不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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武田四天王はキャラの宝庫

信玄ちゃんの誤解も解けて、屋敷の一室で気持ち良いお布団で眠りにつくことができたのだが……。

 

「本当にこの男が上杉謙信を打ち負かしたなんて信じられません。とりあえず逃げましょう」

 

「……逃げちゃ……だめ」

 

「その通りですわ。人は見かけによらないのが、この戦国の世の掟。華麗に仕留めましょう」

 

「私が編み出した暗殺術をこの場でようやく披露できますっ!あっ、……」

 

「「「しぃ~~」」」

 

「すみません」

 

 

おそらく俺の布団を四人で座って囲ってるのだろう。小鳥のさえずりと共に晴れ晴れとした朝を迎えようとしたところにコレです。

襖が開いた時に臨戦態勢に入ったけど、女の子の香りがしたから寝たふりをした俺の下心が憎い!

 

 

「さて、起きてないらしいので。ここは私の小刀で」

 

「いいえ、わたくしの真紅の美しき扇子で」

 

「……わたしの……金槌……で」

 

「だからこの内藤修理による暗殺術で」

 

 

「「「「ムッ」」」」

 

 

勝手に人の命で喧嘩しないでよぉ。はぁ蔵人ちゃんとか助けに来てくれないかなという雀の涙ほどの期待をしながら薄目で目を開ける。

 

『人気ですね』

 

と書かれた用紙を天井から顔を覗かせながら見せてくる。この娘はいつもいつも……人を怒らせるのが得意なんだから。

怒りのあまり、体をビクッとしてしまった。

 

「「「「ッッ!!!」」」」

 

 

バレたかな?とドギマギしてると、

 

「そろそろ限界です。同時に殺りましょう」

 

「よろしくてよ」

 

「……しかたない」

 

「協調が大事だよね」

 

 

どうしても俺を殺したいらしい。

 

「「「「せ~~の!!」」」」

 

「ちょっと待て待て!!!」

 

顔面をめがけて振り下ろされる凶器を寸前のところで顔を逸らして避ける。

 

「もうなんなの?!人が気持ち良く寝てるところを襲うって!夜這いなら大歓迎だけどさ!」

 

つかさず起き上がり、部屋の隅に移動し距離をとる。寝室で一人の男と得物を持つ四人の女性が互いに緊迫するというシュールな状況。

 

「あ、あああなた!?!?そ、そそのけ、汚らわしいお、汚物をしまいなさい!!!!」

 

ん?このロリお嬢様は俺のどこを見て汚らわしいと言ってるん……。

 

「あ&●そ@#%=+!!????」

 

着流しで寝ていたためか咄嗟の素早い動きのせいで俺の息子がおはよう、となっていた。口をぱくぱくさせ顔を真っ赤にしている。まるで俺が変質者みたいじゃないか!!

 

何事もなかったようにすっ、と身だしなみを整える。

 

「……なぜ、俺の命を狙う」

 

「なに、何でもなかったように振舞ってるんですか!?こんな、変態と同じ空間に居たくないです!逃げましょう!本当に逃げましょう!」

 

「やめて!そうでもしなきゃ恥ずかしさで悶えちゃう!もうちょっとだけ!もうちょっとだけ一緒に居ようよ」

 

穴があるなら入りたい。ないなら自分で掘って入りたいよ。

 

「……大丈夫。立派…だった」

 

「こ、この内藤修理も同感です!」

 

なんて、ええ子たちなんや。ロリお嬢様は叫んですぐ気絶しちゃうし、真面目ちゃんは今にも逃げ出そうとしてる。

 

「は!よくもこのわたくしに!ゴニョゴニョを見せましたね!」

 

「ん?ゴニョゴニョとはなんだい?」

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

 

刃の付いた扇子で涙目になりながら殺しにかかってくる。単調過ぎる攻撃を軽く右に避け、扇子を持っている右腕を掴む。

 

「くっ、離しなさい!穢れてしまうわ。……グスッ、おねがい…します。ヒクッ」

 

本当に俺が穢らわしいことをしてるみたいじゃないか。他の三人が今にも襲いかかろうと目から色素が消えている。

 

「はぁ…こんなとこ信玄ちゃんに見られたら一環の終わりだよ。まったく」

 

「そうか、なら終わりだな」

 

「あはっ♪おはよぉ灯くん。朝から盛んだね~」

 

襖が開き、青筋を浮かべる信玄ちゃんとニコニコと笑顔を浮かべる佐助がいた。

 

「勝手に入るなんて礼儀がなってないよ!二人ともぉぉ!!」

 

「てめぇに言われたくねぇよ。なかなか起きねぇから起こしに来たら、ウチの可愛い家臣を強引に屈服させようとしてるとは、な」

 

信玄様!と四人の女の子たちは声を揃えるように呼ぶ。天井からはお疲れさまです、と労いの言葉をかけてくれる天使がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「誠に申し訳ありませんでした!!!!」」」」

 

 

死刑執行される前に蔵人ちゃんが誤解を解いてくれたおかげで救われました。何でも、昨日のお詫びということらしい。

 

 

「すまねぇ灯。こいつら、どうにも先走って勝手に行動するんだわ。ここはあたしの顔に免じて許してくれねぇか?」

 

潔く頭を下げる信玄ちゃんを見て、自分たちのしたことの重大さに気づいた四人は目に涙を浮かべ、おどおどしている。

 

 

「いやいや気にしてないから。ほら、俺もロ……昌景ちゃんを泣かせちゃったからお互い様ってことで」

 

ここで一つ説明しとくと、俺を襲ったのは武田四天王という信玄ちゃんが実力と可愛らしさで選んだ四人です。

 

 

 

武田四天王のアイドル的存在、ひまわりのような華やかさを持つのが高坂昌信。小姓あがりらしく、防御戦が得意。口癖は「逃げましょう」

 

 

四天王最強といわれる山県昌景。小動物のような小柄なのだが、猛将である。貴族意識高め系女子である。

 

 

のろま~な雰囲気を持つのが馬場信房。近接戦闘では不死身と恐れられるほど強いという、ギャップの持ち主。

 

 

そして、影が薄く、存在感がない、キャラが薄い、地味という残念な娘である内藤昌豊こと内藤修理。

 

 

「ありがとな灯。……いきなりで悪いが、灯以外出ていってくれ。今から大事な話を灯としたい」

 

 

突然の真剣な表情に空気がピリついたが、慣れているのか四天王のみんなは御意、と一言だけ残し、部屋から退出した。

 

「蔵人ちゃんもよろしく。心配いらないから」

 

少し名残惜しそうにこちらを少し見たが、珍しく素直に出ていってくれた。

 

人が減り、静けさが増した一室。

 

「単刀直入で聞く。灯、お前は………未来から来たのか?」

 

 

前振り通りの単刀直入の質問。たった一言で俺の心臓は鷲掴みされたかのように締め付けられる。

 

『未来』そう、俺は未来から来たんだった。この戦国の世での日々が血のように濃いものだったからか、それとも俺の体が今に慣れてしまったのか、忘れていた。自分が未来から来た者だと。

 

「勘助。入れ、説明をしろ」

 

もともとこの話をするつもりだったらしく、勘助さんは、すぐに入ってきた。

 

「どうも、勘助さん」

 

「やや、灯どの。噂通りの腕前、しかと見届けさせてもらいましたぞ。まさか、冷静ではないにしろ昌景どのの一撃を防ぐとはなかなか」

 

「なるほど、今朝のことは勘助さんの策略という訳ですか。まったく、軍師はみな、食えない人ばかりで疲れますよ」

 

四天王のみんなに俺を悪人と吹き込んだのは勘助さんと確信する。困ったことに名を知られているとは喜ぶべきか悲しむべきか、忍ばなかったことを後悔する今日この頃。

これまた、食えない顔を浮かべ一つの水晶を取り出した勘助さん。

 

「突然だかな、宿曜道というものを用いて私は人の《天命》、つまり《運命》《宿命》を占うことができるのだ。これは抗うことのできない絶対的なモノ」

 

「その宿曜道ってやつで俺の天命?というのを占ったんですか」

 

「許可なくしたことは詫びよう。だが、灯。貴様からは相良良晴と同様の何かを感じてな」

 

大人しくしてることに飽きたのか信玄ちゃんはおもむろに立ち上がり、

 

「つまり!灯、お前は相良良晴と同じ天命を動かす者なんだよ。天命を動かすってことは未来から来たってことなんだよ」

 

半ば強引のまとめ。しらを切ることは簡単だろう。だけど、本気で問いかける人に本気で答えないのは俺のプライドが許さない。

 

 

「──未来から俺は来た。これで十分だろ?」

 

 

きっと心のどこかでは未来から来たということを嫌悪してるのかもしれない。この世で何が起きても、『未来』という逃げ道が示されていることに。

 

「そうか。なら、あたしの忍になれ。良晴には何度も軍師になれって誘ったんだが、いい返事が貰えないんだわ。ったく、あのうつけ姫のどこに惹かれるんだよ……」

未来から来たという衝撃発言をしたのにもかかわらず、信玄ちゃんは大したリアクションもしなかった。

それにしても、だ。なんとも分かりやすい相良良晴への好意に俺と勘助さんは温かい目で見守ってしまう。

 

「信玄ちゃんって相良良晴に恋をしてるんだね」

 

「………へ?ば、バカ野郎!!そそんなんじゃ、ねぇ!!」

 

甲斐の虎も恋の前では可愛らしい猫。ものすごく話が逸れていることを好都合だと思っていると、残念ながらすぐに修正されてしまった。

 

「あたしのことはいい!で?忍になるのか?ならないのか?」

 

「腕の立つ忍は重宝されますしな。ぜひとも仕えてほしいものですな」

 

 

すいません、と言いながら立ち上がる。

 

「俺にはまだ、やるべきことがあります。ですから……「種馬としての仕事もあるぞ」本当ですか?」

 

部屋から出る一歩手前でこれ以上ないほどの魅力的な発言に頭よりも先に体が反応するという擬似反射神経が作動してしまった。

 

「食いついたな」

 

「食いつきましたな」

 

やめて!そんな蔑む目で見ないで!だって、お年頃なんだもん。

 

「ごほん!し、しゃぱり、むぅりです!す"み"ま"せ"ん"」

 

 

下唇を全力で噛み締めながら誘いを断る。

 

「い、いや無理ならいい。その、悪かったな」

 

「灯は真の男ですな」

 

罪悪感を感じた信玄ちゃんと俺に生きざまを感じた勘助さんを背に部屋から出た。

 

 

 

種馬になりてぇぇぇぇ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷前の石階段に座ってため息をつく。

 

「……種馬」

 

未練たらたら過ぎて心がどん底。佐助や蔵人ちゃんに冗談抜きで心配され、本当のことを言えず曖昧に答えてその場を去った。

 

「馬がどうかなされましたか?灯兄さん」

 

「うひゃ!!」

 

「ひゃ!び、びっくりしました」

 

「ごめん。いきなり話しかけられて驚いてね。馬?聞き間違いだよきっと」

 

種馬なんて言葉はこの先一生知らなくていい。

 

竹林での一戦以来、懐かれてしまった。『幸村は強い奴にはとことん甘えてくるぞ』と注告ような情報提供なのか半々の事を信玄ちゃんが言っていた。

 

「灯兄さん。幸村は今、とっても怒ってます」

 

「嫌なことでもあったの?」

 

「ムッ…覚えてないんですか。今日は……稽古をつけてくれると昨夜、約束してくれたじゃありませんか!幸村はずっと待ってましたよ……」

 

 

はい、確かに約束してました。朝からがやがやしてたからすっかり忘れてしまっていた。俺としたことが、一生の不覚。

 

「ほんっとにごめん!」

 

「ふんっ……」

 

完全に不貞腐れてしまっている。可愛いからこのままにしたいが、そういうわけにもいかないので、どうにか解決策を模索してると……

 

 

きゅるる、とこれまた可愛らしい音が幸村ちゃんのお腹から聞こえてきた。

 

「ち、違います!お腹が減ったからではありません!体が食糧の供給を求めているだけです!」

 

 

全く同じだとツッコミを入れようと思ったが、幸村ちゃんとの会話のおかげで気持ちが晴れてきた。お礼という意味合いを込めながら、

 

「俺、腹減っちゃったから、これから城下町の方で何か食べない?今日のお詫びも兼ねて。もちろん、奢ってあげるから」

 

 

立って、尻の埃を手で払いながらそう言うと、ガバッと抱きついてくる。身長の差で腹部にヘッドバットを叩き込められたが自然体となる。

 

「嬉しいです!……あっ、幸村も大人気なく怒ってしまってすいません。灯兄さんの予定を考えず先走った幸村が悪かったです」

 

喜怒哀楽が激しい幸村ちゃん。笑顔になったと思ったら突然、しょんぼりするのが無邪気な少女だと実感する。

 

「ううん、そんなことないよ。今回のことは水に流そっか。俺、昨日来たばっかりだから、幸村ちゃんに案内任せてもいいかな?」

 

「はい!もちろんですっ!とっても美味しい食事処がありますよ。さっ早く行きましょう」

 

ようやく日が暮れ始め、山越しに見える夕日を見ながら、まるで本当の兄妹のように仲良く手を繋ぎ、一段ずつ石階段を降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも騎士見習いです。長くなってしまうので途中で切ってしまいました。すいません。できる限り早く投稿するのでよろしくお願いします。

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