艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

811 / 1086
さて、239話が終わりました

今回のお話は、単冠湾の吹雪のお話です

愛情を沢山受け、吹雪は日々少しずつ成長して行く中、少しだけ言葉を話せるようになります

果たして、初めて話す言葉は何なのか…


240話 吹雪ちゃんとシチュー(1)

遠征が終わり、榛名とリシュリューが帰って来た

 

ちゃんと手洗いうがいをした後、リシュリューはエプロンを着けて食堂に

 

榛名は執務室のカーペットの上に腰を下ろした

 

「吹雪。こっち来るダズル」

 

ようやく遊び相手が帰って来た吹雪は、おしゃぶりを咥えながらヨチヨチ歩きで榛名の所へ向かう

 

「大人しくしてたダズルか⁇」

 

吹雪の頭を撫でると、目をパチクリしながらも榛名に目をやった

 

「いいか吹雪。あれはニムダズル。ニ〜ム〜」

 

吹雪は榛名が指差した目線の先にいるニムを見た

 

「ニムダズル。言ってみるダズル」

 

「そんなオウムみたいにしてニム…」

 

呆れ顔のニムだが、内心言ってくれるのでは⁇と期待している一面もあった

 

吹雪はニムの姿を見て、指をさした

 

「おっ‼︎そうダズル‼︎ニムダズルよ‼︎」

 

「ニムニム〜」

 

ニムは吹雪に近付き、吹雪のほっぺたをムニムニした

 

榛名達の教育の仕方は、一つ変化があれば褒めるやり方

 

榛名が理想とする良妻賢母”貴子さん”の教育の方針を、榛名とリシュリューが聞きに行ったのだ

 

吹雪は単冠湾の皆から愛情をたっぷり受けて育っている

 

「これはボールダズル」

 

中にビーズが入った、ほぼお手玉のボール

 

吹雪はこれを持つと、シャカシャカする音が面白いのか、必ず振る

 

現に榛名から受け取ってすぐに体と同じく振り始めた

 

「ニムにポイするダズル」

 

「ニムに下さいニム〜」

 

ニムは前屈みになり、お手玉ボールが来るのを待つ

 

「ポイダズル」

 

榛名が何度か投げるジェスチャーすると、吹雪は良く似た体勢を取り、ニムにお手玉ボールを投げた

 

「イッテェニムゥ‼︎」

 

吹雪の投げたお手玉ボールは、パチィン‼︎と、ニムの顔面にクリーンヒット

 

「偉い偉いダズル‼︎」

 

「ボール投げれたニム‼︎」

 

ボールを投げた事にも、二人は褒める

 

ニムが吹雪にお手玉ボールを返すと、吹雪はまたシャカシャカ振り始めた

 

「吹雪は大人しい子だなぁ。よいしょ」

 

執務を終えたワンコが榛名達の輪に来た

 

「この人はワンコダズル」

 

「ワンコさんニム」

 

「僕はワンコ。ワンコだよ、吹雪⁇」

 

ワンコの方を向く吹雪

 

「あいた‼︎」

 

次の瞬間、吹雪はワンコの顔面にお手玉ボールを投げた

 

「吹雪は凶暴ダズルな…」

 

「可愛い顔してるのニム…」

 

「吹雪⁇僕はえ〜んえ〜んだよぉ」

 

ワンコはその場で泣くフリをし始めた

 

すると、吹雪は面白い行動をした

 

「んっ⁉︎」

 

吹雪は自分の口からおしゃぶりを取り、ワンコの口に突っ込んだ‼︎

 

「ブハハハハ‼︎ダッセェダズル‼︎」

 

「ワンコさん赤ちゃんニム‼︎」

 

「うぅ…ん⁇」

 

二人に爆笑され、うなだれるワンコの頭に手が乗る

 

置かれた手は小さな吹雪の手

 

吹雪の思いを要約すると…

 

”吹雪のおしゃぶりをやるから泣き止め”

 

と、でも言いたそうな情けないものを見ている表情をしている

 

「ウハハハハハ‼︎なっさけねぇダズル‼︎」

 

「吹雪に慰められてるニム‼︎」

 

榛名は吹雪を膝に置き、床に両手をつきながら爆笑

 

ニムは腹を抱えて爆笑

 

「洗ってくるよ…うぅ…」

 

おしゃぶりを口から取り、ワンコは執務室を出た

 

「しっかしまぁ、吹雪は良い子ちゃんダズルな⁇」

 

「きっと人を思いやれる子になるニム」

 

ご飯になるまで、吹雪は榛名とニムと遊んで貰う…

 

 

 

 

「ご飯出来たリュー‼︎」

 

「さ、吹雪。前掛けするダズル」

 

榛名に前掛けを着けて貰い、吹雪はいつもの子供用の椅子に座る

 

「今日は榛名が当番ダズル」

 

「お願いすリュー‼︎」

 

「ありがとダズル」

 

リシュリューから吹雪用の離乳食を貰った榛名は、吹雪の前に並べて行く…

 

「おかゆ」

 

コト

吹雪は中身を見ている

 

「しょうが焼き」

 

コト

一瞬おかゆに視線が戻ったが、しょうが焼きを見る

 

「シチュー」

 

コト

最後の皿の中身がシチューだと分かった瞬間、吹雪はまたしょうが焼きに目をやった

 

そして、この食事でまた少し吹雪が成長する

 

「これはご飯ダズル。白いご飯ダズルよ」

 

「しろ…」

 

「おぉ‼︎喋ったダズルよ‼︎」

 

急に吹雪が言葉を話し始めたのだ‼︎

 

そこに居たリシュリュー、霧島、ニム、HAGY、ワンコの全員が榛名と吹雪の方を向いた

 

「あ〜んダズル‼︎」

 

吹雪はおかゆを食べ、熱い視線をしょうが焼きに送る

 

「吹雪、これはシチューダズル」

 

毎度の事だが、吹雪は毎食毎食出て来て食べ過ぎたシチューを嫌がる

 

今もスプーンですくって口元に来たシチューの反対方向を向いている

 

それでも何度か抵抗した後、ちゃんと食べてくれる

 

「しょうが焼きダ…」

 

ようやく来たしょうが焼きに、吹雪はすぐに食いついた

 

おかゆ、シチュー、しょうが焼きのローテーションを何度か繰り返し、全ての器が空になった

 

「ご飯ごちそうさまダズル」

 

「ごはん」

 

「「「おぉ〜‼︎」」」

 

また一つ吹雪が話す

 

「吹雪。榛名ダズル」

 

「しろ」

 

「榛名ダズル」

 

「しろ」

 

吹雪は榛名が何を言っても”しろ”としか返さない

 

「よし、こうなりゃこうダズル…」

 

榛名は大きく口を開け、吹雪に分かりやすく言葉を話し始める

 

「は‼︎」

 

「は」

 

吹雪は榛名を真似して、小声ながらも同じ言葉を言った

 

「る‼︎」

 

「る」

 

「な‼︎」

 

「な」

 

”はるな”とは言えた

 

これを続けて言えば完璧だが…

 

「はるな」

 

「しろ」

 

「ダハァ‼︎」

 

瞬殺で”しろ”が返り、榛名はすっ転んだ

 

他の五人にも爆笑されている

 

「しろ、ごはん」

 

吹雪が初めて覚えた言葉

 

しろ

 

ごはん

 

白いのはご飯、と、榛名が言い続けて来た結果でもある

 

「うぬぐぐぐ…ま、まぁ良いダズル‼︎偉い偉いダズルよ‼︎」

 

勿論榛名は吹雪を褒めた

 

「また明日もイッピー覚えるダズルよ」

 

その日は吹雪はそれ以上の言葉を話す事なく、一日が終わった…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。