不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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昌景ちゃんは女王様

「灯兄さん朝ですよ。起きてください」

 

天使の囁きと聞き間違えてしまうぐらい天使で天使な天使すぎる声にモーニングコールをされる。

 

「幸村ちゃん、おはよう。よく眠れたかい?」

 

「はい。わざわざ昌信どのの家から送って下さりありがとうございます。その、なんというか……寝顔とか見ました……か?」

 

「昨日の夜は幸村ちゃんを寝室の布団に置いて、そのまま隣で寝たから、たったの一時間しか寝顔が見れなかったよ」

 

自重?そんなもの俺には存在しません。

 

「一時間!?な、なんでそんなに見るのですかぁ!ううっ……。そ、それでどうでしたか?」

 

驚いて怒って恥ずかしがる。と忙しい幸村ちゃん。布団の毛布で顔の下半分を隠し、躊躇いがちに感想を聞いてくる。

 

 

「毎朝見たいと思いました」

 

 

毎朝三時間見て十五分のインターバルを置いた後、二時間見たい。と言いたかったのだが、さすがに犯罪だと思い苦渋の末、心にしまいました。

 

感想を聞いた幸村ちゃんは顔を俺から背けるように立ち上がり

 

「……け、稽古の時間ですので失礼します!灯兄さん!」

 

よく分からないけど怒ってなさそうだし。良かった良かった。

 

 

 

そして一人だけになり、ようやく本題に移れる。

 

「コホン。蔵人ちゃん出てきなさい」

 

案の定、天井の一部が外れて中から蔵人ちゃんが気まずそうにのそのそ出てくる。そのまま自然に正座して俯く辺り、反省はしているようだった。

 

「何が言いたいか分かるよね?」

 

「……いや、ちょっと記憶が抜けてまして。飲み過ぎたのかなぁ~~」

 

 

前言撤回。反省はしてないと思われる。

 

「なら、昨日のことを俺の口から一字一句間違えずに再現してあげよっかな」

 

「堪忍してください!覚えてます!覚えてますから。昨日は私が悪かったです。許してください灯様ァ!」

 

懇願するようにしがみついてくる。

 

「はぁ…。俺はいいけど、ちゃんと幸村ちゃんに謝るんだぞ。互いに死にかけてたんだから」

 

「分かりました……いってきます」

 

少し不貞腐れてるようなので

 

「昨日みたいに悪酔いしないなら今日は俺と飲みに行こっか蔵人ちゃん」

 

「い、いいんですか。禁酒とか命じなくていいんですか?」

 

「欲望を抑えるのは体に毒だからね」

 

「あ"がり"ざま"ぁ!飲みましょ!吐くまで今日は飲みましょう!」

 

「軽く飲むだけだからね。ほら、さっさと仲直りしてきなさい」

 

先程までの不貞腐れはどこえやらというぐらいランランと立ち上がる。

襖を開けてピタッと突然、蔵人ちゃんの手が止まった。

 

「もしもですよ。もし、あの時私が幸村どのを殺していたら灯様はどうしてましたか?」

 

あまり答えたくない質問なのだが、本人の雰囲気から真剣味を感じ、戸惑いつつも考えることはせずに思ったことをそのまま口にする。

 

 

「そうだね。俺の命で蔵人ちゃんを許してもらうかな」

 

俺の答えに蔵人ちゃんは襖から手を離し勢いよくこちらに向き直る。

 

「そんなことは私が許しませんよ!なんで灯様が死ななきゃならないんですか」

 

今までの言動からこの反応は素直に嬉しい。

 

「だって女の子は命はこの世の何よりも大切なものだしね。自分一人の命で蔵人ちゃんが救えるなら安いもんだよ」

 

何かに気づいたらしく蔵人ちゃんは額に手を置き、軽くため息を吐く。

 

「灯様はそういう人でしたね。忘れてました。不躾な質問をしてしまいすいません。えっと、いってきます」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

どうやら自己解決したらしく蔵人ちゃんの顔は少し綻んでいた。

今度こそ一人になってしまったので、城下町へ出発!!

 

 

 

 

 

 

 

自由気ままに城下町を歩いていると見覚えのある人物が店に並んでいる野菜を見極めていた。集中しているせいか、それとも俺の存在が彼女にとって空気と同じのか近づいていっても気づく素振りを見せずにいた。

 

 

「昌景ちゃん何してるの?」

 

昌景ちゃんこと山県昌景。武田四天王の一人で風林火山の『火』を担当する火のごとく苛烈に敵を攻め立てる四天王最強の実力者であり、四天王一の小柄。ちなみに騎馬隊の色である真紅は彼女の考案だそうです。

 

「見て分かりませんの?野菜の品定めですわ。………って!へ、変態露出鬼畜忍者!?!?な、なぜここにいるんですの!?」

 

変態、鬼畜、露出と散々な言われようで心が傷ついていく。どうやら昌景ちゃんは『攻め』だけではなく『責め』にも長けていた。

 

「ぶらぶらしてたら見つけちゃいました。まさに運命だね」

 

「殺意の湧く冗談はやめてほしいですわ」

 

 

ツンデレお嬢様って最高だぜ!しかもロリッ娘ときたもんだ!信玄ちゃんが手元に置きたくなる気持ちよく分かります。

 

 

「昌景ちゃんって良いとこのお嬢様だと思ってたけど庶民的だね」

 

「ふんっ。勝手な想像を押し付けるのはよしてほしいですわ変態忍者」

 

「その呼び名は色々と誤解を招くので違う呼び方はないかな。お兄ちゃんとか御主人様とか」

 

「想像の次は性癖を押しつけてくるんですの。あなたなんて豚で十分ですわ!醜い豚よ!」

 

さすがにそこまで言われると俺も……。

 

「はい!私は昌景様の醜い豚です!」

 

 

従順なる下僕になるしかないじゃないか!

 

「分かればよろしいですわ。さぁ豚、この荷物を持ちなさい。私に奉仕できることを光栄に思いなさい」

 

「は、はい!」

 

丁度いい力加減で頬をネギで叩かれる。

 

「豚なら豚らしく鳴きなさい。理解したかしら?」

 

「ぶひい!」

 

「ふふっ、いい子ね」

 

 

昌景ちゃんものりのりで俺としては嬉しいこと限り無し。この一連のやり取りでお嬢様ではなく女王様としての才能を開花させつつある。

互いにwin-winの関係で楽しんでる時に何か固形物が落ちる音をすぐ近くで聞こえた。

 

「ま、昌景どの、な、何を言ってるん…ですか……!?灯兄さんを、豚って」

 

 

俺と昌景ちゃんは聞き覚えのある声に冷や汗を垂らしながら声の方向へ向く。そこには、

 

「ゆ、幸村はどうしてここにいるんですの!?」

 

「どうしてと言われましても修業後のご飯を……。それより、さっきの会話はなんですか?灯兄さんを豚って呼んだり、灯兄さんも灯で豚のマネをするし……」

 

状況が飲み込めずに頭がパンクしている。が!暴走したように逃げ去っていく。

 

「待ってくれ幸村ちゃぁぁん!!」

 

無情にも俺の思いは届かず、幸村ちゃんは忍顔負けの速さで消えていった。

 

 

やってしまったと後悔していると胸ぐらを掴まれる。今にも泣きそうなほど目に涙を溜めて、爆発寸前といった様子でふるふると震えていた。

 

「ど……どうしてくれるんですの!あれだと私があなたを豚と呼んで楽しんでいると勘違いされてしまうじゃない!」

 

 

「え?違うの?」

 

べしんっ!とまたもやネギで叩かれ心地よい音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでどうしよっか?」

 

片手で持たされた荷物をもう片手でネギで叩かれた頬を擦りながら歩く。

 

「どうするって誤解を解く以外ありませんわ。作戦を練るために嫌々あなたと一緒に歩いているんですのよ」

 

 

「至極恐悦でございます。お嬢様」

 

 

「分かればよろしいのよ。この豚!……ではなく灯」

 

 

やっぱり気に入ってたみたいです。そのことを指摘するとまたネギで叩かれかねないので大人しく言葉を飲み込む。

 

 

「初めにすることは幸村を探すことですわね。心当たりは?」

 

「いくつかあるけど、もっと確実な方法ならあるよ。知りたい?」

 

「もったいぶらず言いなさい」

 

「匂いで探します」

 

想像通り、脱兎のごとく距離をとられる。そして汚物でも見るかのような目で見てくる。

 

「犬!あなたは犬よ!変態犬!」

 

 

「そんなこと言っていいのかなぁ~。別に~俺は誤解を受けたままでも構わないしぃ。むしろ嬉しいしぃ~」

 

 

「ッッッッ!!!!分かりましたわ!非礼を詫びますわ」

 

この上ない嫌な顔をされてしまう。そんな昌景ちゃんに免じて匂いを嗅ぐ。

人にはそれぞれ固有の匂いが存在する。嗅覚以外の機能を停止させることで極限まで一つの感覚を尖らせる。

 

 

「クンクン。こっちだワン」

 

何か言いたげな表情だったけど無視して幸村ちゃんを追う。

 

「匂いが強くなってきたワン。この先すぐのところにいるワン」

 

「よくやりましたわ!犬!」

 

城下町の近くを流れる川の岸に幸村ちゃんはいた。たぶん、相談しようにも誰に相談していいか迷った挙句、悩んだ。ってところかな。

 

「見つけましたわよ!幸村」

 

獲物を捉えたようにギラギラと眼光を鋭くする昌景ちゃん。

 

「知りません、昌景どのが灯兄さんを豚と罵って快楽に満ちた顔をしてたなんて知りません!」

 

自分から自白してくれてありがたい。今にも襲いかかりそうな昌景ちゃんを手で制して、俺が誤解を解こうと幸村ちゃんに近づく。

 

 

「幸村ちゃん聞いてくれ。あれは俺と昌景ちゃんの絆を深めてたんだよ。相手を罵ることで真の絆が築かれるんだよ!」

 

自分でも何を言ってるのか分からない。アドリブには弱いことを知りました。

 

「そうだったんですか……。な、なら!この幸村も灯兄さんを豚!と呼びます。昌景どのだけ抜け駆けはさせません」

 

どうやら事態はますますややこしくなってしまったようだ。俺だけ。

 

昌景ちゃんは呆れ、幸村ちゃんは今も豚、豚野郎、と必死に絆を深めてくれている。

 

「灯。私は何も悪いと思ってないのだけれども、とりあえず、ごめんなさいですわ。」

 

「いや、自業自得だよ。これは」

 

 

深くため息をつくと、やれやれといった様子で昌景ちゃんは、素直に罵詈雑言を繰り返している幸村ちゃんの方へ向く。

 

「幸村。灯が言ったことは嘘ですわ」

 

 

昌景ちゃんの言葉と共に幸村ちゃんは石像のよう固まっていた。

 

 

「相手を罵って絆が深まるわけないですわ。さっきのは灯の冗談。本当はちょっとした喧嘩みたいな、ものかしら」

 

 

目線をこちらに向け、同意を求めてくる。なぜ俺はこんな簡単な言い訳すら思いつかなかったのか。くっ、幸村ちゃんが可愛いせいだ!

 

「そうだったんですか。でも、灯兄さんが嘘をつくなんて酷いです」

 

「ごめんね幸村ちゃん。後で抱擁してあげるよ」

 

 

反省という言葉を知らないんですの?と昌景ちゃんから一言言われ、足を踏まれる。

 

 

 

「抱擁は後でしてもらいます灯兄さん!心がスッキリしたので御館様のところへ戻ります!では!」

 

 

嵐のように騒ぐだけ騒いですぐに立ち去ってしまってた。抱擁するのは確定らしい。

 

そして残ったのは静けさだけだった。

 

「ん~どうしよっか?」

 

「そうですわね。お昼でもどうかしら?」

 

「喜んでお供させていただきます。お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──次は踏んであげようかしら。ふふっ

 

 

 

 

 




お久しぶりです。騎士見習いです。
なんとか投稿することができました。これからも不定期なのでよろしくお願いします。

武田四天王編は一旦終わりだと思います。

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