艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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251話 RED DOG(3)

その音は三人にも、そして親潮の耳にも入った

 

《創造主様‼︎赤城が起動しています‼︎そこから脱出を‼︎》

 

「起動…」

 

親潮の言葉でカプセルを見ると、つい数秒前まで閉じていた目が開いており、俺を見つめていた

 

《マーク様‼︎大淀様‼︎創造主様を連れてそこから逃げて下さい‼︎》

 

「マーカス‼︎行くぞ‼︎」

 

「行くよ‼︎早く‼︎」

 

二人に連れられ、マークの言っていたドックの方へと逃げて来た

 

逃げる道中、カプセルが割れる音が聞こえた

 

恐らく赤城が叩き割ったのだろう

 

マークの研究室に繋がる道の扉が閉められ、一息つける

 

「ここからなら逃げ道は二つ。ドックから逃げるか、工廠に続く道から逃げるか」

 

「レイ君⁇」

 

「赤城の狙いは何だ…」

 

二人が逃げるのに必死の中、俺だけは考えが違っていた

 

赤城は親潮が言った通り、横須賀基地の防衛の為に生まれた子

 

ガリバルディの一件の時に目覚めなかった彼女が一体何故今になって目覚めたのか…

 

ゴン‼︎ガン‼︎

 

「来た来た来た来た‼︎レイ君逃げるよ‼︎」

 

向こうから赤城が扉を殴っているのか、扉が一瞬にしてヘコんでいく

 

「サラ‼︎研究室のシャッターを開けてくれ‼︎」

 

《分かったわマー君‼︎》

 

バガン‼︎と音が聞こえ、赤城が研究室に入って来た

 

「急げ‼︎」

 

「レイ君ってば‼︎」

 

「先に行ってくれ」

 

「マーカス‼︎」

 

「赤城と話がある」

 

今の一瞬で分かった

 

赤城は二人を見ていない。狙いは俺だ

 

「…分かった、レイ君」

 

「オーヨドまで何を‼︎」

 

「上で待ってるからね‼︎いい⁉︎大淀さんとの約束だよ⁉︎」

 

「了解した」

 

オーヨド博士がマークを連れて研究室を出たのを見て、赤城に視線を戻す

 

「赤城」

 

名前を呼ぶが、赤城は薄ら笑いを浮かべ、肩を揺らしながら息をしている

 

「狙いは俺だな⁇」

 

何を言っても、赤城は表情一つ変えない

 

《創造主様‼︎目の前に赤城がいますか⁉︎》

 

「あぁ、いるよ。今お話中だ」

 

《親潮に時間を下さい‼︎解析を進めて、弱点を探します‼︎可能ですか⁉︎》

 

「やれるだけやってみるさ」

 

親潮との通信を終え、もう一度赤城と対話する

 

「赤城。一度横須賀を護ってくれたらしいな⁇」

 

赤城は表情一つ変えない

 

肩を揺らしながら息をし、視線もずっと俺を見ている

 

「まずは着替えよう。素っ裸じゃ寒いだろ⁇」

 

革ジャンを脱ぎ、赤城に歩み寄る

 

「ほらっ」

 

革ジャンを着せている最中も、俺から視線を外す気配は全く無い

 

《創造主様‼︎聞こえますか⁉︎》

 

「聞こえる。どうだ⁇」

 

《赤城に対して難しい言葉は通用しません‼︎簡単な言葉で対話を試みて下さい‼︎》

 

「赤城。赤城⁇」

 

革ジャンを着せながら無線を聞いていたので、数秒だけ赤城から目を離していた

 

その隙に赤城の目線は俺ではなく、出入り口の方を向いていた

 

「あっ‼︎」

 

俺の制止を振り切り、赤城は出入り口の方に走る

 

「赤城‼︎待て‼︎」

 

赤城は止まった

 

親潮の言う通り、簡単な言葉なら赤城は聞いてくれるみたいだ

 

赤城はゆっくりとだが、俺の方に振り返った

 

「赤城。お腹空いたか⁇」

 

何を聞いても表情を変える事は無く、返事が返って来る事も無い

 

「みんなもうすぐお昼ご飯だ。赤城は何が食べたい⁇」

 

すると、赤城は俺の方にジリジリと寄って来た

 

「お…俺か…」

 

あのカプセルから産まれて来た子だ

 

蒼龍と同じ能力を持っていてもおかしくない

 

「赤城」

 

しかし、俺が赤城と言う度に動きは一応止めてくれる

 

「いましたっ…‼︎」

 

出入り口から涼月が来た

 

「マーカスさんっ…‼︎そこを離れて下さいっ…‼︎」

 

「やめろ涼月‼︎」

 

「ほれ」

 

涼月の手から手榴弾が放り投げられる

 

それがトンッ‼︎トンッ‼︎と地面に落ちた瞬間、終わりを感じた…

 

だが、手榴弾から放たれたのは爆発では無く催涙ガス

 

「ほれ」

 

咳き込む俺を、涼月は一瞬で担ぎ上げ、研究室から脱出する事が出来た

 

「ありがとう…ゲホッ、助かったよっ…ゲホゲホ…」

 

「たまたま遊びに来ていてっ…‼︎」

 

「レイ‼︎」

 

涼月と話していると、横須賀とマーク、オーヨド博士が来た

 

「赤城が起きちゃったのね…」

 

「あぁ…ゲホ…狙いはっ、俺だっ…」

 

「赤城をなんとかするわ。手伝って頂戴」

 

「分かっ…た。ゲホゲホ…」

 

横須賀と涼月に担がれ、一旦は工廠から出る…

 

 

 

咳も落ち着いた所で、執務室に来た

 

「赤城がこの基地の防衛の為に産まれたのはもう分かってるわね」

 

「あぁ。一度横須賀を護り抜いてるらしいな」

 

「赤城は初期に建造計画されたんだけど、あまりにも制御が難しいからあそこで保管されてたのよ」

 

「解析も完了していますので、合わせて資料を作りました」

 

横須賀から、当時から残っている申し訳程度の資料と合わせて親潮の解析結果を受け取る

 

「表情、言語が著しく脆弱…か」

 

「マーカス、ジェミニ、すまない…」

 

「大淀さんも謝るよ…」

 

赤城を発見し、確認しに行った事に対しての謝罪だろう

 

それよりも、資料の中に気になる言葉を見つけた

 

「気にしないでいい。これで分かった、ありがとう」

 

「行けるかしら⁇」

 

「涼月」

 

「はいっ…‼︎」

 

「お前、物投げるの得意だよな⁇」

 

ソファーに座っていた涼月は、待ってましたと言わんばかりにニヤつきながら無言で立ち上がった

 

「投擲ならっ…この涼月にお任せ下さいっ…‼︎」

 

「親潮も手伝ってくれ」

 

「はいっ‼︎」

 

「オーヨド博士は横須賀と待っていてくれ」

 

「分かったわ。アンタに任せる」

 

「レイ君。何か考えがあるのだね⁇」

 

「まぁな。マーク。きそにこれを返して来てくれ」

 

「分かった。大丈夫なのか⁇」

 

「赤城は友達が欲しいんだ。友達に刀は要らないさ」

 

三人を執務室に置き、俺達は執務室を出た…

 

 

 

 

「ありました‼︎」

 

「これならっ…‼︎」

 

俺達はスーぴゃ〜マーケットに来ていた

 

手に入れた道具は二種類

 

これを赤城に投げる

 

もし資料通りなら、赤城はコレに反応するはずだ

 

被害が出る前に何とか抑えてやらないと…

 

表に出て来ると、繁華街がザワついていた

 

「いました‼︎」

 

繁華街の通りに、下半身に何も着けていない赤城が見えた

 

中々肉付きが良い彼女があんな格好でウロついていたら、そりゃあ騒がしくもなるか…

 

「たいほう⁉︎」

 

そんな中、駄菓子屋の前にたいほうがいるのが見えた

 

「あたしたいほう‼︎」

 

たいほうは無邪気に自己紹介をし、赤城がたいほうの方を向く

 

「おねえさんのおなまえは⁇」

 

赤城を知っている俺達は、内心無駄だと思っていたその時だった

 

「あ‼︎か‼︎ぎ‼︎」

 

「ひっ‼︎」

 

急に赤城が大声で自己紹介をしたので、たいほうの直立不動が出た

 

「すてぃんぐれい‼︎」

 

「たいほう‼︎」

 

すぐに直立不動が治り、俺に気付いたたいほうがこっちに来た

 

「あかぎさんだって‼︎」

 

「そっかそっか。赤城はな、お友達が欲しいんだ。たいほう、なってくれるか⁇」

 

「うんっ‼︎」

 

「よしっ…」

 

たいほうにもスーぴゃ〜マーケットで買った物を渡す

 

「第一作戦開始‼︎赤城‼︎」


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