艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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Try Again With You…君ともう一度やり直す


271話 君ともう一度やり直す(3)

「ここだ」

 

医務室の前に到着した涼平

 

「失礼しますね」

 

ノックをした後、涼平は中に入る

 

「大尉からこれを預か…」

 

涼平の時間が止まる…

 

「…リョーチャン⁇」

 

涼平の事をリョーチャンと呼ぶのは、この世でただ一人

 

「“シュリさん”…」

 

名前を呼び合い、無言で抱き合う

 

涼平に“シュリ”と呼ばれた空母棲姫

 

涼平と相思相愛の仲の深海の女性が、今目の前に居る

 

「死んだかと思ってました…」

 

「オイシャサンニタスケテモラッタンダヨ…⁇」

 

「隊長だ…だから自分にこれを渡して…」

 

額を合わせあい、互いに笑顔を見せる

 

「リョーチャン、モウベツノヒトミツケチャッタカナ⁇」

 

「とても大切な人は出来たよ」

 

「ウフフ。フツーハウソツクノニ」

 

「空軍は嘘をつかないんだ。シュリさん、自分達の基地に来て下さい」

 

「リョーチャンノタイセツナヒトハ⁇」

 

「きっと分かってくれます」

 

「ジャア、ソノヒトモスキニナル‼︎」

 

涼平は何となくだが、分かっていた

 

タシュケントがそんな奴じゃない事を

 

「リョーチャン、ココニイテ⁇」

 

「勿論です」

 

それから横須賀に着くまで、二人はほとんど話す事はなかった

 

空いた時間を埋めるかのように、横須賀に着くまでの長い間抱き合う

 

それだけで良かった…

 

涼平の“あの日”が、ほんの少しだけ終わりを迎える…

 

 

 

 

「中将‼︎お疲れ様です‼︎」

 

「おっ‼︎美味そうだな‼︎」

 

リチャードがコックが持って来た料理を見る

 

スープとパンや、ちょっとしたお肉がトレーに乗っている

 

「今から医務室の彼女に運ぼうかと」

 

「ちょっと来い…」

 

コックに耳打ちするリチャード…

 

「おぉ〜。それは邪魔してはなりませんね‼︎」

 

「だろ⁉︎」

 

「中将、召し上がられますか⁇」

 

「うむっ‼︎ありがたく頂戴するっ‼︎」

 

コックから食事を貰い、リチャードは医務室前の廊下に腰を下ろして食べ始めた

 

「んまいんまい‼︎」

 

「お前はまたそんな所で食って」

 

「おっ‼︎ヴィンセント閣下ではないか‼︎」

 

「はいはい。一緒していいか⁇」

 

「本当なら美女がいいんだが…ここはヴィンセント君で我慢しようじゃない」

 

いつもの事なので、ヴィンセントは鼻で笑った後床にトレーを置き、腰を下ろして同じ物を食べ始めた

 

「すまないヴィンセント。私の我儘に付き合わせて」

 

急に真面目な顔をして、ヴィンセントに頭を下げたリチャード

 

「今すぐ頭を上げろ。お前の我儘じゃない。私はここに“ドライブ”に来ただけだ」

 

頭を上げたリチャードの開いた口が塞がらない

 

「お前が冗談を言うとは…」

 

「誰かのおかげで気が楽になってるのかもな⁇」

 

「隊長、同伴しても宜しいですか」

 

「お〜お〜来い来い‼︎みんなで食う飯は美味いからな‼︎」

 

リチャードの僚機のパイロットも来て、段々とそこには人が集まる

 

リチャードは何故か人を引き寄せる力があり、それはヴィンセントにも感化している

 

「んで⁇ガンビアさんとはどうなんだ⁇」

 

「隔週でデートしてるよ。お前にバレない場所でな⁇」

 

「ヴィンセントはこういう奴だからな‼︎分かった⁉︎」

 

「ははは‼︎了解です、隊長‼︎」

 

ヴィンセントは少し目線をズラして微笑み、リチャードと僚機の彼は笑い合う

 

 

 

 

数時間後、ガンビアは横須賀に着いた

 

治療が必要な子達から先に降ろされ、リチャードもヴィンセントもそれを手伝う

 

「来たか」

 

「行くか」

 

「わぁ…」

 

伊勢でケーキを食べていた俺達は、ガンビアの入港を見て、俺とアレンが本気の顔に変わる

 

その姿を見て、健吾が驚く

 

「どうした⁇」

 

「初めて二人が同時に本気になるの見たな…って」

 

どちらか片方…とくにアレンが医者に変わる瞬間は何度か見たている健吾だが、同時にその顔になる瞬間は初めて見た

 

「俺達はいつだって本気だぞ‼︎」

 

「そうだぞ健吾‼︎常に本気じゃなきゃ、俺は今頃コロちゃんにプレスされてる‼︎」

 

「あ、そっか‼︎」

 

俺もアレンもそれで気が楽になり、健吾を連れて治療に向かう

 

カッコいい兄貴の様な存在二人だが、健吾はたった一つだけ思っていた

 

口元がクリームまみれじゃなきゃ、もっとカッコ良かったのに…と

 

 

 

 

「内臓裂傷…及び機能低下、と。君はしばらくカプセルに入ろうな⁇それで内臓機能は元に戻る」

 

「君も念の為小一時間カプセルに入ろうな」

 

「包帯を巻きますね‼︎」

 

医療にあまり詳しくない健吾だが、消毒や包帯を巻いてくれたりと出来る限りを手伝ってくれている

 

「さてっ…」

 

「ア、オイシャサン」

 

一番最後は、先程医務室に居た一番美人の深海棲艦

 

相変わらずベッドの縁に座り、他の深海の子達を見ている

 

「アリガトウ…スゴク、ウレシイ」

 

「オマケを付ける約束だったからな⁇」

 

カプセルに移動する為、彼女は横になりながらその返答に笑みを返す

 

「リョーチャンニアイタカッタ。ダカラ、ガンバレタ」

 

「涼平はリョーチャンね」

 

「ウンッ」

 

俺なら一生煽られるんだろうなぁ…

 

「君は少し長い時間カプセルに入って欲しい」

 

「ウン、リョーチャントヤクソクシタ。チリョーウケル」

 

「良い心意気だ…涼平は好きか⁇」

 

「イチバンスキ‼︎」

 

彼女は本当に涼平が好きな様子

 

涼平の名前を出すと、顔が明るくなる

 

「新品サラピンで涼平に返してやる。涼平を頼んだぞ⁇」

 

「ガンバル‼︎」

 

「シュリさん‼︎」

 

カプセルに入れようとした時、涼平が工廠に来た

 

「リョーチャン‼︎」

 

「隊長…本当にありがとうございます‼︎」

 

「アリガトウゴザイマス‼︎」

 

「頑張ってる奴は報われるんだ。シンプルだが、大切な事だ。」

 

「カプセルから出たら、話したい事がもっとあるんだ‼︎」

 

「ン…タノシミニシテル。リョーチャンノオモイビトモ、ミテミタイ」

 

シュリと呼ばれた彼女は、愛おしそうに涼平の頬を撫でる

 

「隊長も、ここの人達も、みんな信頼出来る人だ。何度も救って貰った」

 

「フフフ。イマモ、ダヨ」

 

「シュリさん、で良いのか⁇」

 

「シュリデイイ」

 

「涼平がシュリさん、だから、俺もシュリさんにする」

 

「ン」

 

シュリさんは小さく頷く

 

「涼平は君とした事を、誰かの為にしてくれている。治ったら、手伝ってやってくれないか⁇」

 

その問いにシュリさんは髪を揺らして首を縦に振る

 

「モチロン‼︎」

 

シュリさんはそう言い、カプセルに入った…

 

「これで安心だ」

 

「自分は今から、タシュケントに全てを説明して来ます」

 

「その必要は無いよ‼︎リョーヘー‼︎」

 

全てを聞いていたのか、いつの間にかタシュケントがいた

 

「いいよ、リョーヘー。ただ、ボクも傍に居させて欲しいな⁇本国に帰れなくなっちゃったんだ‼︎」

 

「勿論です‼︎」

 

「本国に帰れなくなっただと⁉︎」

 

「ライコビッチに言われたんだ。君は一ロシア軍人ではなく、横須賀の艦娘だ。君はそっちで幸せになりなさいって‼︎ここに派遣将校で来た時にね‼︎」

 

「護る者が増えた奴は強いぞ⁇」

 

健吾は無言だが、微笑みを見せて頷く

 

「あっ、そうだ‼︎横須賀には指環を二つ貰えるシステムがあったよね⁇」

 

タシュケントはあからさまに知っているが、それでも意地でも“私は知らないよ⁇聞いた話だよ⁇”とでも言わんばかりに、人差し指を顎付近に当て、ニヤつきながら天井を見ている

 

「それの一つをボクにくれたら嬉しいんだけど〜、リョーヘーはどうだろうか⁇」

 

「最初から貴方に渡す予定でしたよ」

 

「ハラショー‼︎これで安心だ‼︎じゃあボクはこれで‼︎あぁ、リョーヘー、心配しないで。シュリさんとは仲良くやれそうだから‼︎」

 

タシュケントはクールに去る

 

見た目より、遥かにタフな様だ

 

治療も順調に進んでいる

 

…後は二人にした方が良さそうだ

 

「涼平。シュリさんをしっかり見ていてくれよ」

 

「了解です‼︎」

 

シュリさんの入ったカプセルの前から離れ、アレンと健吾のいる場所に戻って来た

 

「アラ、カワイイボウヤ」

 

「ぼ、ぼぼぼ坊やじゃないです‼︎」

 

健吾が逆ナンにあっている

 

「タベチャイタイクライダワ」

 

「ツマミグイシマショウ」

 

「ぐわー‼︎アレーン‼︎レイさーん‼︎」

 

「羨ましいぞ健吾‼︎」

 

「そうだそうだ‼︎黙っててやるから身を委ねろ‼︎」

 

健吾に逆ナンしているのは、ちょっと大人な深海のお姉さん二人

 

彼女達は軽症であり、内臓機能も良好な為、健吾が手当てしていた二人だ

 

そんな二人に逆ナンされている光景を見た俺とアレンは、血涙を流す

 

「そんなー‼︎」

 

「オイデボウヤ。イッショニヨコニナリマショウ⁇」

 

「ボクチャン、カラダヲラクニシテ⁇」

 

「うぅ…」

 

口では否定するものの、体は正直になった健吾

 

すぐに横にされ、前後で添い寝して貰う

 

「「おっ…」」

 

すると、健吾はすぐに寝息を立て始める

 

「コノコ、スゴクツカレテル」

 

「キット、ナニカナヤンデル」

 

深海二人は健吾をつまみ食いしようとはせず、二人で頭を撫でて健吾を休ませる

 

「…しばらくそうさせてやってくれないか⁇」

 

「ヤスマセテアゲマショ」

 

「アトハマカセテ。ダイジョウブ、タベタリシナイ」

 

「幸せそうに寝てるな…」

 

健吾もこのままの方が良さそうだ

 

健吾は普段、大和の事で気苦労が絶えない

 

口では大丈夫だと言っていても、耐えられない事もある

 

俺達には理解出来ない光景を何度も見たのだろう

 

女で負った傷は、女でしか癒せない、か…

 

 

 

「ようやく一段落か」

 

「急に手隙になるのも参ったもんだな」

 

アレンと港で咥えタバコをしながら立ちションをする

 

「いたいた。レイ、アレン」

 

「二人で立ちションですか」

 

「た、隊長⁉︎ちょっと待ってくれ‼︎」

 

「キャプテン‼︎ちょっと待ってて下さい‼︎」

 

運悪く隊長とラバウルさんが来た

 

「そのままでいい」

 

「「ヤダよ‼︎」」

 

流石に情けないので、ちゃんとし終わってから二人の方を向く

 

「此方側で第三居住区設立の話は進めておいた。お疲れ様だな、二人共」

 

若干渋ると思っていた話が既に終わっていた

 

「ど、どうやって話を⁉︎」

 

「私が言ったのです。従わなければバナナワニ園のワニのエサに。従えばオランダの風車解体業を与えると言えば、後者を選びましてね…」

 

「あってない様なモンだからな…」

 

「仕事があるだけマシか…」

 

「それと、条件が飲めなければ即空爆とも言ったか⁇」

 

「たかだか数十発の爆撃、私達にとって朝飯前ですからねぇ」

 

笑顔でとんでもない事を言う、隊長二人を前に、俺達は戦慄する

 

「…隊長達には絶対逆らわないでおこうな⁇」

 

「…サラっととんでもない事言ったからな」

 

「さぁ、帰ろう‼︎貴子がハンバーグを作り直してくれた‼︎」

 

「すぐ帰ろう‼︎アレン、またな‼︎」

 

「おぅ‼︎」

 

こうして、長い一日が終わる…

 

 

 

 

その後、健吾は一晩寝続けたのち、快眠だったと彼は語る…




シュリさん…ギャル空母棲姫ちゃん

何処かの基地で実験体にされていた深海棲艦

見た目はギャルだし、スッゴイバインボインなのに一途で可愛い

しかもかなりの強さを持っているらしい

涼平の思い人であり、涼平の生まれ故郷である離島で一緒に暮らしていた

涼平が焚き火が趣味なら、彼女は一人でミュージカル調に歌うのが趣味

涼平に建築の楽しさを教えた張本人であり、涼平を深海にした女性でもある

作者の別の作品に良く似た人が出ているらしい





戦艦棲鬼姉妹…アダルトネーチャン

シュリさんと同じ基地で実験体にされていた戦艦棲鬼の姉妹

ボウヤと言う方が姉

ボクチャンと言う方が妹

シュリさん程ではないが、この二人もかなりバインボイン

シュリさんと違うのは、アダルティな大人のお姉さんの貫禄がある事

物凄いショタコンに見えるが、つまみ食いとかせず、純粋に子供が好きなだけ

つまり健吾は子供に見られている

二人にサンドされて眠りに就いた者は、次の日快調になる

すごいね

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