艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名と話数が変わりますが、前回の続きです

ライバルの元へと向かう園崎を乗せたジープ

その道中、何度も同じ事を聞かれ…


287話 変わり果てた強敵(1)

「ソノザキ。本当にマルセラと会う覚悟は出来た⁇」

 

「後で後悔しても知らないかんな⁇」

 

「そんなに…ですか⁇」

 

秋津洲タクシーの中では武者震いをしていた園崎だが、ここに来て二人に散々覚悟は良いか⁇後悔しても知らない‼︎と言われ、一抹の不安を抱く

 

もしかするとマッソ…いや、マルセラは体の何処かを悪くしているのでは…

 

「着いたわ」

 

「行くぞ」

 

着いた場所はそこそこ大きな会場

 

それを見て、園崎の不安は少し軽くなる

 

会場に連れて来られたと言う事は、マルセラは体を悪くしている訳ではなさそうだ

 

ヒューストンに連れられ、会場の入り口に来た

 

「ヒューストンです〜」

 

「これはこれは…マルセラのファミリーですね。その方は⁇」

 

気の抜けたヒューストンの声とは裏腹に、厳つい顔をしたチケット売り場の男性

 

ヒューストンの顔はここでは行き渡っている様で、すぐにマルセラの家族だと分かって

 

「この方はミスター・ソノザキだ」

 

「ほぅ⁇マルセラの永遠のライバルが何故ここに⁇」

 

「遠路遥々マルセラに逢いに来たの」

 

「良いでしょう。席を三つ用意します」

 

チケット売りの男性はしばらくPCを弄った後、一番最初にヒューストンに、その次にサウスダコタ、最後に園崎にチケットが渡される

 

「ありが…」

 

園崎がチケットを取ろうとしたが、グッと握られる

 

「…マルセラに会う覚悟は出来たのか⁇」

 

「喧嘩をしに来た訳じゃないです」

 

「…今のマルセラを見て、同じ事を言えると良いな」

 

「…」

 

「ま、楽しんで下さい」

 

チケットが離され、睨む園崎と真顔で手をヒラヒラさせる男性

 

「行くぜー」

 

サウスダコタに呼ばれ、園崎は会場に入る…

 

 

 

会場に入ると、既に席は満席に近い状態

 

中央にはリングがあり、何らかの試合がある事には間違いはない

 

皆試合が始まるのを今か今かと待ち構えている

 

「もう一度聞くわ。今ならまだ、マルセラを見ずに帰れるわ⁇」

 

「ここまで来たんだ。覚悟は出来てます」

 

「…」

 

サウスダコタはベンチに座って前屈みになり、太ももに肘を置いて口元に手をやりながらリングを見始めた

 

「ご来場の皆様‼︎本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます‼︎」

 

「始まったわ…」

 

「…」

 

会場にアナウンスが入り、ヒューストンと園崎は身構える

 

「こんな真昼間から血の気の多い奴がこんなにも集まったぁ‼︎リングに上がる二人も血の気が多いぞ‼︎早速入場だぁ‼︎赤コーナー‼︎デーーース‼︎ウルーーーフ‼︎」

 

「はぇ⁉︎」

 

園崎は気の抜けた声を出す

 

煙が上がり、狼のマスクを着けた選手が入場して来た

 

「がおー‼︎」

 

「デスウルフ‼︎今日のコンディションはどうだ‼︎」

 

マイクを渡され、デスウルフは反対側の入り口を指差す

 

「出て来い‼︎今日こそこのデスウルフが始末してやる‼︎がおー‼︎」

 

「デスウルフの挑発が入ったぁ‼︎さーぁ会場のちびっこ諸君‼︎みんなで彼を呼んでおくれ‼︎せーのっ‼︎」

 

「「「スーパーマルセラー‼︎」」」

 

声の幼さに気付き、園崎は会場を見渡す

 

よく見ると家族連れが大半を占めている

 

しかも子供の割合が多い

 

「むっ‼︎子供達の声が聞こえたぞ‼︎」

 

デスウルフの反対側の入り口から煙が上がる

 

「はっはっは‼︎」

 

手を振りながら現れたのは、赤いマスクを着けた筋骨隆々の男性

 

園崎の永遠のライバルであり、親友の男がそこに居た

 

「とうっ‼︎」

 

ジャンプでリングに上がるスーパーマルセラ

 

「マルセラ‼︎コンディションはどうだ⁉︎」

 

「うむっ‼︎今日も絶好調だ‼︎デスウルフ‼︎よろしく頼むぞっ‼︎」

 

「がおー」

 

スーパーマルセラはデスウルフと握手をする

 

「手が離れた所で試合開始‼︎」

 

ゴングが鳴り、試合が始まる

 

「マルセラエルボゥ‼︎」

 

「あーっとぉ‼︎開始早々デスウルフにマルセラのエルボーが入ったぁ‼︎立てるかデスウルフ‼︎」

 

「マッソォ…」

 

サウスダコタと同じ体勢になる園崎

 

皆が散々言っていた覚悟は出来てるか⁇の答えは、マルセラはプロレスラーに転向していたからだった‼︎

 

「頑張ってダーリーン‼︎」

 

ヒューストンだけは大盛り上がり

 

サウスダコタと園崎は、全く同じ体勢でズーン…としている

 

「…な⁇だから言ったろ⁇」

 

「…いつからしてるんだ」

 

「…アンタに負けた一年後からだ」

 

園崎との試合で負けたのが完全に影響している

 

「今じゃあ子供に大人気のプロレスラーだ…」

 

「俺が悪いのかマッソォ…」

 

サウスダコタも園崎も、笑いを堪える半分、申し訳なさ半分で肩を小刻みに揺らす

 

「いいのよダコタ‼︎」

 

「…まぁなっ‼︎」

 

「マルセラは昔の様な王者の風格は無くしたわ…でも見てソノザキ‼︎マルセラは楽しんでるわ‼︎」

 

「…確かにっ‼︎」

 

自分とした試合とはまた違う、試合を楽しむマルセラの目、顔

 

あの日見たマルセラの顔は、鋭く自分を見つめる眼光が印象的

 

今のマルセラは、満面の笑みでこれでもかと白い歯を見せながらプロレス技を華麗に繰り広げている

 

数十分間試合は続き、デスウルフがスーパーマルセラのチョークスリーパーの腕をペチペチ叩いた

 

「試合終了ー‼︎勝者、スーパーーー‼︎マルセラァァァア‼︎」

 

会場から歓声が上がる

 

それに答えるスーパーマルセラは会場を見回しながら手を振る

 

「ありがとう、デスウルフ」

 

「ありがとう、スーパーマルセラ」

 

「あっ…」

 

数十秒前までリングでいがみ合っていた二人が固い握手を交わす

 

試合が終われば敵味方関係ない

 

両者共互いに讃え合い、試合は終わる

 

園崎のモットーをマルセラは確と受け継いでいた


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