寝ずに徐晃へと気を流し入れてどうにか死ぬことは免れた。もっと、気で強化して無理矢理動かしていた反動の筋肉痛で起きたら地面をのたうち回っていた。そんな徐晃達を迎えに来た馬車に乗せて城へと戻った私は母様達に捕まって正座させられ、たっぷりと怒られた。一番きつかったのは月が泣きながらすがり付いて来た事だった。詠も詠でかなり心配してくれたようだ。話の途中で私も月達も眠ってしまった。二人共徹夜だったみたいで悪いことをしたな。
次の日、思ったよりも疲れていたのか起きたら夕方だったので父様に報告書を上げる。当然、徐晃達の事も書いてこちらに取り込むようにお願いしておく。
「報告書の件は了解した。それよりも身体は大丈夫なのか?」
「うむ、問題ない。片腕くらい戦わなければどうとでもなる」
片腕は折れたままなので棒で固定して布で首から吊るすようにしておいた。
「そうか。一応、お前専用の召使いを手配しよう。それと黄泉専用の執務室を与える。これからはそっちでやってくれ」
「了解した。直ぐに使えるのか?」
「前任者の部屋があるから、好きに使え。今案内させる」
「ならばそちらで仕事をするとしよう」
父様の召使いに案内されて前任者が使っていた広い執務室へと入る。なんだか臭い。加齢臭か何か知らないがとりあえずは換気だな。後、問題なのはやたら豪華な壺や武器類、掛け軸などが飾り付けられている事か。
「この部屋は私の趣味ではない。模様替えを行う。人手を連れて来い」
「わ、わかりました」
直ぐに召使いが走っていく。私はその間に壁に掛かった剣や斧などを見分していく。無駄に宝石が付いていて実際に使う事を想定していない豪華絢爛な武器や名剣なども存在している。
「ふむ」
――無駄に高い物を買っていただけか。しかし、役に立つ武器はあるな。名剣であり、かつ芸術作品としても価値がある物を選んで置く。剣は腰に差しておこう。
「お待たせいたしました」
「うむ。それでは全て運び出せ。それから書棚と机を用意する」
「はっ」
最終的に左右の壁に書棚と棚を埋めるように置いて、奥の方に少し間を空けて執務机を配置。手前の方に少し大きめの机と椅子を配置して客人を迎え入れられるようにする。ここの隣の部屋も改装する。こちらは使用人である召使い達が待機する部屋でお茶が用意できるようにし、寝れるように寝台も搬入させた。部屋に戻るのが面倒な時もあるからな。もちろん、搬入時は指示を出しながら溜まっていた2日分の政務を行った。
翌日、朝食を終えて鍋を持ちながら父様に与えられた自分の執務室へと向かう。そこで抜けた文官の分と兵士を動かした報告書などの政務を行っていく。使用した物資や装備、救助した者達のこれからとかやる事が多い。何よりも外壁の問題がかなりやばいので早急に対処しないといけない。この件を父様に報告すると外壁を修理する為の予算案の作成を始め、貧民街の処理や軍部の訓練計画や軍権を任せられた。
与えすぎだ。確かに動かしたが……これ幸いと押し付けるのはどうなのだろうか? ありがたいし、存分に使わせて貰うが子供に任せるのは問題だと思っていのか。そんな事を考えていると扉がコンコンと叩かれる。
「入れ」
「失礼します」
「します」
「失礼します……」
入ってきたのは3人で、鳳雛の母親と鳳雛、徐晃だ。代表として母親が前に出てきた。
「この度は助けて頂き誠に有難うございます」
「気にするな。領内に蔓延っていた賊を倒しただけだ。そちらは大事ないか?」
「あわわ、だっ、大丈夫です……」
「……身体中、痛い……」
「筋肉痛だ。力を得た代償と思って諦めろ」
「ん、わかった」
「要件はそれだけか?」
「お礼もあるのですが、これからの事です」
「徐晃の事か」
力を与える代わりに私のモノになれと言ったな。彼女は育てれば護衛として優秀な武将になる。
「はい。それもあるのですが……」
「なんだ? 申してみよ」
「当主様に雇って頂きました。私は当主様の補佐を、雛里と徐晃ちゃんは董擢様の召使いにとの事です」
「わかった。後はこちらでやっておこう。貴女は父様の所へ向かうがいい」
「ありがとうございます。それじゃあ、2人共頑張ってね」
「はいれしゅ」
「……任せて」
母親が出ていくと鳳雛は徐晃の後ろに隠れてしまう。
「ふぅ」
「ひっ!?」
息を吐きながら立ち上がっただけで怖がられた。これは不味いかも知れないな。警戒を解くために頑張らねば。
「座って待っていろ」
「ん」
「こくこく」
二人を置いて隣の部屋に移動する。ここには湯を沸かす為に簡易の竈と水瓶が置かれている。もっとも今は火を入れられていない。まあ、鍋で纏めて作ったお茶を持ってきているので問題ない。熱いお茶もいいが冷えたお茶が私は好きだ。用意しておいたお茶を人数分入れて、常備されている饅頭を箱ごと台に乗せて持っていく。
「とりあえずこんな物しかないが諦めろ」
「あわわ、いいのれしゅか!?」
「美味しそう」
「食べていいぞ」
2人は嬉しそうにお菓子を食べていく。2人の様子を見ながらお茶を飲んでいるともうなくなってしまっていて、2人は私のお菓子を見ている。
「ふむ」
饅頭を片手に一つずつ持って2人に近づける。
「あ~ん」
「あわわ」
「あ~ん」
鳳雛は慌てて、徐晃は何事もないように指ごと食べていく。
「噛むなよ」
「ぺろっ、ぺろっ」
しっかりと指まで舐めていった。すると今度は鳳雛が躊躇している方を見る。
「食べないの?」
「た、食べましゅ! あーん」
「ふむ」
まるで雛鳥に餌を与えているみたいで面白い。2人にどんどん与えていく。すこしすると自分からあ~んをするようになった。
――ちょろい。
「愛玩動物か」
「「?」」
「なんれすか?」
「犬や猫みたいに可愛がる存在の事だ」
「あうっ!?」
「可愛がる……」
真っ赤になる2人を見ながらお茶を飲む。
――しかし、これは遊べそうだな。
「私は董擢。お前達のご主人様だ」
「……ご主人様」
「ご主人様です」
「真名は黄泉だ。好きな方で呼ぶといい」
「あわわ、ま、真名まで頂けるなんてっ!?」
真名とは恋姫†無双シリーズにおいての独自の設定だ。姓・名・字以外の名を持ち、真名は、本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前であり、本人の許可無く真名で呼ぶと問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼な行為に当たる。
「2人は私の両翼になるのだから当然だ」
「わかった。徐晃は香風(しゃんふー)」
「あっ、ありがとうございましゅ! わっ、私は雛里れしゅ」
「うむ。二人共、これからよろしく頼むぞ。2人は私の愛人になるのだから」
「はい」
「うん」
「「?」」
「さて、仕事をするか」
「あ、あ、愛人ってなんれしゅか!?」
「以外に耳年増だな」
「っ!? そ、それはそれはっ」
「雛里、別に普通。貰ったらもらったら、それと同等かそれ以上のものを返す。命を助けて貰った。恩義は恩義で、物は物で返す。香風達の命をはご主人様のもの」
等価交換みたいな考え方だな。良い商人の考え方でもある。
「そっ、それはでもでも」
「商人の考え方か?」
「知らない。でも、お父さんからそう教わった」
「お父上はなんの仕事をしているのだ?」
「鍛冶師。ここにはお父さんを頼ってきた」
「それならば後で鍛冶屋に行くから一緒に行くぞ」
「うん、ありがとう」
無表情な顔を少し綻ばせてくれた。
「それで、雛里は?」
「わ、私もが、頑張ります」
「そうか。では最初にして貰う事だが……文字の読み書きは知っているか?」
「少しならできます」
「無理」
「ならばそちらから教えよう。雛里には政務を手伝って貰うし、香風には護衛になって貰うつもりだからな」
「わ、わかりました! 精一杯頑張ります!」
「頑張る」
「うむ」
文字盤を与えて勉強を頑張って貰う。まずは見本の文字を用意して、砂板に後ろから抱きつくようにして腕を取って書き、その文字を何度も練習して貰う。その間に急いで政務を終わらせていく。
「お兄ちゃん、ここかな?」
急に扉が開いて銀が顔だけをだして覗き込んでくる。
「あっ、いたよー」
少しすると月や詠達もやって来た。手には砂板を持っている事から勉強を教えて欲しかったのだろう。
「丁度いい。これから私の側仕えになった香風と雛里だ。そっちは妹2人と月の幼馴染だ」
「あわわっ、ご主人様の妹という事は……」
「董卓です。どうかよろしくお願いしますね。私の事は月とお呼び下さい」
「ま、真名を……」
「お兄ちゃんが教えているなら別にいいよ。私は董旻。真名は銀だよ」
「徐晃。真名は香風。好きに呼んで」
「あわわ、私は鳳雛、雛里れしゅ」
「ほら、詠ちゃんも」
「仕方ないわね。僕は賈詡。真名は詠。月達が教えたから僕も仕方なく教えてあげる。そこの所をしっかりと覚えておくように!」
「まあ、年は近いだろうから一緒に頑張るといい。これから私が直々に色々と教えてやる。切磋琢磨しあうがいい」
「「「「はい(うん)」」」」
これで君主1人と軍師2人と武将2人は確保出来た。まだまだ足りないが、月自身を軍師としても使えるように鍛えれば……性格的に無理か。なら文官として書類仕事が出来るようになって貰うか。どちらにしろ最低限、大を生かす為に小を切り捨てる事を覚えさせなくてはいけない。戦国乱世を生き残らねばならないのだからこれは必須事項だ。