やはり俺の魔法科高校入学はまちがっている。   作:T・A・P

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やはり俺の魔法科高校入学はまちがっている。  拾

 

 

 色々と特殊なところのある魔法科高校だが、基本的な制度は普通の学校と変わらない。

 ここ第一高校にも、クラブ活動はある。

 正規の部活動として学校に認められる為には、ある程度の人員と実績が必要である点も同じだ。

 ただ、魔法と密接な関わりを持つ、魔法科ならではのクラブ活動も多い。

 メジャーな魔法競技では、第一から第九まである国立魔法大の付属高校の間で対抗戦も行われ、その成績が各校間の評価の高低にも反映される傾向にある。

 学校側の力の入れようには、スポーツ名門校が伝統的な全国競技に注力する度合いを上回るかもしれない。九校戦と呼ばれるこの対抗戦に優秀な成績を収めたクラブには、クラブの予算からそこに所属する生徒個人の評価に至るまで、様々な便宜が与えられている。

 有力な新人部員の獲得競争は、各部の勢力図に直接影響をもたらす重要課題であり、学校もそれを公認、いや、むしろ後押ししている感もある。

 かくして、この時期、各クラブの新入部員獲得合戦は、熾烈を極める。

 

「残念だったね~」

「ええ、残念だったわ」

 

午後の授業が終わり、事前に逃げないように言い含められてなおかつ、教室まで迎えに来た雪ノ下と由比ヶ浜につれられて、とある書類を提出するために教師のところへ行って来た帰りだった。

「てか、部員三人で通るわけがないだろ。それに、ここは魔法科高校だぞ」

 中学時代、奉仕部として活動してきた三人であり第一高校でも奉仕部を作ろうとしていた雪ノ下と由比ヶ浜だったが、人数不足と活動理念がカウンセラーと重複していると言う事から奉仕部創立案は流れる事となった。

 そもそも、一年生がそれも一人は二科生だと言うことも教師が苦い顔をした理由の一つだろう。

「じゃあ、ゆきのんどうするの? どこかの部活に入る?」

「そうね。比企谷君はどうするのかしら」

「あ? 帰宅部に決まってんだろ」

 一歩引いて後ろを歩いている比企谷に二人は顔を向ける。まぁ、二人は分かっていた答えだ。

「まったく、あなたは」

「あはは、ヒッキーらしいね」

 雪ノ下は少しあきれたように頭に手を当てて、由比ヶ浜はひまわりのように笑っていた。

「いいだろうが、部活に入って他人と関わるなら、入らない方がいいんだよ」

 窓から見下ろし、祭りのような部活勧誘競争を眺めながら口に出す。いや、祭りというより馬鹿騒ぎか、とため息が漏れそうになる。所々で魔法が発動しているを目の端にとらえているが、その発動目的がどうもガキだとしか言えないものばかりが多かった。

「あ、ゆきのん! 部活の様子を一通り見てみようよ、ほら、楽しそうだし」

 由比ヶ浜も比企谷が見ていた先に目をやり、その祭りのような部活勧誘に興味を持ってしまった。

「ゆ、由比ヶ浜さん、こんなところで抱き付かないでもらえるかしら」

「え~、いいじゃん」

「もう」

 目の前で百合の花が咲き乱れ、心の底からため息をついてどこかへ行ってしまいたくなった比企谷であった。

「わ、分かったわ。それじゃいきましょ」

 どうやら、行くことが決定したようだ。

「比企谷君、行くわよ」

「ヒッキー、いこ!」

「へいへい」

 

 

 

 さて、今の状況はなんだろう。

 いや、ちゃんと分かっている。ただ、分かりたくないだけなのだ。

「予想はしていたが、ここまでは予想外だっての」

 顔を少し赤らめた雪ノ下と由比ヶ浜の手を握って、追いかけてくる勧誘の波から逃げるために、いや、逃がすために全速力で逃げている。

 CADを携帯していな故に比企谷は身体能力のみで逃げており、後方にせまりくる勧誘者はCADを使い身体能力を底上げしている。しかし、距離は縮まずされど拡がらず一定の間合いを保ったままである。

 

さて、唐突だが雪ノ下と由比ヶ浜の様子を見てみる事にしよう。

 頬に少し赤味がさしている。これは別に走っている事によって体温が上がっている、ということじゃないだろう。なぜなら、走る前から既に赤かったことを目撃しているからだ。

なら、なぜ赤くなっているのだろうか。

なぜだろうねぇ、なぜだろうねぇ、いつから赤くなっていたんだっけ。

まぁ、簡単だ。比企谷に、手を握られた時からだ。

比企谷は二人との物理的接触を極端に避ける傾向がある。二人としてはそこのところが少し不満であり、一度だけ二人で示し合わして腕に抱き付いたことがある。その時、二人とも顔を真っ赤にしていたが表情は幸せそうだった。しかし、すぐにその表情は素に戻ることになった。

比企谷は、顔を真っ青にし、力を加減せず力いっぱい、目一杯、両腕を振りほどいてできるだけ距離を保つために壁際まで下がった。肩で息をし、片手で顔を覆い隠しその指の間から覗く両眼はいつもの、知っている比企谷八幡の瞳ではなかった。

ようやく状況を理解した比企谷は徐々に冷静さを取り戻し、二人に謝ってきた。二人は、比企谷に何かしらの事情があると言うことを知ったが、どうにもそのことを聞く事ができなかった。そして、彼を連れて来ていた姉の陽乃に聞いてみる事にしたが、彼女は話をはぐらかすばかりで肝心なことは一切聞き出すことはできなかった。

 

 そんな、比企谷八幡に手を握られているのだ、赤くならない訳が無い。

 まぁ、そんなことは今の状況には何の関係もないことだ。

 今の状況を脱出する方が先決である。どうにかして雪ノ下と由比ヶ浜を逃がす、もしくは隠すかしない限りこの追いかけっこは終わらないだろう。

 そして、今日を乗り越えれば明日からの計画は立てられる。比企谷八幡の魔法は、そういうことに特化しているのだから。

「さて、どうするか」

 普通の人間なら息が上がっているほどに走っているのだが、比企谷は見られ一つ見せずそれに加え喋る余裕がある。しかし、そろそろ引っ張ってきている二人の体力が限界に近い。てか、雪ノ下は本当にギリギリっぽい。

「……第二小体育館か、逃げ込むとするか」

 ちょうど第二小体育館――通称「闘技場」が目の前に見えてきた。外を走りまわるより、一旦身を隠すことができる建物内に隠れる事ができればどうにか脱出できる算段がつく。そう一瞬で考えた後、行き先を闘技場へ向け、二人を引きよせ荷物を持つように両脇で抱えて少し速度を上げた。

 あと数歩で闘技場につくと言う瞬間、闘技場の中からサイオンの波が放たれてきた。魔法を行使したと言うより、どうやら闘技場の中で何かトラブルが起きているらしいと直感的に分かった。なぜなら、サイオンの質等が司波達也のものだったからだ。

 そのサイオン波の発生に伴い、後ろで数人が立ち止ってそのまま立っていられずに崩れ落ちていた。どうやら、中からのサイオン波を浴びてサイオン波酔いを起こしたようだ。抱えている二人もどうやら少し当てられたみたいで、どっちにしろ休める場所か必要だった。

 比企谷は、闘技場の中へ入りどこか休める場所が無いか探しながら人垣の中で、風紀委員の腕章を付けた司波達也が剣道部か剣術部の部員の動きを全て見切って、いなして、かわし、あしらっているのが見えた。最後には全ての部員が司波達也に向かって頭を垂れていた。

 

 


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