艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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246話 香取先生のお茶会(2)

「あの人とはいつから知り合いで⁇」

 

「幼馴染なの。二人共真面目にしてたから、何人か紹介したい子が居ましたが…結婚しましたからね⁇」

 

「お待たせしました」

 

冷たい緑茶と、羊羹が畳の上に置かれる

 

ここでようやく目に入った

 

デカい…

 

横須賀並にデカい…

 

和服であのデカさなら脱いだらどうなってるんだ…

 

「頂きましょうか‼︎」

 

「頂きますっ」

 

「頂きます」

 

緑茶を飲み、羊羹を一切れ口に放り込む

 

「香取さんの教え子さんですか⁇」

 

「そうです。出世頭ですよ⁇」

 

二人共にこやかな顔をしながら俺達の方を見る

 

「そう言えば、俺達が何故国連軍と⁇」

 

「以前、ウィリアムとエドガーもここに来たのですよ」

 

「隊長が⁇」

 

「キャプテンが⁇」

 

「あの時は確か…昇進する前、でしたよね⁇」

 

「そうです。天城さんのお茶を飲むと昇進する…との伝説があります」

 

「昇進ねぇ…」

 

「う〜ん…」

 

俺もアレンもその言葉を聞いて思い悩む

 

二人共思っている事は同じ

 

今の地位、今のポジションがヒジョーに落ち着く

 

低くもなく、高くもなく

 

一番落ち着いて色々出来るポジションな為、昇進したくない

 

それに、互いに”超えてはならない壁”がある

 

それだけは互いに気付いていた

 

「きっと上手く行きますよ、アレン君⁇」

 

「あ。はいっ」

 

アレンは悩んでいた

 

多分、それは撃墜された事じゃない

 

あの新型機の事だ

 

「そういえば前に、貴方の基地から小さな女の子が来てくれました。貴方のお話をなさってましたよ⁇」

 

天城さんの目は俺の方を向いている

 

「女の子⁇」

 

「礼儀正しい子で、おつかいの帰りだと言っていました」

 

横須賀にいる小さな女の子…

 

大体は分かるが、どの子だ…

 

「特徴とかは⁇」

 

「笑顔でおいしいね‼︎と言う子でした」

 

「たいほうか‼︎」

 

何かを食べて”おいしいね‼︎”と言うのはたいほうしかいない

 

ひとみといよは、おいち〜‼︎

 

照月は、おいひ〜‼︎

 

その言い方はたいほうしかいない

 

「とはいえ、結構前ですが…香取さん、私のお茶を飲めば昇進するのは迷信でしたね⁇ふふふ‼︎」

 

「昇進したのでは⁇」

 

「したなっ」

 

「あぁ。してる」

 

たいほうはひとみといよが来てから面倒を見てくれる様になっている

 

それは充分昇進だ

 

「そう言う事です。なのでマーカス君もアレン君も昇進しますよっ」

 

「気が向いたらなっ」

 

「また今度な」

 

「食わねぇなら貰うからな⁇」

 

「どうぞっ」

 

香取先生に羊羹を貰い、アレンと一緒にパクつく

 

その前で、小声で話す香取先生と天城さん

 

「貴方に着いていてくれるんですね、香取さん」

 

「えぇ。自慢の教え子です」

 

「御二方、御煙草は…」

 

「吸いますが…今は控えるでしょう」

 

「たまには貴方も一服なされては⁇」

 

天城さんの顔を見て、香取先生は一瞬悩んだ

 

「…お願いします」

 

香取先生は誘惑に負けた

 

「お持ちしますねっ。御二方を火鉢の前へご案内して貰ってもよろしいですか⁇」

 

「勿論です」

 

天城さんが席を立つ

 

「しっかしまぁ凄い美人だ…」

 

「昔から男性にはモテてましたよ⁇」

 

「だろうな…」

 

あんな男受けしそう…いや、する容姿で礼儀作法がなっている女性、男なら誰だって振り向く

 

和服の下はどうなっているのか、とか…

 

気になった瞬間、夜も眠れなくなりそうだ…

 

「あちらの火鉢に参りましょうか」

 

火鉢とは言え、今は流石に火は点いていない

 

「さ、御三方。此方をどうぞ」

 

焼き物の灰皿に、タバコが三本置かれる

 

「これは⁇」

 

「緑茶を刻んだ刻み煙草です」

 

「どれっ…」

 

一本を手に取り、口に咥える

 

咥えた時点で甘い茶葉の香りが口の中に広がる

 

「さっ、どうぞ…」

 

天城さんにマッチで火を点けて貰う

 

「ありがとう…ございます…」

 

顔が近付き何故か照れる

 

「アレンさんも…」

 

「ありがとうございます」

 

アレンもタバコに火を点けて貰い、肺いっぱいに紫煙を入れた後、プカァと吐き出した

 

「さ、香取さん」

 

「ありがとうございます」

 

香取先生もタバコを吸い始めた

 

「吸うんだな⁇」

 

「たまには…こういうのも良いでしょう⁇」

 

紫煙を吐き出しながら話す香取先生は斬新だ

 

俺は普段”カスタード”と言う甘い香りのするタバコを吸う

 

アレンは”ロックスター”と言うメンソールのタバコ

 

普段から甘い香りのタバコを口にしているので、この緑茶の刻みタバコは結構気に入っている

 

どう製造しているのかは分からないが、肺にも辺りにも甘い茶葉の香りが広がっている

 

「市販はされてないのか⁇」

 

「自作ですので…吸いたくなれば、またここにいらして下さい。その時にここでお渡しします」

 

「そろそろ行きましょうか。天城さん、ありがとうございました」

 

「また来ます」

 

「ありがとうございました」

 

「また来ますね⁇」

 

「お待ちしています」

 

天城さんは畳の上で三つ指を立ててお見送りをしてくれた

 

たまにはこうして、丁重にお見送りされるのも悪くないな

 

帰りはアレンがジープの運転席に座り、エンジンを掛け、基地に向けて走り出す

 

「美人だったでしょう⁇」

 

「たまには悪くないな⁇」

 

「大和撫子…って言うのか⁇」

 

なるほど。あれが大和撫子か…と納得していたら香取先生が突っ込んだ

 

「天城さんは良妻賢母…でしょうね。大和撫子はちょっと違います。大和撫子はちょっとだけ、ヤキモチ妬きなんです」

 

「基地で言うなら誰だ⁇」

 

「性格で言うなら、貴子さんが一番近いですね」

 

「「あ〜」」

 

二人して納得する

 

外見は褐色だからそうはいかないが、確かに貴子さんの内面は大和撫子だ

 

「なら外見は⁇」

 

「アレン君の基地にいる大和さん、それと…本屋さんの妙高さんですね」

 

「「お〜」」

 

これにも納得する

 

確かに大和撫子だ

 

「先生は何ですか⁇」

 

「ババアはババアさ」

 

「まっ、あれだ。ちょっとエロいババアだ」

 

「あっ…そんな目で見られてたなんてっ…嬉しい…」

 

香取先生が後部座席でクネクネし始めた‼︎

 

「…アレン。側面に停めて叩き出せ」

 

「任せろ。同じ事考えてる」

 

「冗談ですっ‼︎冗談っ‼︎」

 

俺もアレンもバックミラーを見ながら鼻で笑う

 

これがなきゃ、香取先生じゃない

 

普段は厳しくて、ちょっとマゾで年増で

 

俺達の好きな、いつもの先生だ

 

そうこうしている内に横須賀に戻って来た

 

「また行きましょうね⁇」

 

「今度は奢らせてくれよ⁇」

 

「楽しみにしてますっ」

 

嬉しそうな香取先生を見送り、アレンと共にあの格納庫に戻って来た


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