艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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話数と題名が変わりますが、お話は続きです


252話 博士が愛した”もの”(1)

「…」

 

工廠のベッドで眠りに就いた赤城に機材を付け、脳波や健康のチェックをし始める

 

「言語機能が産まれたてか…」

 

脳波や健康のチェックをし始めてすぐに分かった

 

「誰も教えなかったのか…」

 

言語機能、知的指数、そのどれもがまだまだ覚えたての状態

 

「…」

 

キーボードを叩き、別の情報の確認に入る

 

「…試作型基地防衛機能⁇」

 

赤城のデータに聞いた事の無い機能が入っていた

 

その情報を開示し、中身を見る

 

 

 

”基地防衛機能について”

 

本機能は各基地及び鎮守府において、最終防衛線の要となる機能である

 

敵対する勢力に対して圧倒的な攻撃力及び強固さにより撃退する

 

本機能は試作であるため、母体に何らかの影響がある可能性が高い

 

その際は母体を放棄。母体の記録を”マーカス・スティングレイ製造の建造機材”に投入し、記録を保存する事

 

記録1

 

横須賀基地に敵性深海棲艦が大規模進行。赤城の投入を決定

 

同日、これを撃退に成功するも、赤城の母体は自壊し始め、同時に制御不能となる

 

記録2

 

赤城の母体を建造機材に投入成功

 

制御不能となった機能を安定させる機能が開発可能となるまで、赤城は凍結処置とする

 

記録3

 

制御可能となる基地防衛機能の開発完了

 

残るは母体だが、とあるパイロットの妻にその適性が確認された

 

戦災孤児の内2名も適性がある

 

彼女達なら母体も強く、自壊の心配は無い

 

これにより、赤城の廃棄を決定

 

 

 

 

「…撃てよ」

 

後頭部に何かが当てられる

 

それはすぐに分かった

 

当てている人も見当がついた

 

「いやぁ、見られちゃうとはねぇ」

 

後頭部に当てられたのは、拳銃の銃口

 

当てているのは…

 

「動かないでね、レイ君。大淀さん、こうしなきゃならないの。そのままで二、三答えて」

 

「…」

 

両手を上げ、無言の肯定をした後、オーヨド博士は質問を始める

 

「赤城を造ったのは大淀さんだって、いつ気付いたの⁇」

 

「カプセルの前に立った時だ」

 

「マークが赤城を発見した時は驚いたね。まさかまだ凍結解除されてないなんてねぇ」

 

「御託はいい。質問を続けてくれ」

 

「そうだったね」

 

オーヨド博士はもう一度俺の後頭部に銃口を当て直す

 

「赤城をどうするつもりかな⁇」

 

「赤城の父親でいられる限り、俺は父親でいる」

 

「赤城は手懐けられないよ。ふふっ、暴走したら終わりだよ⁇大淀さんにも無理だったもん」

 

「今からでも遅く無い」

 

オーヨド博士は一度、呼吸を整えた

 

懐かしい吐息が、髪の毛を揺らす…

 

「…変わらないね、レイ君は」

 

「あんたもだろ」

 

淡々と答える俺をよそに、オーヨド博士の声は少し震えている

 

「…基地防衛機能の母体になったのは誰かなぁ⁇」

 

「それは横須賀の、という意味か⁇」

 

「そうなるね」

 

「言わなきゃダメか。俺はまだ信じたくない」

 

「言わなきゃ撃つよ」

 

PCの画面を見ながら、俺は深い溜息を吐いた

 

本当は永遠に気付きたくなかったんだが…

 

あの小さな二人がこんな重荷を背負わせられてるとは知るよしもなかった…

 

「…雷電姉妹だ」

 

「ご名答。良い事を教えてあげよう。あの二人は基地防衛機能もあるし、赤城の様に凍結しなくても加減が分かってるんだよ、口は悪いけどね…だけど、レイ君に懐いているのを見て驚いたよ。不思議なものだね。君は何故か艦娘に懐かれる」

 

「他に救う方法はなかったのか」

 

「どの道あの二人は艦娘の適性があったんだよ。大淀さんはそれの強化をしただけだよ…賢いレイ君なら、分かってくれるよね」

 

「雷電姉妹の事は分かってやる。だがな…」

 

「質問してるのはこっち〜。忘れないでね」

 

後頭部の銃口をグリグリされ、振り返るなと無言の重圧をかけられる

 

「さ〜、レイ君。これ、な〜んだ」

 

オーヨド博士は、俺の目の前にタブレットチラつかせ始めた

 

画面にはストップウォッチが表示されており、残りは五分

 

「…何だこれは」

 

「赤城は危険だからね。大淀さん、消去しようと思うんだ」

 

「何だと…」

 

「あ〜ら大変‼︎レイ君に残された時間はたったの五分‼︎その間に大淀さんからタブレットを取り上げてストップウォッチを止めないと‼︎」

 

その言葉を聞いてすぐに振り返り、オーヨド博士に掴み掛かる

 

「大淀」

 

「残念だねぇレイ君。君は命を救えずに終わっちゃう」

 

オーヨド博士はタブレット片手に、もう一度銃を構えた

 

距離は離れているが、今度は的確に俺の眉間を貫くつもりだ

 

「撃てよ」

 

「さようなら、レイ君。君は大淀さんの一番の部下だったよ」

 

瞬きもせず、引き金を引いたオーヨド博士の放つ弾丸を見る

 

あぁ…終わりか…

 

…いいさ、それでも

 

最後はあんまりだが、好きな人に殺されるならそれで良い…

 

弾が当たる瞬間、ようやく俺は目を閉じた…

 

 

…弾が来ない

 

何故だ…

 

「その答え…教えてあげましょうか⁇」

 

「君はオリジナルの…」

 

俺とオーヨド博士の間に割って入った一人の”愛娘”は、俺が香取先生のチョークを止める動きと同じ動作で弾丸を止めていた

 

「何発撃っても無駄よ。何発でも止めてあげるわ。弾も、貴方もね」

 

「そっかそっか。流石はレイ君の娘な訳だ」

 

「ヒュプノス‼︎危ないから下がってろ‼︎」

 

割って入ってくれたのはヒュプノスだった

 

俺がそう言うと、ヒュプノスは首だけを此方に向け、うっすらと微笑んだ


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