艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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251話 RED DOG(5)

「いらっしゃいませ〜」

 

「四人だ。それと、後一人来る」

 

「お好きな席にどうぞ〜」

 

伊良湖に言われ、いつもの入り口右のテーブル席に腰を下ろす

 

「親潮。きそ呼んでくれるか⁇」

 

「畏まりました‼︎」

 

テーブル席は四人掛けだが、たいほうは子供用の椅子に座るので、テーブルの頂点にいる

 

「ご飯食べるの⁉︎」

 

「好きなもん頼めよ‼︎」

 

「うんっ‼︎」

 

きそは親潮の横に座り、一緒にメニューを見始めた

 

赤城は壁際に座り、俺はたいほうの横に座っている

 

「たいほうは何食べたい⁇」

 

「おこさまらんち‼︎」

 

メニューを見せる間もなく、たいほうは食べたいものが決まっていた

 

「よしっ‼︎赤城は何食べたい⁇」

 

赤城はず〜っと同じ顔で俺を見ている

 

「俺と同じカレーライスにしようか‼︎なっ‼︎」

 

何も言わない赤城だが、否定も無さそうだ

 

「伊良湖‼︎」

 

「は〜い‼︎」

 

伊良湖を呼び、それぞれが注文を頼む

 

「少々お待ち下さいね〜」

 

「赤城様は改二”戌”、でしたね」

 

「あ、か、ぎ」

 

「おっ…」

 

親潮の言葉に合わせる様に、赤城が口を開く

 

先程の様に爆発の様な声では無く、小声の様なトーンの声を出した赤城に、俺だけが驚く

 

「赤城」

 

「ん…」

 

「言語機能が定着して来たな⁇」

 

まだ自分の声に慣れていないのか、自分が発した声に驚いている様にも見える

 

「赤城は何が好きだ⁇」

 

赤城が指差す方には親潮がいる

 

「お、親潮ですか⁉︎」

 

「あの子は親潮。呼んでご覧⁇」

 

「お、や、ち、お」

 

「はいっ‼︎親ちおですっ‼︎」

 

次に赤城の視線はきそに移る

 

「僕はきそ‼︎」

 

「き、そ」

 

きそが微笑みを返すと、赤城はきそを真似して口元をほんの少し綻ばせた

 

次に赤城が見たのはたいほう

 

「たいほ」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

たいほうは先程爆音自己紹介をしたので知っている

 

そして、視線は俺に移る

 

「俺はマー…」

 

自分の名前を言おうとした時だった

 

「おとうさん」

 

「…へっ⁇」

 

「おとうさん」

 

赤城は俺を”おとうさん”と言った

 

驚き過ぎて数秒返す言葉に詰まった後、親潮がフォローを入れてくれた

 

「あ、創造主様‼︎あれです‼︎すり込みですよ‼︎」

 

「ひよこちゃんみたいに⁇」

 

「レイホントに子沢山だね‼︎」

 

「そっか。俺はおとうさんか」

 

「おとうさん」

 

親潮の言う通りかもしれない

 

赤城は過去に一度目覚めているが、その時は命令だけを受けていた為、顔を覚えていない

 

それが今、赤城にとって一番最初に対話を試みた俺を父親だと言っても不思議ではない

 

艦娘には不思議な事が多いからな…

 

「お待たせしました〜」

 

伊良湖が食事を持って来てくれた

 

それぞれがそれぞれの食事を食べ始める中、赤城はジーッと待っている

 

「よしっ‼︎赤城、いただきますっ‼︎」

 

「いただきます」

 

俺の真似をして、赤城はカレーライスに手を合わせる

 

「赤城。これはスプーンだ」

 

「すーぷん」

 

「これをこうやって…」

 

俺がスプーンを持つと、赤城はスプーンも持ち、カレーライスの入ったお皿をコツコツ突いた

 

「これはカレーライスだ」

 

赤城は少し前の薄っすらと微笑んだほぼ真顔の状態で別の物をスプーンで指した

 

「これは福神漬けだ」

 

次は赤城と親潮の前に置かれた、みんなで食べる唐揚げをスプーンで指す

 

「これは唐揚げだ」

 

最後にカレーライスの横にあるお茶をスプーンで指した

 

「これはお茶だ。色んな種類があるんだぞ⁇」

 

赤城はゆっくりとお茶に視線を戻す

 

「こうやって飲むんだぞ⁇」

 

俺は自分の前にあるコップを手に取り、中身を飲んで見せた

 

赤城も真似してコップを手に取り、口元に近付け、中身を飲む

 

「おちゃ」

 

「そっ、お茶だ。美味しいか⁇」

 

赤城は同じ顔で俺を見た後、カレーライスを食べようとし始めた

 

「こうやってスプーンですくって、お口に持って来るんだ」

 

食べ方を見た後、赤城はカレーライスを口に入れた

 

「美味しいか⁇」

 

赤城は咀嚼をしながら俺の方をゆっくりと向く

 

そして、産まれて初めての笑顔を見せた

 

「そうか‼︎美味しいか‼︎」

 

そうと分かれば、赤城の食のスピードは速くなる

 

「…やっぱりレイってお父さんだね」

 

「…すてぃんぐれい、こどもいっぱいだね」

 

「…教え方が尋常じゃない位小慣れてます」

 

三人の少女がコソコソ話をする前で、俺は赤城にもう少し教えたくなった

 

「赤城。これはフォークだ」

 

「ふぁーく」

 

「そうだそうだ‼︎こうやって、唐揚げを食べるんだ‼︎」

 

赤城がフォークを手にし、目の前にある唐揚げの一つを突き刺す

 

俺も親潮も生唾を飲み、赤城を見守る

 

赤城はフォークで刺した唐揚げを俺に見せてくれた

 

「からあげ」

 

「いただきます、だ」

 

「いただきます」

 

唐揚げを食べ、今度も赤城は笑顔を見せる

 

「あっ。いたいた‼︎」

 

横須賀も来て、椅子を持って来てたいほうの横に座る

 

「この人は横…」

 

「おかあさん」

 

「あらっ‼︎」

 

赤城は横須賀を見るなり、開口一番でおかあさんと答えた

 

「そうよ⁇お母さんよ⁇」

 

「おかあさん、おとうさん」

 

「そうだっ」

 

「赤城も良い子ね⁇」

 

赤城には何らかの秘密がありそうだ

 

一応、検査しなければならないな…

 

「お⁉︎もう食べたのか⁇」

 

「かれーらいす、からあげ」

 

赤城の前には、既に空になったお皿が二つ

 

「全部食べたら、ごちそうさま。だ」

 

「ごちそうさま」

 

キチンとごちそうさまを言い、赤城達と共に執務室に戻って来た

 

 

 

 

「これはボールです」

 

「ぼーる、ぼーる、これもぼーる。あかぎのぼーる」

 

色々なボールがある中、赤城のボールは赤いボール

 

それもちゃんと覚え始めている

 

「ふふっ‼︎そうですっ‼︎」

 

執務室に戻り、カーペットの上で親潮達が赤城にボールを教える姿を見ながら横須賀と話す

 

「赤城は横須賀で預かるわ」

 

「防衛の為に産まれて来てくれた子だからな。ここにいるのが一番だろう。今晩は横須賀に泊まって、赤城を検査する」

 

「頼んだわ。あ、そうだ‼︎親潮‼︎」

 

「あ、はいっ‼︎」

 

親潮が机の前に戻って来た

 

「アンタ達に聞きたいんだけど、ボールは分かるけど何で骨ガム投げたの⁇」

 

「”いぬ”と書いてありましたので…」

 

「赤城改二”いぬ”だろ⁇」

 

「はぁ〜〜〜っ…」

 

珍しく横須賀が頭を抱えて溜息を吐いた

 

「”ぼ”‼︎よ‼︎」

 

「赤城改二”いぬぼ”、ですか⁇」

 

「親潮…」

 

流石の横須賀も俺も、笑いを堪え切れない

 

普段真面目な親潮だが、久々に抜けている所を見れた

 

「いい、親潮⁇」

 

「はい」

 

横須賀は親潮の前に資料を出す

 

しかし、何回見ても赤城改二”戌”だ

 

「この”戌”って言う字ね⁇資料が古いから虫食いとかシミで”戌”に見えちゃったの。ホントは”戊”なの」

 

「赤城改二戊‼︎」

 

「そっ‼︎偉いわ‼︎てな訳でレイ⁇骨ガムに反応しない理由分かった⁇」

 

「分かった…ボールには何で反応したんだ⁇」

 

「初めて見るカラフルな物には誰だって興味示すわ⁇」

 

「「なるほど…」」

 

母性が強くなった横須賀が言うと妙に納得した

 

「赤城にお手‼︎なんて言ってみなさいよ。反応しないわよ、きっと」

 

「どれ…」

 

そこまで言われると、少し試したくなる

 

「ぼーる、あかぎのぼーる。あかぎのぼーる、あかいろ」

 

「赤城⁇」

 

ボールを持ってから少し顔が穏やかになった赤城に、横須賀に言われた言葉を言ってみた

 

「お手‼︎」

 

すると、赤城は俺の差し出した手をバシィ‼︎と思い切り叩いた‼︎

 

「イテェ‼︎」

 

「ほらみなさい‼︎」

 

今のは偶然かも知れない…

 

もう一度試してみよう

 

「お手‼︎」

 

バシィ‼︎

 

「おかわり‼︎」

 

バシィ‼︎

 

「イテェイテェイテェ‼︎」

 

シャッターをど突いて破壊するレベルのパワーでお手を受けた‼︎

 

「あはははははは‼︎」

 

両手に激痛が走る背後で、横須賀が爆笑する

 

「赤城をいぬ〜なんて読むからそうなるのよっ‼︎」

 

「ヒィ、ヒィ…すみましぇんれした…」

 

赤城に叩かれた部位は真っ赤っかに痕が付いている

 

痛い‼︎ヒリヒリする‼︎

 

「さっ。今日はもうお休みね⁇レイ、頼んだわ⁇」

 

「了解した‼︎ひぃー‼︎」

 

たいほうはきそと基地に帰った

 

たいほうに夕ご飯はいらないと伝えてあるので、今晩は忙しくなりそうだ…


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