【主人公】戦場起動【喋らない】外伝   作:アルファるふぁ/保利滝良

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【起動】

 

弾けるペイント弾 塗料が地面を染める

ブースターを吹かして、三十六番の射撃を避け続ける

二十四番の機体が倒れているこの地点で、最後に生き残った訓練生二人が戦う

三十六番がアサルトライフルを撃った バースト射撃で放たれる三発の弾が、真っ直ぐ六番の機体へ飛んでいく

一発目は当たらず 二発目はかわされる が、三発目が胸部を叩いた

色が散る

あと二発 六番はあと二発食らえば負ける

三十六番のウィンストーンはもう一度銃を撃つ 今度は三発全部避けられる

六番は二十四番の近くに向かった

遮蔽物にするつもりなのだろうか だが、無様にも弾をもう一度食らう

脚に絡み付くペイント

三十六番は無傷だ 避け続けるとしてもこの差は大きい

最早六番に勝ち目はないように思えた

 

 

 

 

「これは決まったかもね」

監視塔頂上の部屋から様子を眺めていたバレンタイン准将は、首を横に振って言った

「今やられてる子、もう無理よ どうしようもないわ」

「いえ、最後まで見届けましょう」

「サクラ少尉?」

不思議そうな表情でバレンタインは隣の部下を見る 実戦にて戦場に立つ彼女だからこそ、六番の置かれているこの状況がどんなものかわかると思ったが

だがサクラ・ラークロスタは言う

「次に何が起こるか完璧にわかるなんて、そんなことはあり得ません 特に、戦場では」

そう呟くと、サクラは双眼鏡に目を戻した

「ふぅん・・・そうね、最後まで見届けましょうか」

納得したように頷き、バレンタインもまた視線を訓練場へ戻した

その時、戦いが動いた

 

 

 

 

それは一瞬だった

三十六番のウィンストーンがアサルトライフルを向けた時、六番のウィンストーンは二十四番の機体から武器をもぎ取っていた

三十六番にやられた二十四番は、指示があるまで動けない 当然やられる前まで握っていたアサルトライフルもまだ持っていた 六番はそこに目を付けた

この局面に来てもペイント弾を一発も食らっていないということは、それだけの回避力がある証拠 無駄玉をいくら使っても当たらない

ならば、武器の数を増やせばどうか

元々持っていたアサルトライフルを右手に、新たに手に入れたアサルトライフルを左手に持ち、ウィンストーンは飛んだ

ブースターが焔を吐き出し、HAMMASを空へ飛ばす

空中へ武器を向けた三十六番 その視界には、弾の雨が見えた 両手の銃から飛んでくる、途絶えることのない弾丸の雨 武器を降ろして回避に専念する

だが、空中から絶え間なく撃ち込まれるペイント弾は装甲を叩いてくる 一発、二発

そして三発

回避が間に合わない 弾幕は三十六番を打ち、ついにその機体に三ヶ所の汚れ跡を叩き付けることに成功した

着地する六番のウィンストーン 三十六番の機体は、敗けを認めたように立ち止まった

「そこまでぇーッ!」

通信機越しのどら声 耳をつんざくそのボイスが、終了を宣言した

恐らく、六番だけでなく他の五人にもこの一言は伝わっている

つまりは、訓練が終了したのだ

鋼鉄の巨人達の戦いは、ここに終結した

 

 

 

 

 

格納庫に六機のHAMMASが並ぶ 全機ペイント弾をどこかしらに食らい、汚れだらけだ

その汚れた機体達の中に、六番の機体があった

ざわざわと騒ぎ立てる訓練生達の視線を一身に受ける

「おい、六番」

通信機から教官の声 いつもの指導している時とは違う、どこか優しさを感じる声音

その声音を維持して、教官は言う

「さっきの訓練、お偉いさんや実戦部隊の指揮官も見学に来ていたんだが・・・」

歯切れの悪い言葉遣い やがて教官が意を決したように言葉を紡いだ

「彼らからスカウトが来てる どうだ?受けるか?」

六番は、答えない ウィンストーンも、動かない

ただ、静かに佇むのみである

 

格納庫の向こう、両手にアサルトライフルを持ったHAMMASを、遠くから眺める二人の女性があった

 


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