艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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255話 無表情の君(2)

「どうしたんだ⁇」

 

「…」

 

少女に近付くも、ボーッと俺の顔を見つめている

 

その時、一つの事に気が付いた

 

両手に何か持っている

 

それに、目にハイライトが無いと言うか、悪く言うなら目が死んでいる

 

「どうしたんだ⁇」

 

「ここに来れば艤装を修理して貰えると聞いた」

 

「どれっ。見せてみな」

 

少女は両手に握っていた”それ”を俺の前に差し出した

 

「”大発ちゃん”だ」

 

「動かなくなったのか⁇」

 

「…」

 

余程悲しいのか、少女はずっと虚ろな目でいる

 

「ここじゃ寒いだろ⁇工廠の中に来い」

 

「助かる」

 

少女を連れて工廠に戻って来た

 

ストーブを点け、その前に少女を座らせる

 

「名前は何て言うんだ⁇」

 

「神州丸」

 

「俺はマーカス・スティングレイだ。ま、そこに掛けてな」

 

神州丸は黙って座り、ずっとこちらを見ている

 

「さてっ…」

 

ミニカーの様な大発ちゃんを台に乗せ、いつもはきそが使っているレントゲン装置を当てる

 

「あー…ここか」

 

どうやら大発ちゃんは普通の車と同じ動力で動いている

 

破損が見付かった箇所はガソリンタンク

 

小型だが、これ位ならすぐに直せる

 

「もうちょい待てるか⁇ガソリンタンクに亀裂が入ってる」

 

「待機します」

 

命令に忠実な子だ…

 

神州丸の視線を背後に受けながら、ガソリンタンクを新しい物に交換する

 

作業は30分程で終わり、後は大発ちゃんの起動確認だけになった

 

「よしっ‼︎こんなもんだろう‼︎神州丸、出来…」

 

振り返ると、神州丸がいない

 

「貴様がマーカス大尉だな」

 

「おっと…」

 

背後から手を回され、首元にナイフが当てられる

 

その主は言わずもがな神州丸

 

「貴殿の腕を我が軍は必要としている。悪いが、連行させてもらう」

 

「断る」

 

「ならばここで死んで貰う」

 

神州丸はなんの躊躇いも無くナイフを動かした

 

「おっと」

 

それを左手で取り、何とか抵抗する

 

「苦しまない様に殺してやろうとしたのに…」

 

「何処の差し金だ」

 

「神州丸が口を割るとお思いなら間違いです」

 

機械の様な淡々とした話し方をする神州丸

 

「貴殿は”深海になる技術”を開発したはず。その技術を此方に渡して頂こう」

 

「…何処でそれを」

 

「我が軍の情報量を舐めないで頂きたい。さぁ、選んで頂きたい」

 

「どっちもっ…お断り、だっ‼︎」

 

喉元に来たナイフをへし折り、神州丸の方を向く

 

その時、神州丸の背後を見た

 

誰か立っている…

 

「成程…噂通りの腕前。この神州丸も生半可な立ち回ぐぇ…」

 

神州丸の背後からいきなりゲンコツが振り下ろされ、神州丸のつむじに当たる

 

「どっから湧いて来たでありますか」

 

相変わらず真顔で、肩で息をする子がそこに居た

 

「赤城‼︎」


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