リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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お気に入り登録の上下動が激しい~~~~~

微妙な話になってきたのでしょうか……

ちなみにこのお話で少し怒られるかもしれないが言葉が入っていますが……作者としての正直な気持ちでありますので……
いや結局怒られるかな? 

色々とそうでないことを祈りつつ、更新させていただきます。
予告通り戦闘はありませんが……楽しんでいただければ幸いです



奔走

「目標は、エルバーフェルド帝国国境付近にて確認しました」

 

「そうか……そうなるとこのドンドルマにくるまでの予想時間は……」

 

「おそらく……十日ほどかと……」

 

 

夜の探索任務を終えた俺とフィーアは、とりあえず報告を行うためにディリートの執務室へと訪れていた。

二人が難しい顔をしながら会話をしている中、俺はあのラオシャンロンの事で頭がいっぱいだった。

 

 

あれほど高密度で強力なマナなんて見た事ないな……これはちょっとやばいかもしれない

 

 

正直俺が無傷で全力を持って攻撃しても、相手に触れる事すら出来ない。

断言できてしまう、それほどまでに相手が身に纏っている魔力壁の密度と純度は異常だった。

さすがモンスターがはびこるほど自然溢れる世界だ。

マナの純度も段違いだ。

 

 

問題はやつが大気のマナを吸収していたのではなく……やつを中心にマナが渦巻いていたという事……

 

 

普通、大気に満ちるマナを使用する場合、マナの一部を吸収してそれを扱うのであって決してそいつを中心にしてマナが渦巻くなんてありはしない。

 

 

……例外を知っているけどさ……

 

 

ここに来て身内に人外がいる事を知っていうか再確認して俺はなんか暗い気分になった……。

まぁその例外を除くとしても……あのマナの塊とも言えるモンスターの相手はきつい。

正直俺一人では絶対に勝てない……。

 

 

一人では……だが……

 

 

「とりあえず今このドンドルマに集結しているギルドナイトの各部署の隊長達と会議を行ってくる。それまで部屋で待機していてくれ」

 

 

そうつげると、ディリートは机にあった資料を持って部屋を出ていった。

俺ら二人を残していっていいのかと思わず言いたくなったが……まぁそんな事を気にしている場合でもないのだろう。

ドンドルマにくるとなると住民の避難、避難場所の選択、受け入れ先に対する手続き、それにこのドンドルマにある資材やその諸々の事を考えなければいけない。

 

 

ほぼ確実に徹夜だろうな

 

 

というよりも今後寝る暇なんぞ無いかもしれない。

少なくとも上の連中は。

 

 

まぁ知った事じゃないが

 

 

俺は胸の中でディリートに合掌しつつ、俺は未だに立ったままでいるフィーアへと目を向ける。

恐怖に感じているのかどうかはわからないが少なくとも平静ではないだろう。

握りしめていた拳がそれを物語っている。

街が天災による危機にさらされていると言うのだからそれも当然かもしれないが。

 

 

事前にわかる天災というのも……厄介だな

 

 

少なくとも俺の世界での天災――地震、津波、火山の噴火、台風などは、ほとんどがそれは即物的、というか事前にわかるようなものはあまりない。

少なくとも十日前からわかっているという事はないかもしれない。

しかも今回の天災は、誰もが見る事の出来る生物としての天災だ。

なまじ姿が見える分より厄介かもしれない。

 

 

「いつまで突っ立っているつもりだ?」

 

「……あ、あぁそれもそうだな」

 

「とりあえず今日はもう休め。俺ももう寝るぞ?」

 

「!!? この状況でか!?」

 

「こんな状況だからだ。休める内に休んでおくのは戦士の務めだぞ」

 

 

そう言って俺は返事も聞かずにディリートの執務室から出た。

するとすでにギルドナイト内部では情報が広がっているらしく、走り回っているやつ、話をしているやつ、と言う感じに皆一様に怖がり、そして慌てていた。

 

 

……モンスターと戦う事は出来ても、こういった全体的な危機という物をあまり経験した事がないのかもしれないな……

 

 

もしもこれが俺の世界の軍隊だったならば、こんな事で騒ぐ事はあっても慌てる事はないだろう。

冷静にかつ、迅速に対処するはずだ。

だが今回のような街が危険にさらされるような事はこの世界では滅多にないのか、誰もが恐怖や戸惑いの色に染まっていた。

血の気の多いハンター達だが、それでも恐怖というか……街が無くなるかもしれないという事が気がかりなのかもしれない。

 

 

……面倒な事に成りそうだな

 

 

俺はそれを横目で見つつ、自室へと足を運ぶために階段を上っていく。

そうして昇りながら、腹に……刺された部位に手を当てた。

 

 

まさか……こんな事になろうとはな

 

 

別に刺された事を後悔しているわけではない。

あの時俺はああするのが一番よかったと思ったからそうしたまでだ。

その判断は間違っていないと自身で思っている。

だがその数分後によもやあんな化け物が現れる、というか報告に上がってくるとは思ってもいなかった。

 

 

まぁいい。とりあえず休むとしよう

 

 

今の体でも戦う事は出来るが、それでも多少なりとも体を休めておくに超した事はない。

戦うのか……それとも逃げるのか……会議の結末がどうなるかはわからないが、仮にどんな結末になったとしても、全力で事に当たれるように今は体を休める事が先決だ。

鍵を開けて部屋に入ると、俺は着替える事もなくそのまま眠りについた。

 

 

 

 

夜が明ける。

天災が確認されてから半日も経っていないというのに、ドンドルマは騒然としていた。

といってもパニックを起こさないために箝口令をだしたので、少なくとも市民達にそこまでの不安は見受けられなかった。

どちらかといえば外ではなく中、つまり事情が知らされているここ、ギルドナイト専用の宿舎ではラオシャンロンの話で持ちきりだった。

 

 

見慣れない顔もいるな……

 

 

まぁ全ての人間を把握しているわけではないので確証はないが……。

それを考慮に入れてもいつもより人が多い。

しかし話題はみんな共通していた。

誰もが存在を見た事がない幻とも言っても不思議じゃない伝説上の生物、古龍ラオシャンロン。

まだ姿を見ていないやつは本当なのか? と眉をひそめている奴らが多いが、しかしそれでも他の隊員達が不安そうにしているのを見ると、やはり同じように不安そうにする。

 

 

未知なる物に対する恐怖ってのはどこにでもあるんだな

 

 

モンスターという超常的な存在がいる世界でもそれは変わらないらしい。

 

 

俺がくだらない事を考えながら四割方回復した胃を気にしつつ、朝食を取っているとディリートが呼んでいると伝言され、俺は了承の意を伝えると食事を終えて執務室へと向かった。

 

 

「来たか……」

 

 

するとそこ、ディリートの執務室には、すでに数名の人員がいて、うち何人かは俺とともにクエストに向かったやつもいた。

ちなみにフィーアもいる。

 

 

「これでとりあえず小隊長は全員そろったな」

 

 

……………は?

 

 

意外なディリートの言葉に俺は思わず疑問符を浮かべてしまう。

寝耳に水だからだ。

そんな話聞いたこともない。

 

 

まぁ……別にいいか

 

 

素直に小隊長をやる気はないが……他の連中がディリートの言葉に異存を唱えないところをみると、すでに俺のことは前から小隊長扱いをされていたということになる。

ならば責務というか仕事が急激に変わることはないだろう。

仮に変わったのならば脱走してでも俺はユクモ村に帰る。

まぁ勝手に小隊長扱いっていうかそういう肩書を乗せたことには納得できないが。

 

 

「今朝。夜明けとともにエルバーフェルド帝国に協力を要請し、第一次攻撃を開始した」

 

 

……ほう?

 

 

どうやらギルドナイトもばかではないようだ。

とりあえずデータを回収するために、攻撃を仕掛けたみたいだが……ディリートの表情から鑑みるにあまりいい結果はもたらさなかったのかもしれない。

 

 

「結果として……火薬岩を用いた大砲の弾まで使用したにも関わらず、無傷だったらしい」

 

「……本当ですかそれは?」

 

「……残念ながら」

 

 

そのディリートのセリフににわかに内部が一気に喧騒になってしまった。

さらに事情を聞いてみると、どうやらそこそこの攻撃は行ったようだ。

大砲の弾を三十発。

バリスタを百発。

しかし結果として何の効果も得られなかった。

 

 

そらそうだろう。あいつを倒すならその百倍くらいの数は攻撃しないと……

 

 

「戦力が必要だと感じた大長老や、各地の隊長たちは、緊急招集と称して近隣の村々や国からこのドンドルマに、ほとんどのハンターが集結させている。まぁ一応自主的にだが……。それでもそれなりの人数は集まる予定だ」

 

 

どうやら戦力をかき集めているようだ。

だから見慣れない連中がいたのだろう。

俺は一人、壁に背を預けながら静かにディリートの話を聞く。

 

 

「しかし隊長。大砲の弾を三十発も命中させて全くの無傷の相手に、どうやって立ち向かうというのですか?」

 

「考えるまでもないだろう。ディリートさんに聞くまでもない。正面から攻撃をひたすら命中させるしかない」

 

「それでどうなる!? 大砲の弾にバリスタだぞ? それらで攻撃を行ってかすり傷どころか煤こけることもないような化け物相手に、ハンターで立ち向かったところで何になる!?」

 

 

どうやらこの中に実働班がいたようだ。

そら声も荒げたくなるだろう。

異常性を目の当たりにしてきたのだから。

 

 

「確かにそうかもしれない。けどこのままラオシャロンがここを……ドンドルマを通過して行くのを黙ってみているというのか!?」

 

「そんな事は言っていない! だが、これ以上攻撃しても無意味かもしれない! だから俺としてはドンドルマの財産を出来うる限り別の場所への移動を優先すべきだ!」

 

 

一気に場が紛糾しだした。

伝説の存在であるラオシャンロン。

先制攻撃が全く通用しなかったこと。

そして……そのラオシャンロンがこちらに……ドンドルマ、自分たちが住む街に来るかもしれないという恐怖。

 

 

中途半端に攻撃しても意味無いだろうに……

 

 

心の中で俺はひっそりと溜息を吐いた。

まぁ魔力壁の事がわかっていないのだからある程度普段通り攻撃してしまったのだろう。

むしろ普通の大型モンスターならば十匹は優に倒せる攻撃を行っている。

それが無意味だったと言うのは確かに脅威だろう。

 

 

「静かにしろ」

 

 

しばらく紛糾した場を見守っていたディリートだが、収集が着かなくなる前に威圧を込めた言葉でみんなを黙らせる。

 

 

「ラオシャンロンは今朝確認された位置では、まだエルバーフェルド帝国国境付近を通過中だ。断言は出来ないが、今のままのルートならば、ここドンドルマを通過する可能性は非常に高い。そこでドンドルマの途中に築かれた、ラオシャンロン対策とも言える砦を今現在、急ピッチで修復作業に当たっている。砦にてこれを向かえうつ」

 

 

ほう? 砦という対ラオシャンロンの防衛拠点はあるのか……?

 

 

修復というのならば、昔に作られて放置されていると言うことなのだろう。

つまり以前にもラオシャンロンは存在していたと言うことになる。

それがあまりにも昔の話だから、本当に実在するとは思っていなかったのかもしれない。

人間ってのはつらい事は忘れるように出来ているからな。

 

 

「我々はこの危局に際して、全力を持って立ち向かわなければならない。どうか諸君らの力を借りて……都市を守りたい。……だが強制はしない」

 

 

その言葉に、誰もが何も言えずただしん、と静まりかえってしまった。

正直な話逃げ出したいのが本音のはずだ。

大砲もバリスタも効かなかった相手。

この世界に終けるバリスタと大砲の弾と言うのは最終兵器といってもいいくらいの物だ。

モンスターに対抗するために、そのモンスターの素材を用いた武器防具の生産技術や加工技術は発達しているが、俺の世界のように科学的な技術はまだ未発達と言っていい。

 

 

核爆弾の話しても……信じないだろうなぁ……

 

 

まぁ、そんな事はどうでもいい。

とりあえずこの状況をどうにかしないといけないだろう。

完全に尻込みしているこいつらを。

 

 

予想通り……面倒な事になったな……

 

 

今から言う事を言ったら、さらにいろいろと面倒な事になりそうだが……そうも言っていられない。

俺としてもここドンドルマが滅びるのは人ごとではないからだ。

俺が拠点としているユクモ村もこの街に頼っているところもあるのだ。

別に食うに困らないだろうが無くなればそれはそれでまずい。

 

 

それに……

 

 

街が無くなる。

ここを拠点に、家に、何よりも故郷としてる奴らがいる。

俺はもう帰れないかもしれないが、それでも故郷が無くなるのなんて耐えられない。

それはたとえ異世界だろうと一緒だろう。

 

 

「それで? 貴様らは結局どうするんだ?」

 

 

だから俺はあえて憎まれ役になるような台詞を口にする。

焚きつけるにはちょうどいいだろう。

 

 

「天災と言うだけで逃げるのか?」

 

「……なんだって?」

 

 

いかにも見下してます、といった感じで俺は問いかける。

すると、さすがに逃げるという単語には反応した。

ここにいる連中の何人かは俺を嫌っている奴らが普通にいたので、それを利用させてもらう事にしよう。

 

 

「確かに天災は恐ろしい。だけど、それを逃げる事の口実に使うなんてのは許せないな」

 

「てめぇ……。もう一度いってみろ!」

 

 

位置的に俺に一番近かったやつが、俺の胸倉をつかみかかってくる。

普段ならばつかみかかられるようなヘマはしないのだが、まぁ今回は芝居もかねているので為すがままに、俺は胸倉を掴まれておく。

 

 

「俺だって……俺だって逃げたくない! だけどどうすればいいんだ? 大砲の弾も、バリスタも、間違いなく全部命中しているはずなんだ。………それらが……初期攻撃が全く通用しなかったモンスター相手に、一体どう立ち向かえばいいんだ……」

 

 

悔しそうに声を震わせる。

この台詞からいって間違いなくこいつが攻撃を実行した要員だろう。

ならば敵の恐怖、というよりも敵の異常さを目の辺りにしたという事になる。

それならば多少はわからんでもない。

むしろよくぞそのまま逃げなかった物だ。

 

 

「……確かに勝てないかもしれない」

 

 

胸ぐらを掴んでいるその手を、包み込むように手を添えて手を離させる。

俺の言葉に驚いたのか、うつむけていた顔を上げて、驚きながら俺を見つめてくる。

他の連中も同様だ。

皆が俺に注目をした事を確認し、俺は再び言葉を紡ぐ。

 

 

「相手は天災と謳われ、語り継がれる存在。正直人の手には余るかもしれない」

 

 

人の手に余る。

それはそうだろう。

何せ大砲の弾が効かなかったのだ。

俺から見たらローカルな武器以外の何物でもないが、この世界の不思議な物体を造られた大砲の弾というのはぶっちゃけものすごく強い。

というか、多分現実世界で同じ口径っていうか大きさの弾を作って使用してもこの世界ほどの威力はでないのではないだろうか? 

(ちなみに、特殊な加工(核など)を除く)

そして先にも言ったがこの世界において大砲の弾とバリスタは最終兵器。

一応最強の武器なのだが、これが通じなかったというのは彼ら(この世界の人間)にとって恐怖以外の何物でもない。

だからそれを見てきた、攻撃してきた人間としては信じられないのも……諦めてしまうのも無理はない。

 

 

「だが……それがどうした?」

 

 

敵は確かに大砲の弾が効かないかもしれない。

バリスタだって効かないかもしれない。

だが……まだ手はある!!!

 

 

「敵は確かに天災だ。人間の力なんて自然に対しては塵芥でしかない。正直言って……それに人間が勝とうなんざただの思い上がりでしかない」

 

 

さすがの俺の言葉に、誰もが驚き息をのんだ。

逃げるなといっておきながら、自身で天災には勝てないと否定する。

ならばどうすればいいのか?この場にいる人間の全ての視線が俺に集まる。

俺はそれをいったん見回してから、静かに口を開いた。

 

 

「だけど……勝てなくてもいいんだよ」

「え? ……どういう意味だ?」

 

 

フィーアが不思議そうに、そして遠慮がちに質問してくる。

遠慮だけでなく、爆発しそうになっている連中を刺激しないという事もあるのかもしれない。

 

 

「台風、津波、地震といった災害は突如としてやってくるし、仮にくるのがわかっていたとしても、それらの対処法は逃げる事や、物陰に隠れるくらいしかできない……」

 

 

台風は、家にこもり、津波は高台に、そして地震は……机の下に隠れたりといったことしか、未だに人類は対処法を見いだしていない。

 

そう……自然という大きな力の前では本当に人間など無に等しい。

 

 

だけど……

 

 

「だけど、負けない事は出来るんだ」

 

「負けない事?」

 

「そうだ。勝つ事は出来ないかもしれない。だけど負けなければいいんだ」

 

 

そう、俺の世界の歴史を紐解いても、自然災害による被害という物は甚大だ。

日本でいえば関東大震災や、阪神淡路大震災などがいい例かもしれない。

その時は確かに多大な死者を出した。

ビルも家も、そのほとんどが原形をとどめずに倒壊し、甚大なんて言葉では言い表せない被害がでた。

だけど……。

 

 

「自然災害に遭って、被害が出て……そこから人は……人類は歩むのをやめたのか?」

 

 

地震が起きて街が死に人が……死んでいった。

それで全てを諦めて人は歩むのを……生きるのをやめてしまったのか?

 

 

そんなわけがない

 

 

俺はまだこうして生きている。

まだ大地に立っている。

先祖が残してくれた、復興してくれた街の上に……。

それら生き残った物が、再び元の生活を……生きようと頑張ったからこそ今があるのであって、勝つ事はできなかったが、天災に負けてはいないんだ。

 

 

「それでも止まらなかった。街を復興し、傷ついた者達を癒して、また立てばいいんだ」

 

「……負けない事」

 

「先人達がラオシャンロンによってどのような被害を被ったかはわからない。だが、それでも先人達は立ち上がって、俺たちにこのドンドルマという街を残してくれた。さらに次にラオシャンロンが来たときのために砦という、防衛拠点まで彼らは築いてくれているんだ」

 

 

砦。

それだけ行けばただの防衛拠点だが、それは|対(・)ラオシャンロンのための要塞だ。

先人達は子孫……つまり今危機に直面している俺たちのために、砦というものを残したのではないのか?

 

 

俺の言葉が理解できてきたのか、フィーアが俺のいった言葉を呟いていた。

それにつられるように他の連中の顔にも、徐々に暗さが消えていった。

俺はそれを見渡して確認し、いった。

 

 

 

 

「確かに人間は天災には勝てないかもしれない。けど人類は負けない! 絶対に負けない! 足掻いて足掻いて……負けないために戦うんだ!!!」

 

 

 

 

俺は力の限り、気さえも込めて声を張り上げた。

負けるはずがない。

人間はしぶとい生物なんだ。

だから……今も足掻いて見せよう。

 

 

……明日を手に入れるために

 

 

「だけど……実際にはどうするんだ? ジンヤがいうように負けないかもしれないが……けど事実として今もラオシャンロンはこちらに向かってきている。それにラオシャンロンが通過したとしても、他にも被害が起きるかもしれないし……そもそも負ける事が前提なのか?」

 

 

少しはやる気、というか度胸が着いたようだが、いずれにしてもまだ対策の目処が立っていない。

しかも確かに負けない事と言っているのでは、正直不安にもなるだろう。

俺はいったん疑問をぶつけてくるフィーアを無視して、ディリートに砦の状況を訪ねる。

 

「先ほどいった砦、という拠点はどうなっているんだ?」

 

「復旧といっても一部の決戦兵器が使えなくなっているだけで今それを改修しているところだ。他にはラオシャンロンが通る通路の上、岩壁に大砲やバリスタを設置している」

 

 

ふむ。どうやら何とかなるかもしれない……

 

 

焚きつけた人間として責務は果たさないといけないだろう。

俺としても確証はない……だが、それでも俺はどうにか出来ると思っている。

別にうぬぼれるわけではないが、それでも……何とか出来る。

俺は再度皆に振り返ると、一つの宣言をした。

 

 

「勝てる」

 

「……何?」

 

「俺なら勝てるかもしれない」

 

 

天災には勝てないといっておきながら自分では勝てるという矛盾。

ある種の傲慢さと言えるだろう。

だが、それは甘露にも等しい魔法の言葉だったので、誰もがそれに対して異議を唱えなかった。

 

 

「ほ、本当か?」

 

 

案の上、先ほどまで俺に突っかかってきたやつが縋るような目で俺を見つめてくる。

そいつに対して俺は力強く頷いた。

 

 

「だ、だがどうやって?」

 

「勝てるといっても、俺だけでは絶対に勝てない。お前らにやって欲しい事がある」

 

「私たちに?」

 

 

俺と一緒のクエストに行っても、真っ先に俺が相手のモンスターを倒してしまうために何もしない事が多いフィーアとしては、俺が何かをして欲しいというのを聞いて驚いていた。

そのフィーアに俺は頷くと、とりあえず敵の説明から始めた。

 

 

「ラオシャンロンは特殊で透明な膜を、全身に張り巡らせている」

 

「膜……だって?」

 

「そうだ。その透明な膜があるために、こちらの攻撃は一切通用しない。大砲の弾が効かなかった原因はこの透明な膜のせいだ」

 

 

余りにも眉唾といえる俺の言葉に、再び部屋が騒がしくなる。

まぁわからない連中だからそれもしょうがないだろう。

だが、戦うという事を決めた以上、俺もしなければならない事があるのでここでもたもたしているわけにも行かない。

 

 

「いいから聞け! その膜はそう簡単に破る事は出来ないが、それでも破れば本体に直接ダメージを与える事が出来る」

 

「ということはひたすら攻撃を与えて膜をまず取っ払えばいいのか?」

 

 

どうやら俺のいいたい事がわかったらしい。

そう、つまりはそう言う事なのだ。

魔力壁とて無限には使用できない。

相手も生物である以上限界は必ずあるのだ。

だからそれを越える攻撃を行えば魔力壁も絶対に越える事が出来る。

 

 

「そうだ。だが、相手は大砲の弾を三十発喰らっても平然としていたのだから甘く見るな。出し惜しみせずにあらん限りの攻撃を敢行しろ! すぐに準備に取りかかるんだ」

 

「「「「応!」」」」

 

 

俺の言葉に、部屋にいた全ての人間が我先にと部屋を出て行こうとする。

それはもちろんフィーアも一緒で彼女もドアの前で敬礼をして出て行こうとするのだが、俺はそれを止めた。

 

 

「何故止める?」

 

「お前にはさっきいった事の他にもやって欲しい事がある」

 

「……わかった。私は何をすればいいんだ?」

 

 

話が早くて助かる弟子だ

 

 

俺の事を信頼してくれているという事なんだろう。

信頼されるようなほど綺麗な人間ではない身としては、若干複雑な気分だがそんな事、今は後回しだ。

 

 

「蒼リオレウスの素材はどうした?」

 

「? 一応それを使って新しいガンランスを作ってはいるが……。ジンヤがガンランス使用禁止令を出したから使ってないぞ?」

 

 

そうだったな……

 

 

ドンドルマで生活するに辺り、俺はフィーアにガンランス使用禁止令を発令したのだ。

まだ慣れてないが故に扱いが下手だが、それを差し引いてもフィーアもかなり刀の才能を持っていた。

ので、俺はここで暮らしている間はクエストに行きがてら、実戦で修行を行わせていたのだ。

その甲斐あってかだいぶ扱いには慣れたようだ。

だが今はそんな事どうでもいい。

 

 

ここに俺が使用できる鍛造施設が無かったのが痛いな

 

 

謹慎期間が普通に終わり、ユクモ村に帰ってからリーメ同様に、免許皆伝の証として一振り刀を鍛造してやろうと思っていたのだが……。

無い物ねだりをしてもしょうがないので、俺は意識を切り替えつつフィーアに指示を出した。

 

 

 

 

~ディリート~

 

 

こいつは全く……恐ろしいほどにすごいやつだな

 

 

部屋に集まった全ての人間を鼓舞し、そしてフィーアに指示を出す男、ジンヤの背を見つめながら私は深い溜め息を吐いた。

実際に見てきたはずだというのに、こいつは全く諦めていなかった。

しかも「俺なら勝てるかもしれない」と、無責任と取られても仕方がない言葉を言って、全ての人間が納得してしまった。

ありとあらゆる面でかなわないと思えてしまう。

 

 

「わかった。では早速制作を依頼した工房から引き取ってくる。先日完成したといっていたからな」

 

「頼んだ。あとお前の鬼斬破は置いていけ。ちょっと使う用事がある」

 

「わかった」

 

 

フィーアとの会話が終わり、フィーアが部屋を出て行くとジンヤは私に詰め寄ってくる。

その目には、絶望も、諦めもなく……。

 

確かな意志が宿っていた……。

 

 

「謹慎期間終了までまだ少し日にちがあるが、頼みがある」

 

「……なんだ?」

 

 

わかりきっていた事だが、私はあえてそうジンヤに問いかける。

非常事態とも言えるので別にそこまでの問題は起きないだろう。

だが、それでも絶対に問題が起きないとは言えないのだ。

ひょっとしたら後々これが原因で何か起こるかもしれない。

だが……そんな事は一切関係ないとでもいうように、ジンヤはかぶりを振って私に願い出る。

 

 

「まぁお前ならば本当の意味での問題は起こさないだろう。わかった……。お前が抜けた穴はどうにかしよう」

 

 

ジンヤがこうして私に頼み込むということはジンヤが何かをするということだ。

それが何かまではわからない。

だがジンヤは無責任な男ではない。

それがわかっているからこそ、私は本来ならば懲罰ものである行為をためらわずに口にした。

 

 

「ギルドナイト隊長ディリートの権限において、クロガネジンヤの謹慎期間の終了をここに宣言する」

 

「……助かる」

 

 

ジンヤは軽く黙礼をするとすぐに私の部屋を出て行った。

それを見届けて私も普段は壁に掛けてある得物と防具を装備し、必要な書類を手にして部屋を出た。

 

 

ジンヤにはジンヤの……私には私のすべき事がある

 

 

まずは市民の避難誘導が必要不可欠。

それに招集に応じてくれたハンター達の受け入れ、食料の確保に、砦への指示。

他にも山積みのために昨夜同様徹夜を覚悟しなければならないだろう。

だが、そんな事など瑣末でしかない。

 

 

「運命に……抗おう……。抗ってみせる」

 

 

天災に挑む。

その響きの何と愚かなことか……。

だが、ジンヤの言うとおり、黙ってみているつもりは全くない。

 

 

守って見せる

 

 

この街を、この活気を……そしてその活気を生み出す、人民を……。

 

 

 

 

それから数日にわたって、ディリート、フィーア、それにギルドナイトの面々は駆け回った。

市民の避難、応援に来たハンターの受け入れ、砦の回収作業、砦へと食料、医療品、簡易に生活できる設備の用意、弾丸、弾薬の運び出し……。

それこそやることは腐るほどあった。

だが、誰もが都市を……街を守りたい一心でひたすらに、そしてがむしゃらに仕事を行った。

 

そして、あっという間に時間が過ぎ…………

 

 

運命の日がやってきた……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

「観測班からの報告です! 砦の通路入り口にて、ラオシャンロンを視認したとのことです」

 

「……ついにきたか」

 

 

各通路、そして各施設へとつながっている起点であり広間。

そこにいましがた報告をしに来たハンターの声が鳴り響く。

しかし、報告を受けなくてもすでにラオシャンロンが近づいてきていることは既に承知済みだった。

何せ……。

 

 

ズン ズズン

 

 

と、重々しい響きとともに、ラオシャンロンの歩みで生じた振動が、この広間にも伝わってきているからだ。

通路入り口からここまで、だいぶ距離があるにも関わらず、その巨体が歩む振動はしっかりとここまで伝わってきているのだ……。

振動のおかげと言うべきか、ラオシャンロンが近づいてきている事はわかっていたが、正確な位置まではわからなかった。

そして、正確な位置も今わかった。

砦においての観測班がいる場所である監視塔。

文字通り監視のための塔であり、そこには大した迎撃用設備はない。

そしてそこから少し行った先に、最初の迎撃ポイントである最初の通路、第一防衛ラインがある。

 

 

第一防衛ライン

そこにはありったけの爆弾を設置し、さらに通路の上部である岩壁の上にも爆弾を設置している。

それを落とすと同時に地面に設置してある爆弾を起爆。

ありったけの爆弾を使用しての爆撃だ。

普通のモンスターならば骨どころか肉片一つすら残らない。

ある意味で初撃にすべてをかけているといってもいい。

 

第二防衛ライン

岩壁が下にせり出すようになっており、ラオシャンロンのほぼ真上に位置することができる場所。

そこに巨石を設置し、それを落とす落石攻撃エリア。

他にも岩壁の地面をくりぬき、壁に穴をあけてボウガンによる射撃を行う。

また通路の岩壁に岩橋がかけられており、そこからもボウガンによる攻撃が行えるようになっている。

 

第三防衛ライン

大砲とバリスタをありったけ設置し、それらによるまさに爆撃といっても過言でないほどの重火力による砲撃を行う。

他にもこの場所には通路を阻むように、木で造られた柵が設けられている。

またここにも岩橋が設置されている。

 

第四防衛ライン

全ての対策を第三までの防衛ラインに設置したために、ここは純粋に岩壁の上、そして岩橋でのボウガン、もしくは近接武器での攻撃を行う。

が、近接攻撃は危険すぎるのであくまでこれは最悪の場合だ。

 

最終防衛ライン

ドンドルマへの入り口の一つである大門が設置された場所。

その入り口ともいえる場所には、祖先たちが残した決戦兵器、撃龍槍が通路の入り口の岩壁に設置されており、これが本当に最後の切り札。

 

これらでラオシャンロンを討伐できなければ、あとは大門上に設置された大砲とバリスタのそれぞれ二門による砲撃と大門に設置された二つの撃龍槍。

そしてハンターでの攻撃しか手段がない。

ここで止めなければ全てが終わる。

 

 

「ついに来た……天災と謡われる古龍、ラオシャンロンが……」

 

 

隊長の重々しい言葉が、広間に響く。

皆これからの未知の戦いに思いをはせ、誰も言葉を発しようとしなかった。

この場に集まった人間はざっと百人以上。

他にもすでに通路で仕事を行っているハンターや人間を含めると、この砦に集結している人間は、二百人は行くだろう。

 

 

「天災と呼ばれたラオシャンロンにどこまで対処できるかわからない。だが……ここで食い止めねばドンドルマは終わる」

 

 

ドンドルマ。

ハンターの街として栄え、ここらへん一体の中心地として機能する拠点。

この場にいるハンターたちで、このドンドルマを利用したことのない人間はいない。

そしてドンドルマを故郷にする人間も大勢いる。

 

 

街を、家を、そして家族を……

 

 

守りたい一心でこの場に集った人間たちの思いは皆同じだった。

 

 

震えのない、朗々とした隊長の声がこの広間に響き渡る。

誰もが使命を帯びてこの場にいて、普段とは違い、守らなければいけないという脅迫概念にも似たその重圧が、私たちを奮い立たせ士気を向上させる。

私は隊長の演説を聴きながら、背に装備した新型装備であるガンランスに手を当てて、目を閉じる。

 

 

ハンターになって自分には関係ないと思いつつも、憧れたギルドナイトを一目見たくて……行ったときだった。

初めてドンドルマに訪れたとき……私の故郷であるユクモ村と違い、人にあふれかえっている、という感想を素直に抱いて、驚愕したのを覚えている。

活気に溢れ、人々の喧噪が広場を埋めつくしていた。

そしてハンターの街と言われるドンドルマでもっとも目立っていたのは、やはりハンターだった。

当時の私では手も足も出ないような、飛竜種を狩る事の出来る一流とも言えるハンター達がごろごろいた。

無論何となくすごいと感じただけで、どれほどすごいかなとわかりはしない。

それに初めて訪れたドンドルマで興奮していて、冷静でなかったはずだ。

そして、目的であるギルドナイトの宿舎を見つけたのだった。

 

 

いつか私もここへ……

 

 

そんな憧れで先走った、と言えなくもない想いだけで訪れたドンドルマ初めての来訪は、これだけで終わった。

それからがむしゃらに村のためにモンスターを狩っている内に、スカウトされたのだ。

憧れのギルドナイトに。

そうして私はギルドナイトへ入隊し……ドンドルマの一員となったのだ。

 

 

懐かしい……

 

 

その日から私にとっての第二の故郷となったあの街には、多くの馴染みのお店が、多くの知人が、そして何より多くの思い出が残っている。

 

 

それを壊させはしない!

 

 

数々の記憶を回想し、私は再び覚悟を決めた。

なんとしても、ラオシャンロンを止めるために……。

 

 

「フィーアさん」

 

 

隅で反芻していると、聞き慣れた声が演説の邪魔にならないように、とても小さな音量で私の耳に響いた。

そちらの方に目を向けるとそこには、私の故郷の弟分と言えなくもないリーメがそこにいたのだった。

 

 

「リーメ? お前も招集に応じたのか?」

 

「えぇ。元々そのつもりでしたけど、ジンヤさんにも頼まれて」

 

「ジンヤが頼んだだって?」

 

「はい……僕もびっくりしました」

 

 

ジンヤが物事を頼むという事に二人で思わず驚いてしまった。

何せジンヤがクエスト、というかモンスターに関して私たちに頼ると言えば、モンスターの形状や習性、そのモンスターの注意事項(毒を使う等)といった知識面だけで、直接的な頼み事は一回たりともした事がないのだ。

大体においてすぐにジンヤが討伐してしまうから。

 

 

「あと、ジンヤさんから伝言です」

 

「? 伝言?」

 

「はい……。ジンヤさんが言うには、僕らだけがラオシャンロンに近接攻撃でまともにダメージを与えられるそうです。まとも、といっても本当に微少らしいですけど」

 

 

リーメもその伝言の内容の意味がよくわかっていないのか、自分で言いつつ、首をかしげていた。

そしてそれは私も同様で、ジンヤの意図する事が理解できない。

 

 

「特にフィーアさんの新型装備である、蒼リオレウスの素材を使った武器は、確実にダメージを与えられるそうです」

 

「そうなのか?」

 

 

あのジンヤを初めて負傷させた異常であり、異様とも言えた突然変異亜種の蒼リオレウス。

 

 

それの素材を使って私の武器が?

 

 

疑問に思うが、それでも私の武器が有効ならば私は勇気を振り絞って、近接戦闘を仕掛けるべきなのだろう。

であるからこそジンヤもリーメに伝言を……。

 

 

ってちょっと待て?

 

 

「リーメ? ジンヤはどこだ?」

 

 

リーメにわざわざ伝言をさせた。

その時点で気づくべきだった。

だけど、その伝言の内容が意外な事で思わずそれに気づくのに時間がかかってしまった。

 

 

「そ、それが……」

 

 

私の言葉にリーメが顔を曇らせる。

それだけで、私は理解してしまった。

出来てしまった。

 

 

まさか……

 

 

「何としてもここでラオシャンロンを食い止める! 行くぞ!」

 

 

おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

隊長の演説が終わり、この場に全ての人間が咆哮を上げた。

それは決して狭くないこの広間の壁に反響し、怒号にも似た響きとなって私たちの耳の鼓膜をたたいた。

普通ならば顔をしかめるところだが、それでも今私はそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

 

 

 

ラオシャンロンが現れたと報告が上がり、約十日後。

それぞれやれる限りの対策を施して、そして決戦場ともいえるこの砦へと、多くの人が……ハンターが集った。

ギルドナイト本部隊長、ディリート。

ギルドナイト隊員、フィーア。

ユクモ村ハンター、リーメ。

そしてギルドナイトに所属するハンターたちに、近隣の村々から集ったハンターたち。

 

 

ついにドンドルマの生存をかけた、決戦ともいえる防衛線の火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

しかし、その場に……鉄刃夜の姿はなかった………

 




ラオシャンロン一歩手前で終了。


ついに現れた天災といわれる古龍ラオシャンロン。
人々は街を守りたいその一心でただひたすらに攻撃し討伐しようと試みる。
だが、どれほど攻撃を行っても、ラオシャンロンは倒れるどころか、足を止めることすらできなかった。
もうあきらめるしかないのか? そう皆の心に絶望が広がり、悲鳴を上げたその時……


次章 第三部 第三話

決戦の砦 (仮)

天災を止めるために……人類は闘う

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