【主人公】戦場起動【喋らない】外伝 作:アルファるふぁ/保利滝良
前作主人公って響きが好きです
いかにも強そう
とある場所の大型ガレージ 一機の人型機動兵器が眠っている
戦場から戻って着たからかその所々には傷があった その周りにツナギを着たメカニック達がいる
「修理費は向こうの依頼主が全額持ちだぁ!無駄遣いしまくっても良いからとっとと済ませろよ!」
初老の男がメカニック達に指示を出す ラドリーである
本人も工具を持って整備に加わろうとしたラドリーだったが、声をかけられて振り向いた
「サラ、それにセーナか、メリルはどうした?」
「もう帰らせたわよ、整備長」
「お守りは完遂したから、仕事に戻るんだよ~っ」
二人の女性だった サラとセーナ そういえばこの二人はいつも一緒にいる
自分も長いことこの二人と一緒にいるよなと思うと、なんだか不思議な気分になる 仕事上仕方ないことにだが
「そうか、そりゃお疲れさん ふーむ、それにしても最近暇なもんだなぁ」
「いやいや、これから一仕事あるのにその台詞はないでしょ」
セーナのツッコミはもっともだが、ラドリーは現在と一昔前をどうしても比べてしまう 『大陸』では今より大分忙しかった気がする
あの時、現在は大陸争乱だのオーストラリア建国戦争だの言われているあの頃 共に戦場を駆け抜けた彼らも、今ではそれぞれに平和を謳歌している
世間では国家同士で紛争を始めているが、ラドリーは直接その渦中にはいない だから、まるで今が昔より平和だと感じるのだ
「もう、そんな風に昔と今を比べてたら、本当におじいちゃんになっちゃうよ?」
「ははは、そりゃあ困るな 俺はまだまだ現役だぞ」
サラの一言も心中では笑えない 一番忙しい時期からもう十年は経っている
仕事をしてないとすぐに老いさばらえてしまいそうだった
静かに佇む一機のHAMMASを見上げる 闇のような黒い全身に、血のような暗い赤の頭部
死神と呼ばれた機体、タナトス
「そういえばコイツ、かなり整備性悪かったよな?」
「今さらそう言ったってどうにもならないよ」
「そうそう 皆で頑張って整備しようね~」
これから待つ幾星霜の作業に身震いしつつ、ラドリーは工具を持ち上げた
夕焼けの橙に染まる空の下 三人の家族が手を繋いでいた 昼間と比べて、その家族の影は長かった
微笑みを浮かべて娘を見る母親
静かに歩む父親
両親を交互に見て、無垢な笑顔を振り撒く娘
「強くてかっこいいパパが大好き!」
メリルは言った 彼女の父は深く頷いた
「優しくてきれいなママが大好き!」
メリルは言った 彼女の母は何度も頷いた
仕事帰りの父親、それを支える母親、二人の帰りを喜ぶ一人娘 何の変哲もない平和な一家の姿が、そこにはあった
これにて【死神】は終了です!
前作と変わらぬ、そして前作と変わった彼の姿、如何でしたでしょうか?