艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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お弁当を櫻井に渡していた人物は…


279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(4)

「…開いてます‼︎」

 

櫻井は涙を拭いて呼吸を整え、リチャードに返事をする

 

「しっつれー‼︎おっと‼︎お弁当中だったかぁ‼︎」

 

櫻井が立ち上がろうとした瞬間、リチャードは肩を抑えて櫻井を座らせた

 

「お邪魔しに来たのは俺の方だ。座ったままでいい」

 

「了解です。どうされました⁇」

 

「サクライ、今晩任務に当たってくれ」

 

「了解です。何処へですか⁇」

 

ここでリチャードの顔が本気に変わる

 

その顔を見て、サンダースの皆に緊張が走る

 

「本日夕食後、2200から0500までの間、第二ゲート見張員の護衛任務だ。任務時間内にとある人物から物資が届く。その物資を受け取り、コミュニケーションをはかる事。出来そうか⁇」

 

その場に居た全員が理解した

 

リチャードは全てを理解した上で、櫻井とどうしても時間の合わない二人をどうにか逢わせようと“任務”と言う形で二人を逢わせる様にしてくれた

 

流石はリチャードだ…

 

「…了解です‼︎」

 

「よーし‼︎良かったぁ‼︎断られたら伝家の宝刀“上官命令”を使う所だった‼︎はっはっは‼︎あぁ、因みに明日と明後日は休みにしておいた。もしかすると、物資を届けてくれた人と何かするかも知れないしな‼︎じゃあねー‼︎バイビー‼︎」

 

リチャードはそれだけ伝えると、すぐに出て行った

 

「流石は中将だ…」

 

「う、器が違う…」

 

「自分はあぁなれるだろうか…」

 

お弁当チームが小さく呟き、櫻井はしばらく皆と会話した後、仮眠に入る…

 

 

 

「お疲れ様です、キャプテン。簡単な昼食を準備してますよ‼︎」

 

「おっ‼︎やったね‼︎」

 

食堂に戻ると、彼の二番機のパイロットがキッチンにいた

 

「キャプテン、どうして貴方はそこまでするのですか⁇」

 

リチャードは彼の背後を通り、飲み物を取りながら今正に彼が作っている料理を見る

 

「いいか⁇」

 

リチャードは彼と肩を組む

 

「人の恋路は邪魔するもんじゃない。作るもんさ」

 

「作るもの…」

 

「楽しい顔見てる方がこっちも嬉しくないか⁇」

 

「確かに…しかし、自分が知りたいのは、どうしてあの様にすぐにやるべき事が分かるかの所です」

 

「お前が今正に俺にしてくれてる事じゃないか⁇」

 

彼が手元で作っていたのは、リチャードの好きな味付けのハンバーガー

 

「良く食べたいものを見抜いたな⁇」

 

彼は半笑いで目を閉じた

 

彼はリチャードと付き合いが長く、何となく食べたいもの位は分かる

 

彼はふと思い出していた

 

あぁ、元からこの人の懐に勝てる訳ないのか…

 

自分の素質を見抜いて、ここまで引っ張ってくれた人だ

 

「それにな、園崎も感謝してたぞ⁇」

 

「園崎が、ですか⁇」

 

「おかげでボクシングが強くなれてるってな」

 

彼の手が一瞬止まり、少しだけ微笑む

 

「もし感謝される事が自分にあるとすれば、私も貴方に感化されているのでしょう」

 

「ヴィンセントみたいな事言って〜、ほら、食おう‼︎ありがとうな⁇」

 

「はい、キャプテン‼︎」

 

 

 

 

午前5時前…

 

ほんの少し外が白んで来たが、まだまだ外は暗い

 

「…」

 

第二ゲート付近にある、休憩する為の屋根付きベンチに座る男が一人

 

 

 

 

午前4時過ぎ頃…

 

「そろそろでしょう。あそこにある、屋根付きの円形ベンチで待機していて下さい」

 

「見張りは良いのですか⁇」

 

「あそこで見張りをして欲しいのです」

 

見張り員もリチャードの意思を汲む

 

「…ありがとございます」

 

「後は宜しくお願い致します」

 

 

 

 

ザッ、ザッ、と足音が聞こえる

 

「よいしょっ…」

 

何かを持ち直したのか、軽く物がぶつかり合う音が聞こえる

 

彼はベンチから立ち、外側を向いてタバコに火を点けた

 

「はぁっ…あら⁇おはようございます。朝早くにご苦労様です」

 

一人の女性が来た

 

一旦ベンチに荷物を降ろし、休憩しているみたいだ

 

「あ…横須賀の方ですか⁇」

 

「そうです」

 

「あの…もし宜しければ、これを櫻井と言う方にお届け願えませんか⁇」

 

そう言って、彼女は持って来た風呂敷包みの重箱を差し出す

 

「一つ、聞かせて頂けませんか」

 

「あ、はい」

 

「何故、彼が山菜が好きと⁇」

 

それを聞いて、彼女は一旦風呂敷包みを自身の横に置いた

 

「櫻井さんは…私の採った山菜をいつも美味しいと言ってくれました…」

 

「何故彼にお弁当を⁇」

 

「ん…その…」

 

彼女は胸元の上で手を組み、視線をズラす

 

それを横目でチラリと見た彼は、タバコの灰を落としながら微笑む

 

あぁ…

 

変わっていない…

 

あれは困った時にする仕草だ

 

変わっていない

 

癖も、性格も、何もかも…

 

「彼とほんの少しだけ一緒にいたんです…それでは理由になりませんか⁇」

 

「その時間は幸せでしたか⁇」

 

「は、はい‼︎とても‼︎じゃないと、横須賀にもう一度来ません‼︎」

 

それを聞いて、とうとう答えを出してしまう

 

「迅鯨さん」


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