艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、268話、そして特別編が終わりました

今回のお話は、突如として現れた謎の艦娘のお話です

どうやらここに来たのには訳がある様子で…


269話 オランダからの来訪者(1)

「あの方が建築士の方ですか⁇」

 

「そうよ〜。牧場に色々造ってくれるの」

 

親潮と横須賀が、牧場の片隅でお昼ご飯のサンドイッチを頬張りながら建設中の施設の視察をする

 

少し離れた場所で、金髪の女の子がレンガを積み上げている

 

「数日前に建築士として派遣されて来たのよ」

 

「何を建てるのでしょう…」

 

「完成してからのお楽しみよっ‼︎さっ‼︎次は学校の視察よ‼︎」

 

「はいっ‼︎」

 

横須賀と親潮はお昼ご飯を片付け、学校の視察に向かう…

 

 

 

 

「たまにはこうしてビビリと出掛けないと、アークもヤバい‼︎」

 

時同じくして、繁華街では俺とアークが“チキンランド・ミズホ”に来ていた

 

俺は横須賀から直轄の視察依頼

 

アークは一般向けに対しての視察依頼

 

どちらも正式な視察依頼に変わりはない

 

が、今回はアークの方が大切そうだな

 

「ストレスがマッハか⁇」

 

「たまにはアークがビビリを独占してもいいだろう‼︎」

 

そう言うアークの口元は、チキンの衣まみれ

 

普段子供達の口を拭く立場にあるアークは、基地では凄く丁寧に食事を取る様になった

 

だが、今日は通常のアークでいるため、食い方も通常に戻っている

 

「どれ‼︎ビビリ曰くモーモーさんとガーガーさんでも見に行こう‼︎」

 

手と口を拭いたアークは立ち上がり、俺に早く立てと目で訴える

 

「…分かったっ」

 

一生言われるんだろうなぁ…

 

「瑞穂のチキン、どうでしたか⁇」

 

いざ立ち上がった時、店主である“瑞穂”が此方に来た

 

「美味かった‼︎確かにフライドチキンは繁華街にはなかったな‼︎」

 

「これは美味かったぞ‼︎衣もサクサクしていてしっかり味が付いていた‼︎アークも見習わなければな‼︎」

 

「ありがとうございます。濡れティッシュをどうぞ」

 

瑞穂が両手に持っていたお盆には、濡れティッシュが乗っている

 

「また来るよ‼︎」

 

「今度は子供達も連れて来よう‼︎」

 

「お待ちしておりますね」

 

出る前に濡れティッシュで手を拭き、脂っ気を無くして牧場に足を向ける

 

 

 

 

「見ろビビリ。脱走ガーガーさんだ」

 

「どっから出て来たんだ…」

 

牧場に着く寸前、目の前から小さめのアヒルが脱走しているのが見えた

 

もうすぐ大人になるサイズなので他と比べてまだ小さいこのアヒル

 

柵かなんかの隙間から出たんだろう

 

自然とその場で屈み、寄って来るのを見計らって手を伸ばす

 

「よいしょっ」

 

アヒルは簡単に俺に抱き上げられ、背中を撫でながら立ち上がる

 

「ビビリはガーガーさんの子供にも懐かれるのか‼︎」

 

「どうだろうなぁ〜」

 

背中を撫でられているアヒルは、口を半開きにして気持ち良さそうなご様子

 

「マーカスさん」

 

「おぉ‼︎山風か‼︎」

 

牧場の方から来た山風は、俺の目を見た後、アヒルに目をやる

 

「あのね、柵の間から逃げちゃったの…」

 

「そうかそうか」

 

「マーカスが直してくれるらしいぞ‼︎」

 

元からそのつもりだったが、アークに先に言われた

 

「デート中なんじゃ…」

 

心配してくれているのか、山風は俺とアークを交互に見る

 

「いいんだ。それがデートになる。な⁇アーク⁇」

 

「そうだぞヤマカゼ‼︎アークはな、マーカスが動いている背中を見るのが大好きなんだ‼︎」

 

「ありがとう。こっち」

 

山風にアヒルを渡し、その後ろを俺とアークが着いて行く

 

「出ちゃダメだよ。いい⁇」

 

鳥小屋に置かれたアヒルは、小屋の中を歩き始めた

 

「来て」

 

小屋の中にある用具入れから工具箱を取り、山風に着いて行く

 

「ここ」

 

「こりゃあ出れるわな…」

 

誰かが何かをぶつけたのか、柵の一部分の足元に中くらいのアヒルなら簡単に出入り可能なサイズの穴が開いてしまっていた

 

「塞げそうなのを探して来るから、ちょっと待っててな⁇」

 

「うんっ。ありがとう」

 

何かしらの板がいるな…

 

いや、あそこの柵だけ張り替えるか…

 

「見ろマーカス‼︎ピヨちゃんフェスティバルだ‼︎」

 

さっきあれだけ俺の背中が好きだと言っていたアークは、既にヒヨコの大群に夢中になっている

 

「そこに居ろよ⁇すぐに戻る」

 

「ほ〜ら、豆だぞ〜」

 

ダメだ、聞いてない

 

用具入れの中なら何かあるだろうと、もう一度来た

 

「え〜と…」

 

木の板、ワイヤー…

 

そうだ、四角辺りに穴を開けてワイヤーを通したら行けるか

 

これなら釘とかも飛び出す心配も怪我もないな

 

早速作業に取り掛かる…

 

 

 

 

「アークさん、ヒヨコちゃん好き⁇」

 

「小さいのは大体好きだ‼︎」

 

アークと山風はピヨちゃんフェスティバルに夢中

 

「段々とここも色々建ち始めたな⁇」

 

「次はどんなの来ると思う⁇」

 

「そうだなぁ…羊かヤギ、なんてどうだろう⁇」

 

「羊はとても良い案ですね‼︎ゴトも素敵だと思います‼︎」

 

柵の向こうから急に話し掛けて来たのはゴトランド

 

「貴様は弁当屋の娘か‼︎」

 

「そうそう。ゴトランドですっ‼︎羊を飼うのはとても良い案です‼︎」

 

「貴様…さてはあれだな⁇羊フェチだな⁇」

 

「羊は良いですよ〜…ゴトは大好きです」

 

「目が怖い…」

 

羊の話をした途端、ゴトランドの目は一点見つめでにやけ顔

 

山風がアークの服の裾を摘んで背後に隠れるレベルだ

 

「知っていますか⁇世の中には最強の黒い羊がいるんですよ⁇」

 

「ほぅ…羊界にもウィリアムの様な奴がいるのか」

 

「黒い羊…何か怖い…」

 

「そんな羊の毛を刈ってセーターにしたら、最強の力を身に纏う事が出来ます」

 

「ゴトー‼︎行くよー‼︎」

 

「ガッキーだ‼︎またね‼︎」

 

「奴もデートか…」

 

アークは見逃さなかった

 

高垣がゴトランドを呼んだ時、女の顔になったのを…

 

「よ〜し、終わった‼︎」

 

「マーカスだ‼︎」

 

「お〜お〜、ホントにヒヨコちゃんフェスティバルだな⁉︎」

 

さりげなく山風の頭を撫でた後、工具を仕舞いに小屋の中に入った

 

「マーカスさん、ありがとう」

 

「これくらいならいつでもっ‼︎」

 

「マーカスはあれだな。医療とかこういうちょっとした時はいつでも‼︎と返すな⁇」

 

「人の生き死にに、特に死に関わるよりウンとマシだからな‼︎」

 

実際、こういう事をしている方が本当は気が楽でいい

 

まぁ…結局は空に戻るんだがな…

 

「そういえば、新しい施設を造ってるんだって」

 

「何処にだ⁇」

 

「あそこ。レンガがいっぱいあるよ」

 

山風が指差す方向を見る

 

そこには一人で、実に楽しそうに作業をしている金髪の女の子がいた

 

「げっ‼︎」

 

「初めて見る子だな⁇」

 

初めて見る顔の子だと思っていた矢先、隣でアークが冷や汗を流している

 

「知り合いか⁇」

 

「知っているもなにも‼︎何故奴を横須賀に呼んだ‼︎」

 

「俺は初耳だ‼︎」

 

「私も‼︎」

 

「うぬぐぐ…そうだった…と、とにかくだ‼︎奴を止めるぞ‼︎」

 

アークは何故かレンガを積み上げている女の子を止めに入った

 

「おい貴様‼︎何を建てる気だ‼︎」

 

「風車だパース。風車いっぱい造るパース‼︎」


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