不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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真面目っ娘 兼続ちゃん

 

朝靄で視界がほんの少し見づらくなっているがそれ以上に日の出の光が眩しく、起床してから時間が経っていないせいで目には絶大なダメージを受ける。

 

 

城の庭園というのに今まで興味を持つことがなかった。いや、見る機会がないといったほうが正しいのか。そんな俺にも春日山城の広い庭園には感銘を受けてしまう。

年代を感じさせる松の木、人の手で造られたとは思えないほど精巧な池に川。時間帯によってこの景色もまた様変わりすると考えれば、悪くはないと思った。

 

 

「ん、あそこかな」

 

 

縁側を歩くと、木も草もない一帯が見えてきた。人間台の丸太がいくつも立っており、一つ一つに日々の努力が見て取れるほど、打ち込まれており、所々割れてたりしていた。

 

一人、武具を身につけ空気と一体化するかのように目を閉じ脱力し精神を研ぎ澄ます者がいた。

 

 

「おはようございます灯先輩。今日はよろしくお願いします」

 

「おはよう。じゃ、早速だけど……始めよっか」

 

 

昨日のお返しとばかりに卍手裏剣を三枚ほど投げ込む。一枚一枚に別の回転を加え、左右と正面の三方向からの攻撃をどう対応するのか、見物である。

 

本当に昨日の恨みがないかって?もちろんないですよ。女の子に何をされようが俺にとってはご褒美に変わりないね!

このくらいの攻撃で死ぬなら、所詮はその程度としか言えない。でもまぁ、もしものために危うかったらそれなりの対処法があるのでご心配なく。

 

 

「せやっ!!」

 

 

気合いの入った掛け声とともに右からくる卍手裏剣をたたき落とす。息つく暇もなく、続いて左の卍手裏剣を水流の流れのような動きで受け止める。最後の正面は背中を反らし、避ける。

 

 

わざと視認できるぐらいの時間差で投げたが、その時間差を一瞬で読み取り、動作に写す力量は素晴らしいの一言に尽きる。

 

 

「すごいすごい!さすが兼続ちゃんだね」

 

「いえ、そんなことないですよ」

 

謙遜をしているが実力はもう十二分に分かった。本能的に動く成実ちゃんとは正反対で冷静な判断によって動く兼続ちゃんは、相手としては戦いたくないものである。

 

「さぁ!どんどん来てください灯先輩!」

 

もう、俺の稽古必要なくね?

 

「えっ〜と、手合わせ……する?」

 

「………する!!」

 

水を得た魚のように大喜びする兼続ちゃん。こうなったら、汗だくにしてやるぜ!

 

 

 

 

 

 

 

結果としてはもちろん全勝ですよ。暗器を使いまくるのは可哀想だから小太刀だけでひたすら闘いました。

 

「手も足もでないってこのことなんですね。今日はありがとうございました」

 

汗で張り付いている布地が体のラインを丸分かりにしている。発達段階なのだが、控えめなおっぱいが艶かしいぞこの野郎!

 

「こちらもありがとうございました」

 

本当にごっちゃんです!

 

「湯を沸かすので、先にどうぞ」

 

「ああ、ありがとう。」

 

言うの?言っちゃうの?俺!胸に秘めた想いを兼続ちゃんへ解き放つ。

 

「背中流してくれるよね……?」

 

「……え?」

 

「え?」

 

まさか!?という顔をされてしまい、返答に困る。自分で決めたことは守るのが武士というものだよ。

 

「いいよね?」

 

「けど、その、ごめんなさい!」

 

純情な娘に告白したかのようなやり取りだが、振られた以上に絶望が俺を襲う。

 

「武士に二言はないのですが……まだ、は、恥ずかしくて。無防備な姿を見せるほど灯先輩のことを知らないわけですし……」

 

「知らない?なら、これから知っていけばいい」

 

手をぎゅっと握り、諭す。

 

「いや、ですが……」

 

恥ずかしさと困惑で目がものすごい速さで泳いでいる。ふむ、こいうのも悪くないかも。

 

「あまりうちの兼続をいじめるのはよくないわよ」

 

またしても気配を感じとることができなかった。厚手の布を纏う謙信ちゃんが微笑んでいた。

 

ここまで気配がないと試したくなるんだよな〜。体の相性とかそっちじゃないですよ。ただ純粋な実験ですです。

 

「大丈夫なのですか!?外に出られて!」

 

「今日は調子が良いの。このくらいならあまり問題じゃないわ」

 

謙信ちゃんは現代でいうアルビノのため日光を苦手としており、普段は毘沙門堂に篭っている。

 

「兼続ちゃん。悪いけどお風呂沸かしてきてくれるかな?」

 

「え、あ、はい」

 

俺の態度の変わりように拍子抜けしたようにぎこちない返事をする。謙信ちゃんの身を案じてか、足取りは重たさを感じさせていた。

 

「何か私に用があるの?」

 

「用というより試したい、こと?かな」

 

風遁の術で強い一風を吹かせる。

 

風で人を切るとか想像するかもだけど、現実は風を吹かせるのが精一杯なのですよ。

 

「きゃっ」

 

突然の強風で素が出てしまっている謙信ちゃんに萌えながら、足音、気配、消せるもの全てを消す。がら空きの背後に回り小太刀で切り裂こうとする……が、

 

「嘘だろ……」

 

攻撃を受けたわけではない。かといって何をされたかすら俺には検討もつかなかった。小太刀が触れる瞬間、説明ができない力で吹き飛ばされた。

 

「誰も私を殺すことはできないわ」

 

「……何をしたんだい?」

 

地面に倒れた状態のまま聞く。

 

「ただ殺気をそのまま返しただけ。私の意志とは関係なくよ。私が毘沙門天になってから自然とこうなったの」

 

 

なるほど。これですべての合点がいく。

 

謙信ちゃんには殺気がないのだ。悟りを開いたとでもいうのか、人が誰しも持つ殺気を。だから、俺は気配を感じとることができなかった。

 

「でも、灯が私を本当に殺すつもりなら灯は死んでいたわね」

 

実験という形だったため、殺すつもりの殺気を出さなかったのが救いだったわけか。だが、あの殺気だけで節々の打撲に右肩の脱臼って恐ろしいな、まったく。

 

「試したいことはこれだけかしら?なら、毘沙門堂に戻らせてもらうけど」

 

「本題はここからだから待って待って」

 

脱臼した右肩をはめながら、土埃を払う。

 

「謙信ちゃんは本当に武田が攻めてくると思ってるの?」

 

「思ってないわ。だからこそ戦うの、彼女の名を語る不届き者と」

 

 

いらない心配だったらしい。甲斐の虎こと信玄ちゃんに会えないのは残念だが、近いうちに会えると思う。

 

「私は戻るわね」

 

毘沙門堂の方向に歩き出す謙信ちゃんの背中を見ながら、独り言を言う。

 

「俺は神も仏を信じない。だから毘沙門天の存在も絶対に信じない」

 

一瞬止まりかけた謙信ちゃんだが、信じる信じないは灯の自由よ、とその背中が語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでこんなに青痣ができていたと」

 

兼続ちゃんが用意してくれた湯に浸かって、これまた用意してくれた美味しい朝食を摂り、蔵人ちゃんに看病されているのが今の状況である。

 

「もうちょっと優しくしてくださ痛いっ!」

 

「刀傷の方がこの何倍も痛いんですから我慢してください」

 

薬草をすり潰してできた液体を青痣の部分に塗られていく。

 

「まさに神業って感じですね。もしかして、毘沙門天の化身だったりしちゃうんじゃないんですか?」

 

「本当に存在するならこの世はとっくのとうに平定されて平和な国になってるよ。そういう蔵人ちゃんはどうなんだい?」

 

「信じてないに決まってるじゃないですか、っと!」

 

「あがっ!」

 

手当が終わった合図らしく、青痣をある程度の力で叩かれ悶絶である。

神仏を崇める人たちの大半は心の拠り所を求める者達や何かにすがらなければ、戦国の世で生活をするのは困難だと考えているのが主な理由だと思う。

 

「明後日の戦までに完治することを願っていてくださいね」

 

「あいあいさ〜」

 

 

 

 

 

いつの間にか戦当日である。

 

兼続ちゃんの稽古に城内探索、情報収集に費やした結果。まぁ充実した一日だったと思う。 それと怪我の方は蔵人ちゃんの手当のおかげで完治した。

 

「馬は楽でいいねぇ〜」

 

「ですねぇ〜」

 

忍は駆ける駆けるの連続だから滅多に馬は使えない。それに金銭が高いし……。

蔵人ちゃんと二人乗りでのほほんと先陣を進む。右隣にはもちろん今回の戦の総大将を務める兼続ちゃん。

 

「もう少し緊張感というものを持ってください灯先輩、世瀬どの」

 

嘘かどうか分からないが、仮にも武田との戦、ピリついて当然か。

これから向かう戦場は山!互いに山の両端に本陣を置き、山中での戦いになるだろうとby.兼続ちゃん

 

「あまりはしゃぐなよ小僧」

 

「相変わらず段蔵姉さんは厳しいなぁ」

 

一瞬霧がかかったと思ったがすぐに消え、左隣にすらっと伸びた長い脚に鎖帷子で妖艶さを漂わせるおっぱい。長い髪を掻き上げる仕草は大人の女性を感じさせる。越後の忍、加藤段蔵である。

 

 

「うっせ!喉元掻っ切るぞ」

 

 

この通り口が悪く、血気盛んな忍。性格に比例して凶暴なため実力は忍の中でも飛び抜けている。

 

え?なぜ知ってるかって?そりゃあ、俺が修行中にお世話になった忍の一人である。段蔵姉さんの指導は『死』と同意義だった。

 

「仲間割れは洒落になりませんからやめてくださいお願いします」

 

思い出す辛い修行の日々。睡眠中にも殺されかけ、用意された飯は猛毒が入っていたり、たまに手合わせする時の武器に毒が塗られてたりと思い出すだけで涙が出てきてしまう。

 

「まぁいい。鍛錬は積んでるようだし、合格」

 

霧が消えた瞬間に投げ込まれていた針を指から離し、地面に捨てる。

 

「えっ!?えっ!?灯様は段蔵ど様とどんな関係なんですか!!??」

 

「う〜ん師弟かな」

 

「嘘……」

 

何かにショックを受けたらしく顔が真っ暗闇のように暗くなってしまった。

 

「灯様と段蔵様は師弟灯様と段蔵様は師弟灯様と段蔵様は師弟。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。あの灯様がんなわけない」

 

後ろでぶつぶつと呪詛のように呟き続ける蔵人ちゃんが不気味でしょうがない

 

「段蔵、武田の様子はどうでした?」

 

「ありゃあ偽物だったな。武田の軍にしては力強さがこれっぽっちも感じられなかった」

 

予想通りってことかな。

 

 

「謙信ちゃんの強敵(とも)を名乗る奴らと戦うことになったけど、兼続ちゃんどうする?」

 

 

「もちろん……降伏するまで叩き潰します!!」

 

「さっすが!」

 

「あ〜!血が騒ぐぜ。邪魔したら容赦無く殺すからな灯」

 

「全力で支援させてもらいます段蔵姉さん」

 

この空気に乗り遅れた蔵人ちゃんは小さな拳をたて、小さな声でがんばろっと言ってましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 




加藤段蔵が女…はい私の趣味です。

灯が下品というコメントがありましたが、んまぁ自分を偽ることを嫌いなため欲望にも素直って感じですね。男としてやりたいことを代わりに灯がやる!それを一つのテーマにしてます。

それと、姫武将たちを輝かせるスパイスってことでよろしくです。

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