【主人公】戦場起動【喋らない】外伝   作:アルファるふぁ/保利滝良

8 / 12

何故この話をこの日に?と思う方もいるかもしれません
しかし今日は、《いい夫婦》の日です



【死神】
とあるご家庭にて


 

木目を意識した模様の階段を、一人の少女が駆け降りる

可愛らしいリボンが付いたスカートは、柄付きのシャツとよく似合う 背中で揺れるリュックには、エレメンタリー・スクールの名札 その少女は小学生ということだ

二階から降りてきた少女は、ダイニングのドアを開けた

「おはよっ」

天真爛漫な笑顔が、朝日に照らされている

「おはよう、メリル パパが朝ごはん持ってきてくれるからね」

椅子に座ってコーヒーを飲む母親は、元気な娘に微笑んだ 揃えたブロンドは、母娘のお揃いだ

「はぁい!」

元気な返事をしてから、メリル・レイクは椅子に座った テーブルの脚の隣に、背負ったリュックをそっと降ろす

すると、その目の前に湯気の立つフレンチトーストが置かれた

置いてくれた男に、メリルは笑顔で言う

「ありがと、パパ!」

漆黒のパイロットスーツを着たメリルの父は、娘がパンをかじる姿を見つめている スモーク仕様のフルフェイスに、朝日が反射していた

エプロンを揺らしつつ、妻の所へもフレンチトーストを置く

「ふふ・・・ありがとう、いただきます」

コーヒーカップを皿の脇に置いて、ミシェルは笑った

今度は妻の食事を少し眺めてから、男は踵を返した キッチンのヨーグルトと野菜ジュースを持ってくるためだ

トレーに乗ったヨーグルトと二つのコップを運ぶ 幸せそうな妻子の表情は、キッチンの向こうからも見えた

「それでね、先生がね」

「うん、うん」

「昨日もこれやってたな?って言ったの!」

「えぇ、気付いてなかったの?」

時々話し声と、笑い声も聞こえる

足取りも軽く、トレーも軽く感じる

かつて、『死神の傭兵』と呼ばれ、今もなお『大陸の死神』と呼ばれ恐れられるパイロットは、最高の幸せを、その身に感じていた

 

 

 

 

太平洋上に突如現れた謎の巨大物体 それは『大陸』と名付けられた

大陸は各国政府の目が届かぬ唯一の土地となり、広大な土地や採集されるロストテクノロジーを求めて幾つもの組織がこぞって奪い合った

最終的に生き残った組織が『オーストラリア』を名乗り、現在に至る

組織による大陸での苛烈な戦いは『大陸争乱』と呼ばれ、そこで生まれた新兵器HAMMASは今もなお戦場にて活躍している

さて、その大陸争乱では、当時人型機動兵器と呼称されていたHAMMASを駆る『傭兵』がいた 自由に雇い主を選んだ彼らは、その戦力で戦場の花形となっていった

現在は活動を辞めたり、既に死亡していたりでほとんどいなくなってしまったが

そんな傭兵の中で、最も活躍した者がいる

『死神の傭兵』 そう呼ばれ恐れられたパイロット 戦場全てを薙ぎ払い、立ち向かう者全て焼き払い、どんな逆境も楽々と振り払った、最強のパイロット

大陸争乱を知る者ならば、恐れぬ人物など一人もいない

そんなパイロットが、いた

 

 

 

 

 

「行ってきまーす!」

まず、小学校に行く娘を見送った リュックが背中で跳ねている

元気でエネルギッシュな笑顔を浮かべ、メリルは軽やかに走っていった

「じゃあ、行ってきます がんばってくるね」

スーツに着替えた妻は、左手に摘まんだ車のキーを振った 彼女の仕事は宝石の卸売り、その会社の社長だ

職場へ向かうために自動車へ足を運ぶ前に、ミシェルは振り向いた

「メリルもいないし、ね?ダメかな・・・」

唇に指を当てて、下目遣いにヘルメットを見詰める

エプロンを揺らして、死神はバイザーを開けた

二人の顔が、少しずつ近付く 鼻と鼻が触れ合う

そして、見詰める瞳が潤う

「んっ・・・」

数秒の静寂の後、夫婦は少しだけ離れた

「じゃあ、行ってきます ね?」

ミシェルはそう言って、車に乗り込んだ

妻の車が道路へ向かったのを確認し、パイロットスーツは家へ戻った

古今において死神と恐れられた一人の男は、幸せの絶頂にあった

 

 





ツヅキマスヨ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。