艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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244話 トランジスタグラマーママです(6)

その頃、医務室では…

 

「私だってママになりたかったのにー‼︎」

 

「あばばばば‼︎」

 

俺に変わってアレンがフレッチャーの様子を診てくれているが、フレッチャーはギャースカ泣いてばかり

 

「ふ、フレッチャー‼︎君は何処から来たんだ⁉︎」

 

「エーンエーン‼︎」

 

「うぐっ…」

 

キンキン声で泣き叫ぶ為、アレンも耳をふさぐ

 

「おっじゃましまぁ〜す‼︎」

 

両腕いっぱいに何かを抱えたリチャードが入って来た

 

「ヒック…」

 

「お…」

 

その瞬間、フレッチャーは泣き止んだ

 

「ほらほら泣くな‼︎お菓子食べて元気だそう‼︎はっはっは‼︎」

 

診察机の上にドサドサとお菓子を置くリチャード

 

「フレッチャーはどれが好きかな⁇スナックか⁇チョコレートか⁇」

 

「スン…スン…」

 

「ほらほら」

 

リチャードはフレッチャーの前でチョコがけ棒ビスケットの絵が描かれた箱をカサカサ振る

 

「いただき、ますっ…」

 

未だにスンスン言いながらも、フレッチャーはそれを手に取った

 

「フレッチャーはどこ…」

 

「まぁ待てアレン」

 

質問を再開しようとしたアレンをリチャードが止める

 

久々に見るリチャードの本気の目に、アレンは素直に従った

 

「フレッチャー⁇」

 

「はい…」

 

「この人はアレンだ」

 

「アレン…」

 

お菓子を食べる手を止め、アレンの方を向くフレッチャー

 

「俺はリ…」

 

「リチャード‼︎」

 

お菓子効果もあるのか、リチャードにはすぐさま反応した

 

「なんで俺の名前を知ってるんだ⁇」

 

「私は貴方のママですから」

 

フレッチャーはお菓子を食べる手を再開しつつ、今度はリチャードを見つめる

 

「う〜む。ますます分からん…」

 

フレッチャーがお菓子を食べる”カリカリサクサク”という音だけが医務室に響く

 

一つ確かなのは、今は催眠術を使っていない事だ

 

「よし。抱っこしてみよう‼︎」

 

「いきなりですか⁉︎」

 

解決の糸口が見つからないリチャードは暴挙に出た

 

確かに身長は子供…ジョンストンと同じ位のサイズなので、抱っこする事は可能だ

 

「よしゃ‼︎来いフレッチャー‼︎」

 

すると、意外にもフレッチャーは両手を広げ、リチャードに抱き上げられた

 

「どっから来たか分からんがっ…見捨てる訳にはいかんだろう」

 

「えぇ。ここならフレッチャーの居場所もあるでしょう」

 

「お菓子食べてていいから、俺の飛行機見に行こうな⁇」

 

フレッチャーはサクサクお菓子を食べながらも、ちゃんと頷いた

 

外に出て、アレンを隣に置きながら格納庫に向かって歩く

 

「そう言えばアレン。最近工廠が忙しいな⁇」

 

「噂によると、試作型の戦闘機を造っているとの事です」

 

一時期グリフォンの開発に使っていた格納庫、そして工廠がここ最近忙しい

 

それはマーカスやアレンでさえ知らない機密事項だが、噂ではそれとなく知っていた

 

「へぇ。国産の戦闘機か⁇」

 

「いえ。深海との共同開発です。もし完成すれば、マーカスのグリフォンに続いて二機目になります」

 

この戦争で産まれた傑作機、XFA-001”グリフォン”

 

その後継機が、生まれようとしている

 

誰が乗るのか

 

どんな機体なのか

 

まだ誰も知る事は叶わない…

 

「なるほどな…さっ‼︎ここだ‼︎」

 

F6F-5Nの前に着き、フレッチャーを降ろす

 

「あら。天使の紋章」

 

フレッチャーは尾翼に描かれた、八重歯が特徴的な天使のエンブレムに興味を示した

 

「ジブリール…もしくはガブリエルだ。まっ‼︎守り神みたいなもんさ。天使だけどな⁇」

 

すると、フレッチャーは首だけリチャードの方を向いてクスリと笑った

 

「リチャードはそんなに信仰強くないでしょ⁇」

 

「まぁな…よく知ってるな⁇」

 

「私はママですから」

 

何を言っても”私はママです”と返すフレッチャー

 

「ママはリチャードをずっと見てましたからね。何でも知ってます」

 

「どう言う事だ…」

 

「大尉。工廠で朝霜さんと夕張さんがお呼びです」

 

「あ…あぁ、分かった‼︎中将、自分はこれで‼︎」

 

「後でマーカス達と飯行くから準備しとけよ⁉︎」

 

「了解です‼︎」

 

アレンが去り、F6F-5Nの前ににはリチャードとフレッチャーの二人きり

 

リチャードはフレッチャーの前で膝を曲げ、フレッチャーはリチャードを見つめ

 

「守り神だなんで…そんな…」

 

「フレッチャー。真面目に言ってるんだ。答えてくれ」

 

「私はここから来たの」

 

フレッチャーが優しく微笑む

 

フレッチャーの背後にはF6F-5N

 

視線をそちらに移しながら、リチャードは立ち上がる

 

「息子にも教えたでしょう。機械には…」

 

「命が宿る…」

 

確かに教えたが、それは機械や物は大切に扱えとの意味で教えた

 

「いつから見てた⁇」

 

「貴方がパイロットになってからずっと傍にいましたよ」

 

「何を知ってる」

 

「そうね…」

 

フレッチャーは悪戯に悩んでいる

 

「貴方が本当は昔からイントレピッドの事を好きな事とか、イントレピッドとヴィンセントが繋がりそうになっているのを見て嫉妬したりとか、イントレピッドの姿を見てホッとしたりとか、帰って来たら実はイントレピッドになでなでして貰ってるとか、後は…」

 

出るわ出るわリチャードのあられもない姿

 

それはリチャードにしか知り得ない内情をであり、誰かが知っている事は無い

 

ずっと横にでも居なかった限り…

 

「よしよし分かった‼︎分かったから‼︎頼むから俺の内情をバラすな‼︎」

 

「ママは何でもお見通しです」

 

フレッチャーは微笑む

 

フレッチャーの本性は分からない

 

だが、今リチャードの目の前にいるのは、長年彼の守り神として彼を守り続けた存在であるのに間違いは無かった

 

「どうやってその体を持ったんだ⁇」

 

「私だってママになりたいんです。ママらしい事を貴方にしてあげたい…それではいけませんか⁇」

 

「本当はどうなんだ⁇」

 

「…イントレピッドばっかりズルイです」

 

体を持った原理は不明だが、持とうと思った理由は嫉妬から来ていた

 

「その服装は⁇」

 

「これは最近来た子を真似しました」

 

「ジョンストンか…」

 

出る所は全く違うボリュームだが、服装はジョンストンに非常に近い

 

「リチャード。私を貴方の元に置いて下さい」

 

「催眠術しないか⁇」

 

「しません。反省もしてます」

 

「イントレピッドとも仲良くするか⁇」

 

「します」

 

「なら来い。ここは誰も否定しない」

 

「ありがとう、リチャード…」

 

こうして不思議な少女、フレッチャーが横須賀に来た

 

 

 

 

数日後…

 

「疲れたぁぁぁあ‼︎もぉぉぉん‼︎」

 

ヘットヘトのリチャードが帰って来た

 

「お帰りなさいリチャード‼︎」

 

「ただいま‼︎」

 

「よ〜しよしよし‼︎」

 

イントレピッドにたっぷり撫でられるリチャード

 

それを横で薄っすらと微笑みながら見るフレッチャー

 

「着替えたらご飯にしましょう‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

リチャードは早速部屋に戻り、着替えをする

 

「リチャード」

 

ベッドの脇に座ったフレッチャーが両腕を広げてリチャードを見つめている

 

「ママァァァア‼︎」

 

今度はフレッチャーの胸に顔を埋めるリチャード

 

「よしよし。ママですよ」

 

甘える相手が増えたリチャード

 

普段は軽い男に見られがちの彼だが、人を惹き付ける力は誰よりもあった

 

その力はちゃんと息子にも遺伝している事に、周りはしっかりと気付いていた…

 




フレッチャー…トランジスタグラマーちゃん

何処からともなく現れたロリ巨乳の少女

謎の催眠術で男衆を誘惑し、本能剥き出しにする

その正体は、リチャードの機体にずっと昔から宿っていた守り神のような存在

機体を乗り換えても尚リチャードに着いて来ていたので、リチャード本人の守り神かもしれない

自分はママと言い張るが、本性はまだまだ少女

ここ最近、ヴィンセントがジョンストン

リチャードがフレッチャーとジャーヴィスを連れて五人でいる所を繁華街にいるのを目撃されている

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