不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~ 作:騎士見習い
甲斐の国の領主、甲斐の虎こと武田信玄。上杉謙信との死闘を何度も繰り広げる実力の持ち主であり、現代でも有名な『風林火山』を立て、この群雄割拠を生き抜いている大名。
ちなみに武田信玄は日の本一のおっぱいの持ち主だと言われてるんだよね!!しかも、武田四天王っていう武田信玄の選りすぐりの美少女たちがいるらしいし!
「あ~~早く会いたいぃ」
「はいはいそうですね。それよりもこの道で合ってるんですか?」
「大丈夫大丈夫まかせんしゃい」
心配そうにこちらを見つめているが、本当に合ってるのである。
竹林が辺りに広がり、隙間を縫うようにして日光が漏れている。時折吹く風によって笹の葉同士が擦れ合い、ざざーと心地の良い音が耳に入る。数多くの枯れた笹の葉が地面に落ち、何層も重なっているため柔らかい足場を歩く。
景観を堪能したいところなのだが、生憎にも怪しい気配が一つ。視界も良くないが、まぁそのくらいはしょうがない。蔵人ちゃんも気づいてはいるが、俺に任せるらしく、大したリアクションもせず、俺の後に付いてくる。
「お命頂戴いたす!!」
野太い野郎の声かと思ったが一文字一文字がまるで音楽家の演奏のように魂に訴えかけてくる少女の声が殺伐とした発言をしながら襲ってきた
「あぶなッ!」
正体も武器も曖昧のまま咄嗟に避ける。
「ムッ、その身のこなし只者ではないな!!」
艶のある黒い髪を高い位置で結び、これまた心をくすぐるポニーテールとなっている。キリッとした、つりあがった目からは常夏の太陽のように熱い熱い闘志が燃えていた。
少女の両手にはただの槍かと思ったが、刃は幹のように左右から細長く優美な刀のように湾曲した刃の枝を持ち、真っ直ぐにのびた剣状。いわゆる、『十文字槍』である。
「まぁまぁ落ち着いてよ、ね?俺たち悪者じゃないよ。旅人だよ。ちょっと甲府の城下町に行きたくて、この竹林を通らせてもらってるんだよ」
「ああ、そうであった………いや!お命頂戴いたす!」
「今、完全に納得しようとしてましたよね?」
「うん、してたね」
「ち、ちちち違う!今日ここを通る者を倒せなどと言われてたことを忘れていて思い出したわけでないぞ!!」
丁寧なご説明ありがとうございます。獲物を絞ったような命令だけど、まぁ今はそんなことより再び構えをとった少女の対処といきましょう。
「覚悟っ!」
踏み出しと共に枯れた笹の葉が舞い、十文字槍を俺の上半身目掛けて薙いでくる。まぁ普通に跳んで避け、振り切った後の刃に着地する。
「まだまだぁ!!」
俺を振り落とそうと大きく揺らし、刃から離れたのを狙い、貫くようにして穿いてくる。風圧で周辺に笹の葉がまたしても舞うがその分威力がとんでもないという信号でもある。普通の槍とは要領が違うため、枝のような刃にも気をつけなければならない。
蔵人ちゃんに助けてもらえれば万々歳だけど……。
「あっ!タケノコ!」
絶賛採取中である。
一つ忘れていると思うけどここは竹林。先程の薙ぎは少女の実力の基、竹に阻まれなかったが、今は違う。
すぐ近くにある竹に手を伸ばし、体を持ち上げる。枝刃によってすぐに切り落とされたが、少女の方に竹を落とし、視界を塞ぐ。
「こんなもの紙切れ同然!」
たった数秒しか姿を眩ませることができなかったがそれで十分。
「ど、どこに消えた!?」
「どこでしょうかね」
隠れ身の術ですよ。当然、声も反響して全方位から聞こえます。
「出てこぉぉい!!!」
滅茶苦茶に振り回すが、
「ん~それは無理な相談かな。ほらほらぁ~」
ボソッと蔵人ちゃんの方角から「大人気ない」と聞こえた気がしたけど、んなわけないか。
「そこだけ笹が舞っていない!」
的確な一突き。ほうほう、わざと笹の葉を散らせて俺の位置を特定したということか。案外、頭も切れるのね。
でも……。
「そんなんで破れるほど甘くないよ」
少女が突いた箇所は何もなかった。唖然とした表情を隠せない少女。
「目のつけ所は悪くないけど、もっと創意工夫をしなきゃ」
後ろに回り込み十文字槍をボッシュート!!
「か、返せぇ!!その槍は命と同義なのだ!!」
半泣きで訴えかけてくる少女にゾクゾクしながら、辺りを見渡し一箇所に手裏剣を投げる。空を切るはずの手裏剣は金属に弾かれたような甲高い音をたて、地面に落ちた。
「ったく、全部お前の仕業だろ?佐助」
竹林に紛れるようにして色づいた緑色を主体とした忍装束。ふんわりと弧を描くような長い茶髪に、これまたやんわりとした雰囲気を醸し出す糸目からは殺気やら闘志やらとは真逆の場所にいそうな人だが、何を隠そう、彼女こそが武田が誇る真田忍軍隊長、猿飛佐助である。
「あちゃ~気づかれてたかぁ。ちなみにいつからかな?私の隠れ身は完璧だったと思うんだけどなぁ」
「この可愛い少女が、竹林を通る者を倒せなんて命令をされた時点で大体憶測がつく、それに甲斐の知り合いはお前しかいない。つまり、どこかにお前がいるってことだ」
ずっと放置していた蔵人ちゃんがチョンチョンと肩をつつき、誰?という目線を送ってきた。それを察してか、佐助がすぐに口を開く。
「初めまして真田忍軍隊長の~猿飛佐助です。そしてぇ~灯くんがさっきまで闘ってたのが~お館様から面倒を見るように預かった───」
「真田幸村でございます!!以後、お見知りをおきを!!」
佐助の紹介を受けるよりも先に怒涛の勢いで話だした彼女。真田幸村。
十文字槍の時点で薄々気づいていたけど、熱い子だねぇ。ここら辺の気温が二、三度上がってるに違いない。
「んでんで、その隣が世瀬蔵人?ちゃんだっけ」
「あ、はい。そうです。本当に猿飛佐助どのですか……?」
「そうだよぉ」
佐助が肯定した瞬間に蔵人ちゃんが俺の肩を掴み、背を向けるようにしてコソコソと質問してくる。
「こんなにフワフワしてるのが猿飛佐助どのなんですか灯様?」
「段蔵姉さんみたいなのは比較的少ない人種だしね。佐助みたいに特殊な人が結構いるんだよ。忍も十人十色ってこと」
「なるほど。想像とは違って残念です」
相談が終わったことを確かめてから佐助は話だした。
「灯たちはお館様に会いに来たんだよねぇ。案内するから付いてきてね」
なかなかにスムーズに進み、色々と勘ぐるが無駄骨
かなと思いながらも竹林を抜けていく。
ぴょこぴょこと俺の顔を見てくる熱い瞳の幸村ちゃんなのだが、普段の俺ならお茶目なイタズラの一つや二つを軽くこなすのだが、とんでもなく面倒なことになると第六感が告げてくるのである。それでも、無視は良くないと鞭を打ちつつ口を開く。
「どうかしたかい?幸村ちゃん」
話しかけてもらったことが余程嬉しかったのか目を大きく開く、もしも獣耳とか付いていたらピンッと立っているのかもしれない。
「あ、いや!強さの秘訣を教えてもらいたいなどという甘い考えなんて持っていないので気にせず!」
これはこれで有りだなと新たな属性に感動する。
「さっきの闘いについて話さない?」
「も!もちろんです!灯兄さん!」
「ぐふっ!」
い、今なんと!?
「灯兄さんどうしたんですか?」
精神的攻撃で吐血する寸前である。お兄ちゃんではなく兄さんと呼ぶ辺りがこれまた絶妙なモノ。
「幸村どの!待ってください!灯様は……灯様は……兄さんなんて呼ばれたら吐血するほどの変態なんです!!だから、もう少し休憩を挟んでから兄さんと呼んでください!」
心の中で親指を立てるべきか下にして立てるべきなのか迷うのだが、今回は命を救われたよ。
蔵人ちゃんのおかげで落ち着きを取り戻し活気溢れる城下町へと再び歩きだした。
*
領主の性格、生き様は城下町の民たちに深く影響すると聞いていたが、正にその通りだと、この数週間で知ることが出来た。武田信玄の城である躑躅ヶ崎館の城下町も言わずとも領主の性格を引き継いでいると思う。
「うまっ!出来損ないのうどんかと思いましたけど人も食べ物も見かけによらないんですね!!」
甲斐の名物のほうとうを咀嚼しながら盛大に俺の顔に食べかすが撒き散らされる。
「そうそう人も食べ物も見かけによらないんだよ。つまり、俺も心の底は善人ってことだよ」
食べかすを拭き、俺もほうとうを啜る。
「灯くんが善人とか、ないな~い」
「じょうだんにしても笑えないですよね~」
「あ、あれ?このほうとうって、こんなに塩味効いてたっけ?」
塩辛食って喉が乾いたよまったく。な、泣いて、ないんだからね!
「灯兄さんはとても良い人です!この真田幸村が断言します!」
「ゆぅぅきぃぃむぅぅらぁぁちゃぁぁん!!」
嬉しさで血流が逆流するかと思ったよ。この嬉しさを表現するべく幸村ちゃんに抱きつき、絹のような手触りの黒髪を撫でる。ついでに頬ずりでぅえす!
「や、やや!?わ、わ私はぶ、武士である、ゆえ、こここのような、ことハハ………」
ショートしたように崩れ落ちてしまった。どこかで見たような光景。
今まで男性と接したことがなかったからだろうか、きっと抵抗が少ない。なら!俺がしっかりお兄さんとして頑張らなければ!
*
ついに武田信玄に会えました!やっぱり生で見ると半端ないほどの巨乳いや爆乳です!はぁ~うずくまりたい。
「おい、うちの幸村に手を出した不届き者。覚悟はできてんのか?ああっ!?」
「手を出したというか、感極まって……つい」
「んなことはどうでもいいんだよ!打ち首の準備が整ってるがどうする?」
幸村ちゃんに抱きついたじゃん→たまたま信玄ちゃんいるじゃん→ブチ切れられてこうなってます。城の中ですよもちろん。
「それだけはご勘弁を」
目が本気の信玄ちゃん。本当に打ち首にされちゃうのを必死に阻止しようと手を縛られたまま土下座をする。
「信玄様、このぐらいにしときましょう。折角の佐助の友人を雑に扱ってはいけませんぞ。この者が真田様に惹かれるのも無理はないですからな」
どことなく俺に近い何かを持っていると思われるこの人が、軍師の山本勘助。
「それよりも勝頼様はどこですかな?この山本勘助にとって勝頼様に合わなければ一日が始まりせぬ」
「はぁお前のその変態じみた性癖を何とかしろ」
山本勘助さんに湧く親近感はこれだったのか。全力で弁解してる勘助さんを見ながら、手首の関節を外し、縄から脱出でござる。
「あれれぇ灯様の縄が解けてますね」
嘲るような表情でやすやす味方を売るぐらいちゃんである。隣にいただけの蔵人ちゃんは蛇口のように嘘を垂れ流し、私は止めました、だの、いつかはやると思ってたたんです、だの、ゲスにもほどがある。
「ほほぉこの状態で逃げ出そうとは大した忍だな」
「ううっ、謙信ちゃんのところに永住したいよぉぉ」
ガタッと物音をたて信玄ちゃんはふんぞり返った態度を突如、期待に溢れた目でこちらに詰め寄ってくる。
「お前!謙信と会ったのか!?」
「会ったというか死闘を繰り広げたというか、複雑なところです」
おっぱい近いおっぱい近いおっぱい近い。
「んだよ、そういうことは早めに言ってくれなきゃ困るんだよ。そうか、謙信と闘ったのか。なら、話しは別だ。歓迎するぞ、不知火灯。ようこそ甲斐の国へ」
よく分かんないがハッピーエンド?
「事前に佐助から細かく聞いていてな。でもお前が悪いんのには間違いない。幸村を汚そうとするから、つい、な」
姫武将の中でも喜怒哀楽が激しい人だな。歓迎されているらしいし甲斐でもの一時を楽しむとしますか。
「さぁて蔵人ちゃん覚悟はいいかい?いくらなんでも今回は………ゆるさない」
「灯様!野望のために今日からがんばりま!しょう!陽も沈んで来たことですし、明日はなにをするか、な!か!よ!く!話し合いましょう」
「…………」
「……だ、だってぇ、いつも、いつも、私は灯様のせいで、グスっ、酷い目にあってるんですよ……ヒクッ、エグッ──」
ガチ泣きされてしまった。半分は冗談だったのに……。
「ごめんね蔵人ちゃん。こんなに思い悩んでいたなんて、一番身近にいる女性を悲しませるなんて……俺は最低だ」
「そんなことないですよ!私も悪いんです。灯様は立派な人です」
「──蔵人ちゃん」
「──灯様」
こんな茶番に付き合ってくれた甲斐の皆様ありがとう!
☆
佐助が言うには、謙信に勝ったんだっけか。
──もしかしたら天命動かす者なのかもな、アイツ同様に──
ついに甲斐編突入!!
不定期更新になると思うのでよろしくお願いします。