真・恋姫†無双~董家伝~   作:ヴィヴィオ

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4話 発展

 

 

 

 

 

 政務が終わり、皆で昼食を取った。これからする事は簡単だ。ここ9ヶ月で溜め込んだ設計図を鍛冶屋と材木屋に持っていく事だ。

 

「月達は課題を与えるから勉強しておくように。香風は私について来い」

「わかった」

「私はお兄ちゃんと……」

「銀は詠と兵法の勉強だ。雛里は月に文字を教えて貰うといい」

「えぇ~」

「諦めて僕と勉強するんだよ」

 

 銀は詠に任せておけばいいだろう。華雄のように周りを気にせずに猪突猛進になられたら非常に困る。今からしっかりと教育せねばなるまい。

 

「月は分かるだろう?」

「はい。政務の勉強ですね」

「そうだ。この部屋にある資料は好きに使ってくれていい。覚えるついでに写本を作ってくれると嬉しい」

「わかりました」

 

 この部屋にはこの9カ月間で私が書き記した書物が大量にある。経済や戦術、戦略から始まり、現代……未来の医学についても書き記した医学書もある。字も読めなかった真っ新な白い知識に私の知識を詰め込んでいくのだ。この世界の常識が根付いてからでは遅い。真っ新な今でこそしっかりと知識を受け入れられる。

 確かに知識は力であり、他者よりも有利になる事が出来、自身の身を守る為の手段になりえる。しかし、発展という意味では全て一人でしなくてはならない。それでは手が足りない。ならば、知識を持つ者を増やしてしまえばいい。もちろん、これらの事によって起こる問題は多数ある。その為、出すのは少しずつでいい。何より他者に狙われる事が多くなるだろうしな。

 今の所は私しか狙われないだろうが、政務に関わり出すと月達も狙われるだろう。それまでに子飼いの暗部を作り出す必要がある。暗部を作り出すには時間と金が非常にかかる。その為には知識を出して稼ぐしかない。そして命を狙われる。廻り廻ってくるものだな、全く。

 

「香風、行くぞ」

「うん」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「お土産よろしく」

「いってらっしゃいれす」

 

 皆に見送られて兵士の居る場所に移動する。

 

 

 

 兵士達と召使い達を全員、訓練所に集める。全員がこないだの事を思い出しているのか、かなり真剣な表情だ。

 

「これから貴様らには貧民街を一掃して貰う。目的は凶悪犯の逮捕と住民の保護だ」

 

 貧民街を外壁も含めて全てを包囲させるのだ。

 

「取り調べは後でいい。逃げる奴は子供以外、全て捕えろ。それ以外は今から言う屋敷に閉じ込めろ。このような事をすれば外壁の外に逃げようとする奴が必ず現れる。そこで外壁を監視して連中を捕まえろ。外壁から出る奴は斬って捨てて構わん。もちろん、反抗して武器を抜けば殺しても問題ないが、無闇な殺生は禁止する。奴等はこれからの労働力になって貰うからな」

「労働力ですか?」

「そうだ。現在、街の区画が貧民街になっているが……そこを一度完全に破壊して職業訓練所と住居に整理する。貧民街の者達には後ほどこちらに移って仕事をしてもらう。なので出来る限り殺すな」

「はっ」

「お前達は屋敷で彼らに炊き出しを行え。金はこちらで出すから汁物や腹の膨れるものを配ってやれ」

「畏まりました」

「では、兵士は10人を残して包囲と突入する者達に別れよ」

「「応」」

 

 直ぐに10人と召使いを残して行動していく。私は残った召使い達に買い物と準備に行かせて残り10人と共に鍛冶屋へと向かう。この街にある鍛冶屋はその数14件。元は数が少なかったのだが弟子達が遠くに行く金もなくここで起業したからだ。

 

「さてと、行くか」

「うん」

 

 職人通りへと到着して最初の鍛冶屋に入る。飾られている武器を確認しながら待つと奥から人がやってくる。

 

「いらっしゃいませ」

「こいつか?」

「違う」

「そうか。貴方が店主か?」

「はい、そうです。それで何をしましょうか?」

「では、帳簿を見せてもらおう」

「え?」

「聞こえなかったか? 不正がないか抜き打ち検査だ」

 

 実際は鍛冶屋の査定だ。使えるならば残し、使えないのなら店を潰させて貰い、別の物を作ってもらう。

 

「お、お待ちください! そのような……」

「時間がない。捕えろ」

「はっ」

「出します! 出しますから!」

「手間をかけさせるな」

 

 渡された帳簿を暗算していく。何個かミスがあるが、そんな事よりも支出と収入が釣り合っていない。

 

「赤字か。借金がかなりあるようだな」

「はい……金貸しにお金を借りているんですが、返済額が多くて……」

 

 金利は法律で指定されていないが、これはやり過ぎだな。6割とは巫山戯すぎている。話を聞くとどんどん上がっていっているそうだ。

 

「とりあえず、これでは話にならん。店を閉めてもらう」

「そんな!?」

「嫌ならばチャンスをやる。貴様が打てる最高の武器を届けに来い。全ての鍛冶屋を調べて良い物を作る者だけに店を許可する」

「そ、それでは飢え死にしろと……」

「安心しろ。その後は私の下で働いて貰う。今よりも格段にいい生活が出来るぞ。それと借金の事はこちらで処理してやる」

「あっ、ありがとうございます!」

「もちろん、貴様が出す品によって給料は変わるがな」

「頑張ります!」

 

 直ぐに店を閉じて鍛冶を始め出す。それから何件かを尋ねる。どこも似たような感じだが、何店かは赤字にはなっていなかったが、微かな儲けしかなかった。

 比較的大きな店では違った。別の意味で修羅場になった。

 

「お父さん」

 

 店に入ると香風が女性と仲良く商品を客に売った男にそう声をかけた。

 

「香風じゃないか! あっ」

「あなた、誰ですか? それにお父さん? どういう事ですか?」

「そ、それではな……」

「香風はお父さんの娘。誰?」

「私はこの人の妻です。どういう事? ねえ、どういう事?」

 

 妻と名乗った女性は壁に掛けられている剣を手に取りながら聞いてくる。

 

「ま、待て! 落ち着け! 前の妻の子だ!」

「へぇ……聞いてないんだけど」

 

知らせてなかったのか。

 

「落ち着いて話し合うといい。ここは私が取り仕切らせてもらおう」

「貴女は……」

「董擢。この街を収めている者の一族だ」

「失礼致しました!」

「ど、どうぞ、こちらに」

 

 奥に有る住居へと案内されてそこで話を聞いていく。香風は無表情だが、手が震えている。仕方ないので手を繋いで安心させてやる。

 

「それでは香風は前の妻の子なんだな」

「はい。喧嘩して別れたんですよ。俺、私は家も全部アイツに渡してそのまま商隊について村を出ました。そして、ここで鍛冶屋をやって親方の娘さんと結婚したんで」

「なるほど」

「数年前の話なんで今頃、香風がここに来たのかもわからないんです」

「お母さん、死んだ」

「え?」

「お祖母ちゃんが、お父さんの所に行って帰ってくるなって」

 

 祖母は生きているのか。しかし、送り出す理由があるとすれば……年か。育てられないと思ったのか、自分がもうすぐ死ぬかも知れないから駄目もとで別れた父親の下へと行かせたのか。

 

「それで、どうするのよ? 可哀想に思うけれど、こっちも余裕はないわ。この人の稼ぎが低いから。言っておくけれど、私は自分の子達を優先するわ。稼ぎがあれば別にいいんだけど」

「そう、だな。すまない」

「ん、大丈夫」

「本当か? 村に戻るお金くらいなら俺の小遣いからなんとかしてやるが……」

「いい。ご主人様の所に居る」

 

 そういいながら身体を預けてくる香風。私は抱きしめて撫でてやる。

 

「生活費や滞在費は気にしなくていい。私の下に居てもらうからな」

「そうですか。良かった」

「そういう事なら歓迎するわ。娘も欲しかったし」

「む」

「この人の稼ぎさえどうにかなれば悩む必要もなかったのよね。それに色々と聞かないといけない事が出来たわ」

 

 全て彼が悪いという事だな。

 

「そうか。じゃあ、香風の件はそれでいいな。では、ここからが本題だ。今、この街には鍛冶屋が多すぎる。よって、整理させて貰う。その為に選考会を開催する。貴方達が作れる最高の品を出して来るように。優秀な品を作った者には兵隊の装備を作ってもらう」

 

 負けたとしても鍛冶屋として別の仕事を用意する事も伝えておく。それから店を見せて貰って香風用に斧を買って外に出る。

 

「また何時でも来い」

「歓迎するわよ」

「ん、わかった」

「行くぞ」

 

 鍛冶屋から出て材木屋へと向かう。

 

「大丈夫か?」

「平気。ありがとう」

「気にするな」

 

 材木屋では木簡と定規の代わりになりそうな板を購入する。それから兵士を連れて金貸し屋に向かう。この頃になるとかなり街が騒がしくなっている。貧民街の一掃が行われているのだろう。

 

「さて、押さえるぞ。罪状は反逆罪だ」

「よ、よろしいので?」

「構わん。後でどうとでも出来る。香風、やってしまえ」

「ん」

 

 香風が店の扉の周りを斧で破壊して道を大きく作る。そこに兵達が雪崩込んでいく。

 

「な、なんだ貴様ら!」

「御用改めである。大人しくせよ」

「?」

「なんとなくだ」

 

 屈強な男達が抵抗出て来るが、こちらが正規の兵だと分かると大人しくなった。

 

「どうなるかわかっているのでしょうな?」

「そうだな。全員、縛ったか?」

「縛った」

「なら、家探しだ」

「なっ、何を……」

「貴様らには連中と結託して反逆を起こした罪状がある。これがその証拠だ」

 

 懐からだしたのは取引の証や、資金援助の証。あくまでもお金を貸しただけなのだから普通なら言い逃れは出来る。だが、反逆罪という事にしてしまえば話は別だ。資金援助は十分な罪に出来るし、これを理由に家探しが可能だ。そうすれば不正など出る。例えでなくても出す。

 

「よし、不正の証拠を手に入れた。次に行くぞ」

「おー」

 

 悪徳業者を街から一掃していく。それが終われば帰宅して貧民街についての報告を聞いていく。その後、貧民街の取り壊しを兵士や貧民街の者達にお金を支払って手伝わせる手続きをする。

 次の日、取り壊しをさせている間に運ばれて来た武器を調べて14軒から剣、槍、斧、弓、雑貨の5つまで絞って各自に特化させる。残り9軒は私の専属として製図板、千歯扱きと犂(からすき)、手押しポンプの設計図を渡して作らせる。これらの農具は鉄製にさせる。

 

 

 3ヶ月後、貧民街の整地が完成。建物の建築に入る。この時、技術を教えて3階建ての大きな建物を作らせる。その間に完成した千歯扱きと犂(からすき)で生産速度と生産量を増やしていく。他にもジェンガやカルタ、オセロなどを大理石や宝石を散りばめて綺麗な物を作らせて私が作った商会で手押しポンプと一緒に売っていく。千歯扱きと犂(からすき)は売らずにこちらの領内でのみ使う。手押しポンプは装飾をつけて兵士達に護衛をさせて他領の豪族に売りに行かせる。袁家は褒めながらうまいこと乗せれば高額で買ってくれるのでお得意様だ。豪族用に豪華にすればかなりの値段が取れるので資金はどんどん増えていく。

 

 1年後には貧民街に職業訓練所と学園と学園寮が完成した。ここで子供や浮浪者などを叩き込んで徹底的に教育する。同時に街から村への街道を整備する。兵士や周辺の村から人を動員して田畑の拡張と同時に行っていく。それに加えて一部の者達を他の領主の街などに送り込んで商人として情報を収集させる。密偵ではあるが、領主の事を調べるのではなく商品の物価などを調べさせる。

 稼いだ金を使って足りている場所で安く大量に購入して足りなくなっている場所に運んで高く売る。それを繰り返して沢山の売り上げを手に入れる。さらにその資金を使って孤児や浮浪児などを引き取り、仕事の無い者達には仕事がある場所を教えて案内させる。これによって領内はどんどん人が増えて来る。

 

 3ヶ月後。父様の執務室で色々と話していく。

 

「父上、独占販売権、非課税権、不入権などの特権を持つ商工業者を排除しよう」

「いいのか?」

「はい。もう必要あるまい。むしろ邪魔だ。新興商工業者を育成し経済の活性化を図る。同時に犯罪者も増えるだろうから街のあちこちに警備所を配置してこまめに警戒させる」

「人手はどうする?」

「学園の者達を使えばいい。兵士希望の者達を使って巡回を行わせ、犯罪を抑制しつつ事がおこれば笛で一般兵を呼ばせる。また、学園の密偵達を私服で街に紛れ込ませて訓練がてら情報収集させればいい」

「わかった。それと兵士が余っているが」

「野営訓練という事で各町を巡回させましょう。頻繁に巡回させ、回るついでに商人達を護衛してやれば途中の街で品物を売ってくれるでしょう」

「税金はどうする?」

「売れた物にだけかけるべきだ。入る時に積荷をしっかりと記録させ、出ていく時に税金を支払わせる。滞在期間を過ぎれば徴収に動けばいいだけだ。それと人頭税を止めるべきだ。子供にまで税をかけるのは止めた方がいい。それなら給料の一部から貰うべきだな」

「ふむ。しかし、子供も労働力であろう」

「だからこそ、子供を学園に入れさせるよう強制する。人頭税を無くす代わりに子供に勉強させるのだ。将来、子供が楽になるし、学園で子供を預かる事で食事は学園で出す。家から通うか、寮に入るかは好きに選ばせればいい」

「しかし、費用はどうするのだ?」

「税金といいたいが、私が大半を出そう。街の者達には皆で子供を育てるといえばいい。住民にもしっかりと利益を出させるさ」

「いいだろう。任せる」

「ああ」

 

 領内は急速に発展していっている。本当の発展はまだだが、もうすぐだ。医者を各町や各村に配置できればいい。それから村を街に変えていく。

 

 ――そろそろ溜まった金で馬を増やすか。弓馬兵を育てたいし、学園は出来たし普通の兵士は問題ない。密偵科から優秀なのを連れて完全な隠密部隊を作るとしよう。黄巾党が何時かは知らないが、そろそろ旅に出るのもありか。

 

 

 

 

 

 

 


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