艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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何故マーカスが頑なに昇進しないか、遂に明らかになります


274話 ピザとニューティーチャー(3)

「ハァ…ハァ…ここまでは来ないだろ…」

 

逃げて来たのは広場の中心

 

ベンチに腰掛け、ようやく一服にありつく

 

「お。レイ」

 

「隊長‼︎」

 

隊長が横に腰掛け、タバコに火を点ける

 

「試験はどうだった⁇」

 

「昇進はまだ先みたいだ…」

 

そう言うと、隊長は鼻で笑う

 

隊長は何故俺が昇進しないのか、薄々勘付いている様子

 

「この前、香取先生が言っていたぞ⁇レイは四回くらい昇進を逃してるって」

 

「このポジが気に入ってるんだ」

 

「艦娘の子達が命令出来るものね⁇」

 

「横須賀‼︎」

 

今度は横須賀が来た

 

手には缶コーヒが握られており、話しながら俺と隊長に渡してくれた

 

「何となく理由はあるとは思っていたよ」

 

「艦娘の子達の初期の階級は私達の言う少佐レベル。つまりレイが大尉で居続ける限り、艦娘の子達は有事の際レイに命令を下す事が出来る…そうでしょ⁇」

 

「おっといけない‼︎試験の結果を聞きに行かなきゃな‼︎」

 

横須賀が勘付いた事を言い始めたので、タバコを灰皿に捨てて立ち上がって繁華街の方へと行こうとした

 

「さっきシスターを見たぞ」

 

「あ〜らよっとぉ‼︎」

 

マズイ名前を聞き、180°回転

 

今度は牧場の方を向く

 

「そっちの方でガリバルディとパースがいたわ⁇」

 

「も、もう一本吸おうかな⁉︎」

 

どちらに行ってもヤバい予感しかしない

 

致し方無くもう一度座り、もう一本タバコに火を点ける

 

「ありがとね、レイ」

 

「すまないな、レイ」

 

「違う違う‼︎俺は今のポジがいいの‼︎戦闘機にも乗れるし、研究やら開発も出来る‼︎昇進したら出来なくなるだろう⁇」

 

「別にいいわよ⁇」

 

「構わないんじゃないか⁇」

 

今まで護っていた強力な盾が、一撃で砕け散った‼︎

 

「だ、ダメだダメだ‼︎俺はこのままでいい‼︎このままがいいの‼︎」

 

「じゃあ命令にするわ⁇」

 

「そうだな。レイにもそろそろ昇進して貰おう」

 

「ヤダ‼︎」

 

一人でゴネていると、隊長と横須賀が内ポケットから紙を出して来た

 

「読んで」

 

「えー…なになに…推薦状…」

 

「こっちもだ」

 

「総理大臣推薦状…」

 

二人の手元にあったのは、俺を昇進させる為の推薦状

 

横須賀の方には艦娘の名前と各基地の提督の名前が

 

隊長の方には総理の名前がある

 

「これだけの人がアンタを推してるのよ⁇」

 

「期待を裏切る事になるぞ⁇」

 

「それでもイヤだ‼︎」

 

「あ。レイさん‼︎」

 

「怒られてるのです‼︎」

 

タイミング良く雷電姉妹が来た

 

これは逃げる絶好のチャンスだ‼︎

 

「丁度良かったわ‼︎レイが昇進しないって言うのよ‼︎」

 

「説得してやってくれないか⁇」

 

雷電姉妹は隊長と横須賀のニヤける顔を見て自分達もニヤけ始める

 

「レイさん。私達、ずっと知ってるわ⁇」

 

「電達がレイさんに命令出来る事も知ってるのです」

 

「うっ…」

 

この姉妹には全部見透かされてる気がする…

 

「私達が怪我した時の為なんでしょ⁇」

 

「痛い痛いになったら、レイさんを呼ぶと絶対助けてくれるのです‼︎」

 

「その為にレイは…」

 

「なるほどな…」

 

雷電姉妹の話を聞いて、ようやく二人は納得してくれた

 

「そ、そう言う事は早く言いなさいよ‼︎」

 

「ずっとそうだったのか⁉︎」

 

「艦娘の子達には、何かに拠り所が必要だと思ってるんだ。俺が大尉のままで居続けたら、艦娘の子達は俺に命令と言って治療させたり、話を聞く事位は出来ると思うんだ」

 

「そんな重要な事、何で言わなかったのよ」

 

「黙っているのも優しさだ、横須賀」

 

「隊長まで‼︎」

 

「でもレイさん、一人で悩まないで欲しいのです」

 

「そうよ‼︎私達にドーンと言って頂戴‼︎」

 

胸を張る二人を見て、一番最初に笑ったのは隊長

 

「そうだぞレイ‼︎上官に相談するのは大切な事だぞ‼︎」

 

「よーし、なら一丁聞いて貰おうか‼︎」

 

タバコを捨ててベンチから降りてしゃがみ込み、雷電姉妹に目線を合わせる

 

「話して頂戴‼︎」

 

「聞くのです‼︎」

 

雷電姉妹はニコニコ

 

隊長と横須賀は、互いに目を見合って頷く

 

「横須賀が寝っ転がってシュークリーム食う癖をどうにかしたいんですが⁉︎」

 

「それは治らないわ…」

 

「残念だけどどうしようもないのです…」

 

「ははははは‼︎」

 

「レイっ‼︎」

 

「あだっ‼︎」

 

横須賀に後頭部を平手打ちされた

 

雷電姉妹と隊長はケラケラ笑っている

 

「私達は駄菓子屋に行って来るわ‼︎」

 

「小遣いあるか⁇」

 

「寝っ転がってシュークリームを食べるお嫁さんから貰ったのです‼︎バイバイなのです‼︎」

 

「コラ‼︎待ちなさい電‼︎」

 

「さようなら〜‼︎」

 

「またお話しするのです〜‼︎」

 

雷電姉妹はそそくさ逃げて行った

 

「…この後にレイのケアが入るって訳ね⁇」

 

「言われっぱなしじゃ士気に関わるからな⁇」

 

横須賀も理解してくれたみたいだ

 

「確かにレイは艦娘の子達と話してる所を頻繁に見るな⁇」

 

「何でもコミュニケーションは必要さっ」

 

「居ました居ました‼︎マーカス君‼︎試験結果が出ましたよ‼︎」

 

香取先生とヒューストンが来た

 

「隊長。彼女はヒューストン。アメリカから来て、香取と一緒に新人の子達を教育します」

 

隊長とヒューストンは初対面

 

横須賀が隊長を紹介し、ヒューストンは隊長の方を見る

 

「お名前は存じ上げております、ウィリアム大佐。ヒューストンと申します」

 

「よろしくな」

 

「マーカス君⁇良かったですね⁇二階級アップですよ⁇」

 

「辞退しまーす‼︎バイバーイ‼︎」

 

そう言い残し、ダッシュでその場から離脱

 

「コラ‼︎待ちなさい‼︎マーカス君‼︎」

 

香取先生は追おうとするが、香取先生は足が遅いので追うのを止めた

 

「いつかまとめて昇進させてやればいいさ」

 

「そうですか…最終階級は凄い事になりそうですね…ふふふ…」

 

香取先生の眼鏡が光る

 

いつもは香取先生をババア扱いする隊長でさえ、この日は身震いしたと言う…


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