ダンジョンに潜るのは意外と楽しい 作:荒島
ねぇ少年、と声をかけられた時それがまさか自分の事だなんて思わなかった。
23歳の社会人を少年と呼ぶ人はまずいない。
何となくそっちに視線を向けたのも偶然だった。
だから、自分を見つめる大きな瞳と目があった時に固まってしまったのは無理ないことだろう。
「え?それ俺のこと言ってる?」
「そうとも!少年、ファミリアに興味はないかい?」
「……何だって?」
そこでようやく声をかけてきたのがまだ幼い少女だという事に気が付いた。
黒髪ツインテールに露出度の高い白のワンピースを着ている。
コスプレだろうか、と首を傾げながら珍妙な状況に辟易した。
「悪いけど、今それどころじゃないんだ。変な宗教の勧誘だったら、ごめんな無理です」
「へ、変な宗教とはひどい言い草だね!?そりゃあ新興ファミリアかもしれないけど……ボクだって立派な神様なんだよ!!」
「……神様?何が?」
「このボクだよ!神、ヘスティアさ」
変なのに引っかかったな、というのが素直な感想だった。
身の丈に合わない豊満な胸を張る彼女を見て乳神だとは思うけれど、言っていることはそういうことじゃないだろう。
「いや俺、神様とか信じてないんで」
「目の前にいるのに!?」
「あのさ、自称神様とか言ってると碌な大人になんないぞ、これ年上からの忠告な」
慈愛に満ちた表情でそう言えば、ヘスティアと名乗る少女はガーン!とショックを受けたように固まっていた。
「君、ボクが神様だって信じていないね!?」
「普通信じないだろ、酒池肉林でもくれたらそりゃあ崇めるけどさ」
「そ、それは無理だけど……そうだ少年!君は何か困りごとをしていたね、悩みを聞かせてはくれないかい?迷える子羊を助けるのも神の務めさ!!」
「遠慮します」
「即答!?そう言わないでおくれ。純粋に助けになれるかもしれないじゃないか」
宗教勧誘の一環じゃないだろうな、と疑いつつもヘスティアの気張る顔を見ているとそんな気も薄れてしまうのだから不思議だ。
言うだけならタダか、と1つため息を吐くと口を開いた。
「……迷子なんだ」
「本当かい?ちなみに人生の迷子だったらボクの手におえないよ?」
「違えし。東京を歩いてたつもりだったんだけど、いつの間にかこんな所来ちゃってさ……ここ何処?」
「トウキョウ?という場所は知らないけど、ここは迷宮都市オラリオだよ」
「……どこそれ?」
「だからこの街だよ!君もダンジョン攻略しに来た冒険者志望じゃないのかい。だからボクも声をかけたんだけど」
目をパチパチとさせて首を傾げるヘスティアだったが、パチパチしたいのはこっちの方だった。
次々と出てくる知らない単語に思わず眉間を抑える。
そもそも日本なのかここは、と思い至って辺りを注意深く観察してみる。
コスプレ集団、獣耳の生えた商人、知らない文字、ピンク髪の少女、本物にしか見えない剣を腰に下げた男性。
……本当に何処だ、ここ。
気付いてしまった。
日本どころか地球ですらない可能性に。
思わず思い切り頬を殴りつけるも、目の奥で散った火花が夢ではないことを伝えてくる。
……夢ならばよかったのに。
「ど、どうしたんだい!?いきなり自分を殴ったりなんかして!?」
「ごめん前言撤回する……俺、人生の迷子になった」
「本当にどうしたんだい!?」
「とりあえず職を探さねば俺は明日を迎えられない……」
「怖いよ!!」
フラフラとハロワを探しに行こうとすると、ヘスティアが腕を掴んで引き留めてくる。
「放せ!俺をニートにする気か!!」
「何だか錯乱しているし、君みたいな危うい子を行かせる訳にはいくもんか!」
ヘスティアとの力比べをしながら、ふと疑問に思う。
いくらなんでもこんなに小さな少女の腕力を成人男性が振りほどけないものだろうか、と。
ふと目を向けた窓に1人の少年が映っていた。
黒髪の中学生くらいに見える東洋人の少年だ。
少女に引っ張られながら抵抗している姿にどこか既視感を覚える。
特にその顔は幼き日の自分そっくりだ。
というか『俺』だった。
「……ぇ?」
「うん?何だか固まっちゃったみたいだけど……チャーンス」
あまりの光景に混乱してヘスティアの声が全く頭に入ってこない。
「あ!そこの君、ファミリアを探しているのかい?」
「え?あ、あの……」
「うちのファミリアにおいでよ!ついでにこの子を運ぶのを手伝っておくれ」
いつの間にか白髪の少年も加わり、どこかに運ばれている気もするが現実逃避した意識は戻らない。
「……え、ここ何処?」
「ようこそヘスティアファミリアへ!!」
結果として、気が付いた時にはヘスティアの根城たるボロ教会の中にいた。
得意げな笑みを前にしながら俺は自称神様の話をポカンと聞くのだった。
初めまして、よろしくお願いします。
処女作なので良かったらご意見、ご感想などお待ちしてます(*Ü*)ノ"