艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(5)

「櫻井さん‼︎」

 

十数年振りに叶った逢瀬を前に、“迅鯨”と呼ばれた女性はすぐに櫻井に飛びつく様に抱き着いた

 

「逢いたかったぁ…」

 

今まで周りが繋がって行く中、自分だけなかった櫻井は、ここに来てその思いを迅鯨にぶつけるかの様にキツく抱き締める

 

「覚えていますか⁇迅鯨さんが最後に自分に残した手紙を」

 

「必ず横須賀でお会いしましょう、ですよね⁇」

 

その問いに、櫻井は無言で頷く

 

「あは…安心したら腰が…」

 

「おっと…」

 

急に迅鯨の腰が砕ける

 

抱き締められて余程安心したのだろう

 

抱き止められた迅鯨は、涙をたっぷり貯めた目を櫻井に向けつつも顔は笑顔を見せ続けている

 

「櫻井少尉‼︎彼女を医務室に運びなさい‼︎命令ですよ‼︎」

 

櫓の上からメガホンでリチャードが叫ぶ

 

「あ、はいっ‼︎了解です‼︎」

 

櫻井は迅鯨を背負い、手に風呂敷を持つ

 

「櫻井さん…また一緒になれますか⁇」

 

「自分からお願いしますよ。よいしょっ…」

 

「良かったぁ…」

 

そう言って迅鯨は櫻井の背中で安心しきり、目を閉じる…

 

 

 

 

 

「疲労と緊張から来るものだ。少しカプセルで休ませた」

 

「隊長、ありがとございます…」

 

「俺とアレンが鳳翔で飲むと、第二ゲートで何かが起きるな⁇」

 

「ははっ、まぁなっ…‼︎」

 

この日、たまたまいた俺とアレンの二人

 

前回もアレンと鳳翔で飲んでいた時、谷風が搬送されて来た

 

そして、今回は迅鯨さん

 

「どうする⁇傍に居てやるか⁇」

 

「二時間少しかかる」

 

「傍に居てやっても良いですか。十数年振りなんです」

 

「よし、なら俺とアレンは朝食に行く‼︎」

 

「朝飯だぁ‼︎」

 

十数年振りの逢瀬に横槍を入れるのはヤバすぎる

 

ここは朝飯を食おう

 

間宮に向かう道中、アレンと話す

 

「あの建造ドックの中も、じき完成か…」

 

間宮に向かうまでの間、大型ドックが一つ

 

過去にタナトスが修復を受けていたりしていたドックだ

 

「俺、レイ、深海の完璧な合作か…」

 

「それと、今までの戦闘データもだ」

 

「「絶対素晴らしい…」」

 

同じ答えを出した後、間宮に向かう…

 

 

 

 

その日の朝…

 

「迅鯨さん」

 

「櫻井さん‼︎」

 

カプセルから出た迅鯨と呼ばれる女性が、再び櫻井と抱き合う

 

「おいししぉ〜‼︎」

 

「くじあしゃん‼︎」

 

「ひとみちゃん‼︎いよちゃん‼︎」

 

ムードをぶち壊すかの様に何処からともなく来たひとみといよが重箱のフタを開ける

 

「この子達は⁇」

 

「さっきの男性の娘さんです」

 

「ひとみ‼︎」

 

「いよ‼︎」

 

「私は迅鯨です‼︎せっかくなので四人で食べましょう‼︎」

 

事が決まれば迅鯨の行動は早い

 

「えと…さっきの所にしますか⁇」

 

「広場で食べましょうか‼︎」

 

「うぁ〜」

 

「あぅ〜」

 

二人にとっては返事の様に聞こえる、ひとみといよが初対面の人にする謎の音波発信

 

「さぁ、行きましょう‼︎」

 

「行きましょうか‼︎」

 

「いく‼︎」

 

「おべんとしゃん‼︎」

 

ひとみといよは何のためらいもなく、迅鯨と手を繋ぐ

 

そして迅鯨も何のためらいもなくひとみといよと手を繋ぐ

 

人懐っこいひとみといよだが、初対面でこれだけ懐くのも珍しい

 

「うぁう〜」

 

「あぅ〜」

 

迅鯨の腕にぶら下がるかの様にくっ付きながら、ひとみといよはまた謎の音波を出す

 

「ここです」

 

「これを広げましょうね‼︎」

 

「し〜とれす‼︎」

 

「おいしぉ〜‼︎」

 

四人で四隅を持ち、シートを引く

 

重箱が真ん中に置かれ、三人は迅鯨からお皿を貰う

 

「ひとみ、こえあう‼︎」

 

「いよも‼︎」

 

ひとみといよが取り出したのは、スプーンとフォークのセット

 

赤城が使っているのとはまた違う柄だ

 

「こえたえてい⁇」

 

「いよもこえにすう‼︎」

 

二人が気になるのは、いつもと違う色のしたおにぎり

 

「どうぞっ‼︎迅鯨の山菜おにぎりですっ‼︎」

 

「たんと食べて下さいね⁇」

 

「いたあきあす‼︎」

 

「いただきあす‼︎」

 

ひとみといよが食べ始るが、櫻井も迅鯨もお弁当を口にせず、二人を微笑みながら眺めている

 

二人共、考えている事は同じ

 

もし二人がずっと一緒だったならば、これ位の子供が今頃いただろう…と

 

「食べましょう‼︎櫻井さんっ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

櫻井と迅鯨はこれから先ずっと続く小さな幸せの連続の記念すべき第1個目を堪能しつつ、お弁当を突き始める…


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