艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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会話ログにお付き合い頂き、誠にありがとうございました

今回のお話は、マーカスの目線、そして横須賀の目線と交互に分かれてお話が進みます


259話 死神の娘(1)

その日、夢を見た…

 

あの日、福江に言われた一言が、俺の中にまだ巣食っている

 

気付きたくなかった

 

気付きたくもなかった

 

だけど、皆心の奥底で俺の事をそう思っている

 

だから、俺は…

 

 

 

「レイの容態は⁇」

 

「体の傷はほぼ完治に近いね…ただ、問題は心的なものだろうね…」

 

「そう…」

 

執務室で大淀の説明を受け、私は肩を落とす

 

私の問題はそれだけじゃない

 

「お母さん‼︎行ってくるね‼︎」

 

「あっ‼︎ちょっと待って谷風‼︎」

 

そう、谷風

 

とてもじゃないけど、イーサンの事を言えない…

 

レイならどう言うのかしら…

 

遅かれ早かれ気付かれるから、真っ向から言うのかしら…

 

「…よしっ‼︎大淀さんと一緒に行こうか‼︎」

 

「分かった‼︎行って来ま〜す‼︎」

 

笑顔で見送る私だが、不安しかない

 

「ジェミニ様…」

 

「気にしないでいいわ、親潮」

 

親潮はレイに似て勘の良い子

 

子供達の前では気丈に振る舞わなくては…

 

私に出来る事は沢山ある

 

それを一つ、それも大きな事を片付けなくては…

 

 

 

 

「…」

 

目が覚めた

 

あれからずっと眠っていたらしい

 

嫌な夢を見た

 

自分は皆からどう思われているか…そんな夢

 

だが、やる事が分かった

 

皆が俺をそう見ているならば、俺は永遠にその事から抗えないのだろう…

 

「…」

 

どうやら医務室ではなく、マークの研究室に担ぎ込まれたみたいだ

 

タイミング良く誰もいない

 

ここに担ぎ込まれたと言う事は、大淀辺りが俺の体に何かしたんだろう

 

だが、好都合だ

 

やる事が分かった以上、ここで必要な物を調達して行こう

 

 

 

 

「僕の方は後は待つだけ。問題はレイがどうなるかだね…」

 

「大淀にも言われたわ…」

 

きそも報告に来てくれた

 

大淀もきそも同じ事を言う

 

レイを引き止められる、繋ぎ止められるのは私だけだと…

 

「ちょっとレイの様子見に行ってもいいかしら⁇」

 

「いいよ。お母さんの声なら起きるかもしれない」

 

きそに連れて行って貰い、研究室を目指す…

 

 

 

 

「あそこのベッドにいるよ」

 

「分かったわ」

 

きそに教えて貰ったベッドまで来た

 

「いないわよ⁇」

 

「え⁉︎」

 

焦った様子のきそが来た

 

「僕がここ出るまではここに居たんだ‼︎」

 

嫌な予感しかしない…

 

「グリフォンの所かな⁉︎」

 

なんとなく。本当になんとなくだけれど…

 

レイはグリフォンの所に居ない気がした

 

考えろジェミニ…

 

レイなら…あの子ならどうするか…

 

「…もっと強力な子の所よ」

 

「もっと強力⁇」

 

「レイは性格上、やられた事を同じ事で返すわ。爆破には爆破で返すはずよ」

 

「爆破…タナトスの所かな⁉︎」

 

「行きましょう‼︎」

 

 

 

 

「タナトス」

 

「分かってる。全部言わないでいいでち」

 

タナトスは俺が今からする事を分かってくれていた

 

なら話は早い

 

「目的地は」

 

「昨日データを貰って把握してるでち」

 

「誰にだ」

 

「全部終わってから教えるでち」

 

「そうか。なら向かえ」

 

久方振りにタナトスに命令を出した

 

いつもなら“頼む”だとか“すまない”とでも言っているのだろう

 

「創造主⁇」

 

「なんだ」

 

「いや…いつもと違うと思っただけでち」

 

「タナトス。お前は皆からなんと呼ばれる」

 

「死神でち」

 

「死神に戻る日が来た。それだけだ」

 

「…」

 

タナトスは何も返さず、ただ俺の目をじっと見ている

 

「タナトス。抜錨しろ」

 

「了解でち。タナトス、抜錨」

 

タナトスが動き出す…

 

 

 

 

「あっ‼︎やっぱり‼︎」

 

タナトスが出航したのは、私達の目にも見えていた

 

「きそ。もういいわ」

 

「でも‼︎」

 

「いいの。行かせてやりなさい」

 

私はきそを止め、執務室の方に足を向けた

 

「レイが深海についたらどうするのさ‼︎」

 

「帰って来るわ」

 

「確信でもあるの⁇」

 

「レイは時々、帰る場所を見失うの。私達は、レイを私達の所に帰らせる様にすればいいだけよ」

 

「なんか分からないけど、分かった‼︎」

 

私にしか分からないでしょうね…

 

いえ、私にしか分からなくていいのよ

 

私にしか分からなくて、私にしか出来ない事

 

私がやるしかないのよ…

 

“元に戻ってしまったレイ”を取り戻さなきゃ


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