不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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ボクっ娘小十郎ちゃん

成実ちゃんとの虫取りも終わって、政宗ちゃんの屋敷で寝ること数時間。

 

「起きてください灯どの!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

睡眠という欲求を突然奪われてしまった。これは性的欲求で解決するしかないじゃないか。

チキンハートの俺にはそんな勇気もなく、渋々起き上がると。右手に柔らかい感触があるのに違和感を持つ。

 

さっきから小十郎ちゃんの顔がドス黒い笑顔の理由を半ば理解しつつ、右側を見ると。

 

「すぅ~……すぅ~……」

 

やっぱりかぁ~~!!成実ちゃんがいた。もちろん、右手の柔らかい感触はおっぱいでした。とりあえず二揉み、三揉みする。

 

「ん、んう。……あ、灯おはよう」

 

寝起きの無邪気な笑顔を見た俺は罪悪感で死にたくなった。

 

「灯どの、僕がいるのによくあんなことができましたね。さすがですね」

 

「ん?なんのことかな?」

 

「しらを切るつもりですか!?僕は見てましたよ、灯どのが成実どのの……ち、乳房をも、もも揉んでいたじゃないですか!!!って何を言わせるんですかぁ!!!」

 

最後まで言わせることができた達成感に満ちながら、小十郎ちゃん渾身の全力パンチを食らった。

 

 

 

 

 

 

「ほんともう、あなたという方は何でいつもいつも破廉恥なことばかりするんですか…」

 

半ば呆れながらそんなことを言われてしまう。

ちなみに今はみんなで仲良く朝食タイムである。

 

「まぁよいではないか、小十郎。灯も心の奥にあるびーすとを解き放っておるのだからな」

 

朝からとばすね~政宗ちゃんは。それもそうだよね!男は皆、心の奥に獣を飼ってるんだからね。俺のが特別凶暴なだけだから実質、俺は無罪!

「姫は灯どのに優しすぎます」

 

「逆に小十郎、お主が厳しすぎではないか?未来の病気『つんでれ』というものではないか?」

 

「なんですか!?『つんでれ』って!?」

 

おうおう、まさかツンデレって言葉が存在してるのか。たぶん、織田家の猿の影響かな。会ってみたいもんだな同じ未来から来た同士で。

 

「見た目がつんつんして中身がでれでれしている者のことらしいぞ」

 

「よく分かりませんが、とても不愉快な言葉です」

 

恒例になりつつある、二人の会話を聞きながら食べていると袖をくいくいと引っ張られる。

 

「どったの成実ちゃん?」

 

「……なんでもない」

 

朝起きてからどことなくぎこちない成実ちゃん。女の子の日なのかな?

 

「ハッハッハ!!まぁよいではないか小十郎。男装を見破った殿方と祝言をあげると願っていたのだろう」

 

「な、ななななんで僕が灯どのとし、しし祝言を挙げなければいけないんですか!!!」

 

焦ってる小十郎可愛ええわぁ~。やっぱ僕っ娘最高ぉぉ!!

 

「お食事中のところ申し訳ありません政宗様」

 

政宗ちゃんの隣に現れた黒脛巾組。

 

「どうしたのだ?そんな取り乱して」

 

「はっ!早急の知らせで地方の豪族がこちらに向けて進軍中とのこと!」

 

政宗ちゃんのことだから豪族ぐらい抑えていると思っていたんだけど、誰かが焚きつけたのかな?

 

「ふむ。どうする小十郎?」

 

「僕の指揮のもと進軍します。よろしいですか?」

「かまわん!」

 

ここぞという時の決断をできる政宗ちゃんはやはり将の器だと分かってしまう。

楽しい朝食から一転、殺伐としたことになってしまったがこれもこの時代の運命か。

 

「んじゃ、俺も参加させてもいいかな?」

 

「ええ、もちろんですよ灯どの。ぜひ共に戦いましょう」

 

え、ええ~~ここはダメですとか言ってくれると思ってたのに。にしても、小十郎ちゃんの笑顔が怖いです。

 

「灯。危ないよ」

 

そうそうこんな反応を待ってたんだよ。

 

「一宿一飯の恩は返さなきゃいけないからね。すぐ帰ってくるよ」

 

「約束……だよ?」

 

「うん約束」

 

昨日の夜からキャラが崩壊してるのだが、これはこれでものすごく良い感じだよ成実ちゃん!!ブヒれるよ!

 

「では、出陣!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥州の土地にまったく詳しくないため木々に囲まれた盆地としか言えない場所の両端に各陣の本陣が展開されている。

 

せっせと小十郎ちゃんは部隊に指示を飛ばす。

 

戦場に着いて一時間もしない内に両者の兵が配置についているが兵の数を見るに三百は差がある。

 

「どうちて俺が先陣にいるのかな?」

 

「どうしてって、片倉様直々にこうするように言われたので」

 

黒脛巾組を束ねる組頭の一人、世瀬蔵人。

きめの細かい黒髪を一本に結ぶポニーテール。鼻から下は黒のマスクで隠しているが、それだけでもその凛々しい美しさが伺える。

 

「私としては灯どのの力量を見極めるいい機会ですので!」

 

こちらを体を向け、期待に満ちた目をしながら両手を胸の前で握っている。

 

「いや、そんな期待されても……」

 

「で、ですよね。私みたいな名も知られていない忍に見せるモノなんて……ないですよね」

 

まったく忍らしくないほど、感情が出やすい娘である。顔半分隠れていても分かるもん。

 

「そんなわけないない!見せちゃうよ!俺がズッコンバッコンしてるところをバンバン見せちゃうよ!!」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

法螺貝の鈍い音が響き渡る。蔵人ちゃんの目がさっきと別物となる。真剣で殺意に満ちた目に変わる。

 

「始まります」

 

この言葉と共に、俺は装束の中に隠し持っていたものを取り出す。

 

「そ、それっ───」

 

豪族軍が雄叫びをあげ突撃してくる。先陣である俺が動かないのを不審に思う足軽たちだが、しょうがないよね。

 

「破裂したくないし!」

 

両手にいくつもの爆弾(30%増量中!!)を抱え、右手で全力で投げ込む。

 

敵軍の先陣が次々と崩れていく。爆風による衝撃で馬から落ちる者や爆弾によって生まれた穴に落ちる者。隠し味に入れといた千本で怯む者たち。

 

「やっ~ておしまぁ~い!!!」

 

「「「アラホラサッサー!!」」」

 

とりあえず仕込んどきました。暇だったので。

 

「さ、さすがです灯どの!!忍ならではの暗器に思いもしない爆弾での先制不意打ち!!くぅ~!!この卑怯具合かっこいいです!!」

 

嬉しいけど褒められてる気があまりしないな。まぁ、でもお気に召したらしく、ぶんぶんと拳を振っている。

 

「蔵人ちゃんは作戦通り、敵情報を撹乱しとしてくれるかな?」

 

「お任せあれ!」

 

謙遜していたが組頭だけあって能力は高く、一瞬で目の前から去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に分かんない方ですよ灯どのは。先程入った情報だと敵先陣部隊を半壊させたとか……。それに、いつの間にか兵に変な掛け声を教えたりと分からないことだらけですよまったく。

 

 

ま、ままままぁ、伴侶にするかな、ななんて関係ないですし!いくら武術、戦術、人望に優れてるからって僕の気持ちがまだ……その、整理できてる訳じゃないです!!

 

「──さま!──片倉様!!」

 

「あっ、どうしました?」

 

考え事に夢中で呼ばれてることに気づかないなんて。武士失格です。きっと、弛んでる証拠なのかもしれないですし。

 

「それが……灯どのの姿が突然戦場から消えました」

 

「んなっ!?……はぁ~何でこう、思い通りに動いてくれないんですか、あの人は……」

 

考えるだけで頭が痛くなってきましたよ。

 

「分かりました。では、各陣大きく展開しながら敵を包囲するように、と伝えてください」

 

半ばため息が漏れつつ、最終局面に入った戦に詰みの一手を加える指示をする。

 

「御意」

 

はてさて、灯どのは本当にどこに行ったんでしょうか?落ち着きなく歩きながら思考を回転させている今の状況を総大将らしくないと、情けなく思うが、なんとも言えない感情を胸に抱きながら灯どののことを考える。

 

「失礼!」

 

思考の泥沼に落ちる寸前に、新たな情報を持った伝令の二人が本陣に入ってくる。

 

「戦況は落ち着きましたか?」

 

「はっ!敵陣営はほぼ壊滅。勝利はもう確信であります」

 

「そうですか。ですが、油断は禁物です。いつ、どこで戦局がひっくり返るか分かりませんので油断せずに降伏まで持って行ってください」

 

二人の伝令が後ずさり始めるのを見て、二人を背にするように屋敷の方角を見る。

これが終わったら、灯どのをことをもっと知らなきゃダメみたいですね。自分には似合わない言葉だと内心、苦笑してしまう。

 

「ええ、そうですな片倉様。油断は禁物ですな」

 

「なぜなら、この一瞬の油断のせいで戦局がひっくり返るんですから」

 

二人の殺気に気づいて、咄嗟に振り向いた時には遅かった。小太刀を抜き放ち、僕が柄を握った時には二つの鋭い光沢を放つ刃がバツ印を描くように交差しようとしていた。

 

 

こんなことなら、男装をせずに一人の女の子として暮らしたかったな……。ふっ、と横切る叶わない願い。未練を残しながら目を見開いた瞬間──

 

「───恋を知らないまま君を死なすわけにはいかない」

 

明るく照らし出す灯のように僕の目には両手に小太刀を持ち、二つの刃を弾く、彼の姿が映し出された。

 

「なんで……?」

 

「呼ばれた気がしたからね」

 

そんな理由じゃないような理由で命を救われるなんて……少し悔しい気持ちがあります。けど、灯どのがいると自然と心が安らぐのは何ででしょうか?

 

「チッ!おい、どうする!」

 

「落ち着け。すぐに殺せばいいだけだ」

 

はじかれた小太刀を持ち直し、再度斬りかかってくる。さっきまでと違い、攻撃に時差がある。

 

「一つ……恋を知らない女の子を殺そうとしたことを許さない」

 

冷たく怒り顕にしてる灯どのは先に来た小太刀の刃を折った。精鋭と呼ばれるような彼らだが、相手が悪すぎた。彼らと灯どのには超えられない壁が二つも三つもある。

 

「二つ……騙し討ちという形で姫武将を問答無用で殺そうとしたことを許さない」

 

次に来た小太刀を左手に持っている小太刀で止める。

 

「最後に……」

 

右手に持っている小太刀で一人を横一閃で切り伏せ、もう一人は後頭部を捕まれ地面に叩きつけられ、頭蓋骨が割れる音が鳴った。

 

「俺の大事な人を殺そうとしたことを絶対に許さない」

 

『大事な人』その言葉に心がトクンと高鳴る。姫にも何度も言われていたのに、彼から言われると言葉の意味も重みが別物になってしまう。

 

「怪我、してない?」

 

「は、はい。本当にありがとうございます、灯どの。僕が不甲斐ないばかりに御迷惑をおかけしました」

 

「小十郎ちゃんが無事で良かったよ。でも、これからは少なからず黒脛巾組を数人付けといた方がいいよ」

 

先程までの殺気も怒りもどこへ行ったのか、いつものような暖かい無邪気な笑顔の彼に戻っていた。

 

「すいません嘘をつきました。外傷はないのですが、何故か心が痛いんです。今までに感じたことのない心地よい痛みで……戸惑っているのです」

 

どんな名医でもこの痛みは決して癒すことができない。でも、灯どのなら治せてしまう……そんな感じがする。

 

───だから。

 

「この正体をゆっくりでいいので、知っていきたいんです。あなたのお側で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場の荒れ果てた大地に一輪の花が咲いている。いつも俺は戦場の姫武将を見てそう思ってしまう。

 

そして、今ここに大事な人のために咲くことを拒否し続けていた花が美しい花弁を咲かせた。

 

「俺はそろそろ奥州から出ていくつもりなんだ」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

「どうしてかって聞かれれば、自分の野望のため、としか答えられないんだよね」

 

『私のような女の子を───』断片的に思い出すあの時の記憶。忘れない。忘れない。忘れない。何度も体にも心にも刻み込んだ。

 

「教えてはくれませんか?野望を」

 

「俺の野望は世の姫武将に恋と遊戯を教える、たったそれだけ」

 

「ふふっ、灯どのらしいです。それならしょうがないですね。……いつかは教えてくださいよ、野望の原点を」

 

「ああ、約束するよ」

 

 

戦は片倉小十郎によって、まったくと言っていいほどの被害で済み完勝に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──灯どの、その野望が叶ったら……

私に恋を教えてくれませんか?──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも騎士見習いです。
自分のバトル描写のしょぼさを思い知りながら書いております。

次回で奥州編を終わらせるかもしれません。気が向いたら特別編という形で書きたいと思っております。

では、騎士見習いでした

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