艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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このお話はマーカス達が入り口から巡回していると同時に反対側から巡回しているパパとラバウルさんのお話になります

久方振りのパパ目線のお話です

小さな奇跡の瞬間もあります


横須賀繁華街夏祭り・その2〜ダディ二人と深海と〜

見回り逆ルート

 

「久々ですね。こうして貴方と横で歩くのは」

 

「そうだな。男二人で歩くのも悪くないな」

 

私とエドガーは、入り口付近でやっていた足柄の串焼きを手にしながら祭りの見回りをしている

 

「大佐二人の見回り⁉︎」

 

「お疲れ様です‼︎」

 

その辺でたむろしていたサンダースの連中が、私達を見た瞬間立ち上がった

 

「異常はないですか⁇」

 

「は‼︎ありません‼︎」

 

「園崎。何かあったら大事になる前に右ストレート、だぞ⁉︎」

 

「了解です‼︎」

 

「ははは‼︎冗談だ‼︎楽しめよ〜」

 

楽しんでいる中に私達がいたら圧迫してしまうので、すぐにその場を離れた

 

「はいっ、中将‼︎あ〜んっ‼︎」

 

「あ〜んっ‼︎」

 

「「はぁ…」」

 

二人してため息を吐き、頭を抑える

 

目の前でリチャード中将と瑞鶴が唐揚げを食べ合っていたのを見てしまったからだ

 

「あれがなければ最強のパイロットなんですがね…」

 

「中将‼︎」

 

「美味しいね‼︎瑞か、おぉ‼︎ウィリアムとエドガーか‼︎」

 

「公衆の面前で堂々と浮気なされると顔向きが立ちませんよ」

 

「先程姫も見ましたし…その…」

 

「ダメじゃん中将‼︎行ってあげなきゃ‼︎」

 

「う〜む…確かに顔向きが立たないな…しかし、だ‼︎スパイトはアークと回ってる‼︎」

 

「では、もう少し大人しく逢引なさった方が良いと思いますよ⁇では、私達はこれで」

 

「盆踊りは来るんだぞー‼︎」

 

「ウィリアム。行きますよ」

 

「お、おぉ…」

 

エドガーに背中を押され、中将達の前から立ち去った

 

「確かに逢引はいけません。ですが、逢引を邪魔するのはもっといけません」

 

「言っても無理そうだしな」

 

「そう言う事です。私達は私達で見回りをしながら楽しみましょう」

 

再び見回りを続けていると、今度は初めて見る屋台の前に来た

 

「じゃがバターですか」

 

「大佐がた、お疲れ様です」

 

モクモクと立ち込める湯気の中に居たのは峯雲

 

蒸気で服が張り付いて下着が薄っすら見えている

 

「峯雲か。新しく出来た農場で採れたジャガイモか⁇」

 

「はい。今朝採ったばかりで美味しいですよ⁇」

 

「二つ頂けますか⁇」

 

「お好きなソースと、付け合わせのコーンを入れて下さいね⁇」

 

私はバーベキューソース、エドガーはマヨネーズを付けてその場で立ち食いし始める

 

「あ‼︎エドガー大佐ー‼︎」

 

「葛城さんですか」

 

じゃがバターの屋台の向かい側に居たのは葛城

 

いつもなら瑞鶴が出しているチョコバナナの屋台の店番をしている

 

「随分懐かれてるな⁇」

 

「一人になると、よくずいずいずっころばしに行きますからね」

 

「誘ってくれよ」

 

「一人の時間は大切ですよ、ウィリアム」

 

「なるほどな…確かに」

 

私は一人の時間は絵を描く

 

エドガーは一人の時間に何かを邪魔されずに食べる

 

レイだって一人の時はエッチな本を見ている

 

邪魔をされずに何かをする時間は大切だ

 

「ウィリアム大佐も見回りですかー‼︎」

 

「そうだー‼︎さっき瑞鶴を見たぞ‼︎」

 

「言っても聞かないんで放っておいてまーす‼︎」

 

「「はぁ…」」

 

二人でもう一度頭を抱える

 

しかし、互いに顔は少し微笑んでいた

 

「マーカスはいつもこれ以上の板挟みですよ…」

 

「よく耐えてるな…」

 

レイは私から見てもかなり気苦労が絶えない

 

リチャード中将と姫の板挟み

 

ジェミニとローマの板挟み

 

…あぁ、そうか

 

私と貴子もか‼︎

 

とにかく艦娘関係の板挟みになる事が多い

 

「私達も見習わなければなりませんよ、本当に」

 

「あら。これはこれは大佐様」

 

「貴方はイクさん…ではありませんね⁇」

 

「ヒュプノスか」

 

人の流れに乗ってやって来たのは、白いワンピース姿のヒュプノス

 

手にレイの小銭入れを持っている

 

「お父様に小銭入れを返そうと思ってるの」

 

「一緒に行くか⁇途中で合流するんだ」

 

「お願いしてもいいかしら」

 

「ちょっとだけお待ち下さいね。我々にも休憩が必要です」

 

「えぇ」

 

「あ、そうだヒュプノス。ちょっと待ってな」

 

二人を待たせ、葛城の屋台に来た

 

「そのピンクのチョコバナナを一つ」

 

「はい‼︎」

 

葛城は作ってあったピンクのチョコがかかったチョコバナナを取って渡してくれた

 

葛城に100円を渡した後、ヒュプノスの前に来た

 

「ほらっ」

 

「あら。私にくれるの⁇」

 

私の手からチョコバナナを取るヒュプノス

 

初めて触れたその手は、案外幼い事に気が付いた

 

「それはチョコバナナです」

 

「ビームソードじゃないのね」

 

ヒュプノスはチョコバナナを食べ歩きしている艦娘に目を向けた

 

「そう食べるのね」

 

ヒュプノスはチョコバナナを口に入れ、五分の一程を噛み切った

 

「レイがビームソードって教えたのか⁇」

 

「清霜が言ってたわ。”バナナ型のビームソード”があるから見つけたら食べるって」

 

「つまり、清霜さんにマーカスが教えましたね」

 

「だろうな…」

 

「お父様はたまに変な教え方をするわ」

 

そう言う私達だが、顔にはそれぞれ笑みが浮かんでいた

 

「ごちそうさま」

 

「行こうか」

 

今度は三人で見回りを続ける

 

「イラッシャイマセ〜、オイシ〜デスヨ〜‼︎」

 

声だけで何となく気付いた

 

「深海の子か」

 

深海の子達が出店をしているエリアに来た

 

「行ってみましょうか」

 

「変わった物があるかもしれないわね」

 

最初に来たのはヲ級の出店

 

「イラッシャイマセ〜‼︎」

 

ヲ級の出店はりんご飴

 

他にも幾つかのフルーツの飴が売っている

 

「あら。血の実」

 

「「血の実⁉︎」」

 

「これよ」

 

ヒュプノスの目線の先にあるのはイチゴ飴

 

「これを二つ頂けるかしら」

 

「アリガトーゴザイマス‼︎」

 

「あぁ、買ってやるよ。幾らだ⁇」

 

「いいの。買わせて頂戴」

 

レイの小銭入れから出すと思いきや、ヒュプノスは自分の財布からお金を出した

 

私もエドガーもヒュプノスの持つイチゴ飴を目で追う

 

小柄な割に大きな胸を持つヒュプノス

 

その谷間にイチゴ飴の棒を差し込んだ

 

「邪魔だと思ったけれど、お父様はこういうのが好きなのよね」

 

「レイは絶対喜ぶぞ‼︎」

 

「悩殺ですよ‼︎」

 

ヒュプノスは無言ではあるが、ここにきでとても嬉しそうな笑顔を見せてくれた

 

「ウィリアムサン。コノマエハムスコトモドモ、オセワニナリマシタ」

 

「あの時の子か‼︎」

 

少し前にレイが行方不明になった時、治療をしたのがこのヲ級だった

 

「ヌ級は元気か⁇」

 

「アソコニ」

 

ヲ級が視線を別の所に向ける

 

「‼︎」

 

視線の先には、ヲ級でさえ驚く光景がそこにはあった

 

「ジョウズダネェ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

そこにはハチマキを巻き、スーパーボールすくいの出店を担当しているヌ級がいた

 

「ウィリアム‼︎貴重ですよ‼︎」

 

「あぁ‼︎」

 

「確かに良い画ね」

 

待ちに待った瞬間が、四人の目線の先にあった

 

一瞬だけでも良かった

 

ヌ級が相手をしているのは…

 

一般の子供達だ‼︎

 

「イッパイトレタネェ‼︎」

 

「ハイ‼︎ドウゾ‼︎」

 

「深海さん、ありがとう‼︎お父さ〜ん‼︎いっぱい取れた〜‼︎」

 

横にはイ級のイーサンもいる

 

イーサンなら納得だ

 

あの子は非常に友好的な深海であり、イーサンから深海に慣れる子も多い

 

「スーパーボールスクイシマセンカー‼︎」

 

「タノシイデスヨー‼︎」

 

「これは非常に貴重なスクープですよ‼︎」

 

「青葉‼︎」

 

「青葉さん‼︎」

 

どこからともなく急に現れた青葉

 

片手にはデジカメを携えている

 

「収めたか‼︎さっきの写真‼︎」

 

「バッチリです‼︎先程のお子さんにも許可を頂いて来ました‼︎」

 

青葉のデジカメには、先程の絵面がキチンと収められていた

 

「やりましたね‼︎」

 

後にこの写真が何らかの鍵になる事には、その場に居た全員が理解していた

 

私達…そして深海の子達が待ち望んだ答えが、その一枚に詰まっていた…


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