艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名のカタカナじゃない所を繋げて見てね‼︎


279話 駆けテイク、アナタノムネニ落ちテイク(8)

ウソジャナイトイッテホシイ…

 

ナンネンモアエナカッタンダ…

 

集積地さんは走る

 

アッテ、アヤマラナキャ

 

ジンゲイハ、コンナオモイヲモットタエタンダ

 

サクライサンハ、まだ…

 

まだ、私を愛してクレルダロウか…

 

走る度に、集積地さんの体に亀裂が入る

 

亀裂は喫茶ルームに着くまでに、ポロポロと地面に“集積地さんだったもの”のカケラを落として行く

 

階段を上がり切る頃には、ほとんど集積地さんとしての形はなく、今手元に持っている写真に写っている“自分”と同じ姿に近付いていた…

 

カラカラカラン‼︎と、いつもより激しめにカウベルが鳴る

 

「うぉ‼︎何だ‼︎集積地さん…か⁇」

 

「ハァ…ハァ…」

 

異変に気付く潮

 

「どうしたの⁉︎それにその体…」

 

扶桑さんも異変に気付く

 

しかし、集積地さんはそれどころではなかった

 

「婿殿‼︎」

 

その言葉に一人の男が反応し、集積地さんの方に振り向いた

 

「…大鯨⁇」

 

「大鯨さん‼︎」

 

迅鯨さんも反応し、二人は立ち上がる

 

集積地さんの正体は、長年行方不明になっていた大鯨だった

 

大鯨はすぐに櫻井に走り寄り、飛び付く様に抱き着いた

 

「ごめんなさい…私、方向音痴で…」

 

「いいんだ…いいんだ…」

 

櫻井も大鯨を抱き締め返す

 

「ん…」

 

その傍らでどうして良いか分からず、迅鯨は胸元で手を組み、少しだけ視線を二人からズラす

 

扶桑さんと潮でさえ、今目の前で繰り広げられている物語の結末に手出し出来ないでいた

 

大鯨への祝福も、迅鯨の肩を持つ事も、何方も介入してはならなかった

 

「迅鯨さんも見付けたのですね…」

 

「横須賀で出会ったんだ。つい最近さ」

 

「迅鯨さん。私、貴女の気持ちが良く分かりました…こんなにも辛かったなんて…」

 

「いいんです大鯨ちゃん‼︎誰も悪くないんです‼︎ねっ‼︎櫻井さん‼︎」

 

櫻井は迅鯨の方を向き、無言で頷く

 

大鯨も迅鯨を嫌いではなく、迅鯨も大鯨を嫌いではなかった

 

それどころか、この世で同じ男性を愛し、同じ思いをした唯一無二の二人となる

 

この日、二人きりのデートの予定が三人とのデートになった…

 

 

 

 

櫻井にはもう一つの物語の結末がある

 

それは、少しだけ悲しい別れのお話…

 

 

 

 

ひとみといよが向かった先は俺の所

 

「えいしゃ〜ん‼︎」

 

「きまちた‼︎」

 

深海の戦闘機のエンジンを見ていた時、ひとみといよが帰って来た

 

「おっ‼︎来たか‼︎どこ行ってたんだ⁇」

 

「しぅ〜しぇきしゃんのとこお‼︎」

 

「PT達と遊んでたのか⁇」

 

「わすえもおあたちてた‼︎」

 

いよが言うには、集積地さんに忘れ物を渡していたとの事

 

「そっかそっか。ちゃんと渡せ…」

 

ちゃんと渡せたか⁇と聞こうとした時、いよに写真を見せられた

 

「…そう言う事か」

 

その写真を見て、全てを理解した

 

「おわかえ⁇」

 

「お別れじゃないさ‼︎いつだって逢える‼︎」

 

「またあえう⁇」

 

写真を俺に見せた事で、その子に二度と逢えないと思っているひとみといよ

 

「絶対、また逢える‼︎横須賀に住む事になるからなっ‼︎」

 

「あかった‼︎」

 

「おうちかえう‼︎」

 

「んっ…帰ろうなっ…」

 

心配を掛けさせたくない為に口ではそう言うが、本当は帰りたくない

 

いや…

 

本来あるべき所に帰るだけだ

 

考えるな…俺…

 

グリフォンに乗る足も遅くなるものの、俺達は基地に戻って来た…


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