艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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248話 水中都市(2)

「派手にやられてんな…」

 

「国の重要拠点がこうも叩きのめされるとはな…」

 

橋は陥落

 

街は水没

 

東京のシンボルである赤い電波塔も倒れ、海に沈んでいる

 

水没都市と言うのが本当に似合う

 

「イムヤッキー‼︎」

 

「どうした⁇」

 

イムヤッキーが見つめる先は透き通った海の中

 

そこには海の中に沈んだ当時の街並みが、ほぼそのままの形で残っていた

 

「…」

 

どこか魅入ってしまいそうな…そんな美しさがそこにはあった

 

「この辺りで生体反応があった」

 

「ビルの半分が水没かっ…」

 

そこそこ大きめのビルが建ち並ぶエリア

 

そのほとんどが半分程海に沈んでいる

 

「そこにハンバーガーショップの看板があるだろ⁇そのビルの辺りだ」

 

アレンがホバークラフトをエンジンを切り、イムヤッキーがスタンバイに入る

 

「オーケー‼︎イムヤッキー、あのビルの中に行けるか⁇」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

合図である右腕を上げ、イムヤッキーは水没都市へと出掛けて行った

 

透き通った海の中、イムヤッキーの赤い髪はよく目立つ

 

それを目で追うと、ちゃんと言われたビルに向かっている

 

「よしっ、後はイムヤッキーのカメラで追う‼︎」

 

ジュラルミンケースの中にあるモニターの前にアレンと共に座る

 

モニターを見ると、イムヤッキーはハンバーガーショップに入った

 

「綺麗なままだな…」

 

アレンがポツリと言ったその言葉の通り、ハンバーガーショップは未だに客を待っていた

 

真夏の日射しが差し込む店内は明るく、

 

床に固定された机

 

カウンター席

 

レジ

 

レジの上のメニュー表

 

水没していても、いつ客が来ても可笑しくない…

 

そんな状態のまま残っている

 

「イムヤッキー、二階に行けるか⁇」

 

レジを見ていたイムヤッキーは何も言わずに視線を階段へと向け、そっちに向かった

 

「二階もそのまんまだな…」

 

二階に着くなり、イムヤッキーはホールを見回した

 

テーブル席の椅子は流れてしまっているが、他は変わらず残っている

 

生体反応も特に無い。お魚が泳いでるだけだ

 

「三階に行こうか」

 

イムヤッキーは階段を泳いで上がり、三階へ

 

「水没が終わった…」

 

「足元だけみたいだな」

 

三階へ来ると、水没が足元までになっていた

 

イムヤッキーも立ち上がり、三階に足を踏み入れた

 

今俺達がいる場所からも見えるはずだが、マジックミラーになっているのか中が見えない

 

《アラ、カワイイオキャクサン》

 

「何だ⁉︎」

 

声がした方向にイムヤッキーは首を向けた

 

《アラ、アナタカンムス⁇》

 

深海棲艦だ‼︎

 

「私はイムヤッキーです‼︎貴方は⁇」

 

《ワタシハ”ルーナ”ルキューデス。サ、スワッテ》

 

イムヤッキーは椅子に案内され、そこに座った

 

椅子に座ったイムヤッキーはまたホールを見回す

 

すると、ル級のルーナの他に一人の深海棲姫がいた

 

一旦インカムを切り、モニターを凝視する

 

「何だ…コイツは…」

 

見た事もない深海棲艦がそこに居た

 

美味しそうに何かを頬張っているが、敵意は無さそうだ

 

「新種か⁉︎」

 

白い肌に小さな帽子を被った女性

 

今まで色々な深海棲艦を見て来たが、彼女は見た事が無い

 

再びインカムを付け、イムヤッキーに言った

 

「イムヤッキー。彼女の傍に寄れるか」

 

イムヤッキーは黙って立ち上がり、彼女の所に向かった

 

《ドウシタノ⁇イッショニタベル⁇》

 

モニターに映る彼女は、一見キツそうな顔をしているが、話してみるとそうでは無い事に気付いた

 

好戦的では無さそうだが、今の所は分からない

 

「お友達を呼んでもいいですか⁇」

 

《イイヨ。コワサナイヤクソクスルナラ》

 

「ありがとう‼︎」

 

イムヤッキーを彼女の前に座らせ、インカムを切る

 

「行って来る‼︎」

 

「そこに酸素ボンベを用意してある」

 

「デートにっ…酸素ボンベ背負って来る奴なんざいないだろっ‼︎」

 

革ジャンを脱ぎ、ズボンから財布やピストルを外し、海に飛び込んだ

 

「…確かに見たことないな‼︎」

 

アレンはホバークラフトの上でイムヤッキーのモニターを見続ける…

 

 

 

綺麗だ…

 

まるで生身で空を飛んでいるみたいだ…

 

水没都市を泳いで感じたのはその二つ

 

照り返した太陽が水没都市を美しく際立たせている

 

あたかも、最初からそうであったかのように…

 

水没都市を見ながらも、イムヤッキーのいるハンバーガーショップの三階を目指す

 

ここが三階か…

 

「ぷはぁ‼︎」

 

「イラッシャイ」

 

「予約した一名だっ‼︎」

 

イムヤッキーのモニターを見ている限り、ここは深海棲艦達のレストランになっている

 

なのでそんな入り方をした

 

「ア‼︎マーカスサン‼︎」

 

「知ってるのか⁉︎」

 

「シッテル‼︎”イーサン”ガオセワニナッテマス‼︎」

 

「あ‼︎イーサンのお母さんか‼︎谷風がお世話になってます‼︎」

 

このル級のルーナさん

 

谷風と仲が良いイ級の”イーサン”のママだった‼︎

 

「マーカスサンナラカンゲイスルワ‼︎イラッシャイマセー‼︎」

 

「よいしょっ‼︎」

 

ようやく海から上がり、濡れたままイムヤッキーを探す

 

「いたいた」

 

イムヤッキーは先程のまま、新種の彼女の前に居た

 

「アナタガマーカスサン⁇」

 

先にコンタクトを取ってくれたのは彼女の方

 

「マーカス・スティングレイだ。よろしくな⁇」

 

「カンゲイスルワ。ユックリシテイッテネ」

 

イムヤッキーの横、彼女の斜め前に座る

 

「君の名前は⁇」

 

「”ヨーグル”」

 

「ヨーグルか。この子はイムヤッキー、ロボットなんだ」

 

「サッキカラ、イムヤッキーシカイワナイ」

 

「イムヤッキー‼︎」

 

イムヤッキーは小型とはいえ、一応AIが入っているので興味がある物があればそれに視線が行く

 

今のイムヤッキーは目の前にいるヨーグルを見ているが、さっきはレジを見ていた

 

「ドウゾ〜」

 

「ありがとう」

 

俺とイムヤッキーの前に瓶のコーラが置かれる

 

「イムヤッキー‼︎」

 

イムヤッキーはすぐにコーラに興味を示し、瓶に手を伸ばす

 

「あちゃちゃちゃ‼︎お前は飲んだらビリビリドッカンだ‼︎」

 

「ホントニロボットナンダ」

 

「そっ。人型の水中探査機なんだが、まだ産まれたてなんだ」

 

「おいレイ‼︎俺もそっち行っていいか⁇」

 

「うひ⁉︎」

 

イムヤッキーが急に俺の方を向き、話し始めた

 

「脅かすな‼︎ちょっと待ってろ‼︎聞いてみる‼︎」

 

「悪い悪い‼︎こっちからじゃ全く中が見えないんだ‼︎」

 

イムヤッキーが男勝りに話す姿は何かシュールだ

 

アレンがインカムを使ってイムヤッキー経由で話しているらしい

 

窓の外を見ると此方側からはアレンの姿がよく見えた

 

アレンがモニターに向かって話しているのが見える

 

「ルーナ、アケテアゲテ」

 

「オッケー」

 

ヨーグルがそう言うと、左端のマジックミラーをルーナが開けてくれた

 

「コッチコッチ‼︎」

 

「おー‼︎ありがとう‼︎」

 

ホバークラフトをワイヤーで固定した後、アレンが入って来た

 

「アレンサンモコーラデイイ⁇」

 

「ありがとう‼︎」

 

アレンもコーラを飲み、やはり目が行くのはヨーグル

 

「アレン・マクレガーだ‼︎」

 

「マクレガー…アァ、ヴィンセントサンノムスコ⁇」

 

「知ってるのか⁇」

 

「オセワニナッテル、スゴク」

 

俺もアレンも顔を見合わせる

 

「パパを知ってるだと…⁇」

 

「他に知ってる人は⁇」

 

「ウルサイオトコ」

 

「うるさい男…」

 

「スゴク、イイヒト。ワタシタチヲ、ココニツレテキテクレタノ」

 

そう言うヨーグルの目は嬉しそうな顔をしている

 

「”タイヘイヨウ”デハグレタワタシタチヲ、ココニツレテキテクレタヒト」

 

「誰か分かるか⁇」

 

「分からん…うるさい男、か…」

 

俺もアレンも心当たりが無い

 

ヨーグルの話によると、彼女達は太平洋で行き場所を失った

 

その時に”うるさい男”に出会い、ここに連れて来てくれた

 

深海に友好的で、尚且つうるさい男…

 

俺もアレンも思い当たる節が無く、詰まっていた

 

「タンカーガキタワ」

 

ヨーグルとルーナが海の方を向いた

 

深海の駆逐艦達が頭に何かを乗せて何処かへ向かっている

 

「ガンビアと神威Mk.Ⅱだ‼︎」

 

「アノフネ、イツモヨッテクレル」

 

窓から外を見ると、駆逐艦達が神威Mk.Ⅱから降ろされた物資を何かと交換しているのが見えた

 

「何渡してるんだ⁇」

 

「”アビサル・ケープ”キョウコナテツ」

 

ヨーグルが机の上に小さな鉄の塊を置いた

 

「「あっ‼︎」」

 

俺もアレンも見覚えがあった

 

名は初めて聞いたが、グリフォンや刑部のボディの原材料になっている鉄だ

 

アビサル・ケープ…”深海の外套”か…

 

「ウルサイオトコガキタ」

 

腕を顎の下で組み、口とは裏腹に嬉しそうにその人を待つヨーグル

 

「好きなのか⁇」

 

「ケッコウキニイッテルワ。ヒマシナイモノ」

 

ヨーグルが言ってすぐ、一機の水上機が此方に向かって来た

 

「OS2Uだ‼︎」

 

「珍しいな‼︎」

 

バーガーショップビルの三階の真横に停まったアメリカ製水上機、OS2U

 

そこから降りて来たのは…


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