼刀(らいろうとう)【|白夜(びゃくや)】

 

俺の力の限りを込めて作られた……リーメのための小太刀二振り目だった。

何でも俺の二刀流に憧れて双剣使いとしてデビューしたいらしい。

そのために俺にこの小太刀を作らせたようだった。

俺としてもリーメがもっとも望む物を作ることが出来て嬉しかった。

 

また俺も、リオスさんの協力の下、新たな武器を背中に装備していた。

 

先日、大長老よりもらった太古な感じのする(意味不明)小さな固まりなのだが……無駄な部分を削っていくと、どうも武器っぽい何かが風化していることに気づいた俺は、リオスさんに風化したこの武器をどうすればいいのか相談した。

するとリオスさんは工房で研磨剤としても使われて重宝されている鉱石、大地の結晶を大量に用いて磨いてみればいいというアドバイスを頂き、俺は大地の結晶をそこら中から採掘してひたすらかき集めて、六十程の数の大地の結晶でひたすら磨いた。

 

 

シャッ シャッ シャッ シャッ 

 

 

大地の結晶で磨いていくとやがてその武器が明らかになっていき、露わになったその武器……それは一対の双剣だった。

刃渡りは打刀ほどの長さの剣で、柄頭まで伸びたフィンガーガードの役割も果たしている刃が特徴的な剣であり、側面にある模様が何か禍々しい剣だった。

剣先辺りに、まるで目のような黄色い装飾が施されており、それが柄辺りまで伸びている。

|鎬(しのぎ)(刃と刀身側面の境目の所)から峰へと向かって、いくつもの青緑色の筋のような物が伸びていて、それが剣をより一層妖しく飾っていた。

そして何よりも、その武器はただの鉱石から出来た物ではなく……何か特殊な力が込められているような……そんな雰囲気を醸し出している不思議な武器だった。

伝承にあるラオシャンロンと言うのは遙か太古の生物であるという一説もあり、そのラオシャンロンから出てきたというこれは恐らく、相当昔に作られた武器と言うことになる。

 

 

まるでというか……まさに『いにしえの双剣』と言ったところか……

 

 

俺はその双剣を「いにしえの双剣」と名付けて、新たな武器としてとりあえず使ってみることにした。

特製の布のシースを作り、それを背中に固定し、柄を下向きに来るようにして固定できるようにした。

抜刀するときは後ろ腰辺りに飛び出している柄を握って抜刀する。

こうすれば仮に狩竜を背中に担ぐことになっても抜刀するときに干渉することが無い。

俺はこの「いにしえの双剣」と夜月、花月、水月、月火を装備、服装はユクモノ天を装備し、本日のクエストに赴こうとした。

 

…のだが……

 

 

レーファがこないな……

 

 

そう、この日何故かレーファが俺の家へとやってこなかったのだ。

一週間前に店をやめると明言したレーファ。

だがそれで俺との縁を切ったわけでもなかったので、朝には以前通り来ていたのだ。

だが、昼間何をしているのかまではわからない。

俺はレーファが何をやるか気になりつつも、結局ギルドナイトとしての仕事が回ってくることになって、昼間にレーファが何をやっているのか把握することが出来なかった。

 

そしてそれによって一波乱が起こってしまうのだが……今の俺には知るよしもない。

 

 

 

 

俺は訓練が終わった後にいつものようにリーメにフィーアを連れてユクモ村に建築されたギルドナイト出張所へと向かう。

この日はリオスさんが前もってこないことを言っていたので、リオスさんはいない。

そしてリオスさんとレーファを除いた三人で、ギルドナイトからのクエスト依頼があるかどうかを確認しに行った。

そしてそのギルドナイト出張所へはいると……予想外の物を見ることになったのだった。

 

 

……見慣れない子がいるな

 

 

出張所の中に足を踏み入れると、ギルドナイトマネージャーが、この村では見たことのない……っていうかフィーア以外に女のハンターはいないはずなのだが……入り口付近から見えるその後ろ姿のシルエットはどう見ても女の子の華奢な体をしているハンターがおり、その脇には今朝こないと言っていたリオスさんがいる……。

その子が来ている防具は、先日レーファと共に新しくこの村の看板防具として開発したユクモノ道着を装備している。

そして得物としては、この村の看板装備というか……一番初めに手にするという武器の一つである、ユクモ弩というライトボウガンを背負っている。

 

 

「ひょっとして……レーファか?」

 

 

俺が思わず口に出してしまったその台詞を聞いてその子が振り返った。

そしてその予想は違えることもなく……。

 

 

「? あ、ジンヤさん! おはようございます!」

 

 

振り返ったその女の子は紛れもなくレーファであって……何が嬉しいのか知らないが、もの凄く嬉しそうに俺に挨拶をしてくるのだった。

あまりにも予想外なこの出来事に……俺はただ口を開けてバカみたいな顔を作る事しかできなかった。

 

 

 

 

「ジンヤ君ちょうどよかった。レーファちゃんがどうしても君のクエストに着いていくって行って聞かないんだ……何とかしてくれないか?」

 

 

ほとほと困り果てているのか、ギルドマネージャーのデウロさんにしては珍しく、酒に酔った様子のないわりと真剣な表情で俺に懇願してきた。

俺はそれが耳に入ってきているのだが……あまりにも意外な出来事にまだ脳みそが処理を仕切れておらず、咄嗟に返事をすることが出来なかった。

 

 

「あ~~~……レーファ? その……本気なのか?」

 

「本気って何がですか?」

 

「いやその……ハンターになるというのは」

 

「本気です!」

 

 

そう言ってくるレーファの表情は紛れもなく真剣な物であり……この子としてはきちんと考えて行動をしているのだろうが……その身から溢れる気力には……あまり真剣さというか……覚悟が感じられなかった。

 

 

何を思ってハンターになろうとしたのかはわからないが……恐らくこの子はわかっていないな……

 

 

ハンターになるのが……どういう事なのかということを……

 

それがわかった瞬間に俺はこの日の行動はもう決まったも同然だった。

とりあえずレーファのことは置いておいて、リオスさんとデウロさんの耳を借りて、三人で内緒の話をする。

 

 

「リオスさん、これはどういう事ですか?」

 

「どうもこうも……まぁそう言うことなんだろうな」

 

「そう言うことと言いますが……そもそも何故許可を出したのですか?」

 

「許可はしていないのだが……あの子なりに考えてハンターになりたいといったのだから、それを頭ごなしに否定するのもよくないと思ってな……」

 

 

なるほど……

 

 

その言い分ももっともだった。

レーファは今十四歳だ。

現実世界で言えば中学生の年齢なのだ。

中学では地域にもよるが部活動に入っている可能性は高い。

そして部活動には仮入部という制度もあり……多感な年頃である思春期に様々な体験をさせることが出来る。

ならばハンターに仮という形で経験させるのも悪くないだろう。

 

 

特に……ハンターになることの意味を理解していないであろうレーファには

 

 

俺は内心で溜息を吐きつつ、仕方なく本日の予定を決定した。

 

 

「リオスさん」

 

「何だ?」

 

 

「絶対にレーファにかすり傷一つ負わせないと約束しますので……俺にレーファのことを任せてもらえませんか?」

 

 

俺のその言葉に、リオスさんもデウロさんも驚愕に目を見開いていた。

確かに仮入部みたいな形でハンターとしての経験を積むのはいいかもしれない。

しかし部活動と違ってハンターは命を危険にさらす事もあるのだ。

軽々しくやっていい事ではないのだ。

だが、間違いなくレーファはハンターになるのがどういう事なのか理解をしていない。

だから俺がそれを教えようと思ったのだ。

 

 

「ジンヤ君……村長の基礎講習すら終わらせていない完全な素人を……というか素人ですらない人材をハンターとして狩り場に行かせるのは……」

 

「わかった。レーファの事、ジンヤ君に任せよう」

 

 

デウロさんは職務が職務故に反対意見を出してくるが、リオスさんは俺と想いが同じなのか、頷いてくれた。

そのことにさらにデウロさんが驚くが親の承諾を得た以上、俺はもう力押しで行くことしか考えていなかった。

 

 

「リオス君、正気かね? 君だって昔はハンターとして高名だったはずだ。なのにいくら信頼を置けるジンヤ君に任せるとはいえいきなり狩り場に行かせるのは……」

 

「狩り場に行かせてもいきなりランポスとかを相手に闘わせるつもりはない。間違いなくレーファはわかっていないのだ。ハンターがどんなことをするのか。それを経験させればいいだけの話しなのだから難しいことはない」

 

 

そう説得するが、やはり立場上反対せざるを得ないデウロさんは、苦虫をかみつぶしたように渋面になった。

 

 

「そうかもしれないが……だがギルドナイトとしてはだね」

 

「これをディリートあたりに報告するのは俺としては全く構いませんが、この件でぎゃーぎゃー何か言ってくるのならば俺は冗談抜きでハンターをやめると彼に伝えてください。それに大丈夫です。先ほども言いましたが、あくまで随伴という形でレーファを連れて行きますので、レーファのことはいない物と思ってくださって結構です」

 

「だが……」

 

「デウロさん、無茶を言っているのは承知だが、頼みます」

 

 

俺はそう言うと素直に頭を下げた。

俺が無茶を言っているなんぞ百も承知なのだ。

だが、それを押してでも、俺はレーファに教えて上げたいのだ。

ハンターになるのが、どういう事なのかという事を。

 

 

「わかった……書類操作はこちらでしておこう。責任は負いかねんぞわしは」

 

 

やがて渋々と、デウロさんはそう言ってくれた。

その事に俺は黙って頭を下げて答えた。

そして直ぐにレーファを連れて行っても良い、かつ速攻討伐できるクエストを探す。

すると、シルヴァ密林に住み着いたババコンガを討伐して欲しいというクエストを発見した。

 

 

「今日のクエストはこれにします」

 

「ババコンガかい? 君を指名している難易度クエストをやってくれた方が、こちらとしては嬉しいのだが……」

 

 

確かに、貴族や名のある豪商の連中から面倒なクエストがいくつかあったが、俺はそれを全部けっ飛ばした。

今はそんな事をしている場合ではないのだ。

それ以上に大事な事をしなければならない。

そのためなら貴族や豪商の頼みなんぞ道ばたのドブにでも捨ててやるわ。

俺は頑として意見を譲らず、このバンバコンガ討伐クエストを受注した。

そしてレーファに、リーメとフィーアが問い詰めている方へと向かう。

 

 

「ジンヤさん……! お願いします! 私も一緒に連れて行ってください! 私もジンヤさんとクエストに行きたいんです!」

 

 

どうやら俺がリオスさんやデウロさんと話しているときにだいぶフィーアに叱られてのか、その目には若干の涙で潤んでいた。

二人もさすがに泣かれては問い詰める事も難しいのか、俺に懇願してくるような目を向けてくる。

あまりにも予想通りの展開に俺は苦笑せざるを得なかった。

確かに素人ですらない一般人のレーファをクエストに連れて行くなんて言うのは……蛮行以外の何ものでもないのだが……俺はあえて行く事にした。

 

 

経験に勝る知識無しってな……

 

 

それにここで言葉だけでやめさせてもしこりが残るに決まっている。

ならば俺がどうにかすればいいだけの話だ。

 

 

「安心しろ。つれていく。今日はババコンガ討伐クエストに行く事にした」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「本当だとも。リーメにフィーア。すまないが援護を頼んでいいか?」

 

「そ、それは……僕はいいですけど……」

 

「本気なのかジンヤ!?」

 

 

やはりというべきか……フィーアが猛反対をしてきた。

姉として心配しているのもあるし、またギルドナイトというエリートハンターである彼女からしたら本当に自殺行為にしか思えないのだろう。

そのフィーアを俺はどうにかなだめる。

 

 

「落ち着け。姉として心配する気持はわかるが……レーファの気持も考えてやったか?」

 

「!? そ、そうかもしれないが……しかし!!!!」

 

「ここで無理矢理言いくるめてもまた同じような事が起こるかもしれない。安心しろ。俺が俺自身の誇りと信念に掛けて、毛一筋分の傷も負わせない」

 

 

俺の言う言葉に、フィーアは顔をしかめるが……しかし最後は結局頷いた。

まぁ俺が絶対に意見を変えようとしないからフィーアが折れるしかないのだが……。

 

 

「わかった。わかった。役割はどうするんだ? まさかレーファとババコンガをぶつけるとか言わないよな?」

 

「あほか。レーファには採取とケルビの討伐を行ってもらう。俺はそれの補佐だ。悪いんだが、二人でババコンガを討伐してくれ。二人ならば余裕だろう?」

 

「まぁな」

 

「はい、わかりました」

 

 

俺に考えがあるとわかり、二人は一応俺に頷いてくれた。

まぁ確かにレーファを連れて行くのは不安なのだろう。

そしてその話の渦中の人物であるレーファは、クエストに行ける事が嬉しいのか、ずっと興奮していて、自分の得物であるライトボウガンの調整を行っていた。

その扱いや仕草は、ある程度の腕前(といっても素人レベルでの話だが)はあるみたいだった。

俺はそんなレーファに近寄る。

 

 

「レーファ」

 

「は、はい!」

 

 

夢中でライトボウガンの整備を行っていた手を止めて、俺の方を向きつつ直立不動の体勢になる。

まるで……というか完璧に新兵そのままの仕草だった。

 

 

「お前の願いを聞き入れてクエストに連れて行くがいくつか条件がある。守れるか?」

 

「どんな条件ですか?」

 

「俺の言う事は基本的に絶対だ。よほどの事がない限り俺の命令には絶対に従ってもらう。また勝手な行動をしない事。そして俺から離れるな。わかったな?」

 

「は、はい!」

 

 

俺がいつもよりも厳しい表情をして言う。

その言葉にレーファは素直に頷いた。

そして俺、リーメ、フィーア。

さらに今回レーファもセットの計四人で、俺たちは気球に乗ってネルヴォ密林へと向かう事になったのだった。

 

 

 

 

~デウロ~

 

 

やれやれ、とんでもない事になってしまったな

 

 

四人が気球に乗ってネルヴォ密林へと向かったのを見届けて、わしは出張所へと引っ込んで、ジンヤ君が造ったニホンシュをぐいっと呷った。

その事に二人の受付嬢が文句を言ってくる。

 

 

「デウロさん! 朝からお酒を飲まないでください!」

 

「そうはいうがなフィンフュ。面倒な事になったのは君だって重々承知だろう?」

 

「そ、そうですけど……」

 

「それが公然とお酒を飲める理由にはなりませんよ?」

 

「むぅ。アネット。年寄りの楽しみをとらんでくれ」

 

「いいから速く書類仕事をなさってください。止めなかった私たちも私たちですが、それでも最終的にレーファさんのクエスト同行を許可したのはデウロさんなんですよ? 自分の行動に責任を持って仕事をしてください」

 

「ぐぬぅ」

 

 

正論を言われては仕方がない、私は仕方なく渋々と書類仕事を行おうとした、その時。

 

 

「失礼! ジンヤ殿はいますか!?」

 

 

荒々しい息と供に、出張所に入ってきたのは、ギルドナイトの専用防具を身に纏った男が入ってきたのだ。

皆が揃って突然の客に戸惑うが、すぐに意識を切り替えると、わしはその男に返事をする。

 

 

「すでにクエストに行った後だが……」

 

「くそ! 一足遅かったか!」

 

「何か問題でも?」

 

「これを!」

 

 

そうして差し出してきたのは、ギルドナイト以外見る事が許されない封のされた封筒だった。

わしはそれを見て顔を引き締めると、その封を破り中を見た。

するとそこにはハンターの報告書の写しと思われる物と、それから考えられる推論が書きつづられた紙が同封されていた。

そしてその報告書は……。

 

 

「!? これは!?」

 

「まだ可能性の段階ですが……ドンドルマでは一応あり得なくもないという事で話を進め、今現在調査を開始したところです。ジンヤ殿に手伝って欲しかったのですが……」

 

 

他に誰もいないはずなのに、攻撃を受ける……。

そして最近、様々なエリアで目撃されるようになった、古龍が現れる前兆として忌み嫌われてきたモンスター、ガブラスの大量発生。

ガブラスだけならばただ、ガブラスが大量に繁殖しただけと考えられるが、しかしすでにもう古龍は来ているのだ。

古龍種、ラオシャンロン。

この古龍種のラオシャンロンが現れているという事実が、ある。

それだけで、最悪な未来が容易に想像できてしまう。

 

 

「……まさか……古龍種、霞龍が」

 

「……可能性は高いかと」

 

 

思わず呟いてしまったその台詞に、ギルドナイトの隊員が同意を示した。

 

森丘や、沼地などで目撃された伝承の残る伝説のモンスター。

周囲の風景に完全に同化する事の出来る能力を持つ古龍。

存在が伝説過ぎて、しかも完全同化という特殊能力のせいで、その姿を見た物はほとんどいないという。

だからどのようなモンスターなのか、また本当に完全に同化して姿を消す事が可能なのか?

それすらもわからない。

だがわかる事が一つだけある。

 

 

もしも……本当にこんな古龍が存在するというのならば……そして、もしもジンヤ君達が接触してしまったら……

 

 

最悪な未来が予想されてしまう。

だから何とかして彼らにこの情報を……!

 

 

「ジンヤ君達に直ぐ知らせなければ! 気球は!?」

 

「無いですよ! この村の気球はジンヤさん達を送るために使用してます!」

 

「なら近隣の村々には!?」

 

「近隣の村々にはギルドナイト出張所が無いので気球なんてありません。ドンドルマが一番近いですけど……時間がかかります」

 

「……そうだ! ジンヤ君のリオレウスは!?」

 

「それこそ無理です! あの子は、いつものジンヤさと一緒にいる人たちにしか心を開いてないはずですから……」

 

「な、なんと言う事だ……」

 

 

わかりきっているはずなのに、思わず聞いてしまう。

だが、それでどうにかなるわけでもなく、フィンフュとアネットは力なく首を振る。

帰ってきた気球に乗り込んで彼らに伝えに行っても……すでに手遅れだ。

 

 

こうなれば……これが誤報か……もしくは霞龍に彼らが接触しない事を祈るしかない……

 

 

酔いもすっかりと冷めてしまい、落ち着かせるために手に持つ酒を、私は一息に呷った。

 

 

……酔えん

 

 

だけど、普段なら心地よい安寧を与えてくれる、彼が……ジンヤ君が造ったニホンシュは味すらも感じる事が出来なくて……酔うことも出来ず……私はただ、自分が無力だという事実に、うちひしがれるしかなかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

気球に乗り込み、そしてその乗っている間に、レーファに一通りの注意事項を述べておく。

気球に乗り込むとさすがにレーファも緊張しだしたのか、結構がちがちになっていたが、それでも俺の説明を一生懸命に聞いていた。

それらを見る限りでは一応高評価というか……少なくとも最低限の知識は身につけているようだが……。

 

 

どうなるかは謎だな……

 

 

まぁ大抵の|普通(・・)のモンスターならば群れをなしてやってこない限りどうにでもなる。

最悪リタイアして逃げてもいいのだ。

ギルドナイトの評価が下がるが、人命には変えられないしそんな事知った事じゃない。

俺にとって命の恩人とも言えるこの子を傷つけるわけにはいかないのだ。

 

 

まぁ相手がババコンガだしどうにかなるだろうけども……

 

 

そんな楽観をしながらも気球はすすみ、やがてシルヴァ密林へと、到着する。

まずは気球を降りてベースキャンプへと向かう。

今回は贅沢にもパラシュートではなく、わざわざ気球に降下してもらって降ろしてもらった。

本来は気球での移動の場合は大体パラシュートで降りて、そしてその間にモンスターを討伐、クエスト中にやってきた竜車にモンスターの死骸を乗せてそのまま帰還。

というのが基本的なギルドナイトとしてのハンターのクエストの流れだったりする。

だがレーファがいるのでパラシュートをするわけにも行かない。

俺が抱きかかえてレーファを降ろしてもいいのだが、万一の事を考えて今回は気球を降ろしてもらった。

そして降りると、支給品を受け取り、それをみんなで分配した後に、基本的にいつも設置されている、拠点兼移動手段にもなる帆船のベッドへと向かう。

 

 

「さて、今回はなかなかにイレギュラーな状態となっている。そこで今回は役割分担を行い、迅速かつ的確に今回のクエストの目的を解決したいと思う」

 

「役割分担……ですか?」

 

 

俺の台詞にリーメがおずおずといった感じに自分の意見を述べてくる。

俺はそれに頷き返しながら、レーファの頭に手を乗せる。

 

 

「今回はこいつがいるために比較的に簡単なクエストを選んだので相手はババコンガ。だが油断は禁物だ」

 

「それは確かにそうだな」

 

 

牙獣種 ババコンガ

見境のない食いしん坊で何でも口にする習性を持っている。

四肢が発達しており、その四肢から繰り出される攻撃と、突進力はなかなかの物を持っている。

が、あえて言おう……|それだけ(カス)であると。

ブレスの様な物を吐いてくるがそれだってリオレウスなんかの火球に比べたらかわいい物だ。

唯一の問題としてうんこを放り投げてきたり、屁でこちらの嗅覚を麻痺させて動きを鈍らせると言った行動をしてくるが、それ以外に特に注意すべきことはない。

はっきり言って、俺ならば一瞬、フィーアなら五分、リーメも十分あればソロで片付ける事の出来るモンスターだ。

はっきり言ってあくびが出るほど簡単なクエストだ。

 

 

「まぁババコンガには悪いがそれでも所詮ババコンガだ。すまないが二人にはババコンガの討伐をお願いしたい。俺はレーファと一緒に行動する」

 

「了解した」

 

「わかりました」

 

「念のためにフィーア、お前に信号弾を渡しておくので、ババコンガが討伐でき次第それを発射して位置を知らせてくれ。その時こちらの目標が達成できていたらそちらに合流する。そして、そちらが信号弾を撃とうが撃つまいが……俺が信号弾を打った場合は、まだ目的を果たしていないか、|問題(・・)が起こったと思ってくれ」

 

 

そう言いながらフィーアに月火を信号弾が装填された弾丸ベルトとセットで渡し、信号弾のいくつかを俺が所持する。

弾丸だけでも俺は発射が出来るので、合図を送るだけならば月火が無くても問題はない。

それを受け取ったフィーアがリーメを促し、浜辺沿いの道を通って、ババコンガを探しに行く。

それを見送り俺は改めて、俺の後ろに控えて直立不動で固まっている、レーファへと目を向けた。

 

 

「ではこれよりクエスト開始となるわけだが……俺が出張所で言った事を復唱しろ」

 

「は、はい。『俺の言う事は基本的に絶対だ。よほどの事がない限り俺の命令には絶対に従ってもらう。また勝手な行動をしない事。そして俺から離れるな。わかったな?』です!」

 

「そうだ。絶対に破るなよ? 俺も最善を尽くすが……お前が勝手な事をすると冗談抜きで俺も守りきれない。わかるな?」

 

「はい!」

 

 

その表情には恐怖が張り付きながらも、毅然とした態度をしており、レーファの意志の強さを物語っていた。

俺はその事に若干感心しつつ、次の指示を飛ばす。

 

 

「ではこれよりクエストを開始する。レーファライトボウガンを構え、弾を装填しろ。わかっていると思うが俺に銃口を向けるなよ?」

 

「はい!」

 

 

慎重に、だがそこそこの速さで危なっかしくもなく、普通に弾を装填し、ボウガンの弦を引き絞り、弾丸を装填する。

なかなかうまくできているその動作に、俺は素直に感心した。

俺がこの世界に来て以来、レーファのことを見ていたが、ハンターとして活動しているところは見た事がなかった。

先日もやりたい事があるといって仕事を辞めたので、おそらくやりたいことというのはハンターで間違いないだろう。

ならばあの仕事をやめると言ってからわずか数日で、ライトボウガンを理解し、装填に関しては問題なく扱う事ができるようになったということになる。

何故やりたくなったのかは不明だが……その熱意というか決意は生半可な物ではないようだった。

 

 

ふむ、これならなんとかなるか?

 

 

「装填終わりました!」

 

「安全装置は?」

 

「ちゃんとしました!」

 

「よろしい」

 

 

これならばそこまで心配する事はないだろう。

俺はそう思い、俺も自分の得物の状態を確認する。

 

 

シャリィィン

 

 

今回新たに使用する事にした、ラオシャンロンの角に付着していたと思われる武器、『いにしえの双剣』。

それをシースから抜き出し、状態を確認しそれを終えると次に夜月を抜刀する。

が調べるまでも無く特に以上は見られなかった。

俺は夜月を納刀すると、レーファへと向き直り、再度声を掛ける。

 

 

「では行くぞ。俺から絶対に離れず、勝手な行動はするなよ」

 

「はい!」

 

 

その元気な返事を聞いて、内心で微笑ましい思いを抱きつつも、表情は厳しいままに、レーファに背を向けて先行し出す。

その後にレーファも慌てながらついてくる。

俺はレーファが勝手な行動をしないと思いつつも、念のために気配を常に確認しつつ、ゆっくりと密林の入り口に向かっていった。

 

 

このとき……もしも俺が分散行動をしないで、レーファを二人に任せて余裕ある行動を行っていれば……気づいていたかもしれない。

 

鬱蒼と木々が、草花が生い茂るこの密林。

生命の息吹に満ちあふれた緑深き森と青き泉……生命であふれかえると言っても過言でないこの密林に……ほとんど……いや、一切の生物がいない事に……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

甘いというべきか……それとも優しいとみるべきなのか……

 

 

私は浜辺沿いの道を歩きながら、ぶつぶつと考え事をしながら歩いていた……。

今朝の出来事……レーファが突然ハンターになると言いだして、あろうことかジンヤはそれを止めず、本来ならば禁止事項でもあるハンターでもない人間をクエストに同行させるという、だいぶ重い規則違反を行っている。

本来ならば、それを止めなければいけないのだが、私はジンヤの剣幕というか、余りにも真剣な表情に止める事が出来ず、結局同行を許してしまった。

 

 

ジンヤが余りにも真剣で……止められなかった

 

 

さらに言えばジンヤがレーファの護衛、というか一緒に行動をするという。

確かにジンヤが護衛につくというのならば、普通のモンスターならば軽くあしらってしまうだろう。

 

 

だけど……

 

 

これだけ理路整然と……というか理由も十二分に納得の出来る物だし、理解もしているのだけど……何故かすっきりとしなかった。

もやもやとして……実に不快だった。

だけど……その不快に感じている自分自身に……何よりも私自身が驚いていた。

 

 

これは……何なんだろう?

 

 

余り経験した事のない感情だった。

何となく……いや断言しよう。

これが何の感情であるのか、そしてどうして今その感情が胸の内に渦巻いているのかわかりきっていた。

だけど、それを認めたくなかった……。

 

 

「あの……フィーアさん?」

 

「……」

 

 

自分の醜いとも言える感情に気を取られすぎていたのだろう。

後ろから着いてきているリーメの声に私は全く気づいていなかった。

それどころか、だいぶ隙だらけで歩いていた。

|もしも(・・・)モンスターに|襲われていたら(・・・・・・・)危ないところだった。

 

 

「すまないリーメ。ちょっと考え事をしてて……。どうしたんだ?」

 

「いえ、謝る必要はないですけど……それよりも、おかしくないですか?」

 

「? 何がだ?」

 

 

間がごとに没頭していた私には、リーメが何を言っているのか全く理解できなかった。

先日の宴の時のことと、今回のクエストの事で頭がいっぱいで他の事をまるで考えられていなかった。

 

そんな私に、リーメはおずおずといった感じに、こういってきた。

 

 

 

「ここまで歩いてきて、ザザミどころかモス、ランポスなんかも全く見かけないのは……いくら何でもおかしくないですか?」

 

 

!?!?!?

 

 

その一言で私は漸く……リーメが言わんとしている異常事態に気がついた。

リーメの言うとおり、辺りを見渡しても……周りにはモンスターどころか虫さえもいないと思えるほどに……不気味なほど静かだった。

油断しきっていた体に力を込めて、背中に装着した己の武器、斬破刀を勢いよく抜き放つ。

リーメも最初から抜いていた火竜刀『紅葉』を右手で力強く握りしめて、辺りを注意深く見渡す。

そして私たちは慎重に進み、この密林の孤島とも言える場所や、様々なエリアへとつながるエリアへと来たのだが……。

 

 

モスも、ブルファンゴも、ランポスも、ザザミも……コンガもいない?

 

 

それらはこの密林ならばほぼ確実にいると行ってもいいモンスター達だった。

どれも小型モンスターで繁殖力に優れている。

であるにもかかわらず、ここに至るまでどのモンスターにも会わなかった。

 

 

 

 

まるで……何か恐ろしい物から……逃げ出したかのように……

 

 

 

 

「リーメ、これは一旦クエストを中止して合流した方がいいと思う」

 

「……僕もそう思います」

 

 

私よりも先に気づいていたリーメは、私の言葉にすぐさま頷いてくれた。

私は、それを聞くと同時に、ジンヤから預かった小型のボウガン? の武器を取り出して弾を装填して、上へと向けて発射しようとした。

その一瞬前……

 

 

ヒューーーーーパァン!!!!

 

 

「!?」

 

 

私よりも先に、どこからから信号弾が宙へと上がる音が聞こえてきた。

そちらへと目を向けると、赤い煙が空へと向かっていくのが見えた。

私たち以外に、今このフィールドにはハンターは存在しないはずだ。

そして……私とリーメ以外に信号弾を上げる人間は……。

 

 

俺が信号弾を打った場合は、まだ目的を果たしていないか、|問題(・・)が起こったと思ってくれ

 

 

先ほど別れたジンヤの言葉が脳裏をよぎる。

それがわかった瞬間には、私たちはその煙の根本……ジンヤとレーファがいるであろう

場所へと全力で、向かっていた。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

クエストに連れてきてくれたんだけど……ジンヤさん何か怒ってる?

 

 

それがこの密林へと来て、ジンヤさんと二人で歩いていて私が感じた事だった。

初めてみる土地であるということで最初こそ興奮していた私だったけど……普段よりも遙かに厳しい表情を浮かべながら、ジンヤさんは今まで見た事もない双剣を手に、ずんずんと先に進んでいくのを見て不安を覚えてしまう。

その間、ほとんど話してくれなくて……。

 

 

「レーファ」

 

「は、はい!」

 

 

そう考えていると突然話しかけられて私は思わず大きな声を上げてしまった。

それがすごく間抜けに思えて、顔が真っ赤になるんだけど……。

 

 

「これより先へ行くときに断崖絶壁となるから注意しろ」

 

「は、はい……」

 

 

けどジンヤさんはただ注意事項を教えてだけでそのまま先へと進んでしまう。

確かにジンヤさんの言うとおり、そこは断崖絶壁となっていて落ちればとても助かりそうにないほど高いところだった。

こんなところでモンスターと戦うハンター達がいかにすごいのかを改めて実感してしまう。

断崖絶壁のエリアを抜けて、坂を上るとそこは広い草原だった。

 

 

「……すごい」

 

 

私は思わずそんな言葉をこぼしていた。

坂を上るまでのエリアと違って、木々破少ないが、それでも草花が地面を覆っている。

そして断崖絶壁の端の方、出っ張った地面に、斜めに生えている巨木が、圧倒的な存在感を放っている。

そしてその草原に、何匹かのケルビが、草を食んでいた。

突然来た私達二人に最初こそ目を向けて警戒していたけれど……何もしてこないと見ると、警戒しながらも、再び草を食む。

その光景に妙に癒されて、私は思わず微笑んでいた。

その時、私の心を正確に読んだのか……ジンヤさんが……こう言った。

 

 

「あのケルビを、ライトボウガンで狩れ」

 

 

え……

 

 

その言葉に、私は固まってしまった。

思わず……直ぐ隣にいるジンヤさんの顔を見上げてしまう。

その顔には、一切の感情が無くって……それがとても恐ろしかった。

 

 

「どうした? ハンターはモンスターを狩る存在だぞ? あの程度のモンスターも狩れないでどうする?」

 

「け……けど……」

 

 

モンスターは……私|に(・)とってのモンスターは村を襲ってくるのがモンスターであって……人に危害を加えて来ないモンスターを……殺すなんて……。

 

 

でも! ハンターにならないとジンヤさんと一緒にいられない!!!!

 

 

その思いが私の胸に走り、私は反射的に肩に担いでいたライトボウガンのユクモ弩を構えていた。

 

 

ジャカ!

 

 

構えて……ユクモ弩をケルビへと向ける。

けど、その手が震えていて……狙いはいっこうに定まらなかった。

 

 

でも! 撃たないと!!!!

 

 

ジンヤさんが……どんどん遠くに行ってしまう!

だから……少しでも追いつきたくて……少しでもそばにいたくて……私は!!!!

 

 

全ての勇気を……振り絞って私は、引き金を引いた。

 

 

ダン!

 

 

密林にライトボウガンから放たれた弾丸の乾いた音が……響き渡った。

その音に驚いたケルビ達は、一斉にさらに上の方の高台へと|一匹残らず(・・・・・)逃げ出していった。

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 

たった一発。

たった一発しか撃っていない、そしてその弾丸もケルビに当たってすらいないのに……私はそれだけでものすごく疲れていた。

胸がとてつもない速さで鼓動を打っているのが、胸に手を添えなくてもわかるほどだった。

 

 

「……怖いか」

 

 

そんな私に、ジンヤさんは先ほどと一緒に何の感情も表さない、平坦とも言える声でそう問うてきた。

私はそれに……頷く事しかできなかった。

そしてさらにジンヤさんが口を開こうとしたその時に……。

 

 

 

 

ザァァァァァァァァァァァ

 

 

 

 

一陣の……風が吹いた……。

 

それがやんだ瞬間に、ジンヤさんの身に纏う雰囲気が激変した。

何の表情も表していなかったその表情に、はっきりとした、焦りと驚愕の感情が張り付いていた……。

 

 

ど、どうしたんですか?

 

 

私がそう問いかける前に、ジンヤさんは私を抱きかかえると、すぐに移動を開始していた。

普段ならばジンヤさんに横抱きにされるなんて、顔を真っ赤にするところだけれど……今のジンヤさんの尋常じゃないその様子に……私はただ、抱かれている事しかできなかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

まぁ予想通りか……

 

 

俺はレーファがライトボウガンを撃ったまま、うつむいて固まっているのを見て内心で嘆息をしていた。

何故ハンターになりたいと言い出したのかは不明だが……それでもレーファがなりたいと言った以上、例えそれが覚悟のない、あやふやな気持ちにも似た何かであっても、俺はそれを責める事はしなかった。

だから……ハンターになるという事が……自分がハンターになって何をするのか再確認させるために俺はこうしてレーファを、デウロの反対を押し切ってまでクエストに連れてきたのだ。

そして予想通り、レーファはケルビを……命を狩ることはできなかった。

さらに言葉を紡ごうとしたその時……

 

 

 

 

【ククククク。蒼の道標を辿ってみれば……こんな小僧が異世界からの申し子とは……】

 

 

 

 

そんな思念が流れてくると同時に、ひとつ……風が吹いた。

 

 

なにっ!?

 

 

その思念が風と供に駆け抜けていく……。

そして……それと同時にようやく気がついた。

 

 

生き物の……気配がない……

 

 

そう……ここに至って俺はこの場だけでなく……この密林全体に、生命の気配が恐ろしく希薄なことに気がついたのだった。

先ほどのケルビたちも、忽然と気配が消えていた。

本当に突然にだ。

そしてそのことにも、今更ながらに気づいたのだった。

 

いくら他のことに気を回していたとはいえ、今の今まで気づかなかった自分を殴り飛ばしてやりたくなる気分だった。

 

 

いや、今はどうでもいい。とりあえずレーファを安全な場所へと避難させ無ければならない。

だがかといってレーファはハンターとしては素人ですらない。

そんなただの一般人とも言える小娘を、いくら密林全体に生き物の気配の感じ取れない……生き物の気配が|皆無(・・)とはいえ、一人でベースキャンプに帰すわけにはいかない。

俺の突然の豹変に戸惑っているレーファを問答無用で横抱きにすると、俺は海へと向かう坂の始まる場所に大きめな樹木があり、その場へと運び、結界を展開した。

 

 

「俺が言いというまで出てくるなよ。っていうかここから動くな」

 

 

有無を言わさずに問答無用でそう言い残すと、俺はエリア中央へと移動する。

中央に移動すると、俺はすぐさま夜月を抜刀した。

そして油断無く夜月を構える。

 

 

【もういいのか?】

 

「待ってくれるとは……紳士だな……」

 

 

今度はきちんとした言葉の思念が流れてきた。

何となく癇に障るというか……ねちっこい感じのする嫌な声だった。

俺はその思念が誰を発しているのか探り……いや探ろうとした。

そしてそこで再び愕然とした。

 

 

……気配が…………ない!?

 

 

そう。

再びここにいたってようやく俺は気がついたのだが。

このエリア……いやエリアをも越えてそれ以上の所へと気配を探っても……何の気配も感じ取れなかったのだ。

 

 

遙か遠くから思念をとばしているというのか……?

 

 

だが俺は……俺の中の第六感とも言える俺の本能が違うと……相手が遠くにいない事を告げていた。

だが……

 

 

その相手は……いったいどこに……

 

 

わからないが……わからないからと言って手をゆるめてくれる訳ではない。

俺はピタリと動くのをやめて、懐深くに夜月を構えた。

 

 

【賢明だな……だが、それでどうにかなるとでも?】

 

 

ニタァ、と……薄ら寒ささえ感じるほどの不気味さで、相手が笑んでいるのが何となく感じ取れた。

そしてそれを感じ取った瞬間に……。

 

 

ドッ!

 

 

俺の背中に凄まじい衝撃が走った。

 

 

「がはっ!?」

 

 

何!?

 

 

予期無く背中を攻撃されて、肺の空気が残らず体の外へと出て行った。

思わずつんのめって転倒しそうになるのを、俺は足を力の限り踏ん張る事によって耐えた。

こんな状況下で隙だらけの状態になるのは死に等しい事だったからだ。

俺は心を必死に心を落ち着かせて夜月を再び構えた。

しかしそれをあざ笑うかのように……。

 

 

ドッ!

 

 

再び体に衝撃……今度は左足の太ももに棍棒で殴られたかのような鈍痛が走る。

 

 

「ぐぅ!!!」

 

 

再度飛来した、予期せぬ攻撃の打撃の力に、俺は苦悶の声を上げてしまう。

見えない弊害として、いつ敵の攻撃が来るのかわからないので、衝撃に備える事が出来ず、打撃を完全に受け止めてしまう。

気壁も展開しているのだが……何故かほとんど効果がなかった。

 

 

落ち着け……落ち着け……攻撃を読めばいい……

 

 

俺は再び必死に落ち着けて、敵の気配を探るのをとりあえずやめて、まず見えないという敵の攻撃に対処する事にした。

 

 

どういう原理で見えなくなっているのかは知らないが、それでも見えない状況下での訓練を行ったときと同じと思えばいい!

 

 

さすがに現実世界で、透明化するという技術が完璧に造られていなかったので、今回のような完全に敵が見えないという状況下で戦った事はないが、それでも目隠しをしての訓練は、それこそ血反吐くほど行ったのだ。

 

 

敵が生物である以上……絶対に逆らえない法則という物がある……

 

 

生物である以上、大地に立っていなければ動く事は出来ない。

空を飛ぶ生物であろうとも、四六時中飛んでいる事など出来ない。

必ず休むために地面に降り立つ。

そしてどんなに素早い攻撃だろうと……どんなに素早い動きだろうと、空気を触れずには行えず、そしてその空気に触れた時……すなわち空気を裂いて動いている以上、そこには必ず、大気が裂けた音というものが存在する。

 

 

目隠しをしようとも耳は完璧に聞こえている。

また仮に耳栓をしていようとも、先ほど同様空気が動いたその感覚が、肌を通して俺の脳へと敵の動きを知らせてくれる。

 

 

明鏡止水……

 

 

心を、一点の曇りもない、ただその空気の音だけを感じ取るための機関と化し、俺はゆっくりと目を閉じて、耳を澄ませ、体の触覚に全神経を集中した。

 

 

ピィン

 

 

空気が張り詰めているのがわかる。

少し距離のあるレーファの呼気も、そして風が所々に生えている低い木々や、草花に裂かれる音が、はっきりと聞き取る事が出来る。

相も変わらず情けない事だが、危機に陥ったときに限って全力を出す事の出来る自分の未熟さに嫌気がさす。

だが、それでもいまこの状況下で全力を出せる事に素直にほっとした。

 

だから……

 

 

落ち着きさえすれば……対処できない攻撃ではな……

 

 

そう思った……思おうとした……だが……

 

 

ズガッ!

 

 

しかし、その望みはあっさりと……断ち切られる事になった。

 

 

!?!?!?!!?!?!?

 

 

馬鹿なっ!!

 

 

余りにも驚愕なできごとに、俺は今度は踏ん張る事が出来ずにそのまま倒れてしまう。

 

まさに絶望を味わった気分だった。

 

間違いなく……過去最高とも言えるほどに神経を鋭敏にし、大気の状態をほとんど把握する事が出来たといっても過言じゃないほど明確に空気を感じ取っていたというのに……俺は敵の打撃攻撃を読む事が出来なかった。

いや正確には違う……

 

 

空気の音が……聞こえない!?

 

 

先ほども言ったが、人間だけでなく、生物が活動を行うとき、空気に触れずして活動する事は出来ない。

仮に念動力のような能力を用いていたとしても、それを使用しているのは生物なのだ。

呼吸をしている以上、その呼吸の音を消す事は出来ない。

なのに……相手の……今攻撃を行ってきている敵の攻撃は空気を全く裂かずして俺を襲った。

またどんなに匂いをかいでも、木々の匂いしか感じられない。

これも生物である以上、何かしらの匂いというものを漂わせていなければおかしいはずなのだ。

 

なのに……それすらも、ない。

 

その事が、俺から冷静さを失わせていく。

 

 

【どうした? ひどく驚いているみたいだが……】

 

 

そこに追い打ちを掛けるように、ものすごくいやらしい感情を含んだ思念が、嘲笑と供に俺の脳内へと響いてくる。

俺は少しでも内心の驚愕が言葉と供にでないように注意しながら言葉を紡いだ。

 

 

「出てこい! 卑怯者!」

 

 

普段ならば、例え相手がどんな罠を張り巡らせようとも、それを自力で突破するのだが……あまりにも、意味のわからないこの状況下で、俺はすっかりと冷静さを失っていた。

 

 

【そう言うわけには行かん。貴様の前に出るなど恐ろしくて私には出来ないよ。魔を切り裂き龍を劫火で焼き尽くす……龍殺しの力を持った貴様には】

 

 

龍殺し?

 

 

それはいったい、と思う暇も無く、再度夜月を懐深く構えた俺の体に……左肩に衝撃がぶつかる。

俺はそれを受け止めず、少しでも痛みが減るようにその力に流されるままにして転がって衝撃をある程度受け流して回避し、膝立ちの状態へとなった。

 

そしてもはやそれが当然なのか……相手の攻撃を読む事は出来なかった。

 

 

こいつは……いったい!?

 

 

【だいぶ驚いているようだな……そんな貴様に特別に教えてやろう】

 

 

俺の内心を読み切った……まるで玩具を弄ぶように……もしくは粘つく液体のような物を漂わせて、そいつは言葉を続けた。

 

 

 

 

【我が名は古の魔龍にして霞の者。霞龍オオナズチ】

 

 

 

 

オオナズチ?

 

 

相手が……オオナズチとやらが言ったその言葉……古の魔龍という言葉に聞き覚えがあった。

それを考えると、直ぐに答えが見つかった。

以前の……沼地にして、蒼リオレウスと戦ったとき、やつが死ぬ間際に残した言葉……。

 

 

【我は古の者に仕えし魔竜。この世界に来た貴様を見に来た】

 

 

といっていた。

古の者とは……こいつの事を指していたのだろう……。

あの蒼リオレウスが仕えていたという魔龍。

あれよりもさらに強いという事なのか……。

 

その事実が、俺をさらに窮地の場へと立たせ、俺の焦りを増大させる。

 

 

 

【ククククク。安心しろ、一息には殺さん。たっぷりといたぶって失意の中、死んでいくがいい】

 

 

 

その言葉は気味が悪く癇に障るが……言い返す事が出来ない。

敵が見えない……敵の攻撃を察知する事が出来ないという事が……あまりにも重すぎて……。

 

姿も見えず、空気の音も聞こえず、匂いも発せず……こちらをただ一方的に攻撃してくるその相手が、恐ろしい……

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の額を一筋の汗が……静かに流れ落ちていった……。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか!?
敵は全く姿の見えない古龍オオナズチ!!!
最初は
「見えない敵っていってもゲームだし、どうせ背景が歪んで見えてもろわかりなんだろうな」
と思って、クエストに出かけるとあらびっくり……

か、完璧に見えねぇ!?

背景歪むどころかマジで全く分からなかったのに驚いたのはいい思い出ですw
まぁそれでもしばらくやってると対処方法なんていくらでも思いついたし、実際古龍の中では一番の雑魚だけどw
コウリュウノツガイ×3、双龍剣【太極】という四人双剣でフルボッコにしたのはいい思い出です

今まで相対した事のない、完全に姿を消し去る事の出来るその相手に、刃夜は驚きを隠せなかった。
だが、どうにか対処方法を編み出し、双剣で敵の攻撃を弾くが……それでも敵に攻撃を与える事が出来ずにいた。
その事に焦り出すと、敵がレーファをさらい、レーファが命の危機に瀕したその時……


次章 第三部 第八話

「見えない敵 後編(仮)」


次話にて……刃夜の深淵の一端を覗く……


こうご期待!!!!




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