やはり俺の魔法科高校入学はまちがっている。   作:T・A・P

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やはり俺の魔法科高校入学はまちがっている。  貳拾肆

 茜色に染め上げられた世界の中、

 夕陽を弾いて疾走する大型オフローダーが、

 閉鎖された工場の門扉を突き破った。

「レオ、ご苦労さん」

「……何の。チョロイぜ」

「疲れてる疲れてる」

 時速数百キロ超で悪路を走行中の大型車全車体を、衝突のタイミングで硬化する等と言うハイレベルな魔法を要求された西条は、集中力の多大な消費にかなりへばっていた。

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

 十文字に委ねられた権限と責任に、司波達也は尻ごみすることなく頷いた。

「レオ、お前はここで退路の確保。

 エリカはレオのアシストと、逃げ出そうとするやつの始末」

「……捕まえなくていいの?」

「余計なリスクを負う必要はない。安全確実に、始末しろ。

 会頭と桐原先輩と左手を迂回して裏口へ回ってください。

 俺と深雪は、このまま踏みこみます」

 そう言い終わり、言われた五人が首を縦に振るのを確認すると、顔を比企谷の方へ向けた。

「比企谷は……」

「俺は勝手にやらせてもらうぜ。ちょうど、避難通路が一本空いているしな」

「ああ、そうだな。頼む」

「頼まれたくねぇよ。俺は俺が思う事をするだけだ」

 割り振りが決まり、居残りを指示された西条と千葉も不満を漏らさず、抜き身の刀――ただし、刃引き――を手に提げた桐原が駆け出すとそれに十文字が悠然と続く。

 司波兄妹は、そこらへんにある店に入店するかのような足取りで、薄暗い工場の中へ入った。

 残された八幡は、頭を掻きながら面倒くさそうに非常口の扉を蹴り破ると、特に警戒せずに中へ進んだ。

 

 

 比企谷は両手にCADを嵌めつつ避難経路を進んで行くが、通路には敵らしい敵に遭遇することなく工場の奥へ奥へと足を運んだ。いくらか進むとようやく通路の終わりが見え、その先は少し広めのフロアにつながっていた。

 通路から中に入ると、目の前には死が待ち構えていた。

「ったく、面倒だな。ほんと」

 比企谷がフロアに入ると、銃器を手に持って待ち構えていたテロリストたちが、一斉に銃口を向けていた。

拳銃、アサルトライフル、サブマシンガン。構えている銃の種類は様々だが、どれもこれも人の命を奪うと言う点を見ればどれもこれも同じものだ。

 そんなテロリスト集団の後方には、指揮官だろう男が右腕を肘から先を上に向けている姿が見えた。その男と比企谷の目線が会うと、男は上げていた腕を躊躇なく比企谷に向けておろした。

「撃て」

 男の声に感情は無く、それは命を狩ることに慣れている人間の声だった。指揮官である男の命令を耳にしたテロリストたちは、命令に従いそれぞれ引鉄に添えていた指を少し動かすと、躊躇なく比企谷に向けて引鉄を引いた。

 

 

 

 さて、日本語には蜂の巣になる、と言った表現がある。

そこまで銃社会じゃなかった日本で、こんな言葉が生まれていると言うのは、なかなかに風刺が効いているとも皮肉を皮肉っているとも思えてしまう。

 まぁ、初期の初期は火縄銃社会ではあったし、歴史的には日本も銃を持っていた時期もあったのだから、そんな表現が生まれるのも不思議ではないと言えば不思議ではないのだろう。

 蜂の巣、蜂の巣、蜂の巣。

この場合、大量の銃弾を一斉に浴びて穴だらけになった状態の事を指す。

二十ほどの銃口を向けられそこから銃弾が発射されれば。

制限ある無制限の銃弾を一人の身をぶち込まれたのなら、蜂の巣になってもおかしくない。それどころか、部分的には原形を留めていないだろう。

 割れんばかりの大声。ウィズ涙、プロデュースドバイ悲鳴!

 こんなところでお終いだ! 比企谷八幡もこれまでか!

 長い間ご愛読ありがとうございました!

 

 

「まったく、戯言だ。

と、言った方が良いんだろうな、この状況は」

 テロリストたちは手ごたえのない引鉄を何度も引き、あるいは持っている銃を比企谷の目の前で慌てていじり始めた。

「チッ」

 銃を構えていたテロリストたちは何が起こったのか理解できず、銃弾を吐かないただの鉄屑と化した銃器をいまだ後生大事そうに抱えていた。ただ、指揮官だけは何が起きたのか、全ては理解できていないのだろうがそれでも断片は予想がついたのだろう。

「銃は捨てろ、ナイフを使え。 それと、キャスト・ジャミングだ」

 指揮官は自らアンティナイトの指輪にサイオンを流し込み、同じく指輪をつけている数人もアンティナイトにサイオンを注入してキャスト・ジャミングを発動させた。

 フロア内には不可聴の騒音が発生し、銃器を捨てコンバットナイフを取り出したテロリストたちは、比企谷にその鋭い切っ先を突きたてようと白兵戦に持ち込もうと襲いかかった。

 

 

「は?」

 そんな、腑抜けた声がどこからか聞こえてきた。それは誰であろう、指揮官の口からだった。

「これで、一対一か」

 今このフロアにあるのは、使えなくなった元銃器の鉄屑と理解が追いついていない指揮官、アンティナイトの指輪を指につけたまま転がっている数本の腕。

 そして、無表情で拳を握っている比企谷八幡だけだった。

「―――――――――――――――ッ!!!!!!!」

 指揮官は違和感を感じアンティナイトを使っていた腕に目を落とすと、そこにあるはずの腕が足元に転がっている光景だった。違和感どまりの鈍かった痛覚が徐々に正常に戻っていったのか、声にならない叫びを上げた。

「うるせぇよ」

 握った拳を開いた比企谷は、腕を指揮官に向けて再び握り直した。

 すると、指揮官の周りの空間が歪み、内に内に、中に中に収縮し始めた。

「消えとけ」

 収縮し終わった空間跡には、なにも残ってはいなかった。跡形もないのではなく、最初から何も無かったかのように。

 

 

 

「さて、回収しておくか」

 比企谷は落ちている肘から先の腕からアンティナイトを回収した後、腕を一ヶ所に固めて再び拳を握ると、同じようにその場から消え去った。

「銃器はどうするか、消してもいいがもったいねぇんだよなぁ」

 使い物にならないと言えどもそれは武器としての用途であり、銃弾は使用できる。それに消滅した個所は分かっているので、その部分を修理すれば治るものだ。

「なら、ぼくが回収しておこうかい?」

「……忍者だかなんだか知らないですけど、気配を消して俺の後ろに立たないで貰いたいんですけどね」

「気配を消して人の後ろに立つのが忍者なんだよ、八幡君」

 比企谷の背後には、いつものように胡散臭い表情をたずさえた九重八雲の姿があった。

「それで、なにしに来たんですか」

「いやいや、些細とはいえぼくも関わっていたからね」

 つまり、この事件の結末を見に来たようだ。

「はあ、そうですか。でも、俗世には関わらないんじゃなかったんですか?」

「そうだね、達也君だけだったらそうだったよ。でも、きみがこの件に関わると聞いてしまったからね」

 そんな九重の態度に再びため息をつくと、

「じゃあ、お願いしますよ」

 そう九重に言い残し、比企谷は入ってきた避難通路の正面にある別の出入口からそのフロアを出て音が聞こえる方に向かって通路を歩き始めた。

 

 

 比企谷が騒音の発生源とおぼしきフロアの前に到着するのと同時、フロアの中から絶叫が一声響いた。フロアの中に入ると、桐原がリーダーとおぼしき男の右腕を肘から切落としている瞬間だった。

 おそらく桐原が開けたであろう壁の穴から十文字の姿が見え、一瞬眉を顰めるとCADを操作し切り落とされた腕の断面を焼いて止血していた。

 

 

 

 

 


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