真・恋姫†無双~董家伝~   作:ヴィヴィオ

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6話 洛陽へ出発

 

 洛陽へと向けて馬車で進む護衛部隊が城門の前に用意されている。護衛部隊は騎兵1000、弓兵400、歩兵600、輜重兵(しちょうへい)300、隠密部隊400の合計2700という人数になった。騎兵の数が多いのは斥候や情報伝達、伝令の為に使う為だ。流石にこの人数で他領の街へと向かうには色々とあるからだ。

 

「月、銀、気を付けて行ってくるのですよ」

「はい」

「大丈夫だよ」

「銀は月や黄泉の言う事をしっかりと聞くのですよ」

「なんで私だけ?」

 

 母様と月、銀が話している中、私は父様と話していく。

 

「色々と出来そうな事をこちらに記しておいた。そちらで決め手やってくれ」

「わかった。くれぐれも身体には気を付けてくれよ」

「わかっている。無茶はしないさ」

「そうか。そういえば向こうに屋敷はないな。これで購入しておいてくれ」

「ふむ。既に商会の方で確保して住めるように準備させてあるから問題はないぞ」

「いや、父親としてこれぐらいは支払わせてくれ。例え子供よりもお金を持っていなくてもな」

「そうか。ならば受け取ろう」

 

 五銖銭(ごしゅせん)が大量に入った袋を受け取り、準備をしている雛里と香風の下へと向かう。

 

「雛里、そちらの準備はどうだ?」

「問題ないです。食料も献上品も確認しました」

「食料は余裕を持たせてあるか?」

「もちろんです。もしもの為にお金も用意してあります」

「香風、天幕など野営道具は?」

「準備できてる。私の部隊は先行させて安全確保中」

 

 香風が隠密部隊を動かしたのなら問題ないだろう。隠密部隊はまだ数こそ1000を超えたくらいだが戦闘力では気を使える分、かなり高い。それに数も訓練を行って増やしている所だ。最終的には銀の親衛隊と香風の隠密部隊に別けるつもりだが、今はそこまで数がいないので保留だ。

 

「そうか。香風や雛里は親との挨拶はいいのか?」

「昨日、終わった」

「だっ、大丈夫です」

「なら後は詠達か」

 

 詠は少し離れた場所で女性に抱きしめられながら男性と話している。もう少し家族との時間を作ってやろう。

 

「それにしても新型の馬車は大きいですね」

「まあな。内部でゆったりと寝れるようにも作ってあるからな」

「中、広くて便利」

「その分、金も馬も必要なんだけどな」

「量産するにはちょっと値段が問題ですね」

 

 大型の馬車にバネなど知識を利用して出来る限り振動を少なくした。それと寝台を壁に複数取り付けて立体的に空間を利用して寝れる人数を確保した。この馬車と荷物用の大型を数台用意し、2台だけ娯楽専用にして遊ぶ道具を色々と用意した。俺達が乗るのは専用車で寝台や机、棚など部屋のように過ごしやすい空間にした。この馬車は全て馬が6頭から8頭も要るので値段はその分跳ね上がる。この馬の交代も考えての騎馬兵1000だ。

 

「お兄様、お待たせいたしました」

「もういいのか?」

「はい。お兄様はお母様には……」

「大丈夫だ。これから挨拶をしてく――っと」

 

 いきなり後ろから抱きしめられた。上を向くと母様が私を抱きしめていた。

 

「なんだ?」

「身体に気をつけて無茶をしないように。決して単騎で突撃とかしないでくださいね?」

「わかっている」

「それならよろしい。それと毎月必ず手紙を出すように」

「よろしい。それでは気を付けていってらっしゃい」

「はい」

 

 専用の馬車に乗り込んでいく。乗り込んだら香風と銀が武器を固定していく。2人の武器は大きいので何かあったら困るのだ。

 

「ささ、お兄様。こちらにどうぞ」

 

 月が寝台に座りながら自分の膝をぽんぽんと叩く。

 

「月が甘えるのではないのか?」

「へうっ。そうでした……では」

「うむ。おいで」

 

 私が寝台に座ると月が寝台に寝転びながら膝の上に頭を乗せてくる。この馬車の寝台は空間を広く取って数を減らしているので奥に背中を預けるように座っても頭を別の寝台の天井にぶつける事はない。

 

「私もして欲しい!」

「月に聞け」

「お姉ちゃん、いい?」

「いいですよ。一緒に寝転びましょう」

「うん!」

 

 伸ばした足の方に銀が寝転んで頭を乗せてくる。2人は仲良く手を繋いで笑っている。私はそんな二人の頭を撫でてやる。

 

「……私は外で護衛してる」

「あわわ、私は……」

「邪魔だから、中にいる」

「はい」

「なら、僕と遊ぼ。あっちは放っておいて」

「そうですね」

 

 馬車に乗り込んできた詠が雛里を伴ってオセロをしだした。香風は武器を持って外に出ていく。それから少しして馬車がゆっくりと動き出していく。

 

「お兄ちゃん、何かお話をして」

「ふむ。月は何がいい?」

「私はお兄様のお話でしたらなんでもいいです」

「そうだな。なら色々と話して行こうか」

 

 白雪姫や赤ずきんなど童話や日本昔話をしていく。2人を優しく撫でながら話していると次第に寝息が聞こえて来る。

 

「銀ちゃん、寝ちゃいましたね」

「まあ、この頃は訓練ばかりだったからな」

「頑張ってたんですね」

「ああ」

「お兄様もろくに寝てませんよね。代わりますよ」

「いいのか?」

「はい。その方が私は嬉しいですから」

「そうか、なら頼む」

「任せてください」

 

 銀の頭を少しあげて位置を変わって貰う。それから月の膝枕で寝かせて貰う。

 

 

 

 

 

 

 月

 

 

 

 

 

 まるで人形のような美しいお姉様。いえ、今はお兄様になったのでした。服装は女の子のような物を着ていますが、すごく似合っています。

 でも、お兄様は前と変わられました。私達を守る為に色々な事をしてくれます。特にこの頃はまるで急いでいるかのように色々な物を生み出し、沢山の人を救っています。人を救った行いは全て私の功績にされ、実際に行ったお兄様は裏方に接しています。かと思えば物に関しては自分の功績としています。

 

「どうしたのよ?」

「へぅ!?」

「あわわ、頼りにならないかもしれませんが、何か悩みごとなら相談してください……」

「そうよ。月にそんな表情は似合わないから教えなさいって」

「ひどいよ詠ちゃん! 私だって悩みくらい普通に……」

「どうせ黄泉の事でしょ」

 

 当たってます。私の悩みは6割がお兄様で、2割が銀ちゃんです。残りは皆の事です。政務だってお兄様に言われたり、教わったりした通りにやればなんだって上手くいきますし、仕方ありません。

 

「まあ、そうですけど……」

「それでどうしたんですか?」

「えっとね、なんでお兄様は全部の功績を自分の物にしないのかなって」

「ああ、そんな事」

「簡単ですね」

 

 そんな事って、やっぱり詠ちゃんと雛里ちゃんは賢いと思います。私が1つを覚えている間に2人は2つ、3つと先に進んでいっちゃいますから。

 

「どういう事ですか?」

「人を救ったり、感謝されるような功績を全て月に渡しているのは月が家督をついだ後、苦労しないようにね。人気があると他の連中は月に変な事ができあないわ。月に何かあったら民達や兵士達が黙っていないからね。つまり、月を守るようにしているのよ。そして、実績を上げているから政務で月を蔑ろには出来ないし、これだけの事をやった月を賢者や聖人として見る者も居るでしょう」

「実際に月さんの人気は非常に高いですし、崇拝している人までいます」

「へぅ!?」

 

 確かに拝まれたりするのは変だなと思っていたけれど、なんだか大変な事になっていますか?

 

「えっと、物に関する事ですが……ご主人様は莫大な利益を上げているそれらを自分に集約する事で皆さんの身を守っています」

「え?」

「数々の画期的な商品を生み出して利益を上げている黄泉はそれだけ狙われやすいって事ね」

「へっ、へう」

「大丈夫よ。黄泉の護衛は香風をはじめかなり強いのが居るから。月の周りにもだけど」

 

 良かったです。お兄様は大丈夫なんですね。前みたいな事はもう嫌です。私が生まれてからずっとぶっきらぼうながらも見守りながら、世話をしてくれていたお姉さま。そんなお姉さまが寝台で苦しそうにしながら息をしなくなった時ほど辛いものはありませんでした。お姉さまがお兄様になった後は悪い人達を倒すのに自分から危険に飛び込んだりした時も、すごく心配しました。

 

「考えられるだけで誘拐や暗殺とかがあるわね」

「誘拐は利益を得る為ですよね?」

「そうですね。殺人の方はご主人様が色々と既得権益(きとくけんえき)を破壊していますからね」

「それを言うなら月も危険があるんだけどね。呪い師から客を取ってる訳だし。まあ、今の月を敵に回す奴なんてそうそういないでしょうけれどね」

「蜂蜜やお酒なども作っている人達からしたら大変でしょうね。後はこの馬車もですが。しばらくは売りに出すつもりはないみたいですけれど」

 

 蜂蜜は蜂の養殖をしているんでしたね。お酒は蒸留酒でしたか。

 

「本当に次から次へと色んな物を考えつくわね」

「流石はご主人様です。それに兵法も凄いですよ。私では勝てませんし」

「僕より強い雛里と2人がかりでようやくだしね」

「へうぅ~」

「でも、向こうについたらどうするんだろ。僕は当然、月と一緒に洛陽に残るけれど雛里はついていくんでしょ?」

 

 向こうに着くとお兄様とお別れになるんですよね。寂しいです。

 

「もちろんです。香風ちゃんと一緒に3人で旅をしますよ。隠密部隊の人が数人は付いてくるかも知れませんが」

「銀がどうするかよね」

「銀ちゃんはお兄様が大好きですからついていくんじゃないですか?」

「まあ、帝様のお膝元なんだから護衛は大丈夫よね」

「隠密部隊と精鋭を駐留させますが、お出かけはあまり出来ませんのでその辺りはご主人様が居る時ですね」

「ところで隠密部隊は洛陽に紛れ込ませるのよね?」

「既に紛れ込んでますよ?」

「さすがね」

 

 だんだんと危険な会話になっていきます。こういう時は寝ている2人を撫でて見たり聞いたりしなかった事にしましょう。

 

「暇ね」

「暇ですね。勉強でもしましょうか」

「そうね」

「そういえば課題で街の建設計画の立案というものがありました」

「じゃあ、それをやりましょうか」

「はい」

「頑張ってね」

「何言ってるの。月もやるのよ」

「三人寄れば文殊の知恵といいますからね。三人ならご主人様を出し抜けるかも知れません」

「へぅぅ~」

 

 難しいお話に参加させられる事になりました。寝ている銀ちゃんがちょっと羨ましいです。

 

 

 

 

 


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