艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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259話 死神の娘(2)

「創造主」

 

「なんだ」

 

「名前を呼んで欲しいでち」

 

「なんだ、タナトス」

 

椅子に座ったまま、モニターを一直線に眺める俺の横顔を、タナトスが見つめる

 

そして、タナトスは少し笑う

 

「昔の創造主みたいでち」

 

「言ったはずだ。死神に戻る時だと」

 

「いいでちよ。タナトスの本来の役割はこれでち。破壊、殺戮、圧倒的な火力で押し潰す。これがタナトスの役割でち」

 

「…」

 

SS隊のコートの襟で口元と感情を隠す…

 

すまない、ゴーヤ

 

お前の内心は、痛い程分かってるつもりだ

 

こんな形で、私利私欲の為に産み出して、本当にすまない…

 

だが、今は持てる最強の抑止力で向こうを圧倒せねばならない

 

許してくれ…

 

「創造主はそういう所が優しいんでち」

 

「人の感情を読むなタナトス。任務に集中しろ」

 

「はいはい。分かったでちよ」

 

 

 

 

「横須賀基地です。少しお話をお伺いしたい事がございまして」

 

私に出来る事は、とりあえずは一つ

 

イーサンは最期の最期に、横須賀の基地にデータを送ってくれていた

 

それをもとに、ある基地へと連絡を入れる

 

「三人居るはずなのですが…えぇ。今、其方に調査隊が向かっています」

 

やはり向こうは犯人を出し渋る

 

休戦中とはいえ、人間からすれば深海は敵に違いない

 

だけど…

 

だけど、それじゃあイーサンはあまりにも浮かばれない

 

「調査隊が到着するまでに、表…もしくは会議室に三人を連れ出して下さい。此方の要求を承諾して頂かないならば、それ相応の処置を取らせて頂きます。では」

 

向こうの意見は分かった

 

なら、此方の意見も通させて貰うわ

 

レイ、後は任せたわ

 

 

 

 

「イージス艦3隻。敵性反応」

 

「雑魚を相手に構うな」

 

目的の基地が近付いて来た

 

やはり向こうは対潜能力のある艦を出して来たか

 

「敵イージス艦、爆雷投射」

 

「対水中速射砲で爆雷を処理しろ」

 

「了解」

 

真顔で座ったまま、タナトスに指示を出す

 

「敵イージス艦、更に2」

 

「此方の位置が把握されている以上、潜航していても意味が無い。いいだろう。タナトス、対艦戦闘用意」

 

「撃沈しますか⁇」

 

「邪魔する奴は全部叩きのめせ」

 

「了解」

 

タナトスが海上に出る…

 

 

 

 

《敵潜水艦、浮上‼︎》

 

《撃ち方、始め‼︎》

 

2隻いる内の1隻が速射砲を放つ

 

タナトスが常にアクティブにしている無線傍受を聞きながらも、俺もタナトスも動かない

 

「やれ」

 

「艦首爆雷、投射開始」

 

タナトスがたった二発放った艦首爆雷がイージス艦に突き刺さる

 

《はっ。大したダメージはない‼︎攻撃を続け…》

 

時間差で艦首爆雷が起爆

 

一つの無線が途切れる

 

「敵イージス艦、1隻撃沈。1隻を大破」

 

「此方に損害は」

 

「ありません」

 

「敵艦船に打電。逆らえば、全艦撃沈す」

 

「了解。目的地に向かいつつ、打電を行います」

 

コートのポケットに両手を入れたまま、目的地までモニターを見続ける…

 

 

 

 

「目的地に到着しました」

 

「タナトス」

 

「なんでち⁇」

 

「敵艦が来た場合は、お前の好きにしろ」

 

ジュラルミンケースを持ち、いざ退艦しようとした

 

「創造主」

 

「なんだ」

 

「帰って来たら、元の創造主に戻って欲しいでち…」

 

タナトスの言葉を聞き、退艦しようとしていた足が止まる

 

「これが俺だ。皆が死神や悪魔と言っている俺が本当の俺だ」

 

「そうだったでち…」

 

初めて見た、タナトスのシュンとした顔

 

その顔を見ていつもの情が湧いてしまい、下を向いたゴーヤの頭に手を置き、掴む様に撫でる

 

「あっ…」

 

「まっ…お前が言うなら考えておくよ。ゴーヤ」

 

「ありがとでち‼︎」

 

ゴーヤに見送られ、タナトスを降りる


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