艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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255話 無表情の君(3)

「おとうさん」

 

そこに居たのは、工廠で寝ていた赤城

 

今日は清霜と一緒に貴子さんのお料理教室に行っていたので、疲れているはずだ

 

「貴殿の子か。なら…」

 

「…」

 

神州丸は赤城の喉元に2本目のナイフを当てようとした

 

「人質を取らせて貰う」

 

が、身長が足らず、丁度赤城の胸辺りにナイフが当たる

 

「これ」

 

赤城は自身の身に迫った危機を理解しておらず、いつも通りに小刻みに人差し指を揺らしながらナイフを指差す

 

「それはナイフだ。とっても危ない物だ。神州丸、分かってるんだろうな」

 

「ないふ」

 

「その所存であります」

 

神州丸も赤城も顔色一つ変えず、俺を見つめる

 

「赤城を返して欲しくば、我が軍に従って頂こうか」

 

「ないふ、あぶない」

 

「少し黙っていて貰っ…ご…」

 

一瞬赤城から目を離した瞬間、赤城は神州丸の首を捻り、その場で気絶させた

 

「おとうさん」

 

「赤城‼︎怪我は無いか⁉︎」

 

「けが」

 

「何処か痛かったり、血が出る事だ」

 

赤城は真顔のまま、軽く横に首を振った

 

「これ」

 

赤城が気になるのは、床に転がった神州丸

 

「この人は神州丸だ。起きたら話を聞いてみような⁇」

 

「おはなし」

 

赤城は軽々と神州丸を持ち上げ、俺の方を見た

 

”何処に連れて行けばいい⁇”と、訴えかける目だ

 

「カプセルに入れような」

 

「かぷせる」

 

赤城は神州丸を雑にカプセルに放り込み、俺の横に戻って来た

 

「しんしゅうまる、きらい」

 

「そうだな。俺も今の所は嫌いだな」

 

「おとうさん、やさしい」

 

「赤城もなっ⁇」

 

そう言うと赤城は真顔から少しだけ微笑み、近くにあった椅子に座った

 

「レイー⁇」

 

タイミング良く横須賀が来た

 

「おかあさん」

 

「あらっ赤城‼︎今日は楽しかった⁇」

 

「からあげ、てんぷら、たべた」

 

「そう‼︎楽しかったら良かったわ⁇」

 

赤城は横須賀と話すと少し顔が綻ぶ

 

感情の表現の仕方はまだまだ未発達だが、少しずつ赤城なりの好きな物等が出来てきているみたいだ

 

「あら、この子は⁇」

 

「神州丸って子だ。どうも俺を連行しに来たらしい。大した怪我はないから、治療はすぐに終わるだろう」

 

「そっ。ならいいわ」

 

「れんこう」

 

「連れて行くって事さ」

 

「おやちお、れんこう」

 

赤城の口から急に親潮の名前が出て来た

 

「最近親潮とお散歩に行くのよ。ねっ⁇」

 

「おさんぽ、れんこう」

 

「ふっ…連行だなっ」

 

そうこうしている内に、神州丸の治療が終わる

 

「多勢に無勢でありますな」

 

「あきつ丸みたいな話し方すんのね。でっ⁇レイを連れて行くって⁇」

 

「冗談でありますよ。では、神州丸はこれで。大発ちゃんの修理、感謝するであります」

 

変わらず目にハイライトは無いが、神州丸はバツが悪そうに工廠から出て行こうとした

 

「すわる」

 

赤城が立ち上がり、神州丸の首根っこを掴んで引き戻す

 

「離すであります」

 

「おはなし」

 

「話す事なんてないであります」

 

「おはなし」

 

感情の起伏が分かりにくい二人の会話を見ているのは、ちょっと面白い

 

赤城はちょっと微笑んではいるが、相変わらず真顔

 

神州丸は眉を寄せるがやっぱり感情が分かりにくい

 

「観念なさい。さ、話して」

 

結局神州丸は赤城にパイプ椅子に座らされ、真顔で俺を見始めた

 

「父様が普段からお世話になっているであります」

 

「とうさま」

 

「お父さんって事よ。なぁに⁇レイの知り合いがお父さんなの⁇」

 

赤城に教えながらも、横須賀は神州丸に質問をする

 

「父様は”さんだぁす”の航空機乗りであります」

 

「な、なんだと⁉︎」

 

この辺りで一気に流れが変わる

 

今まで少し暗い雰囲気を匂わせていた神州丸だが、ここに来てサンダースの名前が出て来た事で少し明るくなる


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