真・恋姫†無双~董家伝~   作:ヴィヴィオ

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1話 城の掃除

 

 

 少し眠るつもりがしっかりと眠ってしまったようだ。寝ている間に三極姫の謎の少女こと器ちゃんの記憶を追体験させられたのだが、今ではいい思い出という事にしておこう。仙人のくそ爺共に身体をいじくりまわされるという思い出したくもない事もあるが、仙術や気とかいう特集な技術も使えるようになったしな。

 

「無事だったか」

 

 声の方向に振り向くと20代前半の男性が居る。彼が月達の父親だ。

 

「ああ、死の淵から蘇った」

「生きていてくれて良かった。心の蔵が止まったと聞いた時は取り乱してしまった。おっと、そんな事よりも他に変わった事はないか?」

「妖術か仙術かはわからないが、男になったぐらいで問題ない」

「なにっ!?」

「まあ、問題なかろう」

「いや、問題はあるぞ! 嬉しい誤算だがな。息子も欲しかったんだ」

「対外的にどうする?」

 

 もっとも、病弱という事で殆どベッドで過ごしていた私の性別を知っている者などごく微かだが。

 

「問題ない。全て任せるといい」

「では、紙……は高いんだったな。木簡と書く物、本を用意して欲しい」

「構わないが……何をする気が?」

「董家を反映させる為の資金稼ぎだ。拾ってもらう時に言ったはずだ。反映を与えてやると」

「うむ、出会った時の事であったな」

 

 出会った時、器ちゃんがこちらの世界に来たばかりで、出会った君雅に契約を持ちかけたのだ。自分を助ける変わりに繁栄する為の知識を与えると。器ちゃんに助力をしてもらった君雅は直ぐに太守となって繁栄を得ている。

 

「確かにあの時は色々と教えて貰った。だが、既に十分だぞ」

「足らぬわ、愚か者。現在は緩やかに王朝の権力が減衰している。このまま行けば後の時代に騒乱が巻き起こり、群雄割拠となるぞ」

「っ!? そのような事は……」

「ないと言えるか? どちらにしろ娘達の為に富国強兵を行っておけば良いだけではないか」

「しかし、反乱を企んでいると勘繰られないか?」

「兵士は練度をあげるだけで、直接兵士としては雇わなければいいだけだ。あくまで農民として育てればいい」

「わかった。直ぐに必要な物を用意しよう。だが、その前に朝ごはんだな」

 

 そういって父様は私の身体に腕を差し込んでお姫様抱っこしやがった。

 

「どういうつもりだ」

「動けないのであろう? 月達も待っているからな」

「っ」

 

 ――恥ずかしいが仕方ない!

 

 確かに動けないのでそのまま食堂に連れて行かれて席に座らせて貰う。少しすると寝ぼけながら月に手を引かれてやって来る銀(イン)と母様が入ってきて挨拶を交わす。その後、食事を開始する。といっても、月と銀に食べさせて貰ったのだが。その後、部屋に戻って2人の相手をしている。

 

「では、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだったんですね」

「うむ。教えてなかっただろう」

「お兄ちゃん?」

「そうだ」

 

 母様には父様が説明するだろうし、放置。私はこの2人を部屋に呼んでベッドに座りながら説明する。

 

「それでは授業を開始する」

「えぇっ!?」

「計算ぐらいは銀も覚えろ。月は太守になるのだからな」

「あっ、詠ちゃんも呼んできていいですか?」

「構わない。ついでに砂板を持ってきてくれ」

「はい」

 

 月が詠を連れて来るまで届けて貰った木簡に千歯扱きと犂(からすき)設計図を書いていく。しかし、これだけでは足りないな。手押しポンプも必要か。

 

「何を書いているの?」

「便利な物だ。それより、字は読めるのか?」

「まだだよ」

「なら教えてやろう。終われば身体を動かすからな」

「うん♪」

 

 銀を膝の上に乗せて本を読んでいく。

 

「む、難しいよ……」

「兵法書だからな。ふむ……この板が馬とする」

 

 何も書いていない木簡を割って細かな板に変え、馬や兵などの字を書いて実際に動かして見せていく。そんな事をしていると月と詠がやって来たので本格的に教えていく。文字もそうだが、数学も教えていく。

 

「では、書き取りを初めてくれ」

「「「はい(うん)」」」

 

 ある程度教えたら後は反復練習だ。先ずは読み書きが出来ないと話にならないからな。なので今の間に設計図を書いていくのだが……衰えた筋力ではまともに書けない。まあ、筋力は気で補えばいい。それにして精度のいい物が書けないので製図板が欲しくなって来た。先にこっちを作るべきだな。一尺32cmだったはずだから……

 

「おわった~~!」

「終わりましたね」

「そうね。で、次は?」

「運動だな」

「げっ」

「苦手です……」

「軽い運動は必要だぞ。太るからな」

「「っ」」

 

 小さくても女の子なのか、太るという言葉に反応した。

 

「が、がんばりゅ……へう」

「一緒に頑張ろう」

「うん」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんはやくはやく」

「ああ」

 

 ラジオ体操を教え、次にストレッチと柔軟を行っていく。といっても、私はまともに立てないので上半身だけだ。下半身は無理矢理動かしたりする。もちろん、手伝ってもらったり、手伝ったりしていく。直ぐに筋肉痛に悩まされたが、頑張って続けていく。

 

 

 

 9ヶ月後、ようやく身体が気を使わずに人並みの行動が取れるようになった。それに父様の政務を手伝って給金という名の小遣いを手に入れた。もちろん、部屋でしていたので行動範囲は庭と部屋、食堂だけだった。なかなか外に出る許可が得られなかったのだ。

 

 ――過保護にもほどがる。

 

 まあ、護衛さえつければ自由に動けるようになったので、器の少女こと謎の少女と同じ格好をして書庫に出向いた。そこに保管されている納税の報告書を読んでいく。すると粗が出るわ出るわ。脱税いっぱいだ。そんな訳で父様の下へと書簡を持っていく。

 

「父様」

「なんだ?」

「兵を30人ばかり完全武装でしばらく貸してくれ」

「唐突だな。街の外に向かう事は許可出来ないぞ」

「街中だ安心しろ」

「何をする気だ?」

「何、不正をしていた連中から小遣いを貰いに行くだけだ。粛清してやっても構わないが数が減るのは困るだろう」

「当たり前だ! というか粛清だと! いや、それ以前に不正?」

「ああ。これを見てくれ」

 

 納税に関する事が書かれた書簡を見せて数式を使って説明していく。

 

「とりあえず10年分だ。それ以前のものは見逃してやろうと思うがどうだろうか?」

「ふむ……小遣いと言ったな?」

「ああ。貰った金で色々と作る。そうだな……商業権もくれ。自分で商会を立ち上げた方が楽だな」

 

 私が作り出した金は私がする事に使う。その方が父様の負担にもならないし、国庫に無駄な金を入れずに済む。

 

「駄目か?」

「その金で何をする気か教えてくれ」

「ふむ。先ずは便利な物を作って父様に売ろうか」

「便利な物だと?」

「農業を楽にする物だ。田畑を耕すのと脱穀が楽になる物。水を汲むのが楽になる物だ。娯楽もろくにないのだから玩具を売るのもいいかも知れないな」

「それで稼いだお金で何をするのだ?」

「先ずは貧民を無くそう。奴等の労働力を無駄にするのは勿体無いからな。それと孤児を集める場所を作り、そこで貧民と一緒に教育を施して人材を育てる」

「かなりの金が要るな」

「だからこそ自分で稼ぐのだ。それと農業が楽になるので人手が浮くだろう。その対策として農地の拡大も必要だろう」

 

 後は軍備に割く金の割合を減らす為に畑仕事や商人の護衛といった仕事もさせたらいいな。農具を重くして振り下ろす訓練をしながら身体を鍛えさせる。商人の護衛は行軍の練習になる。

 

「いいだろう。粛清はするなよ」

「考慮しようではないか。逆らう者には容赦しないが、悔い改めならば受け入れることを約束しよう。」

「出来れば穏便にして欲しいのだがな」

「相手次第だ」

 

 命令書と商業の許可証、分間の所在地などを受け取って兵士が訓練している下へ向かう。

 

 

 

 訓練所では大人の兵士に混じって銀が剣を降っていた。5歳児くらいが片手剣を持って振り回すとか軽くホラーだな。しかし、銀は気を覚えさせる為に山に放り込むのもいいかも知れないな。

 

「あ、おに……黄泉!」

 

 子犬のように私の下へと走ってきて抱きつく銀。受け止めて頭を優しく撫でてやる。

 

「うむ。私だ」

 

 銀には兄と呼ばいないようにお願いしておいた。今はまだ小娘と軽んじてくれる方が楽だ。いくら恋姫の世界の歴史に例外の女がいるとはいえ男の方が身体は強いからな。その証拠に山賊や盗賊、兵士は男が圧倒的に多い。ひょっとしたら鍛えただけ鍛えられるのかも知れないが。

 

「どうしたの? 黄泉も一緒にやる?」

「いや、私はいい。おい、責任者は誰だ」

 

 こちらを伺っている兵士達に向けて言葉を発すると、直ぐに一人の男がこちらにやってくる。

 

「俺がそうだ」

「私は董擢だ。貴様は?」

「兵士を預かっている王方です。何用ですかな?」

 

 明らかにこちらを見下しているな。まあ、血が流れていないことは知っているのだから構わないが。

 

「新兵ではない熟練兵で貴様を除いた中から、貴様が使えると思ったけど奴を完全武装で30人用意しろ。これが命令書だ」

「街中の護衛に30人ですか? それに長期とは……」

「そうだ。内容に関しては貴様が知る必要のない事だ」

「街に行くの? 銀も行く!」

「好きにしろ。だが、私から離れるなよ」

「うん!」

「手早く頼む」

「わかりました」

 

 直ぐに30人の兵士が完全武装で集められる。私はそいつらの前に立って言い放つ。

 

「私の命令は絶体だ。逆らえば貴様等の死罪はもちろん、家族にも類が及ぶと知れ。では行くぞ」

 

 青い顔した奴等は直ぐに顔を引き締めて俺と銀の周りを固めて進んでいく。

 楽しそうに手を繋いで歩く銀の横で指示を出しながら休みの奴等の下へと訪ねていく。

 

「な、何事ですか!?」

「董擢様と董旻様であらせられる。董君雅様より、使者としてまいった。家主はおられるか」

「お、お待ちください」

 

 直ぐに中へと入れて貰える。

 

「5人はここで待機して門を中から守れ。お前からお前までは裏口を押さえろ。何人も通すな。逆らうなら切って捨てろ」

「「はっ」」

 

 10人の兵士が行動して出入り口を封鎖していく。

 

「なっ、なにをしている!」

 

 流石に封鎖をすると慌てて家主がこちらに走ってきた。

 

「落ち着くがいい。事情を説明するので中で話そうじゃないか」

「??」

「わっ、わかった」

 

 護衛の兵として5人を連れて一室で家主と対峙する。それ以外は屋敷中に散ってもらう。

 

「そ、それでどういう事なのだ! 事と次第によっては……」

「貴様には公金横領の嫌疑が掛けられている」

「なっ!?」

「これが証拠の品だ。明らかに数字がおかしいぞ」

 

 赤かった顔がみるみる青くなってくる。

 

「一族もろとも死罪で構わないのだが、父様は寛大だ。今までの分と利息を支払い、これから心を入れ替えて真面目に仕事をするというならば今回の事は不問としてくれるとの事だ」

「そ、そのような大金は直ぐには用意できませぬ……」

「ならばそれ相当の物を頂こう」

「っ」

「嫌ならば即金で支払ってくれればいい。それともし、支払えない場合は人質を預かる事で給料から引いても構わない」

「わ、わかりました……お支払い致します」

「よろしい。では見分させて貰う」

「はい……」

 

 それから家探しをしてめぼしい物を探す。足りない分は子供達を人質として連れていく。

 

「返して欲しければしっかりと働くのだな」

 

 泣いている両親に告げて子供達を連れていく。どんどん回って金を回収していく。しかし、中には逆らう者もいる。それが大物ならば尚更だ。

 

「ふざけるなっ! 誰がびた一文……」

「殺れ」

 

 話している最中だろうが、無視して命令する。兵士達も自分の命と家族の命が掛かっているので直ぐに行動を起こす。結果、剣に突き刺された死体の完成だ。

 

「よ、黄泉?」

「覚えておけ。我ら上に立つ者には綺麗事だけでは済まされない。このような奴等を生かしておけば月や銀達にも危害が及ぶからな」

「お姉ちゃん達の敵なの?」

「そう、敵だ。敵は殺さねばな」

「うん、わかった」

「いい子だ」

 

 私、いや、俺自身は追体験したお陰でこんな者はとうに慣れた。幾多の戦場をこの目を閉じることも出来ずに直接見せられたのだから。

 

「お前達、ここに居る全員を捕えろ。子供以外は逆らうなら殺しても構わん」

「「「はっ!」」」

 

 外に居る者達に命令して捕らえさせる。2人程伝令に走らせて城に居る奴等も拘束させる。そんな中で護衛を連れて執務室に移動する。

 

「さて、銀」

「何?」

「こういう金を払えば簡単に許される話に何故あそこまで反対したかという疑問が沸いてこないか?」

「うにゅ?」

「ふっ、まだわからんか」

 

 可愛く小首を傾げる銀の頭を撫でながら説明してやる。

 

「こういう輩は大概、別の犯罪にも手を染めているのだ。だからこそ、調査されたくない」

 

 執務室の扉を開けると書簡を運び出そうとしていた男が居た。

 

「見ろ、悪事の証拠を持っていこうとしているぞ」

「悪い人。銀が倒すね」

「好きにしろ。お前達は危なくなったら手を出してくれ」

「はっ」

 

 剣を抜いて飛び出した銀に男は短剣を抜いて逆にあちらから襲い掛かる。私は其の辺にある小物を掴んで気を込めて指で弾く。弾丸となった物は男の短剣を弾いた。そこに銀の剣が振り下ろされる。

 

「ちっ」

「がっ!?」

 

 だが、ある事に気付いた私は先程の技術と同じ方法、指弾で男の額を仰け反らさせて剣を回避させる。

 

「なんで!?」

「待て、私が悪かった。このままでは下郎の血で折角の証拠品が読めなくなる。外でやってくれ」

(((ああ)))

 

 兵士達が納得したような声を出し、男を外に運び出していく。

 

「じゃあ、銀も行ってくる」

「気を付けてな」

「うん!」

 

 さて、2人になった護衛の者に手伝わせて証拠品を漁っていく。すると私や銀への襲撃計画や月を誘拐して手込めにしようとした計画が出てきた。それも賛同者の血判つきで。

 

「舐めた真似をしてくれるじゃないか」

「ど、どうしますか?」

「皆殺しといきたいが、そうもいかないな。コイツの変わりぐらいなら私が片手間で出来るが……やはり文官が不足する事になる」

「「……」」

「伝令を出して一族全員を捕えろ。子供だけは他の子供と一緒にしておけ。それと出来る限り殺さずに捕らえるように厳命しておけ」

「殺さずにですか?」

 

 不思議そうに聞いてくるが、普段なら殺せというんだから仕方ない。

 

「そうだ。これ以上文官が抜けるのは私が面倒だ。生かさず殺さず使い潰すとしよう。それとお前は城へいって父様に伝えてくれ。お前は先に行った通り兵士、軍を動かせ」

「「はっ」」

 

 2人に指示を出して直ぐに部屋から出て銀と護衛の三人と合流する。

 

「あの、捕らえた者達はどうしましょうか」

「子供以外を集めてくれ」

「はっ」

 

 直ぐに縛られた者達が集められる。彼らの前に立って見下ろしてやると悲鳴をあげてがたがたと震えだした。

 

「おい、剣を貸せ」

「はっ」

 

 受け取った血まみれの剣を軽く振って血飛沫を飛ばしながら質問する。

 

「この中で召使いは誰だ。正直に答えねば首を刎ねる」

「「「はい!」」」

「「「はい!」」」

 

 全員が手を挙げる。

 

「全員はないだろう。偽物を指差して教えろ。おい、腕の縄を切ってからこいつらを囲んで逃がすな」

 

 俺の言葉に直ぐに召使いかそうでないかが判明した。そいつらは縛り上げておく。

 

「さて、お前達は数日したら解放してやるが……家に子供とかいたらまずいだろうから、居場所を伝えたら迎えを送ってやる」

 

 嘘だと思った人と本当だと思った人に別れるだろうが、それは仕方ないことだ。

 

「さて、もう一つ相談だが……お前達は無職になる訳だが、同じように働く気はあるか? あるならここで働かせてやる」

「「「お願いします!」」」

「わかった」

 

 一部、家に帰る事を選択したが、それ以外は残る事になった。

 

「お兄ちゃん、どうするの?」

「ああ、この屋敷は広いからな。色々と使わせて貰うんだ」

「そうなんだ」

「ああ」

 

 銀と話しながら仕分け作業を行っていく。召使いの者達は一旦開放して血を落としたりしてもらっていく。その後、子供達の世話を召使い達に任せて、20人の兵士を10ずつに別けて警備をして貰う。

 残りを率いて城に戻ると父様に呼び出された。

 

「やり過ぎ」

「致し方なかろう」

「まあ、そうだな。で、殺さずに捕らえた奴等は?」

「家族と跡取りを人質に取り資産も最低限を残して没収だな。それから最低賃金で働いて貰う。働き次第で許してやるといえば必死に働くであろうよ」

「そうだな。それで、没収する資産だが……」

「好きに使わせて貰う」

「構わないが、流石に没収した奴は公金になるから報告だけは頼むぞ」

「了解した。では、疲れたので風呂に入って寝る」

「ああ、お休み」

 

 それから、銀や月達とお風呂に入って洗いっ子したあと、一緒に眠った。幼女過ぎるのでセーフだろう。

 

 

 

 

 

 

 


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