艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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283話 あたしのチャンピオン(3)

ありさがカプセルに入ってしばらくして、執務室に一本の無線が入る

 

《元帥。ありさという女の子がここに来ていないかと男性が訪問しています》

 

「通して頂戴。瑞雲に案内して」

 

《了解》

 

「さて…一仕事ね…」

 

横須賀は瑞雲に向かう道中、一応護衛を付けたくなった

 

「初月‼︎」

 

「はっ‼︎」

 

天井裏から初月が来た

 

「ちょっと私の護衛をお願い」

 

「分かった。僕に任せろ」

 

初月と共に瑞雲に向かう…

 

 

 

「隊長」

 

「園崎か。心配か⁇」

 

「何となく放って置けなくて…」

 

園崎のファンである彼女を、当の本人も無碍に出来ないのだろう

 

「彼女には申し訳ない事をしました…」

 

「スカートでもめくったか⁇」

 

園崎は口元は笑っているが、顔は本気

 

自分だけの秘密を抑え込んでいる顔だ

 

「しっかし、プロとは知らなかった。強いはずだな⁇」

 

「…そこなんです。隊長、聞いて頂けますか⁇」

 

「…親父には話したか⁇」

 

園崎の場合のみ、一番最初に言うのは俺ではなく親父だ

 

もしこの返事がノーなら、親父に先に言うべきだ

 

「はい」

 

どうやら親父には話してある様子

 

「言いたくなくなったり、途中で辛くなったらすぐ止めるんだぞ⁇」

 

「ありがとうございます」

 

園崎は重い口を開く…

 

「自分は…八百長の試合で引退させられたのです」

 

「…」

 

園崎の話を耳にしながら、カプセルの方を見る

 

「この試合に負けてくれ。さもなくば義援金は無い…と」

 

「…」

 

今度は少し、園崎の方を見る

 

「義援金とはなんだ⁇」

 

「病気の子供の治療の為に、ファイトマネーを少し其方に回していたんです」

 

「そっか…初耳だ」

 

「義援金を送ると決めた日は、今でも覚えています…」

 

園崎は内ポケットをガサゴソし始めた

 

「マルセラ・マッソ戦の三日前、小児病棟へ慰問に行った時です」

 

園崎は内ポケットから折り紙の裏に書いた手紙を出した

 

「これは…」

 

折り紙で作られた金メダル

 

その裏に“あたしのちゃんぴおんへ”と書いてある

 

「そこに行った時…“今そこに居る彼女”から頂いた物です。数日前出会った時は随分成長していて分かりませんでしたが…」

 

園崎とありさは、数年前に出会っており、園崎はその日の事をしっかりと覚えていた

 

「後、半時間ほどですね…」

 

「プロテインでも作るか⁇」

 

「ふふっ‼︎少し外の空気を吸って来ます‼︎」

 

話して何か吹っ切れたのか、園崎は良い顔をして外に出ようとした

 

「レイ‼︎」

 

横須賀が飛び込んで来た

 

「ありさの親戚の人が迎えに来たのよ‼︎」

 

「どうもっ」

 

勝手に工廠に入って来ては、近くにあった椅子に足を組んで座る男

 

「どういう了見だ」

 

「その子を返して貰えますか⁇」

 

「返す⁇虐待していた分際で返せだと⁇」

 

「そっちがどうであれ…立派な誘拐ですわ‼︎」

 

急に威圧的になる男

 

「横須賀、下がってろ」

 

「早くしろ‼︎」

 

机を蹴り飛ばされ、バインダーやらが床に落ちる

 

「…おい」

 

「あ⁇」

 

俺の声ではない

 

声を出したのは園崎だ

 

「おやおやおやおや‼︎負け犬の園崎君‼︎軍隊に逃げたのかい‼︎」

 

「お前…彼女を見捨てた分際で…」

 

「負け犬は黙ってて貰えるかなぁ⁇」

 

「隊長。ここは自分に」

 

俺と男の間に園崎が割って入る

 

「イキるなよ…園崎…」

 

「また八百長でもするのか⁇島…」

 

「やったろやないか‼︎」

 

殴り掛かって来た島と呼ばれた男の拳を、園崎は顔色一つ変えずに受け止める

 

「お前…八百長までして、俺達ボクサーのルールも忘れたのか」

 

「ちっ…」

 

「隊長。セコンドをお願い出来ますか。5秒で終わらせますから…」

 

園崎の目は本気

 

だが、一瞬目元が動いた

 

…殺る気だ

 

「オーケー‼︎」

 

四人はジムへと向かう…

 

 

 

園崎と島がリングへと上がる…

 

「園崎。それは何⁇」

 

横須賀の前で園崎がグローブを着けている

 

「これは本気の時にしか使わないと決めているグローブです」

 

手入れはしてあるが、所々ボロが見える園崎のグローブ

 

「マッソから頂いた物です」

 

「無理しちゃダメよ‼︎いい⁉︎」

 

「ご心配なさらず」

 

園崎の目が本気に戻る…

 

「準備はいいか⁇」

 

「泣き面かかせたるわ‼︎」

 

「島。一つ言わせてくれ」

 

「聞いたるわ」

 

「前歯四本か…今謝って帰るか…二択だ」

 

俺も横須賀も、園崎の気迫に負けそうになる

 

これが王者の風格か…

 

「だ、誰が謝るか‼︎」

 

「そうか」

 

島の返答を聞き、ゴングが鳴る

 

「は、はが…」

 

鳴った直後に吹っ飛ばされる島

 

「そ、そのじゃき…ほまえ…」

 

「言っただろ。前歯四本と」

 

園崎の目は怒りよりも、哀れみを島に送っている

 

「試合終了ー‼︎園崎の勝ちー‼︎」

 

終了のゴングが鳴ると同時に、園崎は右手のグローブを取りながら島の元へ向かう

 

「ひゃ‼︎ひゃめろ‼︎悪かった‼︎」

 

島は咄嗟に身を守る

 

が、目の前には園崎が差し出した右手がある

 

「試合が終われば、敵味方関係ない」

 

「…」

 

島は最初は渋ったが、王者の威圧と慈愛に負け、手を取った

 

「島。お前がやった事は水に流す。ただ、一つ約束して欲しい」

 

「う、うんうん…」

 

「お前は悪事に手を染めなければ、経営は上手い奴だ。だから、これからも慰問や慈善試合は続けてくれ」

 

「わ、わかっひゃ‼︎」

 

「八百長はするなとは言わない。しないと信じてるから」

 

それを聞き、島は膝から崩れ落ちる

 

「俺は…なんて奴を敵に回したんや…」

 

「島‼︎」

 

島は半分泣いた顔で園崎を見上げる

 

「試合が終われば、敵味方関係ないと言っただろ」

 

「すまん…許ひてくれそのじゃき‼︎」

 

「あの子はここで面倒を見るからな」

 

「幾らか仕送りするから‼︎そのじゃき、頼んだ‼︎」

 

園崎は最後に島の肩を二度叩き、リングを降りた

 

「つ、強過ぎるわね…」

 

「アンタ…一応治療してやるよ…」

 

「ほんま…ほんますんましぇん…」

 

結局島も半時間程カプセルに突っ込み、前歯を治した…

 

 

 

 

島が出て来るのと同タイミング…

 

「あたし…治ったのか…」

 

「第二の人生だね‼︎」

 

ありさの方が少しだけ先にカプセルから出て来た

 

そして、前歯が復活した島も出て来た

 

「あ…」

 

「あ、ありさ。あのな…これからここに居るんや」

 

後に聞いた話だが、この島と言う男

 

八百長試合を少しは反省していたのか、居場所をなくしたありさを引き取り、自分の元に少しだけ置いていた時期があった

 

ありさは少しは恩を感じてはいるが、八百長試合をやった本人なので、嫌いなものは嫌いらしい

 

「分かった」

 

「その子はありさじゃないよ」

 

二人の間に割って入ったのは、ドックタグを持ったきそ

 

「はい‼︎」

 

「これは⁇」

 

「君の名前は“有明”。いい⁇有明だよ⁇」

 

「有明…んっ、気に入った‼︎」

 

「後、有明の身元引受人の人がいるよ‼︎」

 

「きそちゃん…照れますよ…」

 

「この子ね⁇」

 

現れたのは園崎と山城

 

「有明。今しがた、自分達はケッコンして来た」

 

「私達の子供にならない⁇」

 

有明は少し照れ臭そうに頬を掻く

 

「え、えと…あたし、園崎さんに憧れて…」

 

「だからこそ、子供になって欲しい‼︎」

 

「私達は歓迎するわ⁇」

 

「…よろしく頼むぜ‼︎」

 

有明は園崎に飛び付き、園崎は有明をギュッと抱き締める

 

「園崎…俺、やったるさかいな‼︎見とけよ‼︎」

 

「あぁ‼︎頼んだぞ‼︎」

 

長年のわだかまりが園崎の許しで終わり、友人へと戻った園崎と島

 

数ヶ月後、慈善試合を行い、相変わらず悪人顔のまま表彰状を貰う島が新聞に載っていた

 

そしてこの先、園崎と山城、そして有明は家族として幸せを築いて行く…




有明…ボクシングファンちゃん

ある日突然現れた謎の少女

その正体は、元はありさと言う病弱な少女

有明が来たその日は病状が安定した為、外出許可を貰ってここに来た

それと、有明自身が持っていた持ち前のガッツさもある

親戚に八つ当たり的な虐待や体を触られる等の行為をされていた

現在は園崎夫妻の養女としてようやく幸せと健康な体を手に入れる

脱ぐと相当おっぱいがデカイ。すごいね

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