艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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お弁当の内容物を見て、櫻井は昔の事を語ります


279話 駆けて行く、貴方の胸に落ちて行く(3)

「今日はありますかね…」

 

「どうだろう…」

 

「信じようじゃない」

 

お弁当チームの三人は朝食を食べながら今日もあのお弁当が来るのかを予想する

 

「サクライ‼︎これを貴方にって‼︎」

 

「「「来た‼︎」」」

 

三人は机に置かれた風呂敷を開ける

 

今日は手紙が二枚ある

 

その一枚を櫻井は手に取った

 

 

 

“完食ありがとうございました

 

私の事は、じきに誰か分かるかと思います

 

その時を待ちわびています”

 

 

 

謎が謎を呼ぶ…

 

櫻井はもう一枚の方を見る

 

 

 

“今日は貴方の好きな山菜ごはんのおにぎりを二つ握りました

 

からあげと、かぼちゃの天ぷらもありますよ

 

もし食べたいものがあれば、お手紙で書いて下さい”

 

 

 

「へー。櫻井さんて山菜ごはん好きなんすか⁇」

 

「かぼちゃの天ぷらって書いてあります」

 

「地元が田舎でな。よく山菜が取れるんだ。いつか遊びに来てくれ」

 

二人に微笑みかけ、二人共微笑み返す

 

そして、三人同時に重箱に目をやる

 

「開けるぞ…」

 

「お願いします…」

 

園崎は生唾を飲む…

 

櫻井の手により、重箱が開けられる…

 

「おぉー‼︎」

 

「こいつが山菜の…」

 

「…」

 

涼平と園崎が反応を示す中、櫻井は口を開けてお弁当を見ている

 

「…昼飯は決まりだなっ‼︎」

 

「また頂いてもいいですか⁇」

 

「自分も‼︎」

 

「勿論‼︎」

 

昼ごはんを楽しみに待ちながら、三人は訓練へと向かう…

 

 

 

 

《謎の女性と謎のお弁当ねぇ…》

 

訓練が終わる頃合いに、サンダースの皆がお弁当の一件を無線によって知る

 

《ファイヤボール。お弁当と言ったらファイヤフォックスが詳しいんじゃないか⁇》

 

《ファイヤクラッカー‼︎》

 

園崎の無線で全員が笑う

 

《いや、案外合ってるかも知れんぞ⁇》

 

《ケプリまで‼︎》

 

教官機をしていたリチャードも話に入る

 

《ゴトランドは食材にやたら詳しい。もしかすると、弁当にヒントがあるかも知れん》

 

《なるほど…ファイヤボール、それなら自分も協力します‼︎》

 

《ありがとう。助かるよ‼︎》

 

《さぁっ、お家に帰るまでがピクニックだ。降りるぞ》

 

この辺りの切り替えが上手いリチャード

 

サンダースの全員が機嫌良く“了解”と返事を返した…

 

 

 

 

「なるほど…ちょっと見せてくれる⁇」

 

着陸後にサンダースの皆が訪れたのは、勿論ゴトゴト弁当

 

ゴトランドに事の経緯を説明すると、お店から出て来て、広場で早速協力してくれた

 

「は〜…凄い上手なお弁当…ちょっと味見してい⁇」

 

「どうぞ‼︎」

 

ゴトランドは割り箸を割り、迷う事なく山菜ごはんおにぎりに箸を入れ、少しだけ口に運ぶ

 

「フキとゼンマイが美味しい…ちゃんと少し芯を残してある…相当な人だ…」

 

「…」

 

充分に咀嚼した後、ゴトランドは飲み込み、口を開く

 

「確かこの質の山菜があったのは岐阜県だね」

 

「わ、分かるのか⁉︎」

 

「うんっ‼︎ゴト、こういうの得意なの‼︎」

 

開いた口が塞がらない櫻井の他全員から“凄ぇ…”と漏れる

 

「櫻井さん、そこと何か縁ありますか⁇」

 

園崎が聞いた言葉に、櫻井は少し間を開けて答えた

 

「…自分の生まれ故郷だ」

 

「そりゃあ山菜が上手い訳だ‼︎」

 

「あそこは自然が綺麗と聞いた事があります‼︎」

 

何か思いがありそうな櫻井とは真逆の明るい返答をくれた園崎と涼平

 

「しかし、岐阜県から毎晩ここまで来るのは不可能だぞ⁇」

 

森嶋が言うのもごもっとも

 

自分達の様に航空機にでも乗っていない限り、毎晩横須賀に来るのは不可能に近い

 

「誰か協力者がいるか、もしくは近場にいるか…」

 

高垣の推理を聞き、櫻井はまた考える

 

これだけ自分の事を考えてくれる同期であり友人になら、自分が何故ここに来たのかを話しても良いと思った

 

「…みんな、自分の部屋でこれを食べよう‼︎」

 

「待ってました‼︎」

 

「あ、ちょっと待って‼︎」

 

ゴトランドは一旦お店に戻り、手にビニール袋を持って戻って来た

 

「五人じゃ流石に足りないでしょ⁇余り物で悪いけど、ちょっとしたフライとかあるから、みんなで食べて⁇」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

ゴトランドからフライも貰い、五人は櫻井の部屋へと向かう

 

 

 

 

「やっぱウメェ〜‼︎」

 

「かぼちゃの天ぷらもサクサクです‼︎」

 

「おにぎりの梅干し凄い美味いな⁉︎」

 

「からあげも絶品だ‼︎」

 

サンダースの皆が、謎のお弁当に舌鼓を打つ中、櫻井だけはお弁当を見つめて口にしない

 

「あれ、櫻井さん。食わねぇんすか⁇」

 

「…みんな、話がある。食べたままでいいから、聞いて欲しい」

 

全員が食べながらも目線を櫻井に向ける

 

その中で一人だけ食べる手を止め、櫻井の話を聞く園崎

 

園崎は自分が山城と繋がった時、サンダースの中で唯一の既婚者である櫻井が良く話を聞いてくれたのを忘れていなかった

 

「自分は…ここに逃げて来たのです」

 

それを聞いて、全員の食べる手が止まる

 

「自分には、大鯨と言う妻がいるのを話しましたよね⁇」

 

「あ、はい。スイカを持った人ですよね⁇」

 

「そうです。大鯨と自分は、親同士が決めた結婚でした」

 

「許嫁って奴…ですか⁇」

 

高垣の言葉に、櫻井は頷く

 

「しかし、その時自分には恋人がいたのです」

 

櫻井は胸の内にずっと隠していた思いを全て話した…

 

 

 

櫻井と大鯨は親同士の決めた許嫁

 

しかし、当時の櫻井には恋人がいた

 

櫻井はその恋人と共に遠くに駆け落ちをした

 

大鯨が嫌いだとかの感情ではなく、ただ反発したかったのだ

 

駆け落ちをしていたほんの数ヶ月、櫻井は人生で一番幸せに過ごした

 

何もかも新しい新天地で全てをやり直し、ようやく恋人が妻になろうとしていた時、両親に見つかる

 

恋人を見たのは両親が迎えに来た時が最後

 

櫻井は連れ帰られ、大鯨と結ばれる

 

それから櫻井と大鯨は両家の農家を手伝いながら、生計を立てて暮らしていた

 

恋人の事を少し忘れようとした頃、大鯨を好きになった

 

恋人の事を考えるのをやめた頃、娘が産まれた

 

大鯨は櫻井にこれでもかと思う程尽くしてくれた

 

櫻井はそんな大鯨にどんどん惚れて行った

 

そんな幸せな矢先に、大鯨も娘も行方をくらます

 

しばらく考えた後に出た答えは、因果応報…

 

自分が大鯨にした事が、倍になって返って来たのだ

 

櫻井は生まれ故郷を出た

 

大鯨と娘を探す為、長い旅路へと出た

 

しかし、それは言い訳に過ぎない

 

因縁の場所でもあり、幸せを育んだ場所の生まれ故郷に、櫻井は居たくなかったからだ

 

そして、いつの間にか行き着いた先は…

 

 

 

 

恋人と共に駆け落ちした横須賀だった

 

 

 

 

 

「そこで自分はスカウトされたのです。ご飯もあるわよ〜、お給料と住む場所もあるわよ〜と」

 

「「「元帥だ…」」」

 

三人の返答に、ようやく場が綻ぶ

 

「それに、元帥は自分が妻と娘を探しているのを知ってくれています。ま…中々見つかりませんが…」

 

「何でんな事もっと早く言わないんだよ‼︎」

 

「園崎⁇」

 

櫻井の話を聞き、目頭を熱くしていた園崎

 

「友達だろ‼︎もっと頼ってくれよ‼︎」

 

「友達…」

 

後に櫻井はここで、この先の人生で親友と呼べる人物を手に入れたと言う

 

「そうですよ‼︎もっと話して下さい‼︎」

 

「自分達の情報網も中々のモンですよ‼︎」

 

「自分、大湊に今から飛んで聞いて来ますよ‼︎櫻井さん、話してくれてありがとうございます」

 

「ありがとう…ありがとう…」

 

下を向いて感情を露わにする櫻井

 

「おーい、サクライ‼︎開けてくれー‼︎」

 

リチャードが部屋に来た


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