娘と出会えたのはいいが、とりあえず他人の目もあるので光璃を抱いたまま恋と香風、音々を連れて移動する。後の事は風達に任せればいい。とりあえず指揮官の部屋でろう場所へと向かう。
部屋に到着するとなんというか男の部屋という感じだ。直ぐに香風と音々が動いて塵芥の処理をしていく。服は雑巾として再利用するが、他は処分だろうな。私は恋に光璃を預けてから机の上に積み上げられた書簡を読んでいく。
「で、月達はどうだ?」
「皆、元気。でも、心配してた」
「手紙を書くとしようか。邪魔な者は排除したからな」
書簡の内容は黄巾党の配置場所や食料の蓄積所などだった。部屋に有った地図と申し合わせるとここから食料が運ぶように命令されている事が書かれていた。これは風達と細部を詰めていくべき事案だ。
「とりあえず、女官を呼んでくるのです」
「よろしく。香風は部隊を呼んでくる」
直ぐに香風が呼んだ隠密部隊と女官がやって来る。私は隠密部隊に指令書を渡して潜入を命じる。
「恋、部隊はどうだ?」
「音々」
「問題ないですぞ。各自、装備の点検と馬の世話をしているのです」
「では、移動する準備をさせておけ。それが終われば休憩を取るように」
「了解なのです」
「父様」
「悪いがやらなければならない事がある。恋と遊んでいてくれ」
「……はい……」
「わかった」
恋は光璃に肩車をして連れていく。その間に仕事を終わらせて風に渡しておく。これから行う戦いはかなり厳しい事になる。まともに戦えばだ。これから行うのは内部に潜入させた者達による破壊工作だ。飲み物に毒物を混ぜる事によって一気に落としてしまう。
「さて、仕事は終わったから光璃と遊ぶか」
2人を探しに出ると中庭で戦っていた。小さな光璃に恋が稽古をつけているようだ。光璃は子供なのに流石は恋の子供というだけあって武力はかなり高いようだ。
二人の為に急いで食べ物と身体を拭くための道具を取ってくる。
「お疲れ」
「父様」
てくてくと駆け寄ってくる光璃を抱き上げて撫でてあげる。それから点心を与えてやると2人は美味しそうにもきゅもきゅと食べる姿は癒される。
夜になり、見張りを残して休憩させている中、私は与えられた部屋でお酒を飲んでいる。ベッドでは光璃が寝ており、部屋には香風と恋、音々が居る。
「一緒に寝る」
「そうだな。香風もおいで」
「ん」
「音々もくる」
「音々もですか……構いませんが」
光璃を中心にして一緒に眠っていく。
曹操
黄巾党の討伐にやって来たのだけれど、大量の死体が地面を埋め尽くすように積まれている現状を見るに大規模な戦闘があったようね。
「秋蘭、これをどこがやったかわかるかしら?」
「いえ、情報がありません。司馬懿殿なら或いは……」
「そう。貴男の情報にはこれをやった連中がわかるかしら」
「無論。これをやったのは趙雲軍と劉備軍という義勇兵の集まりであろう」
劉備というのはあまり聞かないのだけれど、趙雲軍というのはよく聞くわね。義勇軍にしては有り得ない程の練度を誇る戦闘集団で、数々の戦果を上げている。彼らの後ろには沢山の商人達が居るみたいだけれど、何処かの貴族か豪族も関わっていると思うわ。でも、それだと宣伝しない理由がないのよね。いえ、一つだけ彼らを表立って援助している者が居るわね。でも、明らかにあの蜂蜜馬鹿じゃないのよね。
「華琳様~~~」
「戻ったわね、春蘭。それでどうだったのかしら?」
「先の砦には多数の兵が詰めているようです」
「それで、黄巾党なのかしら? それとも義勇軍かしら?」
「わかりませぬ!」
「はぁ~」
「安心しろ。そいつに偵察など期待していない」
「なんだと!?」
「司馬師、報告しろ」
「はい、お父様」
銀色の髪の毛の少女。司馬懿の娘とは思えない子よね。
「黄巾党を倒した義勇軍です。それに加えてかなり強力な部隊が加わったようで、ここに居た黄巾党3万7千は殲滅されたようです」
「なるほど。その数を蹴散らすなんてやるわね」
「どうしますか華琳様」
「そうね……司馬懿はどう思う」
「出向く必要はない。名声が欲しいならば別の所へ行くべきであろう。3万以上の敵を蹂躙する者達の近くでは孟徳の名声を得るのは難しいであろう」
「そうね。気に食わないけれど、今は移動しましょう。幸い、こちらも別の所の情報が入っているから、そちらに行きましょう」
「ええ」
「……何れ私達の前に立ち塞がる敵はあの者達だ。凡夫ではないから気を引き締めるのだな」
「はい、お父様」
「うぅ、華琳様~~」
「はいはい。ほら、行くわよ」
何れ相見えるでしょうが、今はいいでしょう。
半年間、各地で戦い続け黄巾党を粗方殲滅したので、黄巾党の本隊を内部に潜ませた者達に火を付けさせて纏めて処理する。慌てて出てきた者達には矢の洗礼を与える。そこを突破したとしても武将達による殲滅作戦を結構させる。殆どの兵が投降し、本隊と食料を失った黄巾党は倒れた。しかし、三姉妹の行方は不明のままだった。
こうして黄巾の乱で武功を上げた趙雲と劉備は官位を授かって新たな領地へと別れていった。さて、拠点を手に入れた趙雲だが、食っちゃ寝の生活をしだした。こちらは放置して風に仕事を任せるぞ。季衣と流琉は音々と一緒に訓練の日々を行い、俺は光璃と恋、香風と共にのんびりとした生活を過ごす。なんて事はなく、忙しい毎日を送っている。
「この獣にも劣る屑ども! 休むなっ、働け!」
「「「へい!」」」
捕らえた黄巾党の連中を調教して逆らえないようにしていくのだ。もちろん、恋の兵達にも手伝って貰って鍛える。
「父様、お手紙」
「ああ、ありがとう」
頭を撫でてやりながら手紙を読んでいく。手紙は月の下にいる桂花達からで汜水関と虎牢関の準備を行ってくれている事だ。これに伴い私は袁紹の近くに居る者に連絡を入れて董卓の事を色々と吹き込んでいく。
「ご主人様」
「香風、もうすぐ戦乱が始まり、終わりに収束するぞ」
「楽しみ」
月達や光璃の為にも諸侯には地獄を見てもらおうか。全てはこの私の掌の中で踊るといい。ここからは私が始める戦争だ。
月
お兄様が居なくなって数年が経ち、私はお父様のあとを継ぎました。それからはお兄様に教わった事を活かして収めています。お兄様が集めて育ててくれた人達のお陰で非常に楽です。それに詠ちゃん以外にも雛里ちゃんや桂花さんも、梨花さんもいます。武官には銀ちゃんに霞さん、華雄将軍がいてくれています。梨花さんは武官もですが。恋ちゃんと音々ちゃんはお兄様の所へと精鋭を連れて行ってもらいました。
「月、馬鹿が反董卓連合を集めだしたそうよ」
「そうですか……」
これはお兄様の計画通りです。少ない犠牲で始まる戦乱の世を最小限に納める為の策らしいです。私にはよくわからないけれど、お兄様に任せておけば大丈夫ですね。
「詠ちゃん、皆を集めて」
「既に集めているわよ。後は月が来るだけね」
「では行きましょうか」
軍議を行う為に皆が集まった部屋に入ります。
「では、これから軍議を始めるね! 議題は反董卓連合っていう馬鹿なのを組織した奴等をどうやって虐殺するかって事だよ!」
「相変わらず物騒やな~まあ、間違っとらんけど」
「うむ」
「はいはい、さっさと進めるわよ」
銀ちゃんの言葉に華雄将軍と霞さんが楽しそうに笑いだすと桂花ちゃんが止めました。
「さて、敵は密偵の話では汜水関の前に集まろうとしているそうよ」
「あっ、あそこなら素晴らしい作戦があります。先ず汜水関ですが、張遼さん、梨花さん、華雄さんでお願いします」
「うちでええんん?」
「構わないだろう」
「そうですね。後、総大将として銀ちゃんお願いしますね」
「任せてよ」
「軍師としては雛里、アンタがいきなさい。私は虎牢関で例の仕掛けをしているから」
「わかりました」
「了解した」
「汜水関に詰める人は準備が出来るまで防戦してください」
雛里ちゃんと桂花さん、詠ちゃんが楽しそうに悪巧みをしています。
「りょーかい。あっ、お兄ちゃんから連絡があった?」
「あったわよ。この作戦は私の家で練っていた案をもとにしているのよ。本当に放浪癖のあるご主人様は恐ろしいわ」
お兄様にもうすぐ会えるんですね。成長した私を見せましょう。
「それほどなんや?」
「この状況をほぼ予測していたわ。今回の目的はこれから起こる戦乱における有利な状況を得るため、敵兵及び主だった敵将を殲滅する事よ」
「おもろそうやな」
「楽しくなる」
「皆さん、どうかよろしくお願いしますね。手加減する必要はありません。早く戦乱を終わらせる為にも容赦なくお願いします」
「あいよ」
「蹴散らすよ!」
お兄様と私の邪魔をする人達は悪いですが消えて貰います。あちらから挑んで来るように仕向けたとはいえ、殺し、殺される覚悟はできているはずです。それならば容赦する理由はありません。